20周年企画

デジタルカメラニュースの20年を振り返る/第17回(2020年)

新型コロナウィルスの影響大きく キヤノン・ニコンのデジタル一眼レフが有終の美を飾る

ご覧いただいている「デジカメ Watch」は、9月27日(金)にサイト開設から20周年を迎えることになりました。長らくのご支援・ご愛読に感謝を申し上げます。

20周年を記念し、各年の印象に残るニュース記事をピックアップして紹介する企画を連載しています。筆者の個人的な印象による選択とはなりますが、共に当時を振り返っていただけますと幸いです。

今回は2020年の記事を取り上げます。

デジタルカメラニュースの20年を振り返る
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/column/20th/

新型コロナウィルスの感染が拡大 各社が影響を受ける

厚生労働省が2020年1月、原因不明の肺炎が中国・武漢で発生しているとの注意を喚起します。いわゆるコロナ禍が世界で発生し、以後カメラ業界もさまざまなかたちで被害を被りました。

まず、2月27日から開催予定だった「CP+2020」が中止に追い込まれています。当初は開催を予定していたものの、開幕13日前の2月14日に開催中止を決定。一部では弱腰を非難する声も聞かれましたが、その後の世界全体の動きを見るに、また来場者および出展者を守る意味で、妥当な対応だったと感じます。

一方、5月に欧州で開催予定のフォトキナは強気に開催を宣言するも、感染者の増加を受け、3月には取りやめることを告知しました。さらに、以後の開催についても当面の中止を発表。近年、その存在価値が疑問視されていたフォトキナでしたが、コロナ禍を契機に、70年の歴史を終息することとなったのです。

コロナ禍のもと、外出を控える意識が人々の間で強く働きました。外出を伴うカメラ趣味・業務にとってこの風潮は、愛好者や従事者、関連企業に大きなダメージを与えました。撮影会などの各種のイベントも自粛に至るなど、カメラを手にする機会が大幅に減ったのです。

カメラメーカー各社のサービスセンターも、一時営業の中止を発表。再開後も予約を要するなど、以前とは異なる対応が続くことになります。写真展の開催も世間的にはばかられるようになり、写真文化の面でも危惧される状況となります。

販売店も軒並み営業を中止。代わりにオンラインへの転向がさらに展開します。

感染者の増加で工場の稼働にも影響が出るなど、生産も滞りを見せました。

撮影で遠出できない中、近場や自宅での撮影を提案する動きが見られるようになります。講評会やワークショップをオンラインで実施する例も盛んになりました。

出社を控えるテレワークが推奨されたのもこの年からです。カメラメーカーはテレワークに利用できるソリューションを提供、この動きに協力しました。

巣ごもり需要への対応として印象に残っているのは、流行していたNintendo Switchのゲーム「あつまれ どうぶつの森」に、キヤノンがマイデザインを供給したことです。当時、有名ブランドや企業によるマイデザインの配信が相次いでおり、キヤノンも新製品のプロモーションとして、それに続いたかたちです。

名門キヤノンとニコンから最後の(?)一眼レフカメラ

徐々にミラーレスカメラに新製品の枠を奪われていったデジタル一眼レフカメラですが、ここに来てキヤノンとニコンの2社が完成度の高いモデルを繰り出しました。いまでも現行モデルとしてラインアップに名を連ねています。

まずキヤノンが1月、デジタル一眼レフカメラのフラッグシップモデル「EOS-1D X Mark III」を発表。前年10月に開発発表のあった製品で、新デバイスをふんだんに投入、究極ともいえる動体対応を実現しています。

新エンジンは「DIGIC X」に刷新。連写性能はメカシャッターで約16コマ/秒(ファインダー)、約20コマ/秒(ライブビュー)というすさまじいもの。測距点も61から191へと増加し、動画も4K60Pをクロップなしで記録できます。本機からメモリーカードもCFexpressへと変更されました。

一方のニコンは1月、ヒットモデル「D750」(2014年発表)の後継機として「D780」を投入します。像面位相差AFに対応、動画記録時に瞳AFが可能になるなど、今後主力となるフルサイズミラーレスカメラへの橋渡しのような役割を果たしました。現在でも「D850」の下位モデルとして、現行機種の1つに位置づけられています。

続いてニコンは3月、前年9月に開発発表した「D6」を正式発表しました。キヤノンの「EOS-1D X Mark III」同様、持てる技術をすべて投入したかのようなモンスター機に仕上がってます。

ファインダー撮影時のAF性能を重視し、ミラーレスカメラとの差別化を意識。ミラー駆動機構を新開発することで被写体の見え方を良くするなど、積層型CMOSセンサー搭載モデルへの対抗措置が見られます。3,850枚という撮影可能枚数も、デジタル一眼レフカメラならではといったところ。「D5」でXQDだった採用メモリーカードも、CFexpressへと変更されています。

ただし間が悪いことに、新型コロナの影響を受けて発売が延期。その後も生産が滞るという不運な船出となりました。が、現在でも最強のデジタルFマウント機としてファンに特別視される存在です。

キヤノンとニコンのプロ機2モデルですが、2020年に開催が予定されていた東京五輪にあわせた発売だったのかと思います。結局、新型コロナウィルスの影響により、翌年に開催が持ち越されたのはご存じ通りです。

もう1社、忘れてはならない一眼レフカメラメーカーが、リコーイメージング(ペンタックス)です。その同社から7月、「これからも光学ファインダーの魅力を伝えていく」という動画が配信されています。

本来同社はCP+2020で、後の「PENTAX K-3 III」となるAPS-Cデジタル一眼レフカメラを披露するはずでした。しかし、CP+2020自体があえなく中止に追い込まれます。そこで自ら「一眼レフの未来を創る」というブランドビジョンを改めて発信し、カメラ業界における立ち位置を明確にしました。

ミラーレスカメラは動画対応がトレンドに

富士フイルムが1月に発表した「FUJIFILM X-T200」は、「同X-T100」(2018年発表)から続くセンターファインダースタイルを踏襲したカジュアルモデル。この製品より、「電子ジンバル機能」が搭載されました。クロップが前提のいわゆる電子手ブレ補正の1種ですが、ジャイロセンサーも活用、歩きながらの動画への対応を謳いました。

動画のブレは静止画のそれと性質が異なるため、その対応に各社とも苦慮したようです。2016年発表のオリンパス「OM-D E-M1 Mark II」からその工夫が見られはじめ、現在も各社が進化を続けています。

同じくミラーレスカメラでは、オリンパスが「OM-D E-M1 Mark III」を2月に発表しています。フラグシップモデル「OM-D E-M1X」(2019年発表)に対し、本機は「オールラウンドプロフェッショナルモデル」という位置づけ。とはいえデバイス構成などが似通っており、(認識系AFを除けば)E-M1Xに匹敵する高い完成度の製品と受け取られました。縦位置グリップ分離型の小型ボディも魅力です。

2018年の「EOS R」、2019年の「EOS RP」に続き、キヤノンがさらにフルサイズミラーレスカメラを投入。実質的な「EOS R」後継機ともいえる「EOS R5」がそれです。同社にしては珍しく、事前にティザー広告を打ち続けての発表となります。

有効約4,500万画素CMOSセンサー、最高約12コマ/秒の連写性能(メカシャッター)、最大8段分の手ブレ補正、8K動画記録、CFexpressの採用と、進化の度合いに手抜きはありません。

最も特徴的だったのは、サブ電子ダイヤルの搭載をはじめ、同社デジタル一眼レフカメラの中上級機に近い操作系に寄せてきたこと。デジタル一眼レフカメラのEOSユーザーが、ミラーレスカメラに乗り換える好機になったのではないでしょうか。

「EOS R5」と同時に、下位モデルの「EOS R6」も発表されています。こちらも「EOS R5」とともにミドルクラスと位置づけられ、約8段分の手ブレ補正機構をはじめとしたデバイスの共通項が見られます。

1番の違いは有効画素数が約2,010万画素に抑えられていること。8K動画記録にも対応しておらず、メモリーカードもSD UHS-IIとなります。どちらかといえば手堅い実用機といった印象でした。

ソニーは7月、フルサイズミラーレスカメラ「α7S III」を発表。「α7S II」(2015年発表)から約5年、より動画に適したモデルへと更新しました。前モデル以上の広ダイナミックレンジと高感度耐性を身につけ、像面位相差AFにも対応。メモリーカードもCFexpress Type Aが利用できるようになっています。

この後ソニーは「FX3」(2021年発表)、「FX30」(2022年発表)といった、さらに動画に特化した製品を世に出します。そのため「α7S III」は、「スチル撮影も意識した動画向けのプロ用ミラーレスカメラ」という、いまでは数少ない存在の1つとなりました。

さらにこの年ソニーが発表したのが「α7C」でした。フルサイズミラーレスカメラにしては小型軽量なボディに、内部的には定評ある「α7 III」を踏襲。シグマ「fp」の前例があるとはいえ、APS-Cのカジュアルモデルに類似したサイズ感のフルサイズミラーレスカメラが登場したことに、新しい風を感じたものです。

パナソニックが9月に発表した「LUMIX S5」は、同社のフルサイズミラーレスカメラ「LUMIX S1」シリーズの性能をコンパクトに凝縮した製品。「LUMIX S1」と同等のイメージセンサーを搭載し、4K60Pの動画記録も同じく可能。「LUMIX S1」シリーズの重厚なボディを持て余していた層にとって、カジュアル寄りの本機の登場は喜ばしいものだったのではないでしょうか。ボディ単体で24万円という求めやすい価格も話題になりました。

富士フイルムがXシリーズの新ラインとして発表した製品が、「FUJIFILM X-S10」になります。これまでもセンターファインダースタイルの製品として「X-T」シリーズに2ラインが用意されていましたが、本機はそれらとは別のラインとして設定。グリップを大型化し、他社製品のようなモードダイヤルと前後コマンドダイヤルを中心とした操作系をメインとしました。「X-H」系に近いコンセプトですが、あそこまでハイスペックではなく、どちらかといえば「X-T」系の派生モデルといった印象。価格も廉価で良心的でした。

VLOGブームをキャッチアップ

7月、パナソニックが「LUMIX G100」を発表しています。センターファインダースタイルながら小型化を進めたマイクロフォーサーズカメラで、「トラベルVlogger向け」という触れ込みの製品。高機能なマイクを搭載するなど、どちらかといえば動画を指向した製品でした。同社のトライポッドグリップ「DMW-SHGR1」との連動も可能です。

この時期、ソニーの「VLOGCAM」はまだレンズ一体型のみリリースだったので、レンズ交換式でVlogユースを強くアピールした製品は、このモデルが初とみられます。

ソニーが1月に発売した「ワイヤレスリモートコマンダー機能付シューティンググリップGP-VPT2BT」は、Bluetoothリモコンを内蔵したテーブル三脚&ボトムグリップといった様相の製品。類似品はこれまでもありましたが、テーブル三脚よりもグリップでの使用を意識したようなサイズと、しっかりした造りが特徴でした。

一風変わった便利グッズくらいにとらえていたら、その後同社の「VLOGCAM」シリーズとのセットが常態化しました。その流れを受け、同種のセットが他社からもその後リリースされています。

その「VLGCAM」シリーズの第1号機が「VLOGCAM ZV-1」です。1型センサー搭載のRX100シリーズをアレンジしたレンズ一体型モデルで、EVFを省略、代わりにマイクを強化するなど、大胆なアレンジを施しています。決して静止画が撮れないわけではないのですが、動画への特化を謳った点で目新しい存在となりました。

オリンパスがカメラ事業を手放す

この年の6月、オリンパス株式会社は映像事業を分社化し、日本産業パートナーズ株式会社に譲渡すると発表しました。カメラ事業の不調がその要因です。傍目にはOM-Dが一定のシェアを維持しているように見えていましたが、収益としては3期連続で営業損失を計上しています。

2009年のマイクロフォーサーズカメラ「E-P1」のヒットから、2011年のオリンパス事件、2012年には「OM-D E-M5」で新規路線を送出するなど、何かと話題を振りまいてくれたオリンパス。センサーダスト対応、ボディ内手ブレ補正、アートフィルター、ハイレゾショットなど、業界のトレンドを先取りしたブランドでもありました。

翌2021年、カメラ・レンズとボイスコーダーを扱うOMデジタルソリューションズ株式会社に、事業が引き継がれて現在に至ります。

本誌:折本幸治