20周年企画

デジタルカメラニュースの20年を振り返る/第16回(2019年)

新製品が相次ぐミラーレスカメラ CFexpressが選択肢として浮上

2004年9月27日(金)、「デジカメ Watch」がサイト開設から20周年を迎えます。ご愛読をいただきました読者の皆様に感謝申し上げます。

この小特集では、各年の印象に残るニュース記事をピックアップして紹介する企画です。筆者の基準とはなりますが、同時期に写真を楽しんでいた方は、一緒に懐かしんでいただければと思います。

今回とりあげるのは2019年の記事です。

デジタルカメラニュースの20年を振り返る
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/column/20th/


いよいよ隆盛を誇るミラーレスカメラ

ニコンは前年の2018年に発表したミラーレスカメラ「Z 7」「Z 6」に、瞳AFを追加すると発表しました。発表後に追加要素を後から発表するのは珍しく、この機能に期待するニコンの強い想いが感じられたものです。

瞳AFといえば、ソニー「α7R III」「α7 III」における実用性の高さが着目され、ポートレート撮影の現場で活用が進みました。各社ともこの技術に力を入れていき、その後は人物から動物、さらに各種の乗り物、全身を含む人体の認識へと範囲を広げていきます。

フルサイズαを矢継ぎ早にリリースしてきたソニーですが、この年の1月はAPS-Cセンサー搭載の「α6300」を約3年ぶりに「α6400」へとリニューアルしています。時期的にAPS-Cラインはいったん終息し、フルサイズミラーレスカメラに注力するのか……と予想していた頃なので、良い意味で驚きました。

中でも特徴的なのは、このときから「被写体追尾AF」を「リアルタイムトラッキング」へと進化させたこと。その後、フルサイズを含めたαの象徴的な技術の1つになりました。

さらにソニーは8月、APS-Cの上位モデル「α6600」を発表しました。こちらにもフルサイズαの技術を取り入れ、同じZバッテリーを採用するなど完成度を高めたモデルです。現在のAPS-Cのソニーαは、(ZV系を除くと)この系列の後継モデル「α6700」に集約されています。

オリンパスが約3年ぶりに最上位機を刷新しました。まさかの縦位置グリップ一体型のマイクロフォーサーズカメラ「OM-D E-M1X」の登場です。まるでデジタル一眼レフカメラのプロ機のような見た目に、衝撃を受けた読者も多かったでしょう。

マイクロフォーサーズのイメージといえば小型軽量ですが、本機は同社のシステムが望遠撮影に強みを見せていることから、加えて動体撮影の現場での使い勝手を優先して、大柄なボディを採用したのでしょう。

「OM-D E-M1 Mark II」からの強化としては「インテリジェント被写体認識AF」「手持ちハイレゾショット」「ライブND」を実現したこと。特に「インテリジェント被写体認識AF」は、フォーミュラカー、飛行機、新幹線を認識できる点で、その後の認識系AFの流行を先取りするものでした。

前年の「EOS R」で、フルサイズミラーレスカメラへの参入をはっきりさせたキヤノン。続く2019年、早くも下位モデルの「EOS RP」を発表しています。「小型軽量で手頃な価格のフルサイズミラーレスカメラ」を目指したとし、同社がミラーレスカメラを特殊なカテゴリーと見ていないことをはっきりさせました。

このモデルは価格の安さとバランスの良さもあり、RFレンズの充実と歩みをあわせつつ、その後も入門機として人気を博します。

マイクロフォーサーズでミラーレスカメラ市場を創出、その後も牽引してきたパナソニックが、満を持してフルサイズミラーレスカメラを発表しました。それが「LUMIX S1R」「LUMIX S1」です。

マウントに「ライカSL」と同じLマウントを採用、交換レンズも3本を投入。前年のフォトキナ2018で締結された「Lマウントアライアンス」の成果が、早くも世に出た格好です。

同じ年、パナソニックはバリエーションモデルの「LUMIX S1H」を発表しました。こちらは動画記録を指向した製品で、放熱用のファンを搭載するなど、これまでのスチルに重きを置いた製品とは異なる思想の製品でした。

同じくLマウントアライアンスに属するシグマが発表したのは、極限までボディを小型化した「fp」です。FOVEONセンサーではなかったものの、その独自の立ち位置を含めた魅力で、シグマファンの心を捉えました。

同時にシグマは、Lマウントの新レンズ3本を発表しました。Lマウントアライアンスに加入する同社ということで、「ひょっとして今後、新レンズをLマウントにしか出さないのでは……」との不安を覚えていましたが、結果的に同社は、ソニーEマウントをはじめ各社のミラーレスマウントへも製品を供給。杞憂に終わって良かったです。

富士フイルムは、「GFX100」をこの年に発表。国内メーカーで初の1億画素を達成しました。小型ボディと趣味性をうまくバランスしたXシリーズに加え、最高画質を目指すGFXの2ラインを持つ富士フイルム。その後もGFXシステムは、交換レンズを含めて発展していきます。

ちなみに富士フイルムは本機の発表に合わせ、これまでの呼称である「ミディアムフォーマット」(中判)を「ラージフォーマット」にすると発表しています。意図はまぁわかるのですが、編集部として表記を今後どうするのか戸惑ったのを覚えています。

「GFX100」に続いて富士フイルムが発表したのが、「X-Pro3」でした。お得意のハイブリッドビューファインダーを備えた重厚なボディはそのままに、特殊なブラックペイントやチタン外装のモデルを用意するなど、Xシリーズらしい趣味性の高い展開です。フィルムパッケージをはめ込んだように表示できる背面のサブモニターにも、作り手のマニア魂を感じたものでした。この製品は現在も現役としてラインアップされています。

海外ブランドでは、ハッセルブラッドが中判ミラーレスカメラ「Hasselblad X1D-50c」の後継となる「X1D II 50C」を発表しています。特徴的なボディデザインはそのままに、弱点とされていたレスポンスやAFを強化してきました。

ソニーは7月、高解像度系「R」の最新モデル「α7R IV」を発表しました。有効画素数は約6,100万。さすがに「GFX100」の1億画素には見劣りしますが、35mmサイズの画素数としては、現在でも最高水準です。GFXを意識したのか「中判カメラに迫る階調・解像」を発表会でアピールしていました。それでいて約10コマ/秒の連写性能も維持。ちなみにこの機種から、メモリースティックが使えなくなっています。

デジタル一眼レフカメラの生産を堅持するキヤノン

一方のデジタル一眼レフカメラは、昨年に続き新製品が激減。2019年にはメーカーとして唯一キヤノンだけが、「EOS 90D」「EOS Kiss X10」の発売を発表しています。

そしてキヤノンは、フラッグシップモデルの「EOS-1D X Mark III」を開発発表。正式発表は翌年2020年になります。

当時ユーザー目線からしても、膨大なユーザーを抱えるシェア1位のキヤノンが、デジタル一眼レフカメラを急速に終息させなかった動きは納得のいくものでした。さらにシビアな結果と信頼が求められるプロ機の分野において、技術や操作性が成熟したデジタル一眼レフカメラが以前有利だったのも確かです。

ではこの時期ペンタックスはどうしていたかというと、9月のユーザーイベントで、Kマウント採用のデジタル一眼レフカメラを参考出品しています。APS-Cサイズセンサー搭載モデルのフラッグシップとなる後の「K-3 III」です。

何かを期待していたのでしょうか、それとも安心を覚えたのでしょうか。初報を告げる私の記事に、「一眼レフカメラにあるクイックリターンミラーが見える」とあるのに苦笑してしまいます。

といったように、2019年は、ミラーレスカメラへのシフトが決定づけられた印象の年でした。ちなみに国内の出荷台数ペースでみると、ミラーレスカメラは2018年の時点でデジタル一眼レフカメラを追い抜いてます。

「GR III」が発進、SR搭載&ボディが小型に

前年のフォトキナ2018で話題をさらった「RICOH GR III」が、この年正式に発表されました。ボディサイズを1/1.7型センター搭載時の「GR DIGITAL IV」に近くし、ペンタックスブランドでおなじみの手ブレ補正機構「SR」を搭載。その後現在に至るまで、独自の立ち位置で人気を維持し続けているのはご存じの通りです。

カメラをアソビに……キヤノンの意欲作

10月にキヤノンがクラウドファンディングを通じて支援募集を開始したのが、ウェアラブルカメラを標ぼうする「iNSPiC REC」です。25.4mm等々の単焦点レンズと有効約1,300万画素のイメージンセンサーを搭載、背面にモニターはありません。カラビナの空間を文字通りの素通しファインダーとして使用し、アバウトに撮影した結果はあとで確認するという、「写ルンです」のような楽しさを提供するものでした。

水深2mまでの防水機能もあり、スマートフォンが使えないような、アクティブに外で遊ぶときのお供や、子供に持たせる専用のカメラとしても考えられていたようです。個人的にはあのキヤノンが、マーケティングにクラウドファンディングを利用した(支援募集は建前ですよね?)ことが衝撃でした。

「プロ向けフルサイズミラーレスカメラ」対応のカメラバッグが早くも登場

この年、早くも「プロ向けフルサイズミラーレスカメラ」の収納を謳うバックパックが登場しています。Wotancraftの「スナイパー」がそれです。といっても当時のプロ向けプロ向けフルサイズミラーレスカメラといえばソニーαですから、縦位置グリップを付けた状態でもその大きさはたかがしれていますよね。何がいいたいかというと、それほどミラーレスカメラへの移行が業界的に表面化していたらしい……ということです。

ジンバルが被写体を追う時代へ

DJIがこの年発表した「Ronin-SC」は、スチル系カメラの搭載を想定して登場した「Ronin-S」(2018年発表)をさらに小型化した製品。ミラーレスカメラ向けをアピールし、極端にいえばデジタル一眼レフカメラへの対応を切り捨た格好です。ただしその後も上位ラインは継続され、、現在は軽量な「RS 3 Mini」「RS 4」に対し、大型の「RS 4 Pro」を最上位に置く布陣を敷いています。

このときの「Ronin-SC」で特徴的だったのは、「アクティブトラック」を同社が搭載したこと。ドローンやOsmoシリーズに実装済みの技術で、被写体を追尾してカメラを動かしてくれます。カメラ内の追尾機能がフォーカスだけなのに対し、こちらはアングルまでにも対応。カメラの進化の先を見せてくれたような製品でした。

CFexpress 2.0が策定

現在のカメラ製品で主流となっているメモリーカードは、第1にSDXCメモリーカード、次いでCFexpressといったところでしょう。そのCFexpressが前面に出てきたのが2019年。CFexpress 2.0の策定が、その契機ともいえます。

あわせて同年11月、パナソニックが「LUMIX S1R」「LUMIX S1」のCFexpress Type B対応ファームウェアを公開。さらに「Nikon Z 7」「Nikon Z 6」もファームウェアでの対応を表明しました。また、開発発表のあった「EOS-1D X Mark III」もCFexpressの採用を明らかにしており、高速・大容量の次世代メモリーカードに、CFexpressが確実視され始めます。

本誌:折本幸治