20周年企画

デジタルカメラニュースの20年を振り返る/第15回(2018年)

ついにキヤノン・ニコンからフルサイズミラーレスが

2004年9月にスタートしたこの「デジカメ Watch」も、本年9月27日(金)を持ってサイト開設から20年を迎えます。日々ご愛読をいただきました読者の皆様に厚く御礼申し上げます。

この小特集では、筆者の印象に残るニュース記事を1年ごとに選んでみました。その年どんな製品が世を賑わしたのか、その頃自分がどういうフォトライフを送っていたのかを思い出していただく契機になればと思います。

今回は2018年の記事を紹介します。

デジタルカメラニュースの20年を振り返る
https://dc.watch.impress.co.jp/docs/column/20th/


2大巨頭がフルサイズミラーレスに参入

この年2月、富士フイルムが発表したミラーレスカメラが「FUJIFILM X-H1」です。「X-T」系を超えるハイパフォーマンス機として設定された、新しいラインの1号機。同社初のボディ内手ブレ補正機構や、上面モニターの搭載などで話題を集めました。

若干ボディが大きくなったのも特徴。操作性の面で、ミラーレスカメラの小型ボディに疑問を呈する風潮が出てきたのを受けたものと見られます。大柄なXマウントレンズがラインアップされはじめたという背景もあるでしょう。

となると、同じセンターファインダースタイルの「X-T」系はどうなるのか? とやきもきしていたところに、「FUJIFILM X-T3」の発表がありました。3連ダイヤルによる操作感、フィルム一眼レフカメラを思わせるボディデザインなど、「X-H」系にはない趣味的な魅力は健在です。

この年ついにキヤノンから、ミラーレスカメラに「Kiss」の名を冠した製品が登場しました。「EOS Kiss M」は、「EOS M5」(2017年発表)のセンターファインダースタイルを踏襲、そこに「DIGIC8」を搭載するなどの強化を図ったエントリーモデルです。

デジタル一眼レフカメラの「EOS Kiss X90」も同時に発表されているので、キヤノンのエントリーモデル全体がミラーレスへと移行した訳ではありません。とはいえ「来るべきものがついに来たか……」という印象でした。

前年に「α9」と「α7R III」を発表してファンを沸かせたソニー。2018年には、フルサイズミラーレスカメラのベーシックモデル「α7 III」を発表しています。

ベーシックモデルとはいうものの、有効約2,420万画素、ボディ内5軸手ブレ補正、約10コマ/秒の連写、4K動画記録など、高い次元でまとまったスペックが特徴。バッテリーも新型となり、「α7 II」より持続時間が増えたのもうれしい進化でした。瞳AFの性能も、その後の各社の基準となるものです。

価格面でのバランスの良さもあり、このモデルはミドルクラスのミラーレスカメラにおいて、長期にわたるヒットモデルとなりました。いまでも中古市場では実用機として高い人気を誇っています。

そして8月。ついに巨人が動きました。ニコンがフルサイズミラーレスカメラの「Z7」「Z6」を発表。ティザー広告で約1カ月引っ張った後ではありましたが、APS-Cを飛び越えていきなりのフルサイズモデルということで、ファンの度肝を抜きました。

約4,575万画素と約2,450万画素の2機種を発表、さらにどちらもEVF搭載というところに(はっきりとは明言されていませんが)、FX系のデジタル一眼レフカメラをいずれ置き換えるという強い意思を感じたものです。

新設計のZマウントは、内径55mmというこれまでのFマウントから一転して巨大なもの。新マウント用の交換レンズも3本をラインアップし、新しい時代の幕開けを告げました。

一方、キヤノンもフルサイズミラーレスカメラ「EOS R」を発表。すでに「EOS M」系列でミラーレスカメラでの高いシェアを獲得していた同社ですが、聖域ともいえるフルサイズセンサー搭載モデルへも参入を果たしました。

同時発表のRFレンズは4本。マウントアダプターにドロップインフィルター搭載モデルがあったりと、独自の工夫が見られます。

とはいえサブ電子ダイヤルがないことから、デジタル一眼レフカメラの中上級機と操作系が異なる点が気になりました。また「マルチファンクションバー」や「Fvモード」(フレキシブルAE)をEOSシリーズで初めて搭載するなど、デジタル一眼レフカメラのミラーレス化を目指したというよりも、実験的な要素の方が目立っていた印象です。

2016年発表の「FUJIFILM GFX 50S」から約2年、富士フイルムの中判ミラーレスカメラ「GFX」シリーズにも新モデルが発表されました。「FUJIFILM GFX 50R」は、本体上部をフラットにしたレンジファインダースタイルを採用。ボディが小型になったことで、既存モデルより中判スナップ派が喜びそうな見た目になりました。

カールツァイスからLightroom内蔵のデジタルカメラ

フォトキナ2018の目玉の1つだったのが、カールツァイスのフルサイズセンサー搭載レンズ一体型デジタルカメラ「ZX1」でした。スマートフォンのようなタッチ操作性をメインとし、1台で撮影から画像のアップロードまでをまかないます。しかもカメラ内での編集用に、アドビ「Lightroom」を内蔵していたというから驚きです。

カメラのスペックとしては、有効3,740万画素の35mmフルサイズセンサーにDistagon T* 35mm F2レンズを組み合わせ、EVFを内蔵。メモリーカードスロットはなく、データは512GBの内蔵SSDに記録します。外観もスタイリッシュで、いま見ても魅力的な製品です。

このモデル、海外では2020年に発売されたらしいのですが、日本での発売は結局どうだったのでしょうか。

角型フィルターに新ムーブ 新世代メーカーも登場

2024年現在、自由な発想のGND(グラデーションND)フィルターが各社からリリースされています。角型フィルターは伝統あるジャンルですが、LEEの「リバースND」を見たとき、個人的に角型フィルターの新しいムーブを認識しました。

こちらもそうした製品の1つ。KANIはガラス製の高品質な角型/丸型フィルターを多数ラインアップし、直販で供給するというスタイルをいまも継続しています。

一眼レフ・ミラーレスを対応にしたDJIのジンバル

業務向けにジンバル製品を投入していたDJI。この年、「RONIN-S」で一眼レフ/ミラーレスカメラ用を謳う製品を発表しました。YouTubeの個人制作が増加する中、デジタルカメラの新しい立ち位置が表面化してきた頃でもあったのでしょう。

同じくDJIの製品としては、「Osmo Pocket」が発表されています。現在YouTuberなどに人気の「Osmo Pocket 3」の祖先にあたる製品ですね。この頃はレンズの画角が焦点距離26mm相当であり、歩き撮りや人物を入れたカットなどで中途半端に感じたものでした。現行モデルは20mm相当です。

複眼化が進むスマートフォンのカメラ

この年からスマートフォンの高級モデルに、複数のカメラを搭載する動きが出てきます。いくつかの単焦点レンズを切り替えて撮影する手法は、レンズ交換式カメラを思わせるもの。デュアルカメラでボケを表現するなど、デジタルカメラとは違う独自の進化を見せ始めます。

“左手”だけではなかった編集用コントローラー

現在、イラスト、ゲーム、そして写真・動画編集をたしなむ層で人気を集めているのが、いわゆる“左手デバイス”です。

おそらく、こちらの「Loupdeck+」が写真関連での元祖といえる製品でしょう。左手どころか両手が前提だったのですね。

カシオがデジタルカメラ事業から撤退

この年の5月、カシオがデジタルカメラ事業からの撤退を正式に表明しました。黎明期から市場を支えてきた同社ですが、スマートフォンの普及でコンパクトデジタルカメラ市場が減退、カメラ市場のメインストリームがレンズ交換式カメラになる中、ついに舞台から降りる決断をします。「QV-10」(1994年発表)で市場を創出した老舗ブランドのリタイアということで、時代の区切りを感じました。

デジタルカメラの歴史の節目ごとに、特徴ある製品を投入したカシオ。その貢献度は高く、市場の立役者だったのは間違いありません。誰もが気軽に写真を楽しめる世界を示したデジタルカメラは、その役目をスマートフォンに託し、別の役割を模索していきます。

本誌:折本幸治