特別企画

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験

進化した瞳AFの性能は? FE 24-105mm F4 G OSSも試す

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験

ソニーが11月25日に発売するミラーレスカメラの新モデル「α7R III」の関係者向け体験会に参加した写真家の萩原和幸さん。α7R IIのユーザーでもあり、ポートレート写真を中心に活躍している萩原さんに、どのような印象をα7R IIIから受けたのか語ってもらいました。(編集部)

α7R IIIとは?

35mmフルサイズセンサーを搭載するEマウント機。有効4,240万という高画素センサーを搭載しながら、10コマ/秒の高速連写を実現したのが大きな特徴。AFを初め各部の機能強化が図られている。店頭予想価格は税別37万円前後。
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期待が高まるα7R III

先日、関係者を対象に行われたソニーの新製品体験会に出席させていただいた。その体験会開催日の直前に、新製品が発表となった。そのカメラは「α7R III」。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験

予想に反して、先に“R III”とは! と思ったが、“R II”ユーザーの私にとってはうれしい限りだ。その上、事前情報を得た時点で、私は期待していた操作性の向上に加え、スタジオ撮影でのフォローがなされていることを知る。

そこで、α7R IIIが売りにしているポイントをきちんと整理してから実際にα7R IIIを体験してみることにした。

瞳AF

AFはα9譲りの新AFアルゴリズムを採用、399点像面位相差AFはα7R IIと変わらないものの、コントラストAF枠がα7R IIの25点から425点に多分割化し、AF速度や動体追随性能が約2倍に向上。実感として、α7R IIよりもかなり快適に被写体を捕捉してくれた。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験

加えて「瞳AF」も進化したそうだ。α9の瞳AFの合焦率はかなり高いが、α7R IIIのそれもすごい。ましてや高画素のα7R系で、だ。

モデルさんには一定の動きを指示させていただき、実際に私が現場でシャッターを切るテンポでチェック。最初は、すでに装着していたFE 24-70mm F2.8 GMで体感してみたが、すばらしい食いつきだ。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R III / FE 24-70mm F2.8 GM / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO 320
α7R III / FE 24-70mm F2.8 GM / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO 320

基本である縦位置からの撮影開始で、モデルとの距離やズームで焦点距離を変えながらフレーム内でモデルのポジションを左右上下に変えても、横位置に変えてみても、1度食いついた瞳を捕捉し続けてくれる。

モデルの顔が全部映っておらず、片目だけでも、1度構図のセンター付近で瞳を捉えておくと、フレーム内では瞳がどの位置に行こうとも追い続けてくれた。

その後単焦点レンズのSonnar T* FE 55mm F1.8 ZAに変えて、やはりモデルさんの動きを追いながら、いつものテンポで瞳AFにて撮影してみたが、同様にとても快適だった。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / 1/1,250秒 / F1.8 / 0EV / ISO 250 / 55mm
α7R III / Sonnar T* FE 55mm F1.8 ZA / 1/1,250秒 / F1.8 / 0EV / ISO 250 / 55mm

伏せ目にしていても、ある程度追いかけてくれるので、顔の向きや表情の変化を求めるシーンにも使えるな、という印象だ。

α7R IIにも瞳AFは搭載されているが、あくまでも小さな動きのなかで使用されるもので、正直なところ仕事レベルでは使えるものではなかったが、α7R IIIの瞳AFは、トータルでは完全に仕事で使えるレベルといっていいだろう。

私はモデルの仕草に合わせて動いたり、モデルとの距離を変えたりしながら撮影する機会が多いので、これは頼もしい。

連写

加えて連写性能も最高約10コマ/秒となった。ブラックアウトフリーでないところはやや残念だが、ここは高速連写系のα9との棲み分けの部分なのだろう。

ポートレートではそこまでの連写で撮影するシーンはだいぶ限定されるのだが、連写が可能ということはとても心強い。

モデルの動きを追いながら瞳AFでピントのストレスなく連写……。瞬時に変わる表情やしぐさを逃さずに撮影できる期待が高まる。外ロケや、ハウススタジオなど、光の入り方が変わるシーンで早く実践してみたい。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 連写した中の1枚。α7R III / FE 24-70mm F2.8 GM / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO 320
連写した中の1枚。α7R III / FE 24-70mm F2.8 GM / 1/1,250秒 / F2.8 / 0EV / ISO 320
ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 連写の例
連写の例

スタジオワークフロー

私はスタジオ撮影が多い。ほとんどの場面でテザー撮影を行っているのだが、その際は、α7R IIでなくキヤノンEOSで、キヤノン純正ソフトを使っている。慣れもあるが、やはり純正ソフトはそのメーカーの機種に合わせて作られているからだ。

それにα7R IIにはそもそもシンクロターミナルも備えておらず、スタジオでのストロボ撮影を念頭に作られていないと感じているからだ。

でもα7R IIIにはα9同様にシンクロターミナルが搭載された。またUSB 3.1 Gen1対応のUSB Type-C端子も搭載。

加えて、新たに純正ソフトの「Imaging Edge」が提供されることになった。ソニーがα7R IIIを通じて、これからはスタジオワークへの本気度を高めていく姿勢だと素直に思った。これだけの高画素カメラなのだから、スタジオで使いたい、使って欲しい……は、当然なのだ。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 画像を取り込んでいるところ
画像を取り込んでいるところ

実際にテザー撮影を体験してみた。まずは転送速度だ。4,240万画素の非圧縮RAWデータをどれだけストレスなく転送できるかを観察したが、非常にサクサクと転送できた。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/200秒 / F6.3 / 0EV / ISO 400 / マニュアル露出 / 85mm
α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/200秒 / F6.3 / 0EV / ISO 400 / マニュアル露出 / 85mm

データを取り込んだ後はImaging Edgeの出番。3つのアプリケーション「Remote」「Viewer」「Edit」に分かれていて、それぞれが連携している。カメラ側でシャッターを切らずとも、Remoteではリモート撮影が可能。PC画面上でフォーカス調整はもちろん、グリット、ガイド、オーバーレイで細かな調整が可能だ。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 オーバーレイ機能を使用しているところ
オーバーレイ機能を使用しているところ

私が一番良く思ったのはRemoteでAFだけでなくマニュアルフォーカスの調整が可能なことだ。フォーカス調整速度も段階ごとに区分され、大きくフォーカシングしたい時、微調整したい時など、場面によってピントの追い込み方を細かくチョイスできる。この機能はブツ撮りではとても便利だ。

撮影画像は、そのままPCに取り込まれ(カメラ側のメディアまたはPC、もしくはその両方の保存先が選択可能)、Viewerで確認とセレクト、EditでRAW現像という流れで一連の作業が、このImaging Edgeでできるようなった

使い勝手は今後の使用によって見えてくるだろうが、スタジオワークフローで必要十分な機能を搭載しているので、α7R IIIでのスタジオ撮影に切り替えたいと思った。

ピクセルシフトマルチ撮影

ピクセルシフトマルチ撮影は、センサーを1ピクセルごとに動かして4枚のRAW画像を撮影し、Viewer上で自動的に4枚を合成し、1枚のRAW画像データを生成するというものだ。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 ピクセルシフトを試しているところ
ピクセルシフトを試しているところ

そうすることで、約4,240万すべての画素でRGBの全色情報を取りれることができ、結果、偽色を最小限に抑えた、高精細の描写が得られる。Remoteを使い、PCでリモート撮影しても、カメラのみで撮影しても可能。Viewer上で自動的に4枚が合成されるのは同じだ。

合成の際は、先の4枚のRAWデータと合成後のRAWデータの計5枚が一覧表示される。そしてEditで調整等を行い、TIFFやJPEGに現像出力する。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R III / FE 24-70mm F2.8 GM / 1/20秒 / F5.6 / 0EV / ISO 100 / マニュアル露出 / 70mm(TIFFからJPEGに変換しています)
α7R III / FE 24-70mm F2.8 GM / 1/20秒 / F5.6 / 0EV / ISO 100 / マニュアル露出 / 70mm(TIFFからJPEGに変換しています)

合成という性格上、被写体とカメラが動かないことが前提となる。1ピクセルという細かな部分での合成だから、カメラ自身の振動も避けなければならない。

となると電子シャッターを使用することになるが、電子シャッターではストロボはシンクロしないのが通常。でもα7R IIIは、遅いシャッタースピードながら、ピクセルシフトマルチ撮影でストロボシンクロが可能。

ストロボのチャージ時間も考慮した、4枚のシャッタータイミングも選択できる。これはすごいことだ。私なら、文化財の建物内部などを撮ってみたくなった。

Remoteを使い、拡大しながらマニュアルフォーカスでピントを追い込んで、ピクセルシフトマルチ撮影し、忠実な色彩の高精細画像を作り出せると思うとワクワクしてしまった。

FE 24-105mm F4 G OSS

α7R IIIと同時に「FE 24-105mm F4 G OSS」も発表になった。こちらも11月25日に発売され、希望小売価格は税別16万5,000円だ。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験

F4通しの同じズームレンズは各社から発売されているが、やや大柄なものが多い。それらに比べ、このFE 24-105mm F4 G OSSは小さくて軽い。

フィルター径は77mmなのだが、それを感じさせないコンパクトな印象。α7系ととてもバランスが良く、縦位置グリップがなくてもいいと感じた。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験

実写については、あくまでも体験会での撮影での感想でしかないが、開放からシャープな画像でAFは静かで快適だ(ヌケがいいα7R IIとの組み合わせ)。最短撮影距離が0.38mと近接撮影が可能で、オールラウンダーぶりを見せてくれた。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/800秒 / F8 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 24mm
α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/800秒 / F8 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 24mm
ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 105mm
α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/640秒 / F8 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 105mm
ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 24mm
α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/125秒 / F4 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 24mm
ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験 α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 105mm
α7R II / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/200秒 / F4 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 105mm

このレンズについては、別の機会にたっぷりレビューをしたい。言えることは、このレンズ1本で仕事レンズは決まり! と思う人も多いだろう、ということ。

F4通しの標準ズームレンズでは、Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSSがラインナップされているが、ツァイスとGレンズのコンセプトが違うとはいえ、機材を小さくまとめたいと考えているユーザーは多く……となると、FE 24-105mm F4 G OSSの存在は気になるはずだ。私はというと、多分購入する。機材を小さくしたい派なので。

まとめ

α7R IIIはα9のメニュー構成や操作性を強く受け継いでおり、これまでのα7系とはやや異なる。バッテリーもα9と共用となるなど、α7系とα9の中間といった感じだが、高速連写に特化したα9に比べて、作品性の高い撮影には断然α7R IIIだろう。

ポートレート写真家の萩原和幸さんが「α7R III」を体験

キヤノンやニコンに比べ、操作性の点については遅れていた感のあるソニーだが、撮影の快適さの格段の向上はもちろんのこと、インターフェースやダブルスロットなどプロユースを意識した装備にImage Edegの開発など、FEマウント機の“真打ち登場!”と言っていいと思う。

色の傾向については、今後の使い込みをしてからでなければ結論が出せない。特に肌色については慎重にしたいところだが、体験会の印象では、α7R IIに比べ、ややあっさりした印象。誇張していない肌色と捉えると、モデルには好まれそうだ。

萩原和幸

(はぎわらかずゆき)1969年静岡出身。静岡大学人文学部法学科及び東京工芸大学写真技術科卒業。写真家・故今井友一氏師事後、独立。ポートレートを中心に、広告・雑誌等で活動中。(公社)日本写真家協会会員。静岡デザイン専門学校講師。