特別企画

普段一眼レフを使っているスポーツ写真家がソニーα9を体験!

20コマ/秒は絶大な武器に AF、EVF、操作性などをスポーツシーンでチェック

α9を持つ井上六郎さん

ソニーが5月26日に発売したミラーレスカメラの新モデル「α9」の報道関係者向け体験会が5月23日に東京スポーツ文化館で開催された。

今回せっかくなので、スポーツ撮影を得意とされている写真家の井上六郎さんにα9での撮影を体験してもらった。果たして、第一線のプロから見たα9はどのようなものだったのだろうか?(編集部)

α9とは?

35mmフルサイズセンサーを搭載したソニーEマウントカメラの最新モデル。プロ用一眼レフカメラを大きく上まわる最高20コマ/秒の高速連写を達成し、大きな注目を集めている。画素数は有効2,420万。実勢価格は税込54万円前後の見込みだ。
会場ではバスケットボールの様子を撮影できた

※作例のクリック先は長辺800ピクセルにリサイズしています。

簡単にプロフィールをお願いします

二十歳ごろから自転車競技を撮り始め、専門誌でカメラマンとして活動を開始しました。以降、そこから派生しスポーツ系の撮影を主たるカテゴリーにしています。その間にも好きな飛行機を撮り続け、中でも惹きつけられた747型ジャンボジェット機の写真をまとめ、2014年に写真集を出しました。

撮影をしながらカメラやレンズを使いこなす、という一連の作業には疲れも知らずに没頭し、気が付けば日がとっぷりと暮れていることも多々あるような、カメラ好きです。

新機材=高画質、高演出、多機能となっている昨今、私自身ムービー撮影の機会も増え、撮影機材に対する興味は尽きることがありません。ミラーレスカメラが向かっているスチール/ムービーのシームレス化の目途が、少しずつでも付いてきたこの過程で、それらの進化には目が離せないと感じています。

今仕事で使っている主なカメラは?

スチールでは一眼レフのニコンD5、D500、D800E、キヤノンEOS-1D X Mark II、EOS 5D Mark IV/IIIです。

ミラーレスカメラにどんなことを期待していますか?

現状で一眼レフ機に比べれば、小型軽量なのは当然の姿ながら、それにともなうボタン類の少なさ、小ささが操作性への犠牲になっていると感じています。

撮影現場であれこれと設定を試したくなる性分で、頻繁に設定変更をしたくとも、メニュー階層の奥にあったり、カスタムボタンへの割り当てに限りがあったり、はたまた撮影後のカード書き込み最中には操作そのものができなくなるなど、外観上の制約に加え筐体の中に潜むプロセッサーやメモリなど、ハードウエアの限界を感じる機種が多いことも事実です。

ニコンD5やキヤノンEOS-1D X Mark IIといったフラッグシップ機が採用するような回路周りの専用ハードウエアが実装され、ストレスフリーな撮影環境をいち早く実現して欲しいところです。それらを、おいそれと値上げすることなく……なのですが。

α9のデザインは?

一見してα7との違いが判らず、直線的な辺とラウンド状の角の組み合わせから、鉄製の弁当箱を思いだしました。実用面として、小型化を意識しながらも、出るところは出す、痩せさせるところは引っ込めるということが感じられ、好感は持てます。

反面、このクラスでは必須と思える操作性の向上は積極的に行うべきだったと考え、α7からサイズアップしても良かったのではとも思います。表面積に余裕を持たせ、ボタン類の増拡大を果たし、Aマウントのα99 IIはもとより、D5やEOS-1D X Mark IIの様なゴロッとする、α7と一線を画したα9ボディも見てみたかったものです。

大きさや重さは?

小型化を意識しつつ、上記のように操作面からα7より一回り大きくなっているのは、歓迎できると思いました。α6000番シリーズほど小さいと、EVF使用時に構えた場合にかえって使いづらいことがあります。逆にボディを大きくしすぎるとミラーボックスレス、光学ファインダーレスの優位が失われるとの判断だろうと、ソニー側の意図も見えます。

ただ、α7とボタン類の大きさが変わらず、特に背面のAF-ONボタンの押し易さとともに、さらに存在感が欲しかったとも感じます。私自身もそうですが、スポーツ、報道系のカメラマンはAF-ONボタンの使用頻度が高いと聞いており、それらカテゴリーのカメラマンであれば結果的にシャッターボタンとほぼ同等の使用頻度となって重要度が俄然高まるからです。

重さについては装着レンズ次第とも言えますが、フラッグシップ一眼レフ機に比べれば遥かに軽く、一方α6000番台のような軽すぎない、バランスの良い「重からず軽からず」といったところでしょうか。

デザインの項でも述べたように、そんなカテゴリーに向けたカメラであれば、操作性の向上を伴わせることを前提に、さらに大きくしたα9も歓迎されるのでは、と思います。70-200㎜ F2.8以上の大きさのレンズであれば相対バランスも良くなるでしょう。

連写は?

一瞬の瞬発力が必要なことがこれまでに多々あり、20コマ/秒は絶大な武器になることは間違いありません。しかしながら今回の試撮影で、シャッタースピード優先AE使用時はレンズへの絞り制御のために最高速より落ちることがわかって少々残念に思いました。

また、JPEG最高画質での連写は十数秒でバッファが頭打ちになり、バッファ解放になってもSDカードへの書き込みが終了しておらず、直前に撮影した画の確認ができなかったのも残念なところです。バッファの増量、書き出し速度のアップ、記録メディアのXQD化が望まれます。

AF追従性は?

さらに色々な場面で使用してからの判断としたいのですが、今回のバスケットボールの練習光景では、カタログで謳われているエリアのカバー率や反応に起因する演算性といったシステムの核となる部分の実効性が確認でき、カタログの表現は大げさではないと感じています。

従来の光学ファインダーの位相差方式に遜色ないどころか、ブラックアウトがない分、ファインダーで被写体を追う際、そもそもの被写体自体のフレームアウトを大幅に減らすことができ、追い続けることが楽になった上、AF追随がリアルタイムで確認できることはこのカメラの最大の特徴で最大のメリットと言えます。

連写時のサムネイル
連写した中の1枚。α9 / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 1/1,600秒 / F3.5 / 0EV / ISO3200 / マニュアル露出 / 176mm
連写した中の1枚。α9 / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 1/1,600秒 / F3.5 / 0EV / ISO3200 / マニュアル露出 / 176mm

ファインダーの見え方は?

私が覗いた、これまで市場にあるどのEVF搭載カメラのファインダーよりもクリアで、今回のところタイムラグを感じることのない出力性能でした。

ただ、設定露出を反映させないモードでも被写体の輝度(というよりも反射率)に対してEV値を反映させるかのように敏感に応答し、ゲインアップ(明るく)をしてしまう場合がありました。環境輝度が一定とみなすことができれば、ファインダー輝度を固定できるモードがあればさらに使いやすさも増したと思われます。

今後は、夜間の屋外などのさらなる悪条件下で、光学ファインダーでは見えなかったものがどのように見えるのか、はたまた電子的に増幅された輝きが目に疲弊をあたえないのかなどを試してみたいところです。

仕事で使えそうと思いましたか?

さらに試し撮りを経て出すべき結論だと思いますが、「使えるカメラ」にでき上がっていると感じました。現状の使用カメラからすぐ完全リプレースすることはないと思いますが、現場での時間的・物理的余裕、機材を揃える際の経済的余裕があれば、α9に最適と思われる領域で、まずは積極的な併用をしたいと思います。

ただ、もう少し総合的に見ると、目の前にある課題として相対的なレンズラインナップの不足、電池持続性などの不安が残ることも確かです。

ギャラリー

α9 / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 1/1,600秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO6400 / シャッター優先AE / 76mm
α9 / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 1/1,600秒 / F3.5 / 0EV / ISO6400 / シャッター優先AE / 102mm
α9 / FE 70-200mm F2.8 GM OSS / 1/1,600秒 / F3.5 / 0EV / ISO6400 / シャッター優先AE / 130mm
α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 1/1,250秒 / F5.6 / 0EV / ISO5000 / シャッター優先AE / 400mm
α9 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS / 1/1,250秒 / F5.6 / 0EV / ISO5000 / シャッター優先AE / 200mm
α9 / Vario-Tessar T* FE 16-35mm F4 ZA OSS / 1/1,000秒 / F4 / 0EV / ISO3200 / マニュアル露出 / 19mm

まとめ

ブラックアウトフリーで追随するAF、20コマ/秒の連写と、未知領域への進化に対し大きな可能性を感じ、このカメラがどう動き、どう反応し、どう撮れるのか、もっと詳細に渡って撮影がしたいと興味は尽きません。

最初のミラーレスカメラであるパナソニックのマイクロフォーサーズ機LUMIX G1の発売から9年、ソニーのαNEXシリーズの発売から7年を経て、ようやくレスポンスの面で一眼レフに匹敵、もしくはそれを上回るミラーレスカメラが登場したものと思いました。

ミノルタから引き継いだAマウント機のトランスルーセントミラー・テクノロジー化もあり、ソニーが斜め上を目指す、ある意味壮大な野望を感じていたのですが、いずれもシェアをひっくり返すような技術的なブレークスルーを果たせない姿に、もどかしさを感じていました。

そこへ来て、このスペックでの「α9」の登場は、今後の流れを変える、ミラーレスだけではないレンズ交換式デジタルカメラの試金石となるのは間違いないものと思います。

日本の電機・精密機器メーカー陣の苦境を見るに、何が起こるかわからない状況の中、少し長いスパン、違った角度から見ると「αシステムの持続性」、さらには「スチールカメラ事業の継続性」も若干気になるところですが、ソニーのセンサー技術をもってして実現できた「α9」のスペックが以降の基準となり、業界を牽引することになると想像できます。

ソニーが抱く野望、その実現への道のりをさらに見届けたいと思わせる「α9」です。

井上六郎

(いのうえろくろう)1971年東京生まれ。写真家アシスタントを経て、出版社のカメラマンとして自転車、モーターサイクルシーンなどに接する。後、出版社を退社しフリーランスに。マラソンなどスポーツイベント公式カメラマンも務める。自転車レース、ツール・ド・フランスの写真集「マイヨ・ジョーヌ」を講談社から、航空機・ボーイング747型機の写真集「747 ジャンボジェット 最後の日々」を文林堂から上梓。日本写真家協会、日本スポーツプレス協会、国際スポーツプレス協会会員。