交換レンズレビュー

SONY FE 24-105mm F4 G OSS

コンパクトで常に持ち歩きたくなる標準ズーム

2017年秋に発売された手ブレ補正機構を搭載したソニーEマウントの標準ズームレンズ。開放絞り値F4通しで広角側24mmから中望遠側105mmまでの4倍強のズーム比でありながら全長が約113mm、重量は約663gという、35mmフルサイズ対応の標準ズームレンズとしてはかなり軽量化かつコンパクトに抑えられた設計になっている。

ソニーEマウントの35mmフルサイズ用のいわゆる標準ズームレンズとしてはこれまで「FE 28-70mm F3.5-5.6 OSS」、「Vario-Tessar T* FE 24-70mm F4 ZA OSS」、「FE 24-70mm F2.8 GM」の3種類が発売済みだったが本レンズで4本目となり、小型設計のものから大口径まで標準ズームレンズにも焦点距離や開放値の異なる個性的なライナップが揃い、ソニーユーザーにとっては選択肢が増えたことになる。

発売日:2017年11月25日
実勢価格:税込16万円前後
マウント:ソニーE
最短撮影距離:0.38m
フィルター径:77mm
外形寸法:83.4×113.3mm
重量:約663g

デザイン

第一印象として、ボディ(α7R III)に装着した状態で手にした時「あれっ?」と思うほどの“違和感”を覚えた。というのは、メーカーや時代を問わずこれまでの24-105mm前後のズームレンズの数々を使ってきた著者の経験からくる印象とはかけ離れていて、思っていたよりもずっと軽くてコンパクトで手に馴染む感じがした。

つまり、ここで云う“違和感”とはこれまでのズシリとくる重量感やズングリとしたホールディングという既成概念とは違って、男性としては比較的小さな部類に入る著者の手のひらにもフィットするコンパクトさが心地よいという肯定的な意味での“違和感”である。

α9やα7R IIIといった最新のカメラボディともなじむ表面仕上げ加工も含めて素晴らしいデザインである。

付属の専用レンズフード「ALC-SH152」を装着したところ。ロック機構が無いのは残念だが著者の個体はしっかりと留まるので安心だ。

操作性

頻繁に使うズームリングが左手親指と中指の2本、AF微調整やMFの場合には親指を伸ばし中指の代わりに人差し指ですぐに操作できる。完璧なほどにジャストポジションに収まっている。

鏡胴左側の手前にAF/MFのフォーカスモード切替スイッチと手ブレ補正機構(OSS)の切替スイッチの2つが上下に設置、その先のズームリングとフォーカスリングとの間にフォーカスホールドボタンが設置されている。

左手で下から支え持つと自然と親指が触れる場所に配備されていることからも右手はボディのホールディングと操作に集中、レンズの操作は左手に特化するという人間工学的にもよく計算された発想にもとずいていると覗える設計。リングの動きもスムーズである。

望遠側端の105mmまでリングをまわしたところ。レンズ前面の繰り出し量は約45mm。下から指で支えるとホールディング性も増す。

作品

イタリアは古い建物が多いので壁面も窓枠もドアも何度も塗り替えられているのだが、たとえ剥がれても朽ち果てようとしていたとしてもイタリア人独特のカラフルな色彩が美しい。質感描写は極めて良好。窓枠が歪んているのは建物そのものの造りだ。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/800秒 / F8 / +0.2EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 34mm

冬の朝は遅い。8時でもまだ暗いので10時くらいからやっと明るくなってくる。この日は友人の協力により海からの眺めを撮影できた。24mmワイド側で太陽を思いっきり取り込んでみた。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/5,000秒 / F8 / -0.3EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 24mm

ワイド側24mmで70~80cmくらいの距離にある軒先のサンシェードにピントを合わせても、絞り値のコントロールで背景をボカすことが可能なのはフルサイズならではの効果である。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/4,000秒 / F5 / -1.5EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 24mm

14世紀に建てられたマドンナ・デッロルト教会。カンナレージョ地区の下を流れる運河から走るボートに乗って撮影したので街の風景が見上げるような角度に見える。F8位まで絞るとエッジが効いた画質になる。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/2,500秒 / F8 / -0.7EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 24mm

夜の桟橋にて。ボートを待つセレブ風老婦人を望遠側で捉える。背景の暗闇の中、遠くから近づいてくるボートの灯りが信号のような美しい玉ボケを描いた。シャッター速度1/10秒だったが手ブレ補正機構が効いてくれたので手持ちでもブレなく撮れ、コートの毛皮の質感も表現できた。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/10秒 / F4 / -1.5EV / ISO 1600 / 絞り優先AE / 105mm

ベネチア本島からボートを乗り継いで向かった島での1コマ。西へと傾いた太陽から射し込む光線が、狭い路地裏のトンネル内の敷石を輝く金色に染めていた。路地の両サイドには実際にはゴミなどが放置されていたのだが、それさえも覆い隠してくれるのが太陽が生み出す光と影のマジックだ(笑)。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/200秒 / F8 / -1.2EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 46mm

買い物客で賑わうフィッシュマーケットで売り物の魚に思いきっり寄って接写撮影してたら「早く撮らなきゃ泳いで逃げちまうぞ!」と市場のオジサンが言ったような気がした(笑)。最短撮影距離38cmなのでかなりのマクロ的効果が狙えるのはウレシイ。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/250秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 105mm

コントレイル。ちょっと湿度が高い晴れた日の午後の空にはジェット機が残した白い軌跡が良く似合う。ズーム域中間の焦点距離43mmで直射日光をモロに受けての撮影だが、完全逆光状態にしては十分な逆光耐性ともいえる。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/2,500秒 / F8 / -0.8EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 42mm

ショーウインドーの中の美人マネキンを前ボケにして、奥の建物のヒサシの上で日向ぼっこしている鳩を撮る。極端な前後2カ所の距離感なのに関わらず輪郭部分も滑らかで好印象のボケ味だ。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/1,250秒 / F4 / -0.2EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 105mm

運良く今回のベネチア滞在中ほとんどが良い天候に恵まれた。こちらはα9での撮影だったので遠くから飛んでくる鳥を高速連写できた。

α9 / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/1,600秒 / F8 / -0.3EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 105mm

カラフルな建物が並ぶ通りだが日暮れが近づいてきた時間帯でも高めの彩度描写で色のりが良いレンズだ。24mm側で取り込んだ街並みはミニチュアみたいで面白い。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/100秒 / F8 / +0.2EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 24mm

午後の陽射しが石畳に外灯の影を長く落とすボート乗り場近くの広場。24mm側で太陽を完全に入れてみるがフレア、ゴーストも少ない。人物や橋のシルエットもただの黒ツブレじゃなく質感やトーンも表現されている。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/350秒 / F11 / +0.5EV / ISO 100 / 絞り優先AE / 24mm

夜の街を外灯の明かりだけで手持ち撮影。歩いている人物はスローシャッター1/10秒で流しながらも手ブレはかなり抑えられている。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/10秒 / F4 / -1.2EV / ISO 1600 / 絞り優先AE / 24mm

ボート乗り場の桟橋に佇む人を望遠側105mmで逆光撮影。運河の向こう側に見えるのはサン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂と教会の鐘楼。F6.3でも美しいボケ味の背景と真冬だが暖かい日の逆光線が美しく煌めく水面。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/6,400秒 / F6.3 / +0.2EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 105mm

寒いけどよく晴れた日の日没後、ブラーノ島からベネチア本島へと帰るボートから見たマジックアワーの美しい色彩のグラデーション。かなりのスピードで航行するボートのデッキからの撮影だったがボディ&レンズの手ブレ補正のおかげで波間をビロードのように柔らかく描きながら三日月も写し止めることができた。次回は暖かい季節に訪れたいなあ。

α7R III / FE 24-105mm F4 G OSS / 1/30秒 / F4 / -0.3EV / ISO 800 / 絞り優先AE / 57mm

まとめ

「標準ズームレンズ」の概念とはいったい何だろうという疑問が普段からある。焦点距離の選択、開放F値の選択、重量や大きさ、画質や価格などなど、どれをとっても帯に短し襷に長しといった具合に、いわゆる「標準」に値するものが定まらないものである。

そんな中で登場した本レンズは、これまでの数多の標準ズームレンズの持っているマイナス面をプラス方向へと大きく覆した構造設計とデザインに仕上がっている。フルサイズ対応ながらも、比較的コンパクトかつ性能面でも基準値以上の画質と使いやすさがある。

また、絞り込むとかなりキレのある高画質描写が望める。「コレならαボディに装着していつでも持ち歩きたいな」と思わせてくれる王道の1本がやっと出てきたという印象だ。

ユーザーによって使用環境や好みはそれぞれ違うものだが、「ほぼデフォルト使用」というのが本来の標準ズームレンズのポジションじゃないだろうかとあらためて思った。

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HARUKI

(はるき)1959年広島生まれ。写真家。ビジュアルディレクター。九州産業大学芸術学部写真学科卒業後、上京しフリーランスで世界各国でのスナップショットやポートレートを中心に活動。第35回・朝日広告賞・表現技術賞、100 Japanese Photographers、パルコ ”第3回・期待される若手写真家展” などに選出。プリント作品は国内外の美術館などに収蔵。著書に写真集 「The Human Portraits ~普通の人びと ~1987-2007~ 」、「遠い記憶。」、「Automóvil Americanos “Cuba Cuba Cuba”」。 個展、グループ展多数参加。長岡造形大学非常勤講師。日本写真家協会(JPS)会員。