インタビュー

ソニー、ミラーレスカメラで「プロ市場攻略」を宣言

石塚茂樹社長インタビュー

ソニーのデジタルカメラ事業を掌握する「ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社」が営業を開始して約半年。その間、「α9」「RX0」「α7R III」と大型製品の発表が続いている。今後、同社のデジタルカメラはどこへ向かうのか。同社の代表取締役社長、石塚茂樹氏に話をきいた。

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 代表取締役社長 石塚茂樹氏(ソニー株式会社 執行役EVP)

同社は今年4月、ソニー株式会社より分社して営業を開始。ソニー本体からデジタルスチルカメラ、交換レンズ、デジタルビデオカメラ、放送局・シネマ用ソリューション、放送用機材、ネットワークカメラ、メディカルビジネスユニット、フェリカ事業などが移管された。

フルサイズミラーレスが伸長

スチルカメラ事業が全世界で縮小傾向の中、2017年はミラーレスカメラが成長を見せている。特に35mmフルサイズ搭載モデルが躍進しており、石塚氏は「牽引にαが一役買っている自負がある」と述べている。とりわけα9の発売(5月)は、プロ・ハイアマチュアのミラーレスカメラに対する見方を変えた事件だった。

α9の発売を契機に、フルサイズαシリーズへの注目が高まった。

結果、フルサイズボディにおけるソニーの国内シェアは、約29%に達した(2017年上半期累計)。

ちなみに11月25日発売のα7R IIIは、すでに想定超える多くの注文を得ているという。「下期のビジネスの中心になると期待している」(石塚氏、以下同)。

この路線に続く同社が掲げる戦略が、“ミラーレスカメラによるプロ市場の攻略”だ。ご存知の通り、長らく2強の牙城となっているプロ市場に対し、ソニーがαで切り込むことを宣言した。

プロ市場にこだわるのは、台数ベースでの拡大が難しくなり、金額を追うビジネスになってきているから。となるとコンシューマーも重要だが、プロからの支持がさらに重要になる。α9はそのわかりやすい例だ。

石塚氏はさらにレンズラインナップの強化を挙げる。毎年5本程度のペースでラインナップを拡充しているものの、いまだ他社の充実ぶりにはかなわない。「カメラは長く保有する傾向があるため、一時のシェアではなく長期でみる必要がある。長期で重要になるのがレンズの存在」。

プロとの接点を増やし、プロ市場に食い込む

これまで薄かったプロとのコミュニケーションにも努める。例えばα9の開発にあたり、開発者はプロスポーツカメラマンに半年間同行。プロの撮影スタイルやニーズを反映させる試みをした。ソニーは2014年からプロサポートを展開しているが、まだ2強に比べると規模が小さい。プロサポートの世界展開も進めるなど、とにかくプロ市場との接点を増やす。

一方で機材が進化した現在、プロ機とコンシューマー機の境目が薄くなっている。プロ機の技術がコンシューマー機に降りてくるだけでなく、コンシューマー機で培った技術がプロ機に応用されるのが現状だ。例えばソニーのCineAlta最上機「VENICE」に搭載されたイメージセンサーは、スチル用のフルサイズセンサーをベースに新開発して生まれた。ちなみにVENICEは、シネマで一般的なPLマウント用のレンズだけでなく、Eマウントレンズも利用できる。

デジタルシネマ用カメラ「CineAlta」の新製品「VENICE」

「コンシューマーだけではくプロも含め、俯瞰して事業を進めるのが我々の見立て。プロ、コンシューマーが一体となった、総合メーカーのトップブランドを確立したい」。デジタルカメラとともに放送やシネマ機材を開発する同社らしい強みといえる。

石塚氏はサイバーショットの頃からカメラビジネスを担当しているが、ソニーのカメラは「電気屋のカメラ」と揶揄され続けたという。ソニー製αが世に出てから11年が経つものの、2強に寄せるプロの信頼は高い。「カメラといえばソニーといわれるのが、20年前からの願望だった」と石塚氏。「東京オリンピックは一つの契機だが、それだけではない」「最終的なゴールに達するとすれば、あと5年以上はかかるのでは」。プロ市場攻略を宣言するソニーの、次の一手に期待したい。

ちなみに石塚氏の現在の愛用機はRX10 IV。日食の撮影のため米国ワイオミング州に出かけたときも持参したという。「写真下手の私でもオートできれいに撮れる。シニア世代にもってこいのカメラ」とのことだ。

10月6日発売のRX10 IV。1型センサーを搭載する高倍率ズームモデル。

本誌:折本幸治