新製品レビュー

SONY α7R III(外観・機能編)

α9の要素も入り一層進化した高画素モデル

35mmフルサイズミラーレスカメラという市場を開拓し、今年5月にはスピードモデルの「α9」を発売するなど、快進撃をつづけるソニーからまた新たな仲間「α7R III」が発売された。

その名からもわかる通り、α7R IIIは高画素モデルの「α7R II」の事実上の後継機。高画素モデルの後継機であるなら、さらなる画素数アップでのモデルチェンジか? と思いきや、実は画素数は有効約4,240万画素とα7R IIから変更はない。

それでは何が変わったのかというと、それは「画素数以外のほとんど全て」だ。カメラ内部のシステムを一新するとともに、α9の特徴を積極的に取り入れることで「小柄な高画素機だから仕方がないよね?」と思っていた部分が劇的に進化し、「小柄な高画素機なのにこんなにすごい!」という状態にまで生まれ変わっているのである。

そのような訳で、今回は前モデルであるα7R IIと、本機登場前の最新機種であるα9との比較を主にして、α7R IIIの特徴を紹介していきたい。

ライバル

35mmフルサイズセンサーを小型のミラーレスカメラに搭載したのが、α7シリーズおよびα9最大の特徴である。したがって、シリーズ全体のライバルはフルサイズのデジタル一眼レフカメラということになろう。

特にα7R IIIは、約4,240万画素の高画素ながら、(後述するように)AF性能と連写性能を圧倒的に進化させて登場したハイスペックカメラである。

現在、そのスペックに相当するデジタル一眼レフカメラといえば、約4,575万画素にして最高約9コマ/秒(マルチパワーバッテリーパックMB-D18装着時)の連写性能を誇るニコンD850しかない。

ミラーレスカメラ VS. デジタル一眼レフカメラの真っ向勝負となる訳だが、この対決が今後のカメラの発展にどのような影響を与えるのか興味深いところである。

ボディデザイン

一見すると、全体的なボディデザインはα7R IIと大きな違いはないように見える。というよりは何が変わったのか外観からは判別しにくい。

大きさも、α7R III、幅126.9mm×高さ95.6mm×奥行き62.7mmで、重さは657g(バッテリーおよびメモリーカード含む)となっているのに対し、α7R IIの大きさは、幅126.9mm×高さ95.7mm×奥行き60.3mmとなっており、奥行き以外はほぼ同サイズといってよいだろう。

奥行きが多少増えているのは、ホールディング性能を向上させたα9のグリップの形状を、改良を加えながら引き継いだためだ。

それに伴い、シャッターボタンの高さや角度が、α7R IIとは微妙に違っていることが、実際にカメラを構えてみると分かる。ちなみに、α9の大きさは、幅126.9mm×高さ95.6mm×奥行き63.0mmとなっている。

ソニーとしては、フルサイズセンサーを搭載しながら小型軽量であることを、デジタル一眼レフカメラに対するアドバンテージとしているため、モデルチェンジをしたとしても、本体サイズや重さを含めたデザインに大幅な変更は加えない、という意思が表れているところだろう。

操作部

ボディデザインに大幅な変更こそないが、ボタンやレバーなどには、いくつかの変更があり、そのことが操作性の向上にもつながっている。

カメラ上面(カメラを構えた状態で)右側には、モードダイヤル、露出補正ダイヤル、前後ダイヤル、カスタムボタン1/2などが並ぶが、ここはα7R IIとほぼ同じ。

モードダイヤルの「登録」ポジションが2つから3つに増え、「SCEN」ポジションが「S&Q」ポジション(スロー&クイックモーション動画)に変更された程度だ。

反対のカメラ上面左側は、α7R IIと同じくボタンやダイヤルの類は何も装備されていない。

α9はこの位置にドライブモードダイヤルとフォーカスモードダイヤルを搭載しているところなので、なんとなく差別化を図られたようで少し寂しい気もちになってしまう。が、従来のα7シリーズの操作性に慣れている人ならそれほど問題を感じることもないだろう。

背面右側は比較的大きな変更を受けている。まず、α7シリーズが伝統的に備えていたAF/MF/AEL切換レバーが廃止され、AFエリアの選択に便利なマルチセレクターが搭載された。それに伴い、AELボタンは新設されたAF-ONボタンと並ぶように、背面上部に独立して移設された。

大きくなったコントロールホイール、Fnボタン、マルチセレクターは他より高く設置されているので、指がかりもよく大変に操作しやすくなった。録画ボタンも不用意に押してしまわない位置に変更されている。

背面左側には、唯一にして控えめな、本機がα7R“III”であることを証明するロゴ。その下に備えられたMENUボタンは従来と同じであるが、並んで左側にカスタムボタン3が新設された。

省スペースなミラーレスカメラなので、目的に合わせて操作性をカスタマイズできるボタンの増設は熱烈歓迎したいところである。

気づく方も多いと思うが、α7R IIIは、ドライブモード/フォーカスモードダイヤルの有無以外は、先行して発売されたα9の操作体系を取り入れたものである。

小型なミラーレスカメラのチマチマとした操作性を改善して登場したのがスピードモデルのα9であり、その扱いやすさすでにユーザーから好評を得ている。それを取り入れたα7R IIIの操作性も、大幅に向上していることは容易に想像してもらえることだろう。

撮像素子と画像処理関連

撮像センサーは、先にも述べた通り、有効約4,240万画素の35mmフルサイズ裏面照射型CMOSセンサーであり、これはα7R IIと同じものである。α9のようにメモリー内蔵積層型CMOSセンサーを搭載している訳ではない。

だがしかし、α7R IIIは従来比約1.8倍の高速処理を実現した新世代の画像処理エンジンBIONZ Xを搭載し、さらには撮像センサーからの読み出し速度を約2倍に高速化する新世代のフロントエンドLSIも採用するなど、信号処理システムを根底から一新して造られている。

そのため、常用ISO感度の限界はα7R IIのISO25600からISO32000に向上(拡張ISO感度は50~102400)するとともに、中・高感度域でも約1段のノイズ低減を達成。同じ撮像センサーを採用しながら、解像感やダイナミックレンジも大きく進化しているという。

ソニーは、撮像センサーはもちろん、画像処理エンジンやLSIを含めた回路全般を自社で設計、製造することができる。ここに半導体メーカーの雄たるソニーだからこそ可能な強みが最大限に活かされているという訳で、α7R IIIは、4,240万画素フルサイズ裏面照射型CMOSセンサーの性能を最大限に引き出すことに成功したカメラなのである。

AF

信号処理システムが一新されたことによる恩恵は、AF性能にも如実に表れている。α9に搭載された新AFアルゴリズムを最適化することで、AF速度や動体追随性能はα7R II比の最大約2倍にまで向上している。

AF性能の向上は、人物の瞳を検出して正確にピントを合わせる「瞳AF」でも活躍してくれる。瞳AFを活用すれば、大口径レンズの開放付近を使った動きのある人物撮影であっても、正確にピントを合わせつづけてくれる。

瞳AFは是非使ってもらいたい有効な機能なので、いずれかのカスタムボタンや中央ボタンにこの機能を割り当てておくことをおススメしたい。

また、α7R IIIは、従来からの399点像面位相差AFセンサーに加え、コントラストAF枠を従来の25点から425点に多分割化しており、これもAF精度が大幅に向上したポイントとなっている。

像面位相差AFエリアのカバー範囲は縦横それぞれ約68%。さすがにα9の約93%にはかなわないものの、一般使用ではまず問題のない広い範囲でAFを享受することが可能だ。

連写性能

さて、α7R IIIのハイライトともいえるのが、連写性能の圧倒的な向上である。

α7R IIIでは、高速・高耐久なシャッターチャージユニットを新たに開発するとともに、前述の情報処理システムを一新することで、最高約10コマ/秒の高速連写を達成した。

小型軽量なα7シリーズで、約4,240万画素の高画素機にもかかわらず、である。もちろんAFとAEは常時追従しつづける。

α7R IIの連写が、最高約5コマ/秒であったことからすると、いかにα7R IIIの連写性能が圧倒的な進化を遂げているかが分かるだろう。しかも、この連写性能は、電子シャッター/メカシャッターを問わず常に発揮される。

スピードモデルといえばα9の独壇場で、そちらは最高約20コマ/秒の超高速連写を成し遂げているのであるが、それは電子シャッター使用時の話。実は、メカシャッター使用時に限っていえば、α9といえども連写速度は最高約5コマ/秒に制限されてしまうのである。

ただし、α7R IIIはα9と違い、メモリー内蔵積層型CMOSセンサーを採用していないため、電子シャッター使用時のブラックアウトフリー連続撮影やアンチディストーションシャッターには対応していない。

従って、電子シャッターで連写を行った場合、ブラックアウトによる被写体の追い難さや像の歪みなどは、いくらか発生してしまうことになるだろう。

それでも、高画素機でメカシャッターを使用し、最高約10コマ/秒を達成したというのは、やはりとんでもなく凄いことだ。同クラスのデジタル一眼レフを凌駕し、通常の動体撮影はもちろん、対応するストロボを使えばスタジオ撮影での連続撮影にも十分使える驚きのハイスペックカメラなのである。

ボディ内手ブレ補正機構

α7R IIおよびα9でボディ内に搭載されたフルサイズ対応5軸手ブレ補正機構は、α7R IIIにも引き継がれている。

5軸手ブレ補正なので、焦点距離が長くなるほど起こりやすい角度ブレに加え、マクロ撮影時などで顕著に表れるシフトブレ、夜景撮影時や動画撮影時などに目立つ回転ブレなど、さまざまな手ブレに対応するのが特徴だ。

補正効果はα7 IIシリーズ3機種が最大4.5段分、α9は最大5.0段分であるのに対し、α7R IIIでは最大5.5段分にまで向上している。これは、新たに手ブレ補正ユニットとジャイロセンサーが開発され、アルゴリズムもα7R IIIに最適化された効果である。

また、光学式の手ブレ補正機構を搭載したEマウントレンズとの組み合わせでは、レンズ側で角度ブレ補正を、ボディ側で残りの3軸のブレ補正が、それぞれ分担されることによって、より最適な5軸手ブレ補正効果を得ることができる。

ファインダー

EVFにはα9と同じく約369万画素の有機ELパネルが採用されている。

α7R IIが採用する有機ELパネルは約236万画素。精細感は解像度がアップした分だけ確実に向上しており、最大輝度は約2倍、撮影可能な状態になるまでの時間も約30%高速化している。

また、メニューでファインダーの「表示画質」を「高画質」に設定すれば、モアレやジャギーが最小限に抑えられ、より高精細で自然な映像を表示することが可能となった。なお、この新しい表示モードは、次に述べる液晶モニターでの表示時にも適用される。

液晶モニター

背面モニターにはα9と同じく約144万ドットの3.0型液晶が採用されている。α7R IIが採用する液晶モニターは約122万ドットなので、解像度がアップした分だけ詳細感も向上している。

チルト可動式で、上方向に約107度、下方向に約41度まで角度調整できる点には変更がない。

また、液晶モニターには新しくタッチパネル機能が搭載され、画面をタッチするだけで素早くAF枠を移動させることができる「タッチフォーカス機能」が可能となった。

タッチパネルはα9から搭載された機能であるが、α7R IIIでは画面上の指の移動量に応じてAF枠の位置を移動させることができる「タッチパッド機能」も可能となった点が新しい。

動画

4K動画(XAVC S:3,840×2,160ピクセル、30p、100Mbps)の撮影、記録に対応している。画素加算のない全画素読み出しにより、4K映像に必要な画素数の約1.8倍の豊富な情報量を凝縮して出力するため、モアレやジャギーの少ない高解像な4K動画画質を得ることが可能だ。

つまりは、5K相当の解像度(5,176×2,924ピクセル)から4K映像を取得しているのであるが、α9では6K相当の解像度(6,000×3,376ピクセル)から4K映像を取得しているので、少なくともスペック上はα9の4K動画記録より下位ということになる。ただし、α7R IIIは進化した画像処理システムによって4K動画の中・高感度画質が大幅に向上している。

ピクセルシフトマルチ撮影

α7R IIIから搭載された新機能のひとつに「ピクセルシフトマルチ撮影」がある。撮像センサーを1画素分ずつ正確にずらしながら4枚の画像を連続撮影することで、約1億6,960万画素分という途方もない情報から画像を合成する機能だ。

通常のベイヤー配列のRGBフィルターを採用するデジタルカメラ(α7R IIIもそれ)では、ひとつの画素はRGBのうち1色の情報しか取得できず、残りの2色分は周辺画素の情報から補間処理している。

極端に言えば色を予測して着色している訳であるが、これがうまくいかないと色調の不自然さやモアレの原因となってしまう。

ピクセルシフトマルチ撮影ではすべての画素がRGBすべての色情報を取得することになるため補間処理の必要がなく、理論上モアレは発生せず、極めて忠実な色再現が可能となる訳である。

ただ、ピクセルシフトマルチ撮影の4枚画像を合成する処理は、ソニー純正のPCソフト「Image Edge」でしかできず、また、1ピクセル分のブレも許されないため、完全なカメラの固定、極わずかでも動くことのない被写体の選択など、撮影条件がかなり限られてしまうのが難点だ。

フリッカーレス撮影

α7R IIIには、α9まで搭載が見送られていた、「フリッカーレス撮影機能」が新搭載されている。

蛍光灯や水銀灯などの近くで撮影をすると、明滅(フリッカー)の影響で、露出がバラつき暗く写ってしまうことがある。フリッカーレス機能をオンにすれば、画面内のフリッカーをカメラが自動検知し、影響が少ないタイミングを見計らって露光が開始される。

通信機能

Wi-Fi機能を内蔵しているため、「PlayMemories Mobile」アプリをインストールすれば、NFC対応のスマートフォンやタブレットをカメラにタッチするだけで、静止画や動画を転送できたり、リモコンとして使用できたりするのは、従来までと同様。

α7R IIIは、α9から対応した2次元コード(QRコード)読み取りも可能なので、iPhoneなどNFC非搭載のモバイル端末でも簡単に接続できるようになった。

さらに、新しくBluetooth機能も搭載されたため、モバイル端末から位置情報を撮影した画像に付加できるようになった。

取得した位置情報をもとに、カメラの日付設定やエリア設定を補正することもでき便利である。ただ、せっかくのBluetooth機能なのだから、普段使いを考慮して、常時接続による撮影画像の閲覧や転送にも対応してほしかった。

端子類

端子類はボディ左側面にまとめられており、シンクロターミナル、マイク端子、ヘッドフォン端子、HDMIマイクロ端子、マルチ/マイクロUSB端子、USB Type-C端子が備えられている。

スタジオなどで大型ストロボを接続するためのシンクロターミナルが備えられているのはα9と同様であるが、α9には搭載されているLAN端子は本機では省略されている。

その代わりという訳でもないと思うが、従来のマイクロUSB端子に加えUSB Type-C端子も装備されたところが目新しい。次世代規格のUSB3.1 Gen1に対応しており、Image Edgeを使ったPCリモート撮影時に大容量ファイルを高速転送することができる。

記録メディアスロット

記録メディアスロットはボディ右側面にある。α9と同じくデュアルスロットを搭載しており、下段(SLOT 1)がSDカード専用(UHS-I、UHS-II対応)、上段(SLOT 2)がSDカード(UHS-I 対応)およびメモリースティックPROデュオに対応している。

2枚の記録メディア間では、リレー記録(片方のメディアがいっぱいになると、自動切り替えでもう片方のメディアに記録先を変更)や同時記録、振り分け記録、メディア間コピーなどが可能だ。

バッテリー

バッテリー室はボディ底面に独立して備えられている。電池はリチウムイオン充電池「NP-FZ100」を1個使用。付属のバッテリーチャージャー「BC-QZ1」を使用して充電できる他、カメラ本体でのUSB給電にも対応している。

撮影可能枚数(電池寿命)はファインダー使用時で約530枚、液晶モニター使用時で約650枚となっている(CIPA規格準拠)。

バッテリーグリップ

α7R IIIに対応する縦位置グリップは「VG-C3EM」。これはα9と共通のアクセサリーであり、逆にα7R II対応の「VG-C2EM」は装着することができない。

小柄なα7R IIIは、大口径レンズや望遠レンズなどの大型レンズとの組み合わせだと、バランスがとりにくく取り回しが難しくなってしまう。縦位置グリップを装着すれば、バランスがちょうどよくなるうえに、縦位置時の操作性も向上する。

NP-FZ100を最大2個装着可能なので、長時間の撮影にも有利だ。

まとめ

高画素なフルサイズセンサーを搭載し、トップクラスのAF性能と連写性能を、小さなボディに凝縮したα7R IIIは間違いなく「すごいカメラ」だ。

ただ、ボディサイズを抑えながら数々の進化を達成するソニーの技術力は称賛すべきところであるものの、撮像センサーがフルサイズである以上、レンズの小型化には限界があるという問題が残っているのも確かではないだろうか。

ライバルと見なせるニコンD850にしても、小型化できないという理由だけであのサイズになった訳ではないだろう。カメラとレンズのバランスには、どこかに最適解が存在するはずである。

とはいえ、ファインダー撮影でもファストハイブリッドAFや瞳AFが可能である、撮影前にカメラ設定の結果を確認しやすいなど、ミラーレスカメラならではの特性がどんどん実用的になり、もはやなくてはならない機能になっていることもまた確かだ。

α7R IIIの完成度が非常に高いだけに、サイズにこだわらず進化するフルサイズミラーレスカメラの将来というのも夢想してみたくなるのである。

※次回は実写編をお伝えします。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。