新製品レビュー
FUJIFILM GFX 50S(実写編)
圧倒的な解像力 一線を画すDレンジの広さも魅力
2017年5月19日 08:00
国内メーカー初の中判ミラーレスカメラ。約5,140万画素の超高精細画質。フィルムシミュレーションによる「Xシリーズ」の色。タッチパネルを採用した高い操作性……。
GFX 50Sの魅力は、語り始めれば尽きることはないほど豊富だが、中でももっとも注目されるのは、やはり画質ではないだろうか。筆者のような風景写真家にとっては、このカメラは被写体の質感だけでなく、奥行きや空気感、匂いや温度、手触りまで詳らかにしてくれる期待がある。
前回の「外観・機能編」に続き、今回は「実写編」をお届けするが、43.8×32.9mmの大型CMOSセンサーと画像処理エンジンX-Processor Proのコンビが生み出す最新の5,000万画素クラスの表現力とはいかなるものか。従来のXシリーズが確立した色は、GFX 50Sでも引き継がれているのか。GFX 50Sのために生まれたGFレンズは、どんな描写をするのか。このあたりが見所となるだろう。写真家の表現自体をくつがえす可能性を秘めたGFX 50Sの実力を目の当たりにして欲しい。
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/newproduct/1052328.html
解像感
斜面を埋め尽くすハナモモ。桜ほどの大きさの花が画面を埋め尽くし、加えて画面の上部には幹や枝などが見えている。画質を評価する被写体としてはかなり意地悪だが、花の1つ1つ、そして枝先の細かいニュアンスなどは正確に描写されている。画像を拡大すると、花びらの1枚1枚を確認することができる。
ここまでの解像感を活かすには、絞り過ぎには注意する必要がある。点像復元処理技術があるとはいえ、F22まで絞ると回折現象の影響は少なからず発生する。F16を目安に絞り値を検討するとよいだろう。この場面ではF11を使っているが、最適な解像感が得られている。もちろん、深い被写界深度が必要な場合はこの限りではない。
フィルムシミュレーションは「ベルビア」を使っているが、ハナモモのピンク色。草の緑。空の青などが、鮮やかに表現されている。「X」らしい色が楽しめるといってよい。
ダイナミックレンジ
幅広いダイナミックレンジは、GFX 50Sの解像感と同じくらい重要なポイントだ。たんに高精細なだけでは画質としては不十分で、そこに階調があることが必要だ。GFX 50Sは14bit RAWデータにおいて約14段分のダイナミックレンジを持つが、白飛びや黒つぶれを回避し、被写体の隅々まで描ききる力を持っている。
さらにダイナミックレンジの補正的な機能として「DR設定」がある。これは感度を上げることによって機能するものだが、ISO200のときは「DR200」の設定が可能となり約1段分、ハイライト側の白飛び回避に効果を発揮する。ISO400では「DR400」となり約2段分の効果が得られる。コントラストが強い場面では、雲の質感などを描写する場合に役立つ機能だ。
ここでは桜を逆光で撮影したカットを掲載しているが、DR100、DR200、DR400となるにつれて雲の白飛びが抑えられていることが見てとれる。
ちなみに筆者はFUJIFILM X-T2を使っているが、こちらは約12段分のダイナミックレンジを持つ。完全に同じシーンを撮って比較したわけではないが、やはりGFX 50Sのほうが幅広い階調を感じる。DR設定によって白飛びが回避されていく様子は、両者とも同じような感覚がある。
高感度
撮影感度はISO100から最高ISO12800を常用範囲としている。X-Pro2やX-T2はベース感度がISO200であったことを考えると、1段分のスローシャッターが使えるぶん、GFX 50Sは幅広い対応が可能だ。DR400の設定もX-Pro2やX-T2ではISO800が必要だが、GFX 50SはISO400から使えるという点も両者の違いだ。
気になる高感度だが、筆者の感覚ではISO3200までは問題なく使える範囲だと思っている。風が強い日に被写体ブレをなくしたり、暗い場面で手持ち撮影を行うような場合に、ISO3200ならノイズを気にすることなく表現できる。ISO6400からはノイズを感じやすくなる印象だ。
パンフォーカス気味に撮りたかったが、風が強かったので感度をISO3200に上げ、1/160秒の高速シャッターを使った。等倍以上に拡大すると、若干のノイズは感じるが、等倍観察なら問題ない。しかも約5,140万画素があるので、A3程度のプリントではノイズは感じないだろう。
日没間際の撮影。アングルにこだわりたかったので手持ち撮影を試みたが、ISO3200を使うことによってシャッタースピードは1/140秒が使え、問題なく撮影を行うことができた。背景のトーンにわずかにノイズが見られるが、許容範囲内である。
作品
とある森の中で見つけたスミレを腹ばいになって手持ち撮影。EVFを覗きながら構図を作り、ピントはAFではなく拡大をして厳密に合わせている。EVFの中で拡大表示ができるのは大きなメリット。花の中の小さな虫もくっきり見えている。
ミツマタが咲く森。暗くなってからの撮影だが、ピントは意図した場所に正確に合う。AFポイントのサイズも変更することができるので、被写体に応じて使い分けが可能だ。
背景の山には霧が漂い、絶好のシチュエーションとなった。画面の隅々まで精密に描写されているが、その中に、この場所の少しひんやりとした温度や、湿った空気感もしっかりと詰め込まれている。GF32-64mm F4 R LM WRを使っているが、画面の四隅を見ても中央部に負けないほどの描写力がある点に注目して欲しい。
GFX 50Sには4:3だけでなく、3:2/16:9/1:1/65:24/5:4/7:6といった多彩なフォーマットが搭載されている。もちろん、あとからトリミングなどいくらでもできるが、撮影現場でフォーマットに合わせて構図を作るほうが圧倒的に楽しい。この場面は16:9というパノラマのフォーマットを使って風景の広がりを表現してみた。8,256×4,640ピクセル=3,830万画素となる。
風と雨が花びらを散らした翌日の撮影。地面には花びらが降り積もり、雨のためにできた小さな流れに落ちた花びらは風に流されていく。GFX 50Sは小さな花びら1枚1枚の物語をつぶさに描き、同時に光の模様美を正確に捉えている。大伸ばしにしてみたい1枚である。
筆者はGFX 50Sを所有していて、発売直後から使っている。レンズ交換は何度したかわからないほどで、現在は約2カ月が経過したことになるが、いまだにセンサーにゴミはつかない。大型のセンサーはゴミが付きやすいと言われるが、少なくとも筆者のGFX 50Sに関しては現在のところセンサーは綺麗なままで、青空も美しく描けている。
明るい空を見上げて撮影したものだが、DR400を使っているため、背景の空は白トビしていない。そのため、細かい枝も空の白に埋没することなく、繊細な表情を残している。逆光の撮影だが、木肌の階調もしっかりと残っていることに注目して欲しい。
まとめ
GFX 50Sを初めて使ったのは2016年の秋。GFX 50Sのプロモーションのために発売以前に使う機会を得たのだが、まだそのときはプロトタイプだったため、製品版のような使い心地は得られなかった。しかし発売後に実際に手に入れた製品版のGFX 50Sは、じつにサクサクと動き、タッチパネルも合理的に操作でき、グリップは手に馴染み、使い心地は抜群だ。
大きくて重くて使いにくいのではないかと危惧している方も多いと聞くが、GF120mm F4 R LM OIS WR Macroを装着して手持ち撮影を試みることが多い筆者だが、決してそんなことはないと断言する。もちろん、X-T2のような軽快さがあるかと問われれば、それは即座に「ない」と答えるが(笑)、扱いにくいカメラでないことは太鼓判を押したい。
画質や色、操作性に関しては、2回にわたってご報告したとおりで、期待以上の結果が得られている。とくに画質に関しては、いままで経験したことがないレベルに達している。印刷特性にも優れているため、写真展や写真集といった表現の場で大いなる活躍が期待できる。この抜きん出た描写力を想定した表現も当然のように考えられるので、写真表現そのものを変える力があると評価しても、決して大袈裟ではないと思う。
ただネックは価格とレンズ。価格はおいそれと下がるとは思えないので、それに見合った内容があるかないかという点で考えるしかない。自分の撮影対象や表現方法にGFX 50Sはマッチするのか。マッチするとすれば、価格は許容範囲となる。レンズはおそらく来年、再来年のうちに一応のラインナップが揃うだろう。そうなった段階で購入を考えるのも一案である。
ただ、実写編で見ていただいたように、GF32-64mm F4 R LM WRとGF120mm F4 R LM OIS WR Macroの2本だけでも、これだけの表現は可能だから、即購入したとしても活躍は十分に期待できるはずだ。
「長く使えるカメラ、長く通用する画質を求めているユーザーにとってGFXは、最適解の1つとなるだろう」
上の一文は「外観・機能編」のまとめで記したものだが、「実写編」でも記しておきたい。