新製品レビュー

FUJIFILM X-T20(実写編)

上位モデル譲りの高画質 それでいて心を軽くしてくれる小形軽量ボディ

富士フイルムXシリーズのダブルフラッグシップであるX-T2とX-Pro2。その画質はそっくりそのまま、より軽量コンパクトに、より簡単に、またある時はその2機種を凌ぐほどの速写性を秘めた最強の弟。それがFUJIFILM X-T20だ。

モデル名からも分かる通りX-T10の後継機種にあたる。前回の機能・外観編で詳しく紹介した通りだが、いわゆる廉価モデルというカテゴリーにはまったく当てはまらない贅沢すぎるスペックを実現している。

今回の実写ではキットレンズであるXF18-55mm F2.8-4 R LM OISで撮影している。このレンズもキットレンズと紹介するにはもったいなすぎるほど良いレンズで僕もお気に入りの1本だ。

FUJIFILM X-T20(外観・機能編)~フラッグシップ機に迫る充実の中身をチェック!
http://dc.watch.impress.co.jp/docs/review/newproduct/1055724.html

ダイナミックレンジ

まずはXシリーズの大きな特徴といえるダイナミックレンジを見てほしい。薄ピンク色のソメイヨシノの透明感を表現するべく+2.7EVの大胆な露出補正を行っているが花びらは白トビしていない。さらに言えば背景の青空も階調が残っているのだ。

Xシリーズはダイナミックレンジを100%、200%、400%と拡大することができ、この写真は最大の400%で撮影した。APS-Cセンサーは画素ピッチの狭さから35mmフルサイズや中判センサーにはダイナミックレンジで劣っていると思われがちだが、Xシリーズに関して言えばその認識は間違いであると断言できる。この階調再現はフィルムメーカーならではのこだわりだろう。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/500秒 / F11 / +2.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / 55mm / フィルムシミュレーション:Velvia

こちらはダイナミックレンジ100%で撮影した。もちろん100%でも十分な階調再現性を持っており影のシャドー部から桜のハイライトまで豊かに描かれている。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/150秒 / F11 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 26.5mm / フィルムシミュレーション:Velvia

高感度

X-T20の感度はISO200からISO12800。高感度撮影にAPS-Cセンサーは不利と考える時代は明確に終わった。

全ての感度でテスト撮影を行ったが、大きな引き伸ばしプリントで精細な表現が求められる風景写真のジャンルにおいてはISO6400が上限に感じた。だがしかしこれは風景写真に限定した話であって、ノイズよりも瞬間の切り取りを優先するドキュメンタリースナップなどでは拡張最高感度のISO51200でも十分に使用できるだろう。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/7秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO6400 / 絞り優先AE / 30.2mm / フィルムシミュレーション:Velvia

連写

高速連続撮影は約8コマ/秒。X-T10と比べコマ速こそ変わっていないが、JPEGでの連続記録枚数が8枚から62枚へと増え、EVFのブラックアウト時間も大幅に短縮されているため連続撮影の快適さは段違いに向上している。

連写した中の1枚。XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/600秒 / F11 / +0.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / 34.3mm / フィルムシミュレーション:Velvia

フィルムシミュレーション

Xシリーズの最大の特徴は、カメラ内のJPEG撮って出しで美しいフィルムカラーが楽しめる「フィルムシミュレーション」機能だろう。

色を忠実に再現するPROVIA、やや柔らかで優しい色調で描くASTIA、色鮮やかに元気よく発色するVelviaなど、全15モードから場面に応じて使うフィルムを変更するような感覚だ。それぞれに個性があり、なおかつカメラ内のJPEG撮って出しで十分な作品クオリティーに仕上がっているのでじっくりと使い込んで特徴をものにしてほしい。

フィルムシミュレーション:PROVIA
フィルムシミュレーション:ASTIA
フィルムシミュレーション:Velvia

また画像処理エンジン「X-Processor Pro」の搭載によって、モノクロのフィルムシミュレーション「ACROS」が使用できるのも特徴の1つ。モノクロフィルムには標準のフィルターなしに加え、Yフィルター、Rフィルター、Gフィルターといったカラーフィルター効果をシミュレートしたモードを選択することができ、既存の「モノクロ」モードと合わせて合計8種のモノクロ表現を楽しめる。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/125秒 / F4 / -0.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / 18mm / フィルムシミュレーション:ACROS+Rフィルター

作品

満開を迎えた桜とオシャレな屋根の幼稚園、遠くには新宿のドコモタワーを配置して少し不思議なアンサンブルを描いてみた。ややハイキーな表現だがダイナミックレンジ400%の豊かな階調性で空も白トビしていない。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/300秒 / F11 / +1EV / ISO800 / 絞り優先AE / 35.8mm / フィルムシミュレーション:Velvia

桜の花びらが降り積もった遊歩道を黒猫がお行儀よく道なりに歩いていった。猫は風景や人と違って待ってくれないのでピントはタッチAFで決めた。タッチパネル操作はフォーカス位置をボタン操作で移動するよりも早く、とても快適。こうしたスナップ的な撮影においてはX-T2よりもX-T20に優位性があるように感じた。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/220秒 / F5.6 / +1EV / ISO800 / 絞り優先AE / 37.4mm / フィルムシミュレーション:Velvia

ベンチで猫と一緒にのんびりしていたおじさんに声をかけて撮らせてもらった。ボディが小さく、シャッター音も静かなX-T20はどんな場所でも自然と空気に溶け込める気がした。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/600秒 / F8 / +0.3EV / ISO800 / 絞り優先AE / 20.5mm / フィルムシミュレーション:Velvia

紫のハナダイコンと白いハナニラ。桜の存在におされながらも地道な活動を続ける春の花にフィーチャーしてみた。キットレンズのXF18-55mm F2.8-4 R LM OISは開放F値からとてもシャープでボケ味も良い。さらに小型軽量で手ぶれ補正も付いておりX-T20とベストのコンビネーションだ。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/3,200秒 / F4 / +0.7EV / ISO800 / 絞り優先AE / 52.7mm / フィルムシミュレーション:Velvia

フィルムシミュレーション「ACROS」があるからこそ撮りたくなってしまう写真がある。ハイライトとシャドーがぎりぎりの階調で粘り、それでいて全体のコントラストは維持されている。このモノクロフィルムの表現域は1度撮ってしまえばやみつきになること間違いなしだ。

XF18-55mm F2.8-4 R LM OIS / 1/100秒 / F11 / -1.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 40.7mm / フィルムシミュレーション:ACROS

花壇に植えられた花を地面すれすれから撮影した。チルト式可動液晶モニターが採用されているので撮影姿勢も楽に保持できる。また液晶はタッチパネル式になっているためフォーカスポイントの指定もスムーズだ。だがX-T2の3方向チルト式液晶は搭載されていないので縦位置には対応していない。

XF18-55mmF2.8-4 R LM OIS / 1/105秒 / F16 / +1EV / ISO400 / 絞り優先AE / 55mm / フィルムシミュレーション:Velvia

まとめ

X-T2と甲乙つけがたい。普通であれば上位機種がいいに決まっている。だがこのX-T20は、X-T2と比べてもまったく見劣りしないくらい魅力に溢れたカメラだった。

本格的に撮影をしたいと思えばX-T2と同じイメージセンサーとプロセッサーが作品表現に応えてくれる。街をぶらぶらしたいときには小型軽量な点やオートモード、簡単なタッチパネル操作が散歩を楽しくしてくれる。

カメラはフィルムからデジタルになって機能が増え、撮影時に考えなくてはならないことが非常に増えた。それはすべてのカメラに言えることでXシリーズも同じだ。だから誤解を恐れずに言えば、楽をできる部分では楽をしたほうが良いのだ。カメラの進化は楽をするために進化してきているのだから、あながち間違いではないだろう。そういった意味でもX-T20はたくさんの「楽」が詰まったとても良いカメラだ。

友達や恋人を撮ってもJPEG撮って出しで非常にきれいな写真に仕上がっているので家に帰ってRAW現像をせずともWi-Fiで転送してその場ですぐにシェアできる。カメラが楽をさせてくれた分の時間や労力は、人とのコミュニケーションにあてたり、道をもう少し先まで歩いてみたりと写真を撮るために使えばいい。X-T20は誰にでもきっと新しいカメラのあり方を感じさせてくれるはずだ。

今浦友喜

(いまうらゆうき) 1986年埼玉県生まれ。風景写真家。雑誌『風景写真』の編集を経てフリーランスになる。日本各地の自然風景、生き物の姿を精力的に撮影。雑誌への執筆や写真講師として活動している。

http://ganref.jp/m/yukimaeye