新製品レビュー

FUJIFILM GFX 50S(外観・機能編)

使いやすさが凝縮された中判ミラーレスカメラ

大物中の大物がその姿を現したのは、今年1月の京都二条城でのこと。「FUJIKINA 2017」と銘打たれた富士フイルムのイベントでGFXは発表され、2月28日、ついに発売となった。刺激的なスペックが目白押しのGFXだが、その中でもとくに注目されたのは、中判フォーマットのデジタルカメラとしてミラーレス機構を採用したことだ。

大きく重い中判カメラにあって、群を抜く軽さとコンパクトさを備えたGFXは機動性を得ただけでなく、心臓部には約5,140万画素のイメージセンサーを持ち、従来の価値観を変えるほどの高精彩画質を生み出すことにも成功した。

加えてフィルムシミュレーションが使えるので、「Xシリーズ」の色にほれ込んで富士フイルムのカメラを使っているユーザーにとって、強い追い風にもなっている。

いまだレンズは3本しかないため、この点で他の熟成したシステムを持つカメラに遅れをとってはいるものの、年内には6本のレンズが揃い、2018年以降もレンズの拡充が見込まれるGFXは、カメラの勢力図を塗り替えるポテンシャルを十分に持っていると評価することができる。

そんなFUJIFILM GFX 50Sを「外観・機能編」と「実写編」の2回に分けてご紹介しようと思う。まず今回は外観と機能について見ていこう。

デザイン

中判フォーマットのカメラだから、APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載するFUJIFILM X-T2などと比較すれば当然のごとく大きいが、基本的なデザインの方向はよく似ている。直線を基調としたクラシカルなテイストを持ったボディは、その上面にISO感度ダイヤルとシャッタースピードダイヤルを配置し、兄弟機らしい風貌を見せる。

とはいえGFXらしい部分といえば、1つにはグリップを挙げることができる。小型軽量とは言っても、それは中判フォーマットの世界では……という話であり、カメラ単体で考えるとやはり大柄であることは間違いない。

そのカメラをしっかりと握り込むため、グリップ部は前方にせり出している。筆者は身体も大きいため、このグリップの大きさは好ましいのだが、女性が握るとやや手に余るのは致し方ない。しかし、背面の右上部には、親指のかかりをよくするためのサムグリップがあり、これがあるためにかなりしっかりと握り込むことができる。

筆者がグリップを握ったところ
女性がグリップを握ったところ

縦位置グリップ

GFXにはオプションの縦位置グリップ「VG-GFX1」が用意されている。これを装着するとGFXは二回りほど大きく感じるが、縦位置撮影のときも、レリーズボタンやダイヤル、ファンクションボタンなどが横位置撮影と同じような感覚で使える。バッテリーも1個を装填できるため、長時間撮影に対応できる。

縦位置グリップ無し
縦位置グリップ有り

手持ちが多い撮影ジャンルのフォトグラファーにとっては、重宝するアクセサリーとなる。

上面の操作系

上面に目を移すと、サブ液晶モニターが搭載されていることに気づく。デジタルカメラは背面に液晶モニターを搭載しているため、たとえばX-T2などではボディ上面には表示用の液晶モニターを持たなかったが、GFXには1.28型のサブ液晶モニターを搭載した。

電源を落としても、カードスロットの使用状況や残り撮影枚数、バッテリー残量を表示するので、カードやバッテリーの交換の目安になる。

面白いのは、表示のカスタマイズ機能があること。撮影者が見やすいように、8項目の表示位置を変更することができる。またサブ液晶モニターの左横には照明ボタンが装備されていて、夜間の撮影時には便利に使える。

一方、X-T2やX-Pro2で採用されていた露出補正ダイヤルは廃止され、シャッターボタン横の露出補正ボタンを押してリアコマンドダイヤルを操作する方法に変更された。露出補正ダイヤルの使い勝手がよかっただけに、この変更は少々残念。

シャッタースピードダイヤルには、中央部にダイヤルロック解除ボタンが装備されており、不用意に設定が動いてしまうことがない。またドライブボタンもあるため、迅速なドライブモードの変更に対応できる。

シャッタースピードダイヤルと対になっているのがISO感度ダイヤル。この2つのダイヤルがEVFの左右に並んでいるデザインはX-T2と同様で、非常に美しい。こちらにも中央部にはダイヤルロック解除ボタンが装備されているので、誤操作は起きない仕組みだ。

ISO感度ダイヤルには「C」ポジションが新設されている。これはレンズの「C」ポジションと合わせて使うものだが、フロントコマンドダイヤルを押し込むごとに、フロントコマンドダイヤルでF値とISO感度を変更できるという便利な機構だ。ファインダーから目を離さずにF値とISO感度を素早く変更できるので、使い慣れると重宝する。

背面の操作系

最近の「X」シリーズを特徴付けている1つの要因は背面のフォーカスレバーの存在だ。これはX-Pro 1が初搭載のカメラで、その後はX-T2にも採用され、GFXにも装備されたが、最大425点という測距点を素早く変更するためには欠かせない機能となっている。

そのフォーカスレバーの上にはFn4ボタンが、下にはFn5ボタンが装備されているが、このレイアウトはX-T2とは異なる部分で、GFXにとっては使いやすい位置にある。Qボタンはサムグリップ部に装備されているが、サムグリップの高さが十分にあるのでうっかり押してしまうことは稀である。

液晶モニターはボディから約15mmほど後部へ飛び出したデザインになっているが、その上面に2つのボタンと1つのスイッチが装備されている。右側には再生ボタンと消去ボタン、左側にはフォーカスモード切換レバーがあるが、スペースを効率よく利用していると感じた。

フォーカスモード切換レバーはボディの前面にある場合が多いため見落としがちになるが、この位置なら常に意識下においておける。

撮像素子

イメージセンサーには、35mmフルサイズを越える中判フォーマット(43.8mm×32.9mm)の大型CMOSセンサーを搭載している。有効画素数5,140万画素を持ち、ダイナミックレンジも約14段を実現。超精密で滑らかな階調の描写をモットーとする。

加えて、最低感度はISO100を実現。X-T2はISO200なので、スローシャッターが使いやすくなっているのはメリットと言える。また画像処理エンジンにX-Processor Proを採用することによって、起動時間やレリーズタイムラグ、撮影間隔などを高速化しているが、中判フォーマットのカメラとは思えないようなキビキビした動きが実現され、実に気持ちがよい。

画質の設定はX-T2とは一味違っている。従来は「NORMAL」と「FINE」の2タイプのみの搭載だったが、GFXでは「SUPER FINE」の設定が増えている。GFXをより高画質で楽しみたいユーザーにとっては見逃せないポイントだ。

画像サイズは、従来は「L」「M」「S」の3タイプを搭載していたが、GFXでは「L」と「S」の2タイプに絞り込んだ。「L(4:3)」は8,256×6,192ピクセル。「S(4:3)」は4,000×3,000ピクセルとなる。「L」「S」ともに4:3のアスペクト比のほかに、3:2/16:9/1:1/65:24/5:4/7:6というアスペクト比も用意している。

感度設定はISO感度ダイヤルを使うが、感度AUTOの設定はメニューから行う。基準ISO感度、上限ISO感度、低速シャッター限界のそれぞれを任意で設定できる。メニューにはAUTO設定は3つまで登録可能なので、シーンによって使い分けることが可能だ。

AF

AFはTTLコントラスト式を採用し、シングルポイント、ゾーン、ワイド/トラッキングの3方式を選択することができる。

シングルポイントは9×13の117点に加えて、17×25の425点も選べるうえ、ほぼ画面の大半にAFポイントが配置されているので、主役の位置や構図決定が自由に行えるのは大きなメリットとなる。

また膨大な425点というAFポイントも、すでに述べたようにボディ背面のフォーカスレバーを使えば素早く変更ができるので、AFポイントが多いことはデメリットとはならない。

シャッターフィーリング

シャッターには新開発のフォーカルプレーンシャッターを搭載しているが、約15万回の耐久テストをクリアしたもの。メカニカルシャッターとしては最高1/4,000秒だが、電子先幕シャッターと併用すれば、最長60分から最速1/16,000秒を操ることができる。設定としては「メカ+電子シャッター」がお勧めだ。

シャッター音は硬く跳ねるような印象があり、デジタルらしさはなく、むしろアナログ的な匂いがする。ミラーレスカメラだから、シャッターを切っても当然ミラーショックはない。カメラブレが発生しにくいという意味において、ミラーレス構造は大きなメリットとなる。

EVF

GFXを特徴付けている機能や機構はいくつもあるが、そのうちの1つはEVFだ。ファインダー倍率は0.85倍。視野率は100%。369万ドットの高精細といったスペックはもとより、EVFが着脱式であることが目新しい。

カメラ機材を入れるザックの制約を受けて少しでもボディをコンパクトにしたい、あるいはEVFそのものがどうにも使い慣れないというなら、EVFを外して背面液晶だけで撮影するという判断もありだ。

EVF装着時
EVFを取り外したところ

さらには別売品としてEVFチルトアダプターEVF-TL1が用意されているが、これを使えば縦チルトや横回転ができるので、ウエストレベルや縦位置撮影を駆使することができるようになる。

EVFチルトアダプターの使用例

液晶モニター

背面には約236万ドットの3.2型液晶モニターを採用。静電容量式タッチパネルを採用しているので、指先による直感的な操作が可能である。加えて、上方向に90度、下方向に45度、右方向に60度動かせるので、横位置でも縦位置でも思うままにカメラを構えて撮影できる。

アイレベルとは異なるハイアングルやローアングルからの撮影によって、自分だけの視点を持つことができるのはなによりのメリットとなるはずだ。

レンズ

今回のレビューにあたっては、「GF32-64mmF4 R LM WR」と「GF120mmF4 R LM OIS WR Macro」の2本を使った。

GF32-64mmF4 R LM WRは35mm換算で25-51mmに相当する標準ズームで、筆者のような風景写真家にとってはもっとも重宝する画角を持つ。

GF32-64mmF4 R LM WR

11群14枚構成の光学系には、大口径高精度非球面レンズを含めた3枚の非球面レンズと、EDレンズとスーパーEDレンズを各1枚使用し、画面の隅々まで乱れのない高画質を実現している。

もう1つのGF120mmF4 R LM OIS WR Macroは、現在発売されているGFレンズの中ではもっとも焦点距離が長く、35mm換算で95mm相当の中望遠域をカバーするハーフタイプのマクロレンズである。

GF120mmF4 R LM OIS WR Macro

9群14枚構成の光学系には3枚のEDレンズを使用して高画質を実現するとともに、約5段分の手ブレ補正機構も搭載しているので、GFXでも安心して手持ち撮影が可能だ。

加えて、35mm換算で50mm相当となるGF63mmF2.8 R WRもラインナップされている。これら3本のレンズはいずれも防塵、防滴、-10度の耐低温構造を持つ。

メニュー

メニューの基本構成はX-T2とほぼ同じで、「Q」ボタンを押して表示するクイックメニューもX-T2と同じ構成である。従来から大きく変わることがないので、買い替えや買い増しをした場合も迷わず操作できることは、ユーザーにとってメリットとなる部分だ。

クイックメニュー
DISPボタンを押したところ

とはいえ、液晶モニターが3.2型とやや大型であるぶん、文字のサイズは大きくて見やすい。またGFXには「マイメニュー」が用意されているが、頻繁に使う機能を登録しておけば、効率のよい撮影を行えるので、使ってみることをお勧めしたい。

静電容量式タッチパネルは、GFXの操作性を大きく変えるものだ。ライブビュー撮影をしているとき、パネルをタップすればピント位置を素早く変更でき、ダブルタップをすれば拡大表示をする。

またパネルの上から下に向かって指でフリック操作をすると、電子水準器が表示されるが、左右方向だけでなく、前後方向の角度も表示するので、スタジオなどで精密な撮影が必要な場合に重宝する。

撮影中、下フリック

逆に、下から上へフリック操作をするとヒストグラムを表示する。画像再生時にも、画像送りや拡大/縮小といった操作をタッチ操作によって行うことができる。

撮影中、上フリック

通信機能

現在のデジタルカメラには、ほぼ搭載されている機能がワイヤレス通信機能だ。これは無線LAN機能を使って、GFXとスマートフォンとで通信をする機能。

Wi-Fi設定画面

スマートフォンを使ってGFXを操作したり、GFXの画像をスマートフォンに転送してSNSに利用するなど、使い方はさまざまだ。

ただ、この機能を使うためには、スマートフォンにスマートフォンアプリ「FUJIFILM Camera Remote」をあらかじめインストールしておく必要がある。

端子類

端子はボディの左側面に集中して装備されている。

左上はDC IN 15V端子、左下はリモートレリーズ端子(φ2.5)。中央上はマイクロUSB端子(USB 3.0対応)、中央下はHDMIマイクロ端子(Type D)。右上はマイク端子(φ3.5)、右下はヘッドフォン端子である。

リモートレリーズ端子は、端子カバーを閉じても、リモートレリーズ端子専用のカバーを開ければ使える仕組みだ。

記録メディアスロット

GFXにはSDメモリーカード(UHS-II対応)を装填するためのスロットが2基用意されている。工場出荷時は「順次記録」の設定になっており、スロット1のメモリーカードがフル状態になった場合、自動的にスロット2のメモリーカードへ書き込む。

ほかに、2枚のメモリーカードに同じデータを記録する「バックアップ記録」と、それぞれのメモリーカードにRAWとJPEGをわけて記録できる「RAW/JPEG分割記録」がある。大事なデータの事故を防ぐために、いずれかを使うことをお勧めする。

バッテリー

バッテリーはGFXに合わせて新規開発されたリチウムイオン充電池「NP-T125」を1個装填する。オートパワーセーブON時に約400枚の撮影が可能で、予備にバッテリーをもう1個用意しておけば、一般的な撮影の場合に緊急事態に陥ることはまずないだろう。

バッテリー室はボディの左側面にレイアウトされており、三脚に固定しているときもバッテリーの交換がしやすい構造だ。バッテリーチャージャーは「BC-T125」が1個同梱されている。

まとめ

国内メーカー初の中判ミラーレスカメラとして登場したGFX。いったいどんな画質があらわれ、どんな使い勝手になるのだろう。画質に関しては、次回の実写編に譲るとして、外観や機能を見てきた今回のレビューを通した感想をひと言で述べるなら、「非常に完成度の高いカメラである」と言ってよさそうだ。

すでにX-Pro2やX-T2を生み出してきた経験がフィードバックされていることは当然のことだが、まったく新しいチャレンジとなった中判ミラーレスカメラを仕上げていくには、既存のカメラからのフィードバックだけでなく、さらなるプラスαがあったと予想できるが、それらがことごとく合わさったように思える。

グリップのよさ。ボタン類の効果的なレイアウト。豊富なAFポイントとそれを使いやすくするフォーカスレバーの存在。2ダイヤルの直感的な使いやすさ。「C」ポジションによる効率の良い操作。柔軟な対応が可能なEVFのシステム。静電容量式タッチパネルの有用性など、枚挙に暇がないほどだ。

価格面を考えると、おいそれと購入できるレベルではないことは百も承知だが、それを把握したうえであえて言うなら、お金を出して損だとは決して思わないカメラだ。確かに、まだレンズのラインアップが揃っていないので、システムとして考えると未成熟ではあるが、それも来年、再来年のうちには一応の対応ができるはずだ。長く使えるカメラ、長く通用する画質を求めているユーザーにとってGFXは、最適解の1つとなるだろう。

次回は、実写編をお届けする。

萩原史郎

(はぎはら しろう)1959年山梨県甲府市生まれ。日本大学卒業後、株式会社新日本企画で「季刊風景写真」(※現在は隔月刊) の創刊に携わり、編集長・発行人を経験。退社後はフリーの風景写真家に転向。著書多数。日本風景写真家協会(JSPA)会員。カメラグランプリ選考委員。Webサイトはhttp://hagihara-photo.art.coocan.jp/