新製品レビュー
FUJIFILM GFX 50R(実写編)
コスパで語れない、スペシャリストのような趣味的カメラ
2019年4月26日 11:34
2018年11月に富士フイルムから発売されたGFX 50R。本機は中判ミラーレスデジタルカメラ「GFXシリーズ」の第二弾であり、ボディ中央部分にファインダーを配置していたGFX 50S(2017年2月発売)のレンジファインダースタイル版といえるモデルだ。
イメージセンサーや画像処理エンジンはもちろん、バッテリーについてもGFX 50Sと同じで、撮影性能や画質は同等。耐候性や堅牢性についても同レベルで、それでいて軽量コンパクトでリーズナブルというから興味深い。ハイクラスのフルサイズミラーレス機に近い価格帯に収まっている部分も踏まえると、相当に意欲的で戦略的なモデルだ。
また、コンパクトかつクラシカルなレンジファインダーカメラのようなデザインに仕立て直されたことで、軽量化も相まって中判デジタルをよりカジュアルに使うことができそうだ。
中判らしさとは?
中判デジタルといっても、"フルサイズ"や"APS-C"との違いって何?というのが一般的な疑問だと思う。
これについての筆者の答えは「立体感」。同一画角でもより長焦点のレンズを使用する、つまりより望遠のレンズで撮影することになるので、ピント位置から離れるに従ってピント面の前後がフルサイズやAPS-Cフォーマットよりもボケやすくなり、画面内の距離の差が明確になる。結果、立体感を感じやすくなる、という寸法だ。
さらに言えば、同じ画素数であれば1画素辺りの受光部面積が大きく、解像度と階調再現性の両立に有利となるラージフォーマットを活かし、被写体をより精緻かつ立体的に表現することができる。
「なぜ?」と思う人も多いだろう。その理由は、階調再現性に優れていれば微妙なトーン変化を正しく再現できるからだ。つまり肉眼に近い立体感を再現できる。
また、高解像であれば被写体のより細かな部分まで写し撮ることができ、解像した部分がより細かく再現されるので階調の連続性も保たれ、立体を立体として再現できる。解像度が低いと滲んでしまうけれど、解像度が高いと滲まず正しく再現できると言えば想像しやすいだろうか。
単純にボケるから立体的な再現というワケではなくて、階調再現性や高解像が伴うことでより立体的な表現が可能になる。
解像
5,000万画素を超える解像度ということで期待されるのが解像性能。先の写真でも既に解像性の高さは証明されていると思うけれど、「ダメ押し」ということで紹介したい。
隅々までカチッと解像しているのはもちろん、拡大してみると花の周りを飛ぶ虫までもが写し取られている。しかも枝の部分が滲んだり黒つぶれして単調な再現になることもない。その表現力の高さが伺えるだろう。
「よく写る」の一言に尽きる高解像機らしい1枚。ハイレゾショットなどのマルチショット機能で超高解像撮影が可能なカメラもあるけれど、それをワンショットで撮れる威力はやはり凄まじいものがある。グリーンの表現が上手い。
タイルの目地までキッチリと写しきる様子に思わず鳥肌が立つ。是非等倍で見ていただきたい。画面上部の解像限界を超えた部分の描写が妙に崩れていないこと、解像している部分についても変に強調された再現になっていないことから、レンズがセンサーの限界以上の解像性能を持っていることがハッキリ分かる1枚。GFレンズ登場時にアナウンスされた”1億画素対応”は伊達ではないということだ。ここまで写ると被写体によっては「写りすぎる」という弊害も出てくるが、それはGFXを手に入れてから悩めば良い話だ。
高感度
先程登場したISO 100のカットで、感度を上げていった際にどう画質が変化していくのかテストしてみたので確認してほしい。
GFX 50R単体で評価するならば、ISO 6400以上でちょっとノイジーだなという印象は受けるけれど、拡大してみるとノイズはあるが細部の再現性が高いことに驚かされる。
こうした評価的な被写体でなければISO 6400は常用可能という印象で、作品制作でも高感度を積極的に選択できる柔軟性を持つ様は流石というほかない。ISO 12800を超えると流石に厳しいかな? という感は拭えず、ISO 51200は明確に厳しい。
水族館でのカット。鑑賞サイズでは高感度だということが分からない。拡大しても「んー、行っててISO 1600くらいかな?」という感じだけれど、実際にはISO 6400。水槽のアクリル越しでもココまでのシャープネスがあるというのも素晴らしい。
画像からはISO 3200で撮影したというのが信じ難いほどのシャープネスが維持されている。水槽内の時間を止めたいと思い、それなりに速いシャッター速度を選択したかったのだけれど、そうしたシーンでも画質を我慢することなく幅広い感度や絞り値を選択できるのはGFX 50Rの魅力のひとつ。
ダイナミックレンジ設定
おまけ的な比較になるのだけれど、富士フイルム機には画像記録時のダイナミックレンジ設定を変更できる機能が備わっている。本機能の設定範囲はISO感度設定に依存しており、ベース感度がISO 100のGFXシリーズではISO 400でDR400(400%に拡張)が選択できるというのがうれしいところ。
今回はISO 400でDR100%/200%/400%でそれぞれ撮影し、ハイライト部分の階調がどれだけ再現されたかをチェックしている。
基準となるDR100%で白飛びを意識せず、見た目で適正露出を決定しているが、白飛びのエリアはかなり少なく、ポテンシャルの高さが伺える。Lightroomでハイライト警告表示させた画像を見てみると、徐々に白飛びの面積が小さくなっているのが確認できるだろう。
※以下の実写画像は手持ち撮影したカットのため、比較用に位置を合わせてトリミングしています(8,256×6,192→7,326×5,495ピクセル)。
GFXの凄いところは、DR400%でも画像がネムくならないところ。普段からX-H1などのXシリーズを愛用する筆者ではあるが、XシリーズでDR400%を選択すると「ちょっと無理してるかな?」と感じるシーンがあるので、積極的に選択するのはDR200%までと決めているけれど、GFXなら自信を持ってDR400%を選択できる。
こうした階調表現はセンサーのポテンシャルだけではなく、開発の絵作りコンセプトによってある程度決まる部分だ。階調再現する範囲が広ければ広いほど見た目のコントラストが低くなってしまうのでその辺りのバランス感覚が重要なのだけれど、GFXでは先に比較した通り高感度画質に優れているため、光が少ないシャドー側の階調再現性に優れるということでもある。
つまり、シャドー側の階調と今回のハイライト側の階調のどちらの再現性にも有利であることがお分かりいただけただろうか?
アスペクト比
GFX 50Rには、選んで楽しめるアスペクト比が沢山ある。レンジファインダースタイルの中判デジタルで楽しみたいアスペクト比をいくつか紹介したい。
個人的にイチオシなのが、GFX 50S登場時に「つ・・・ついに!」と一人で打ち震えた65:24のアスペクト比。これはかつて富士フイルムから発売されていたTX-1とその後継機であるTX-2(ハッセルブラッドのX-Pan含む)で撮影できたパノラマサイズ。このアスペクト比がついにデジタルでも本格的に楽しめるようになったと喜んだのだ。
筆者の機材がフィルムメインだった頃、具体的には2001年から約6年間、TX-1とTX30mmを愛用し、趣味の撮影のほとんどをモノクロパノラマで過ごしたほどこのアスペクト比にのめり込んでいたので、この復活を嬉しく思ったが、先の外観・機能編でも言及している通りGFX 50Sを普段使いすることを半ば諦め掛けていたところに、TX-1の面影があるGFX 50Rが登場し、歓喜したのだ。予算繰りの都合でまだ所有するには至ってないが、いつか必ず我が家にお越し頂くと心に決めている。
どうでも良い身の上話を披露したところで、65:24の作例をご覧頂きたい。
次に中判カメラと言えば6×7ということで7:6のアスペクト比。筆者としては、額装しマット面の余白やフレーム込みで鑑賞した時に最も魅力を発揮するのが7:6というフォーマットだと考えている。絵画的な構図で撮影する場合に向いているという印象だ。
フィルムシミュレーション
ネガフィルム特有の少し濁ったような表現が上手く出来ている。ヌケ感を強調する絵作りが多い昨今のデジタルカメラでこうしたフィルムの味についてもしっかりと再現できるのはフィルムメーカーの矜持を感じさせるところ。
個人的に他社を大きくリードする表現力を持っていると感じるのがモノクロのアクロス。基本的に吊るしの状態のモノクロモードでは物足りない筆者だが、アクロスだけは別格。筆者の技術ではRAW現像でいくらパラメーターを追い込んでもアクロスを、つまり撮って出しのJPEGを超えられない。「どの明るさの色をどんなグレーにすれば良いのか」について、フジは熟知しているのだろう。
素のプロビアも素晴らしい。APS-C機のプロビアと比べてややコントラストが低く階調が豊かに見える。個人的にはちょうどよい塩梅に感じる。忠実色と記憶色のバランスが良くどんな被写体でも対応出来そうだ。
EVF/モニターの使い心地
ひと目で全体を見渡せ、精細感の高いEVFの覗き心地は良好。接眼レンズに対して眼の位置の許容範囲が広く、メガネ着用でも覗き心地は維持される。背面液晶との再現性の差についても小さく、X-Pro2世代から比べると大きな進化を感じられる。
背面液晶のチルト操作感はまずまず。やや重めで、画面下側を引き出す際に指が濡れているとやや滑り易いのが玉に瑕だ。タッチ操作のレスポンスは良好でフリック操作についても満足の出来る操作感がある。
チルト角が一定の角度を超えるとEVFのアイセンサーが自動でカットオフされるのは嬉しい機能だけれど、思いの外早い段階でカットオフ制御が入るので、カットオフ制御が入るチルト角を選択できるか、機能自体をOFF/ON出来るとなお素晴らしい。有償の改造対応で良いので3方向チルト化出来れば文句ないのだけれど、なんとかなりませんか?
まとめ&作品
GFX 50Rの魅力を語るのは難しい。というのも論理的な視点では「良いところ」を共感してもらうのがなかなかに難しいからだ。「普段使いできる中判デジタルだから、購入できるならオススメ」という言葉で纏めてしまうのは不誠実だろう。
その一番の理由は、絶対的に高価であり、いわゆるミラーレスカメラとしては撮影機能に特筆した点がないこと。つまりは"コスパ"が悪い。「中判デジタルとして」という前置きを取り除けばどう贔屓目に見ても高価だ。観察すればもちろん高価な理由を察することは出来るし、妥当以上の作り込みが為されていて適正価格に収まっていることは分かるが、撮影性能面ではどうだろうか? やはり「中判デジタルとして」という前置きは必要だ。
冷静に判断すれば、機動力や撮影機能ではXシリーズや他のミラーレスカメラに劣っている部分が少なくないので、普段使いに中判カメラを持ち出す理由としてはやはり論理的ではない。
一方で、「中判デジタルとして」という前提を用いて評価をするなら十分に魅力的だ。圧倒的と評していいだけの描写性能と、多彩なアスペクト比やフィルムシミュレーションによってGFXだから表現できる世界が確かにある。
富士フイルムは一貫して「APS-Cフォーマットがベストバランス」と公言している。その「ベストバランス」とは本来「画質」と「機動力」であるのだけれど、それは継続的に楽しむ事ができるサイズ感と、時々の背伸びに応えられるコスト感まで含んだ「ベストバランス」なのだろうと筆者は思う。一方で中判デジタルは情熱的、というか余程のエンスージアストか職業カメラマンでも無い限り、酔狂な選択に分類するのが常識的な判断だろう。
繰り返すが、GFX 50Rは性能的には最新のミラーレス機として客観的に特筆できるところは無い。だけど、画質という一本槍がトコトン上質なので、撮影技術を尽くせばちゃんと応えてくれるカメラだ。動体を安定して撮影しろと言われれば「ちょっと無理かも」って思うけれど、そもそもそういった専門的なシーンに対応するようにカメラが出来ていない。いわゆる”オールラウンダー”ではなく、”スペシャリスト”だ。特別な表現が出来るスペシャリストをどう評価するか? そこがポイントだ。
冷静な判断では、こうした特殊なカメラを広くオススメするのは正直難しいように思う。
好きか嫌いかでレビューするのはフェアではないけれど、筆者はGFX 50Rをとても好ましく思う。というか大好きだ。それは実写の各項目レビューでも伝わると思う。撮影することそのものが楽しいし、画質が素晴らしいので帰宅後に撮影画像を確認するのもとても楽しみだ。楽しい事が多いので撮影の足がどんどん伸びて「今度どこへ行こうか?」と次の撮影について考える時間も増えるし、65:24のアスペクト比で我慢なく撮影できることを含めて、このカメラがトコトン気に入った。
撮影が楽しく感じる理由は、撮影者の仕事量が適切だから。強力な手ブレ補正と高速性と追従性を兼ね備えたAFシステムを持っていないので、横着に撮影すれば正直に結果に跳ね返ってくる。横着させないように所作やお作法を強いているようにも感じられる。こうした制約は何も悪いことではなくて、例えば着物は脚の動きを制限することで動作に美しさと奥ゆかしさを持たせる効果があることからも、制約にもポジティブな面があることは明らかだ。やはり真剣に撮影するのはとても楽しい時間だと再確認させてくれる。
装着した単焦点レンズの画角と距離感を叩き込んで、フットワークを活かした撮影をするのはとても刺激的だ。試行錯誤を繰り返してイメージと写真が合致した時の快感はとても気持ちがよい。「冴えている」というあの感覚を感じていたいから写真を撮っていると言っても過言ではないくらいに、筆者にとっては大切な感覚だ。加えて最新の中判デジタルらしい極上の画質で応えてくれるので、なおのこと気持ちが良い。
私情も含めて評価するなら、GFX 50Rは撮影機能的に目立ったところはなく、撮影者の横着には厳しいけれど、情熱的で表現力豊かなカメラ。真剣に撮影すれば時にはそれが「冴えた選択だ」と抜群の画質で応えてくれる。GFX 50Sと比べれば、カジュアルに中判デジタルの世界を楽しめるかもしれない。
以上を咀嚼した上で尚「冴えた選択」に魅力を感じてしまう人にとっては、長く愛用できるカメラだと約束できる。デバイス的には約5,140万画素もあるので今後5年やそこらで描写性能が陳腐化するとは到底思えないし、きっと5年以上たった後も「やっぱGFXはスゲー写るな」と感心していることだろう。
何もかもは出来ないけれど、出来ることはトコトン出来る。趣味だからこそ酔っぱらっていたい人にはオススメです。効率や快適性、コスパを重視するならオススメしません。GFX 50Rのボディとレンズ1本の予算で、他の並大抵のシステムなら揃っちゃいます。