新製品レビュー

FUJIFILM X100F

成熟の4代目「X100」を試す!

FUJIFILM Xシリーズの礎ともなったX100シリーズの初号モデル「X100」の登場は2011年。APS-Cサイズのイメージセンサーと35mmフルサイズ換算で35mm相当の単焦点レンズ、さらに光学ファインダー(OVF)と電子ビューファインダー(EVF)に切り替え可能なハイブリッドビューファインダーを質感の高い金属製ボディに搭載し、それまでの同社製デジタルカメラとは一線を画した意欲作として大いに注目を浴びた。

その後「X100S」、「X100T」とコンセプトはそのままにモデルチェンジを重ね、この度登場した「X100F」は4代目となるモデルである。キーデバイスが大きく進化するとともに、操作性もブラッシュアップされた。ちなみに2代目以降の製品名末尾のアルファベットは代を現す。2代目のSはSecond、三代目のTはThird、そして今回のFは4代目なのでFourthというわけだ。

デザイン

基本的なボディのシルエットは先代のX100Tと同じだ。それ以前までは野暮ったさがわずかに残るボディデザインだったが、グリップの形状やファインダーの窓周辺がすっきりとし、スマートで洗練されたものになる。

ボディサイズはX100Tとほぼ同じ126.5×74.8×52.4mm(幅×高さ×奥行き)とし、質量は29gほど重い469g(バッテリー、メモリーカード含む)。

コンパクトデジタルカメラとして考えると大きい部類に入るが、その分カメラとしての存在感は高く、ホールディングも確実。おおいに写真を撮る気にさせる。もちろん金属製ボディの仕上がりは上々で極めて満足度の高いつくりである。なお、ボディカラーは掲載したシルバーのほか、ブラックもチョイスできる。

ボタン類

トップカバーの操作部材のレイアウトはこれまでと同様。シャッターボタンのほかにシャッターダイヤルと露出補正ダイヤル、Fnボタンを配置。

さらにX100Fでは往年のフィルム一眼レフカメラのようにシャッターダイヤルのなかに感度ダイヤルを備え、設定方法も同様にシャッターダイヤルの外周リングを上に持ち上げて行う。メニューを呼び出して設定するよりも、直感的で素早く実に使いやすい。

また、露出補正ダイヤルには前ダイヤルで露出補正を行うCポジションを新たに採用。露出補正ダイヤルでは最大±3EVまでだった補正量が、このCポジションでは最大±5EVまで可能としており、より撮影意図が反映しやすくなっている。

背面の操作部材で大きく変わったのが、液晶モニターの左側にもあったボタン類が右側に集約されたことと、同社のミラーレスカメラ「X-Pro2」や同じく「X-T2」で評価の高いジョイスティックタイプのフォーカスレバーを新たに備えたことだろう。

背面ボタン群

集約されたボタン類は右手のみで操作が可能となり、その動きに無駄がなくなった。フォーカスレバーでは、直感的にフォーカスエリアの選択が可能に。スナップ撮影などではその効果は絶大で、このカメラの存在意義をさらに高めるものである。

加えてフォーカスレバーを押し込めば、フォーカスエリアの大きさを変えることも可能。設定は前後のダイヤルで行うが、こちらも直感的な設定が楽しめる。

コントロールリング/フォーカスリング

これまで同様に搭載するレンズ部のリングも、アナログ操作を大切にする本シリーズの特徴的な部分の1つ。

滑らかに回転し、マニュアルフォーカスの際のピント合わせも楽しい。特にOVF画面右下にEVFの画像を同時に表示するエレクトロニックレンジファインダー機能と併用すれば、撮影がより一層楽しくなること請け合いである。

また、このレンズリングはホワイトバランス、フィルムシミュレーション、デジタルテレコンのいずれかの機能を割り当てることができるほか、回転方向を好みで変えられるのも便利に思える部分である。

なお、レンズ鏡胴には絞りリングも独立して装備している。

撮像素子

X100Fになって、大きく変わったものといえば前述したとおりキーデバイスだ。イメージセンサーはローパスフィルターレスになった有効2,430万画素、APS-Cサイズの「X-Trans CMOS III」、画像処理エンジンは「X-Processor Pro」を採用する。

同じキーデバイスはX-Pro2やX-T2などに採用されており、同社らしいフィルムライクな色調および階調再現性に加え、鮮鋭度の高い写りで多くの写真愛好家から支持されている。もちろんX100Fでも同じ描写が得られ、それらのモデルと仕上がりの違いはない。最新の富士フイルムの絵づくりが存分に味わえると言ってよいものである。

レンズ

レンズについては従来から変更はない。6群8枚とし、35mm相当(F2)の画角を持つフジノンレンズは画面の隅々まで隙のない描写が得られる。絞り開放での近接撮影の場合、ピントの芯がやや掴みにくく感じないわけでもないが、それ以外は開放絞りから鮮鋭度が高くキリッと締まった描写が得られる。

28mm相当の画角となるワイドコンバージョンレンズ(WCL-X100II)と50mm相当のテレコンバージョンレンズ(TCL-X100II)がこれまで通り別売のオプションとして用意されるが、いずれもX100Fでは自動的に認識するようになったのは便利に思えるところ。その都度メニューに入り設定を行う手間を必要としていたこれまでと異なり、装着後すぐに撮影に移れる。

また、レンズシャッターゆえに絞りを開いたときシャッターの最高速度は低下してしまうが(絞り開放の場合で最高速は1/1,000秒)、3段分の減光が可能なNDフィルターを内蔵しているので、明るい屋外で絞りを開いて撮影したいときでも諦める必要はない。

AFシステム

AFは先代モデルと同様、像面位相差方式。ただし、そのエリアは倍以上に拡大されており、画面の広い範囲をカバーする。さらにフォーカスエリアも49点から91点(最大325点)にアップ。フォーカスレバーでより最適なフォーカスエリアの選択が可能だ。

また、AF-C(コンティニュアスAF)ではシングルのほかより広い範囲を測距するゾーンや、複数のエリアを選択してピントを合わせるトラッキングも選べる。

実焦点距離23mmのレンズなので、被写界深度は深く、その効果を実感することは難しく思えなくもないが、コンティニュアスAFで少しでも精度の高いピント合わせを行いたいのなら覚えておくとよいだろう。

ファインダー

X100シリーズの売りの1つが、冒頭に記したようにOVFとEVFを組み合わせたハイブリッドビューファインダーの搭載だ。X100Fでは、「アドバンスド・ハイブリッドビューファインダー」と呼んでいる。

リアルタイムに被写体の動きを見たいときはOVFに、露出やホワイトバランスの状況を知りつつ正確なフレーミングで撮影したいときはEVFといった感じで使い分けることができる。

さらに、こちらも前述しているが、OVFではエレクトロニックレンジファインダー機能を搭載。画面右下にライブビュー画像を表示させ、ピントの状態やアングルなど正確に把握することを可能としている。OVFとEVFの切り替えなどは従来通りカメラ前面部にあるファインダー切り替えレバーで行うが、操作感は極めて良好だ。

液晶モニター

液晶モニターは3型、104万ドット。固定タイプとする。カメラ背面の液晶モニター周辺はすっきりとしているが、チルトタイプだとより撮影アングルが広がったと思うのは私ばかりではないことだろう。今後に期待したい部分だ。

バッテリーと記録メディア

バッテリーは新たに「NP-W126S」を採用。イメージセンサーや画像処理エンジンの消費電力の関係から従来の「NP-95」にくらべより容量の大きい本バッテリーとなったわけだが、同時にミラーレスカメラのX-Pro2やX-T2などと共有できるようになったことは便利に思える。カタログ上での撮影可能枚数はEVF使用時で270枚、OVFで350枚としている。

対応記録メディアはSDXC/SDHC/SDメモリーカード。UHS-Iに対応する。

ダイナミックレンジ(DR)機能

ダイナミックレンジ機能は初代X100より搭載されているものだが、その効果は高い。掲載した作例は、デフォルトのDR100、DR200、DR400を同一地点で撮り比べたものだが、徐々にシャドー部が明るく、ハイライト部の白トビが抑えられていくのがわかる。しかも階調的に不自然さのようなものは感じられない。

DR200はISO400以上、DR400はISO800以上の感度でないと効果は得られないが、少しでも階調の豊かな描写を楽しみたいときなど積極的に活用するとよさそうだ。

※共通設定:1/160秒 / F11 / 0EV / ISO800 / 絞り優先AE / 23mm / フィルムシミュレーション:スタンダード

DR100
DR200
DR400

フィルムシミュレーション

フィルムシミュレーションにはX100シリーズとしては初めてとなる「ACROS」が搭載された。述べるまでもなく同社のモノクロフィルムをシミュレートしたもので、滑らかな階調を持ちながらも黒が締まり、質感描写に長けたモノクロ表現が楽しめる。「グレインエフェクト」機能と併用すれば粒状感を付加でき、よりフィルムライクな仕上がりが得られる。

その他のシミュレーションは掲載した作例のとおりであるが、フィルムメーカーらしい多彩なラインナップを誇る。

※共通設定:1/480秒 / F8 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 23mm

フィルムシミュレーション:PROVIA
フィルムシミュレーション:Velvia
フィルムシミュレーション:ASTIA
フィルムシミュレーション:クラシッククローム
フィルムシミュレーション:PRO Neg.Hi
フィルムシミュレーション:PRO Neg.Std
フィルムシミュレーション:ACROS
フィルムシミュレーション:モノクロ
フィルムシミュレーション:セピア

高感度

常用感度域はISO200からISO12800まで。拡張でISO100およびISO25600、ISO51200の選択が可能となっている。

感度設定のメニュー

高感度特性についてはISO3200までならノイズレスと述べてよいものだ。実は、高感度特性についてXシリーズはあまり芳しい話は聞かないが、それは富士フイルムの絵づくりに対する考え方からくるものである。

高感度特性がよいと言われるカメラのなかにはノイズリダクションの効きが強く、解像感の極めて低いものも存在する。同社の考えた方はその反対で、ノイズは多少残してでも解像感を維持させようとするものである。そのため、単純にノイズの多い・少ないで見ると不利と言わざるを得ないが、絵を比較してみた場合には同社のその考えがわかるはずだ。高感度で撮影の際は、そのことを理解して使いたい。

1/13秒 / F13 / 0EV / ISO3200 / Shutter Priority / 23mm / フィルムシミュレーション:スタンダード

作品

絞り開放の描写である。作例に限っていえばコントラストが高く、ピントの合った部分の解像感も上々である。明暗比の高い被写体であるが、暗部のディテールもよく粘っているほうだ。このような撮影シーンでは、チルト式の液晶モニターが欲しくなる。

1/400秒 / F2 / 0EV / ISO200 / 絞り優先AE / 23mm / フィルムシミュレーション:Velvia

開放から1段絞ったF2.8では、コントラスト、解像感とも向上。ピントの合った部分はキリッと締まった描写が得られる。画面四隅の結像も良好で、高い次元で均質性のとれた描写といってよいだろう。背景のボケはこの作例を見るかぎり、若干暴れ気味。

1/500秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 23mm / フィルムシミュレーション:スタンダード

絞りはF2.8。合焦面から滑かにボケが変化していくことがわかる。ボケを積極的に楽しむレンズではないが、近接撮影ではそれなりのボケ味が得られるので活用しない手はないだろう。この作例の撮影では、正確なフレーミングとするためEVFを活用している。EVFとOVFを使い分けられるのはやはり便利。

1/90秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 23mm / フィルムシミュレーション:Velvia

ワイドコンバージョンレンズの装着では、35mm判換算で28mm相当の画角に。色のにじみやディストーションといった収差の発生や、画面周辺の像の流れなどほとんど感じられず極めて良好な写りが楽しめる。コンパクトに仕上がった鏡筒で使いやすいワイコンである。

1/400秒 / F2.8 / -0.3EV / ISO200 / 絞り優先AE / 19mm / フィルムシミュレーション:スタンダード

35mm判換算50mm相当の画角が得られるテレコンバージョンレンズを装着しての撮影。解像感の低下などなく緻密な描写が得られる。光学性能を追い求めた結果だろうが、前玉が大きくワイコンにくらべ立派なつくりで、X100Fに装着したとき見た目の押しは強い。

1/800秒 / F4 / -0.7EV / ISO200 / 絞り優先AE / 33mm / フィルムシミュレーション:ASTIA

まとめ

筆者は初代X100を発売日に手に入れた過去を持つ。APS-Cサイズのイメージセンサーを搭載するコンパクトデジタルカメラとしてたいへん魅力的に思えたからだ。ところが買ってみると、操作性など未完成な部分が多く、1年を待たずして手放してしまったのである。

そしてX100F。このカメラを最初に触ったのは2016年暮れで、CP+2017のセミナーに向けて同社との打ち合わせの最中であった。製品版ではなかったものの、いざ撮影に臨むと完成度が高く不満らしい不満はほとんど感じない。これだったら使えるぞ、と強く思えるものであった。

今回このレビューで再び手にしたX100Fだが、その時の感動は何1つ失せておらず、改めて完成度の高さを知るものである。レンズの交換のできないカメラであるが、それゆえボディは薄く仕上がりいつでもどこへでも携帯でき、さらに生成する画像の満足度は高くXシリーズの名に恥じないカメラに仕上がっている。

大浦タケシ

(おおうら・たけし)1965年宮崎県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、二輪雑誌編集部、デザイン企画会社を経てフリーに。コマーシャル撮影の現場でデジタルカメラに接した経験を活かし主に写真雑誌等の記事を執筆する。プライベートでは写真を見ることも好きでギャラリー巡りは大切な日課となっている。カメラグランプリ選考委員。