新製品レビュー
FUJIFILM GFX100
1億画素はポートレートをどのように変えるのか
2021年1月7日 06:00
富士フイルムのGFX100は約1億画素の大型センサーを搭載するモデルだ。発売は2019年で、2020年の夏に大幅なファームアップが実施され、この年末にも大幅な機能強化が盛り込まれているように、その撮影性能は未だ伸び続けている。今回、夏のメジャーアップデートを受けて、ポートレート撮影で本機がどのように撮影シーンを変えていくのかを見ていった。実撮影から少々時間が開いてしまっているが、あらためて本機の実力を知っていただく機会として参考にしてもらえたら幸いだ。
外観
今回の撮影は、GF45-100mmF4 R LM OIS WRを中心に組み立てていった。他に使用したレンズは45-100mmに加えて、GF63mmF2.8 R WR、GF110mmF2 R LM WR、GF120mmF4 R LM OIS WR Macroがある。
GFX100のボディは縦位置グリップ部が一体となった形状デザインを採用している。単体で見ると大きく感じられるかもしれないが、今回使用したGF45-100mmF4 R LM OIS WRのように大型のレンズを組み合わせる場合だと、かえってこれくらいのサイズ感のほうがバランスがとれることもある。比較的小型なGF63mmのような単焦点レンズとの組み合わせだとボディ本体を支えるようになるため、これはこれですわりがいい。
GF45-100mmF4 R LM OIS WRの筐体。ズーム比をおよそ2倍ほどに抑えているためでもあるのだろう、大型センサーのイメージサークルをカバーするレンズとしては比較的コンパクトな設計となっている。
今回使用したGFX100と筆者が普段使っているGFX 50Sを正面から並べてみた。GFX 50Sが黒一色であるのに対してGFX100は軍艦部と下部がグレーにカラーリングされているのが特徴だ。
作例
今回の撮影では基本的には下記の設定をメインに進めていった。
アスペクト比:基本的にはセンサーの持つ最大画素数をカバーする4:3を使う事が多いが、銀塩フィルム時代から多く使ってきた6×6判の名残からスクエアサイズの1:1も使用してみた。
ホワイトバランス:シーン自動認識オート
フィルムシミュレーションモード:GFX 50Sで多用しているVelvia/ビビッドを中心に、富士フイルム機の標準設定であるPROVIA/スタンダード、そして夏のファームアップで加わった「ETERNA ブリーチバイパス」も試してみた。
エフェクト類:全てなし
GF110mmF2 R LM WRを使用して王道のポートレート。フォーカスが合っている部分はしっかり解像していながらも、背景のボケ具合にかけて豊富なグラデーションを描いている。大型センサーならではの醍醐味が感じられるシーンだ。
開放的な風景の中にモデルを配して、GF45-100mmF4 R LM OIS WRの広角端をいかして作画した。F5.6へ1段絞っただけだが、解像がさらに向上している。
フォーカス位置を画面中央の柱に置いて後方の電車をボカしてみた。大型センサーならではの被写界深度の浅さも当然あるだろうが、その立体的な表現からは大型センサーと高画素ならではの有効性を感じる。
この写真だけを見ると違和感はないが、実際の撮影シーンは屋内外でかなりの輝度差がある。背景に多少の白トビがあるものの、豊富なグラデーション描写がカバーしてくれている。ペンキの白にみられる自然な再現性もポイント。
標準レンズでも使い方によっては中望遠のようにも、ちょっとしたワイドのようにも表現することができる。立て続けに本レンズを使用しているのも、そうした多面性が自身の撮影スタイルにマッチしているから。このカットでは絞りを開放にしているが過度にボカすことはしていない。モデルから数歩はなれて距離を調整し望遠レンズのような効果を同居させた。背景も主題のひとつと考えてのアプローチだ。
GF63mmF2.8 R WRの最短撮影距離は50cm。被写体にグッと寄れば、ちょっとしたワイドレンズで撮影したかのような見せ方もできる。風に流れる髪の毛1本1本も無理のない繊細な描写で再現。それでいて触れることができそうなほどの立体感は、本機の真骨頂ともいえる。
再びGF45-100mmF4 R LM OIS WRに持ち替えて。45mmくらいの焦点距離だと縦位置で構えても人物に妙なパースがつくこともなく、背景の広がりだけを感じさせてくれる。クセのないレンズという印象で、レンズ設計自体に無理がないことがうかがえる。
GF110mmF2 R LM WRは35mm判に換算すると87mm相当となる中望遠レンズだ。その被写界深度自体はAPS-Cや35mm判フルサイズより浅くなるので遠近感などで、より望遠効果が強調される。最短撮影距離は90cmと、35mm判の85mmで慣れ親しんだ距離感で使用できる点も魅力。白からシアンにかけての階調の豊かさには目を見張るものがある。
モデルに好きに動いてもらい、少し離れた場所からその動きを追った。大型アップデートにより被写体の検出精度も向上しており、1カットのデータ量や連写コマ数といったデメリットが、ある程度相殺されている。多カット連写せずとも歩留まりを狙うことが可能となった点は大いに歓迎される。こうした場面だとGF110mmがよくマッチ。誇張感のない描写と中望遠ならではの使い勝手の良さがハマった。
夏の日射しが心地良い田舎道。大型センサーが描き出す開放F2のボケ味は望遠効果を増幅してくれる。
GF45-100mmF4 R LM OIS WRの広角側で絞り込んだ場合。樹木の自然なやわらかさと金属とコンクリートで出来た赤い橋(防潮堤)それぞれの素材感が克明に描写されていることがわかる。等倍・JPEG出力そのままのデータなのでサイズ自体は大きいが、ぜひ拡大してみてほしい。
GFX100には4:3、3:2、6:9、1:1、65:24、5:4、7:6の7種類からアスペクト比を選択できる。ここでは流行りのInstagram的なイメージで1:1の正方形で表現してみたが、かつて銀塩フィルム時代に多用していた6×6カメラのフレームを思い出した。65:24も、同社の銀塩パノラマカメラを思い起こさせるアスペクト比。トリミングしての表現ではあるものの、こうした表現の幅はGFXシリーズならではの魅力だ。
著者所有のGFX 50SとGFX100を同じシチュエーションで比較撮影してみた。センサー画素数が大きい分解像度はGFX100に分があるものの、全体の画づくりは同社が主張しているとおり、機種間での違いはあまり感じられない。
ファームアップによって新しく搭載されたフィルムシミュレーション「ETERNAブリーチバイパス」を試してみた。いわゆる銀残しによる表現を低彩度のETERNAと組み合わせた画づくりだが、独特の効果が面白い表現を生む。APS-CシリーズではX-T4とX-S10も搭載している。
髪の毛の輪郭からも見てとれるように、撮影時の条件は完全な逆光。しかしコントラストの低下も見られず、西陽を受けた髪の毛が美しく輝いている。錆びたトタン板と素肌のコントラストもよく表現されている。
どこから見てもここは日本なのだけど、ちょっとアメリカン・ニューシネマ風に遊んでみる(笑)。
製品名にマクロを冠しているように、GF120mmF4 R LM OIS WR Macroの最短撮影距離は45cmと、かなり被写体に寄ることができる。最短撮影距離まではまだ余裕がある距離から顔のアップを狙う。マスカラのノリや、唇の質感など、高画素センサーの素性を引き出していることがわかる。触れることができそうなほどのリアリティだけでも、本機の魅力が看取いただけることだろう。
強いコントラストの西陽の斜光線。陽が当たっている部分と影となっている部分ではかなりの輝度差があるが大型センサーの威力なのか広いラチチュード表現だ。
日没直前の夕暮れ風景をバックにストロボをシンクロさせた。肌の階調再現、日没直前の空のグラデーション、海の色の深さ・重さが高い次元でバランスしている。
この日最後のカットもやっぱり夕暮れの美しい風景で。モデルが完全なシルエットにならないギリギリを狙った。フィルム時代の感覚でいうと、とても広いラチチュードを有していると表現できるほどに、豊かな階調性、克明なディティール描写が得られた。遠景にはこっそり富士山も入れてみた(笑)。
ポートレート撮影を通じての総評
仕事柄、様々なタイプのデジタルカメラを使用あるいは試用するのだが、GFX100からパソコンに取り込んだ写真データは予想通りに、ディティール、質感、トーン、描写ともに圧倒的に緻密な情報量で表現されていた。これが1億画素なのかと圧倒されたのは言うまでもない。
本機の発売は2019年のこと。はやくも2021年に突入し、どこからかGFXシリーズの新型機に関するウワサも聞かれるようになってきた。だが、継続的なファームウェアアップデートが提供され続けていることからもわかるとおり、本機にはまだ伸びしろがあると感じられる。。
筆者はGFX 50Sを発売時から使ってきているが、GFX100のシャッターストローク感覚やサイズアップによる取り回しの違いには、正直最初は戸惑ってしまった。慣れるまでやや時間がかかったが、一度身体とアタマがこういうものだと理解してからは違和感も消えていた。サイズ感や、ぱっと見の外観は既存のGFXシリーズと違いはあるものの、基本的な操作性は近いのであまり迷うことなく使うことができた。全体の考え方は同社のAPS-Cシリーズと同様であるため、富士フイルム製品ユーザーであればフォーマットを問うことなくすぐに使うことができるだろう。
今回の撮影は基本的に手持ちで撮影していったが、GF45-100mmF4 R LM OIS WRやGF120mmF4 R LM OIS WR Macro、GF110mmF2 R LM WRのように、大柄なレンズを装着した時であったり、縦位置で構えた時の感触は、グリップが大型のGFX 50Sと比較してもGFX100のほうがしっかりとホールディングできた。把持の安心感とEVFを覗いた時の視認性の良さでもGFX100の方が圧倒的に優位である。
レンジファインダースタイルのGFX 50Rは一度借りて撮影しただけなので使用感を語るには及ばないのだが、各機種ともにバッテリーは共通。当たり前のことながら既存シリーズユーザーにとって、併せて使っていくことができるため、それだけで大きなメリットがある。35mm判フルサイズの約1.7倍となる大型センサーも、GFX 50Sで満足していたが、本機の情報密度がもたらす緻密な描写と、余裕を感じさせる空気感表現は、既存シリーズユーザーにとっても大きなアドバンテージであると感じた。
3機種それぞれに特徴ある機種が揃っているGFXシリーズ。システムとしての選択肢の幅広さは大きな魅力だ。経済と体力に自信がある方は、全てを揃えて様々な被写体に対峙してみるのもアリだろう(笑)。
モデル:マヘリ羽梨沙(オスカープロモーション所属)