新製品レビュー
Nikon Z 7(実写編)
D850譲りの高画質 NIKKOR Zレンズにも好印象
2018年9月25日 18:00
ついにベールを脱いだ「ニコンZ 7」。同社35mm判フルサイズ撮像素子「FXフォーマットセンサー」を採用した初めてのミラーレスカメラだ。
新たに開発された「Zマウント」は、内径55mm・フランジバック16mmの大口径かつバックフォーカスが短いレンズマウントシステム。ニッコールレンズの更なる可能性を示した。
小型・軽量ボディ、裏面照射型の高画素フルサイズセンサー、ボディ内手ブレ補正、新画像処理エンジンの搭載……など、まさしくニコンの本気度が感じられるカメラの誕生である。
前回の「外観・機能編」に引き続き、実写編では描き出す画像を見ながら「Z 7」の写りをじっくりと見てみよう。
解像
4,575万画素FXフォーマット裏面照射型CMOSセンサーの描写力には驚かされる。木々の密集感、渓流の流れや川底の石の質感、遠景の天狗岩の先鋭さが見事に描かれている。発色や濃度感などはD850とほとんど変わらず濃厚でかっこいい。
画素数はD850と同じだが、Z7のセンサーには像面位相差AFが採用されている。これにより位相差画素の欠損があるはずだが、描写力への影響はまったく感じられない。またD810から続く常用低感度ISO 64を維持し続けてくれているところは、風景撮影では非常にありがたいポイントだ。
回折補正
新機能として、絞りこんだ際の回折現象を低減する「回折補正」機能が追加された。回折現象による小絞りボケが、この機能をONにするとキリッと回復するのがわかる。効果はとても自然で、無理にシャープが追加されるような印象もなく使いやすい。レンズにもよるがF16〜F22付近まで絞った際に効果的だ。
ソフトな描写に特別なこだわりがなければ常時ONにしておくのが良さそうだ。
高感度画質
常用感度はISO 64〜25600。4,575万画素の高画素ながらISO 25600までを常用感度として使用できるのは裏面照射型センサーの恩恵だ。ノイズ量としてはD850とほとんど変わらない。ややシャープネスがZ 7の方がいいようにも感じられなくもないが、3分の1段ほどの差もないだろう。
写真は薄暗い林の中で、シャッタースピード1,000分の1秒を確保するためにISO 6400の高感度で捉えたスズメバチ。ざらざらとしたノイズがとても少ない印象だ。
さらに薄暗い森で見つけたカニ。ISO 12800まで上げて撮影しているが、十分なクオリティーを保っている。Z 7はボディ内手ブレ補正も搭載しているため、むやみに感度を上げる必要はないが、シャッタースピードを上げなければいけない場面などでは積極的に高感度を使っていきたい。
連写
宇都宮へ向かう日光線(JR東日本)を高速連写で撮影した。
拡張モードでは最高約9コマ/秒の連写が可能なので、高画素モデルでありながらも動きのある被写体の撮影に対応できる。ただし、カメラ内のバッファはそれほど用意されていないようで14ビットRAWでは連写速度がやや下がり、連続撮影コマ数も約19枚程度となる。連写の際は、シャッターを切り続けるのではなく細かく連写を繰り返すようなスタイルがいいだろう。
ピクチャーコントロール(ミドルレンジシャープ)
ピクチャーコントロールのパラメーターに新項目「ミドルレンジシャープ」が追加された。
既存のシャープネス項目「輪郭強調」と「明瞭度」のちょうど中間の領域を調整でき、変化の具合は輪郭強調や明瞭度よりも繊細に感じる。というよりも結構わかりにくいので大胆に調整するのが良さそうだ。
ミドルレンジシャープが追加され、シャープネスの調整項目が3つになったことで細やかな調整が可能になった反面、細かすぎてちょっと面倒……、という方には同じく新たに追加された「クイックシャープ」が便利だ。3項目すべてを一括で調整する機能で、こちらはとても変化がわかりやすい。クイックシャープでおおよその好みの方向に調整した後で各項目を微調整するのが使いやすそうだ。
クリエイティブピクチャーコントロール
ピクチャーコントロールに「クリエイティブピクチャーコントロール」が新搭載。ドリーム、モーニング、ポップなどの20種類のアートカラーが選択できる。これまで一眼レフの露出モードにスペシャルエフェクトモードが入っていたが、本機能は露出モードの制限なくあくまでもピクチャーコントロールの選択として使えるのでより効果的にアートカラーを使うことができそうだ。
4K動画
Z 7では4K30Pの動画撮影が可能。またFXフォーマットの長辺そのままで4Kが撮影できるので、ニッコールレンズの解像感、ボケ味そのままで動画が楽しめる。また、ボディ内手ブレ補正が動画でも使用できるため手持ちでの撮影時の安定性が大きく向上した。
フルHD120Pの5倍スロー動画も撮影できる。生き物の動きなどがよく確認できるのでとても面白い。この動画は手持ちでの撮影だが、ボディ内手ブレ補正のおかげで画面が非常に安定している。
Z 7の動画記録フォーマットは、D850と比べて大きな進化があるわけではないが、動画のクオリティは格段に上がった。
これはZマウントレンズが動画撮影に関する性能を大きく向上させているためだ。例えば、ピント移動に伴う画角変動「フォーカスブリージング」を最小限に抑えたレンズ設計や、ズーミングでのピント位置移動「引きボケ」を抑制するためのピント位置記憶など。
ピント位置を手前の花から奥の木にAFで移動してみた。焦点距離は変わっていないにもかかわらず、AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは、ピントの移動とともに画角まで変わってしまっていることがわかるだろう。これに対して、NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sでは画角がほぼ変化しないまま、ピントが奥の木へと移動している。このため、とても自然な動画に仕上がっている。また、合焦時のピント位置移動もNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sはとてもスムーズだ。
画面中央のセミの抜け殻にピントを合わせてズーミングをしてみた。AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VRは初めこそピンとが合っているものの、ズームとともに抜け殻からピントが前に移動しているのがわかるだろう。対してNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sは、ズームしても抜け殻にピントが合い続けている。これはレンズの性能、というよりもピント位置の絶対的な距離をカメラが記憶しており、ズーミングでピント位置がずれそうになっても微調整して、その位置を固定し続けているためのようだ。このため、高速にズーミングするとそのスピードにピント送りが間に合わず、後からピントが追いかけるような動き方をしている。
作品
深い森と切り立った天狗岩。森の密度感がよく描き出されている。画面左下にさり気なく写し込んだアオサギを拡大してみると、そのとてつもない解像力がよくわかる。
彼岸花を背景に最短撮影距離で撮影したノシメトンボ。0.3倍まで近寄れて近接域でも描写力がほとんど落ちないNIKKOR Z 24-70mm f/4 Sは非常に使いやすい。ボディが軽量なZ 7とのバランスも良く、約500gの沈胴式ズームレンズの描写だとはとても思えないほど優れたレンズだ。
水たまりに映る草の葉の美しいシルエットを狙った。森の木漏れ日をニコンらしい濃厚さで色鮮やかに描き出してくれた。
雨の雫が付いたクモの巣がきらきらと輝いていた。NIKKOR Z 24-70mm f/4 Sのフォーカスは電子式なので従来のレンズとはマニュアルフォーカスのタッチが違うが、ピントリングのトルクもピント移動もスムーズで良い感触だ。0.8倍の大型EVFは隅々まで見やすいので、マニュアルフォーカスでの撮影も行いやすい。
まとめ
Z 7はニコンの伝統と未来を体現した優れたカメラだ。ニッコールがこれまで培ってきた卓越した光学技術と映像表現を新マウントでさらに追求し、小型で携帯性に富んだミラーレスカメラのシステムに仕上げる。この相反する2つの事柄を見事に融合させている。
価格は決して安くないが、手に持ち、シャッターを切り、描き出される写真を見れば納得できるはずだ。強靭で握りのいいグリップと、クリアで大きなファインダーを覗けばニコンが感じられる。Z 7が小ささだけを追い求めたミラーレスではなく写真を本気で楽しむフォトグラファーのために誕生したことがよくわかる。11月下旬に発売が予定されているZ 6にも大いに期待したい。
一眼レフカメラの頂点を極めたD850とフルサイズミラーレスの可能性を見せつけたZ 7。ミラーレスカメラと一眼レフカメラの、この2台を中心にニコンが描き出す101年目の映像表現からますます目が離せない。