新製品レビュー

Nikon Z 6(実写編)

考えぬかれたバランスの良さ 高感度の強さも特徴的

ニコン Z 6は、2,450万画素の35mm判フルサイズ(FXフォーマット)センサーを搭載したミラーレスカメラ。4,575万画素の兄弟機ニコン Z 7の発売(9月28日)から遅れること約2カ月、11月下旬にようやく発売される。

兄弟機との違いや他社ライバルとの違いも気になるところではあるが、大切なのは「結局、Z 6の画質関連はどうなの?」といったところだろう。結論から言ってしまえば、D610やD750といった既存の2,400万画素クラスのニコンFXフォーマットセンサーを搭載するデジタルカメラに比べ、あらゆる点が大幅に向上している、といえる。筆者もD750ユーザーなので若干の寂しさを感じてしまうのは本音だが、これは、たとえ一眼レフカメラがミラーレス化しようとも、デジタルカメラの進化は止まらないという、歴然たる事実なのである。

「外観・機能編」からつづく今回の「実写編」では、Z 7との違いを適宜おりまぜながら、Z 6の、進化した2,400万画素クラス・ニコンFXフォーマット採用きとしての実力を確認していくことにしたい。

高感度

常用ISO感度はISO 100〜51200となっており、これは2,400万画素クラスの35mm判フルサイズセンサーを搭載するデジタルカメラとしてはトップレベルだといえる。効率よく集光できる裏面照射型センサーを採用したことによる恩恵といっていいだろう。

同クラスのデジタルカメラは、少し前ならISO 6400くらいまでが実用限界といった印象で、それ以上の感度となると「使用目的によっては〜」といった前置きが必要になっていた。

しかし、実写結果を確認した限りでは、一段分高いISO 12800までは実用上ほぼ問題のないレベルになっていると感じる。色ノイズはほとんど見られず、輝度ノイズも上手く処理されているため、感度を上げても被写体の質感喪失がかなり穏やかになっている点が素晴らしい。

撮影シーンによっては、またWEB掲載やハガキサイズまでのプリントなどに目的を限定するならば、さらに高い感度でも全く問題なく使用することができるはずだ。

ISO 64が常用の最低感度であるZ 7と比べるのははばかられるが、画素数が少ない分、高感度特性についてはZ 6のほうが有利、という当たり前の結果であった。

ISO 100
Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 35mm / 絞り優先AE(30秒・F8・-1.7EV)
ISO 200
ISO 400
ISO 800
ISO 1600
ISO 3200
ISO 6400
ISO 12800
ISO 25600
ISO 51200

解像感

Z 6はZ 7同様、裏面照射型CMOSセンサーを搭載している。画素数はZ 7が4,575万画素であるのに対して、Z 6は2,450万画素。解像感を比べればZ 7の方が高いことは当然だろう。

しかし、Z 6で撮影した画像を単体で確認すると、その解像性能は必要にして十分であることが分かる。解像感の高さは、最新の画像処理エンジンEXPEED 6の処理能力の高さと、Zシリーズ用に新しく開発された専用レンズの光学性能の高さも大きく影響している。

また、Z 7は解像性能を重視したローパスフィルターレス仕様、Z 6はモアレの発生にも安心なローパスフィルター搭載仕様であることからも、より汎用性の高いZ 6の性格を見てとることができる。

Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 70mm / 絞り優先AE(1/30秒・F8・-0.7EV) / ISO 100

回折補正機能

そしてその解像感をデジタルカメラならではの処理で補正してくれるのが「回折補正」機能だ。

一般的に写真用レンズは絞り込むほど解像性能が高くなるが、ある一定の絞り値を超えると絞り羽根の虹彩の縁を回り込んだ光の影響が大きくなり(回折現象)、結果的に画像全体がピンボケのように滲んでしまう。Z 6は高画素なZ 7よりも原理的に回折現象がいくらか起こりにくいものの、それでもF16やF22まで絞り込むと画像の滲みは顕著に見てとれる。これをデジタル的な処理で補正するのが回折補正機能で、ニコンのレンズ交換式カメラではZ 7およびZ 6で初めて搭載された。

初搭載ながらニコンの回折補正機能はなかなか優秀で、絞り込んでシャープさを失っていた画像が、回折補正機能をONにしたとたん「キリッ」と解像感溢れる状態に復活する。機能をONにするとデータ容量が少し大きくなるなど、わずかな弊害も見られるが、絞り込んだ時の画質向上は明らかなので、基本的にはONのままで使った方がよいだろう(初期設定はON)。

Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 70mm / 絞り優先AE(0.8秒・F22・±0EV) / ISO 100

回折補正ON
回折補正OFF

ミドルレンジシャープ&クイックシャープ

ニコンのデジタルカメラは仕上げ設定にピクチャースタイルを搭載している。このピクチャースタイルのシャープネス調整項目に、従来からの「輪郭協調」と「明瞭度」に加え、新たに「ミドルレンジシャープ」が加わった。

従来の「輪郭協調」や「明瞭度」と違い、被写体がもつテクスチャー(被写体の質感を表現する部分的変化)に働きかけるシャープネスであるため、自然さを保ちながら鮮鋭性を強くしたり柔らかくしたりできるのが特徴だ。

ミドルレンジシャープ +5
Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 48mm / 絞り優先AE(1/250秒・F8・±0EV) / ISO 100
ミドルレンジシャープ -5
Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 48mm / 絞り優先AE(1/250秒・F8・±0EV) / ISO 100

そうはいっても「シャープネス調整項目がたくさんあっても現場では何をどうしたらいいか分からないよ」と思う方もいるかもしれない。筆者もそう思う。

そんな場合に便利なのが、これも新しく用意された輪郭協調と明瞭度とミドルレンジシャープを一括で調整できる「クイックシャープ」である。

クイックシャープではパラメータを、「くっきり」方向に2段階、「やわらか」方向に2段階、それぞれ選ぶだけで3つのシャープネス項目を調整してくれるので、感覚的な操作で最適なシャープネスを得ることができる。「A(オート)」を選択すればシーンに合わせてカメラまかせにすることも可能だ。

なお、ミドルレンジシャープおよびクイックシャープ機能は、Z 6とZ 7が共通して搭載している新機能である。

くっきり +2
Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 48mm / 絞り優先AE(1/250秒・F8・±0EV) / ISO 100
やわらか -2
Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 48mm / 絞り優先AE(1/250秒・F8・±0EV) / ISO 100

連写

「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」のテレ端を使い、こちらに向かって歩いてくる猫を高速連続撮影(拡張)「H」、AF-Cで連続撮影した。結構な至近距離となるのでAFで被写体を追従するのは難しいシーンであるが、全てのコマでほぼ問題なく被写界深度の許容範囲におさまっている。

極端に速い野生動物やモータースポーツの撮影では難しいかもしれないが、一般的な動体撮影であれば問題ない撮影能力をもっている印象だ。AF領域が広いので横や縦に動く被写体でも捕捉し続けやすい点は、一眼レフカメラに勝っている。

ただ、作例で使用した高速連続撮影(拡張)「H+」は約12コマ/秒が可能であるものの、露出は1コマ目で固定となってしまう。今回のように露出の安定したシーンでは問題ないが、被写体が日向や日陰を行き来するようなシーンでは、場合によっては露出オーバーやアンダーとなってしまう。

AF、AEともに追従するのは高速連続撮影「H」であるが、こちらは最高でも約5.5コマ/秒と連続撮影速度はお世辞にも速くない。その上連写中は1コマ毎にEVFや背面モニターが大きくブラックアウトしてしまうので、速く動く被写体を追い続けるのにも慣れが必要になると思った方がよいだろう。

動画

動画撮影機能も試してみた。Z 6は、フルフレームでの4K動画(3,840×2,160ピクセル/30fps)の撮影が可能。全画素読み出しによる豊富な情報を活用しており、モアレやジャギーの少ない、非常に高い動画画質である。

作例

「NIKKOR Z 35mm f/1.8 S」を絞りを開放にして撮影した。焦点距離35mmは広角とも準標準ともいわれる広めの画角であるが、それでも被写体の前後を気持ちよく大きくぼかすことができる。この美しいボケ味を軽量なボディで気軽に楽しめるところがフルサイズミラーレスカメラの醍醐味といっていいだろう。

Z 6 / NIKKOR Z 35mm f/1.8 S / 35mm / 絞り優先AE(1/8000秒・F1.8・-0.3EV) / ISO 100

こちらは反対に被写界深度をかせぐために、できるだけ絞り込んで撮影した。FXフォーマットで被写界深度を深くしようとすると、どうしてもそれなりに絞り込む必要がある。するとシャッター速度が遅くなってしまうのだが、Z 6は最高約5段分の5軸手ブレ補正機構をボディ内に内蔵しているので安心だ。カメラの構えをシッカリすれば、場合によって5段分以上いけるのでは? と思えるほど補正がよく効く。

Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 70mm / 絞り優先AE(1/10秒・F16・-0.7EV) / ISO 100

太陽とタンポポが重なり気味になるように構図をつくってみた。チルト式の背面モニターを引き出してのローアングル撮影。一眼レフカメラでも同様にライブビュー撮影は行えるが、やはり可動式のモニターの使用はバランスがとりやすいミラーレスカメラの方が相性が良い。完全に白トビせず、ギリギリまで粘るダイナミックレンジの広さにも感心した。

Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 62mm / 絞り優先AE(1/5000秒・F4・-0.3EV) / ISO 100

ホワイトバランスを「自然光オート」に設定して撮影した。自然光オートはD850から搭載された新しいホワイトバランスプリセットで、文字通り自然光下における自然かつ印象的な色の出方が抜群に素晴らしい。個人的にはこの自然光オートが使えるというだけで、Z 6に大きな魅力を感じてしまう。

Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 70mm / 絞り優先AE(1/60秒・F8・±0EV) / ISO 100

Z 6およびZ 7から、独創的な表現を可能とする20種類の「クリエイティブピクチャーコントロール」が搭載された。位置づけ的には仕上がり設定の一種なので、従来のピクチャーコントロールの設定画面から選択することができる。

EVF上で仕上がりの変化を確認しながら設定できるので、どのシーンにどのクリエイティブピクチャーコントロールが最適かを選ぶのも簡単だ。作例は「ドラマ」で撮影した。

Z 6 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 70mm / 絞り優先AE(1/60秒・F5.6・±0EV) / ISO 100

まとめ

Z 6は大きさ、重さ、スリムさのバランスが実に程よく、とても使いやすいカメラだった、というのが偽らざる感想。ミラーを省略して小さくなったからというだけではないだろう。被写体と向き合ってカメラを構えた時、設定を変更しているとき、シャッターを押した時、撮影画像を確認する時など、それら全ての動作を考え抜かれて造られた出来の良さがカメラから伝わってくるのである。

最新機種なのだから、既成の同社2,400万画素クラスのデジタル一眼レフカメラに比べて画質が向上しているのは当然である。それよりも専用のZマウントレンズの描写性能が非常に高いことに改めて驚かされた。個人的には手持ちのFマウントレンズ資産を活用したいので、Z 6かZ 7のどちらかを買おうかと考えていたが、本当にZシリーズの良さを知りたいならば、やはりレンズもZマウントレンズにすべきだと考えを改めなければならない。

Z 6とZ 7のどちらを選ぶべきかという問題だが、負け惜しみでなく、筆者はZ 6が欲しいと思った。Z 7の高画素からくる画像の解像感も捨てがたいという気持ちはあるものの、自分の撮影スタイルを見直してみると、Z 6の2,450万画素でも過分といってもいいくらいだ。

本格的な動体撮影ではまだハイエンドのデジタル一眼レフカメラに及ばないが、「デジタル一眼レフカメラのサブ機のつもりで買ったらいつの間にかメイン機になっていた」と、そのくらいの完成度をもったカメラであることは間違いない。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。