ニコンZ × NKKOR Zレンズ 写真家インタビュー
プロスポーツの現場で違和感ない操作性 高感度画質も○…スポーツ写真家・松尾憲二郎さん
2020年3月30日 07:00
シビアなプロスポーツの撮影現場において、フォトグラファーから絶大な信頼を得ている「ニコン」。ただそれはあくまで「一眼レフカメラのニコン」というイメージが現場の感覚だろう。
そんなプロスポーツの現場で「Nikon Z 6」を愛用するのが松尾憲二郎さんだ。ニコンの一眼レフカメラ「D5」での撮影と並行して、「Nikon Z 6」の可能性を日々探っているという。
いち早く試してもらった「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」のインプレッションとあわせて、「Nikon Z 6」による松尾さんの作品とインタビューをお楽しみいただきたい。(聞き手:中村僚、作品キャプション:松尾憲二郎)
思わず声が出るようなスポーツ写真を目指して
——松尾さんが写真家になったきっかけを教えてください。
僕はもともとスキーのプレイヤーで、各地の大会に出場していました。山やスキーが好きだったので、そこで何か仕事ができれば、ずっと好きな場所にいられると考えました。
実際に何をしようかと考えた時に、もうひとつ好きだったのが写真だったのです。写真を本気でやったらどうなるか試してみたくて、スポーツ雑誌やスポーツ用品のメーカーに売り込みに行ったのが、写真で生計を立てる第一歩でしたね。
——写真は独学でしょうか?
アシスタント時代に勉強したことが多いですね。大学を出てから複数のカメラマンのもとでアシスタントをさせていただきました。スキーヤーを続けていた頃は、夏に撮影アシスタント、冬に雪山、といった生活をしていました。
——雪山での撮影となると、雪や風の中で機材を守らなければならないなど、過酷な環境を想像します。
そうです。晴天の日はほとんどないくらいで、たとえ晴れていても風が強い時は雪が飛んできます。すぐしまわないとカメラボディやレンズに雪が付き結露の原因にもなるため、バッグを体の前に掛けて、撮影したらすぐカメラをしまうようにしていました。
——山スキー競技を中心に撮影してきた松尾さんが、他の競技も撮るようになったのはなぜですか?
東京での五輪開催が決まったことをきっかけに、「スキー以外の他の競技も撮ってみたい」と思うようになりました。ただ、フリーランスで撮影するのは難しく、五輪を「撮れる」会社に行かなければならない。そこで現在所属しているアフロス ポーツに応募し、採用してもらったという流れです。
——スキーとそれ以外の競技とで撮影に違いはありますか?
使用する機材は変わりました。スキーでは前に提げたバッグに入るような小さいカメラでしたが、報道の現場では画素数よりも高感度に強いことが重要です。また外的ショックにも強いボディ、指定の撮影ポジションから撮影するため超望遠レンズも必要になりました。そうなると大きなボディが必要で、それに見合った写りを出せるレンズも必要になりました。
撮る競技が幅広くなったこともあり、300mmや400mm F2.8といった超望遠レンズもその頃から使い始めました。でも被写体との距離の違いや具体的な撮影技法は、「習うより慣れろ」ですし、そんなに苦ではありませんでした。
——スポーツ撮影における松尾さんのテーマは?
スポーツ報道は事実を伝える役目が大きいと思います。するとどうしても広角気味に引いて撮影し、説明的な写真になりがちです。でも僕は同じシチュエーションでできるだけ被写体に近づき、観る人を唸らせるような、思わず声が出てしまうような写真を撮りたいと考えています。
一眼レフと並行して使える操作性
——そもそもミラーレスカメラの「Nikon Z 6」を導入されたきっかけは?
Nikon Zマウントの広角ズームレンズ「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」を使いたかったためです。このレンズは現在でも現場での雑感カットなどで活躍しています。ボディとレンズを長時間首から提げても苦にならず、どこにでも持ち出せるサイズがありがたいです。試合そのものを撮るカメラとしては、これまで通り「D5」がメインですね。
——今回はその「Nikon Z 6」で卓球の試合を撮影していただきました。スポーツのように激しく動く被写体を望遠レンズで撮るとき、どのような点が重要になるのでしょうか。
僕がもっとも大事にしているのは、合わせたい瞬間、合わせたいところにピントが合っているかです。そのためにはAFがどれだけ速く正確に動作するかが、写真の出来に直結してきます。フォーカスポイントがある場所は、僕が絶対にピントを合わせたい場所。それをカメラが察知してくれて、より速く、より正確に捉えてほしい。カメラのAF精度と速度を「頭が良い」と表現する人もいますよね。僕も同感です。
ミラーレスカメラの「Nikon Z 6」は、フォーカスポイントが撮影領域のほぼ全域で機能します。そういった意味では、同じフルサイズの一眼レフカメラより優位にあると感じます。2020年2月に公開されたVer.3.00のファームウェアで、狙った被写体の切り替えが次々とできるようになりましたから、だいぶ使いやすくなりました。
「Nikon Z 6」で気にいっている点はまだあります。高感度耐性の強さです。スポーツ撮影では選手の動きを確実に止めて撮影するため、シャッター速度は最低でも1/1,250秒は確保したい。そうなると、室内競技ではISO 6400やISO 8000が当たり前になります。
その点、「Nikon Z 6」のISO 6400やISO 8000は許容範囲です。もしミラーレスカメラの高感度耐性がより高まり、ISO 12800などで撮影しても広告で使えるようなレベルになれば、写真の可能性はより広がっていくと思います。
——操作感はいかがでしたか?
普段からカメラを使いこなしていないとスポーツの現場では使えません。とにかく身体に、指に、しみこませなければならない。「あっ」と思った次の瞬間にAF設定を変更、AFの動き方を予測して「パッ」と瞬間的に撮る。一瞬でやらないと間に合わないのです。
加えて、スポーツ選手が試合中に見せる動きは、いくら経験を積んでもすべては予測できません。
「Nikon Z 6」は、初めて持った時から何の違和感もなくなじんでくれました。メインで使っている「D5」とボディの大きさやボタンの位置は違いますが、それでも特に違和感なく使えていますし、撮影中「D5」に持ち替えた時も問題ありません。同ダイヤルの固さ、シャッターボタンを押した感覚、ホールド位置から各ボタンへの距離など、同じニコンの遺伝子であるためか、よく計算されて設計されていると思います。
——スポーツ写真には、とにかくたくさん撮るイメージがあります。「Nikon Z 6」のバッテリーの持ちはいかがでしょうか。
ミラーレスカメラであると考えると驚くほど優秀です。ニコンの技術力が発揮されているのではないでしょうか。不安を覚えないといえば、メモリーカードスロットが1つしかない点も、個人的には気になりません。
電子ビューファインダーで撮影画像を再生できる点も良いですね。屋内でも照明が強いと背面モニターが見にくいこともあり、そんなときは外光の影響を受けないファインダー内で撮影画像を確認しています。
撮影現場の要求に対応する詳細な設定項目
——瞬発力が求められる現場では、ボタンのカスタマイズも重要になるのでは?
ボディ前面のFn2ボタンにAFモードとAFエリアモードの切り替えを割り当ててあり、頻繁にモードを替えています。
Fn1ボタンには再生時のレーティング機能を設定しています。競技の合間に確認して星印をつけておき、終わったらすぐにそれらを絞り込んで会社の写真検索サイトへ送信するのです。速報性が求められますので、ファインダー内で撮影画像を確認できる点とあわせてこれは便利ですね。
——撮影設定もお聞かせください。
露出はマニュアルで合わせます。ホワイトバランスの選択肢は大きく2パターンあります。プリセットマニュアルで現場の照明の色に合わせるケースと、とりあえずオートで何枚か撮ってその中から選ぶケースの2つです。
例えばフィギュアスケートの場合、壁の白、リンクの白、衣装の白……といった具合に色々な白があります。その中で一番ふさわしいものを選び、あくまで僕の直観で「今日はこれ」と決めます。
——RAWで撮影して後から変更することはないのですか?
普段から僕はJPEGでしか撮りません。連写を多用するためRAWで撮ってしまうと、メモリーカードへの書き込みが追い付かないのです。パソコンでの作業も遅くなりますよね。
報道の現場では、極端に大きな解像度は求められていません。それよりもホワイトバランスがビタッと決まっているかどうかが印象を変える要素だと考えます。装着するレンズの特性や、レンズ交換による微妙な色の違いも考えて、総合的にホワイトバランスを決めるようにしています。
——JPEGで撮って出しとなると、ピクチャーコントロールも重要になるのではないでしょうか。
僕は自分でオリジナルの設定を作りました。「スタンダード」といえども、レンズによって仕上がりが違ってきますから、それぞれのレンズを活かすために、会場ごとに設定を替えます。設定は照明の色や強さによっても変わりますし、ユニフォームや肌の色も影響するので、撮影を重ねるごとに更新していきますね。
——スポーツを撮るとなると、AFロックオンの設定も重要なのでしょうか。
そうですね。「AFロックオン」の中に「横切りへの反応」という項目があり、僕はこれを「鈍感」にしています。カメラと被写体の間に別の被写体が入るケースに対応するためです。競技中は対戦相手や審判、ボールなど、さまざまなものが飛び交いますから、被写体をロックオンし続けることはとても大事です。
——そのほか何か特別に設定していることはありますか?
アクティブD-ライティングを「弱め」にしています。ホワイトバランスやピクチャーコントロールも含めてですが、自分の見ていた景色に近づけるためにいろいろ試した結果、「弱め」が一番しっくりきました。設定さえ整えれば、「Nikon Z 6」は自分の頭の中にあるイメージをしっかり再現してくれます。
高性能で使いでのある「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」
——レンズについても聞かせてください。今回は発売予定の「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」を使っていただきました。
すごいレンズですね。「D5」で愛用しているFマウントの「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」が出た時も「これ以上何を良くするのだろう」と思っていましたが、これはさらにすごいレンズです。細い線、髪の毛の一本一本、瞳やまつ毛のきらめき方……すべてを精密に写し撮ります。「マクロレンズを使っているよう」という表現が一番しっくりきています。
今回は卓球を撮影しましたが、ラケット競技の撮影はかなり難しいのです。上下左右に動いたり、打つ瞬間で動きの軌道が変わったりするので、どう動くかがなかなか読めません。それをここまでとらえてくれて、十分すぎるほどの写りになっています。ゴーストやフレアも気になりませんでした。
——今回のレンズにも手ブレ補正が搭載されています。やはりスポーツではVRは有効ですか?
NIKKOR Zになっても相変わらず効きが良いです。良すぎて使いすぎに注意です。あまりにもブレがなくなるので、腕が鈍ります(笑)。たまにボディも含めて手ブレ補正をすべてオフにして撮影しますが、そうすると構え方を思い出して、初心に立ち返ったりします。自分の構えがしっかりすれば、VRとの相乗効果が上がりますから。
——ボディとのバランスや操作感はいかがですか?
特に違和感はなかったですね。少し三脚座が太くなったのが気になりましたが、ボディを含めれば軽くなっていますし、操作感に問題はありません。
良かったのがピントリングです。「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」より細くなり、操作の固さもちょうどいい。僕はAFが迷って奥に合わせてしまったときに、ピントリングでフォーカス位置を手前まで戻してからAFを作動し直すのです。それが一番速いというか確実にピントを合わせにいけます。
ただし基本的にAFで撮影していますので、必要なとき以外はピントリングには触れたくありません。つまり、ピントリングはないと困るけど、太いと不意に触ってしまったときにピント位置がズレるので困る。そういう意味ではこのレンズのピントリングはちょうど良く感じました。
——このレンズはどのような競技で使用できそうでしょうか?
僕ならバスケと柔道、卓球、バドミントン、サッカーで使います。300mmや600mmと組み合わせるのも良いですね。サッカーのような広いコートの競技だと、70−200mmは広角レンズのような感覚で使えます。
焦点距離70-200mmのレンズは、ほぼすべてのスポーツの現場で活用できます。画角の守備範囲が広いのに加えて、開放絞り値がF2.8であることも大事です。F4ではどうしても使える場面が限られます。
それくらいマストな一本が「NIKKOR Z レンズ」から早々に発売され、しかもこれだけ写りがいい。あとはミラーレスカメラでAFが「D5」並みのボディ登場に期待しています。
松尾さんが解説する「Nikon Z 6」&「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」記事がデジタルカメラマガジンに
デジタルカメラマガジン2020年4月号では、松尾憲二郎さんが「Nikon Z 6」「NIKKOR Z 70-200mm f/2.8 VR S」を使用したテクニックを紹介しています。こちらもぜひご覧ください。
制作協力:株式会社ニコンイメージングジャパン