ニコンZ × NKKOR Zレンズ 写真家インタビュー
小型軽量なのに申し分のない性能 抜けの良さ・立体感が作品を変えた…saizouさん
2019年8月27日 07:00
ニコン初のフルサイズミラーレスカメラ「Z 7」「Z 6」が発売され、写真家の間にも浸透してきた感がある。しかし、我々にとって、「ニコン=高性能な一眼レフカメラ」のイメージがいまもなお強い。そうした中、Nikon Zの所有に至ったニコンを愛する写真家も、もちろんいる。
この連載は、Nikon Zを使いこなす写真家に登場いただき、Nikon Zに惹かれた理由や、そのきっかけなどを聞くインタビュー企画だ。お気に入りのNIKKOR Zレンズについても話をしてもらう。
今回は風景写真家のsaizouさんに、愛用するZ 7とNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sについて聞いてみた。(聞き手:中村僚、作品キャプション:saizou)
自分にぴったりくる「ニコン」
――saizouさんが写真家になったきっかけは?
Instagramなどが普及する前に、スマートフォンで写真を撮ってフィルターをかけて遊んでいました。旅先の記録を残すのが楽しかったのですが、撮っているうちにやっぱり背景がボケた写真を撮りたくなって、そのために一眼レフカメラを買ったのがまずカメラを始めたきっかけです。
最初に買ったカメラはニコンD5100です。カメラを買いに家電量販店に行って悩んでいたら店員さんにニコンを勧められて決めました。その店員さんもニコンユーザーだったんですよね。その人が楽しそうに撮影の話をするし、「ニコンで間違いない」と言っていたので、その営業トークに口説かれて購入しました(笑)。
それ以来ずっとニコンですね。そして同時期にInstagramも流行しだしたので、少しずつ投稿するようになっていきました。
――ニコン以外のメーカーのカメラも使ったことはありますか?
いくつかありますが、ニコンは持った時のフィット感、シャッターの振動、ファインダーを見た感じなど、一挙手一投足がすべてぴったりきます。他のメーカーにはそれがないので。性能や画素数、イメージセンサーなどの要素ももちろん重要ですけど、個人的にカメラを持って楽しいのはニコンですね。ただこれは人にもよるでしょう。
D5100を買って写真を撮るようになると、どんどんのめり込んでいきました。例えば道端に咲いている花の名前も、写真を撮る前は知りませんでしたし、星を見た時も写真に撮ることでより鮮明になって、それぞれの星座の名前も覚えました。写真を撮る前は知らなかった世界や発見に、写真を通して出会えたのが本当に大きいです。朝の日の出前の景色がこんなにもきれいであることにも気づけなかったでしょうし、雲海を初めて見た時は本当に感動しました。カメラが連れて行ってくれた景色だと思います。今でも新しい発見やまだ見たことのない景色を求めて、いろんなところへ足を運んでいます。
――saizouさんの写真は基本的に風景が多いですよね。自然を相手にした撮影では、天候などの気象条件が揃わないこともあると想像しますが、毎回成功するのでしょうか?
僕の場合、写真におさめることでどんな場所でも絶景にできるという楽しみがあります。曇っている時でも曇っているなりの写真を撮りますし、雨でも同じです。もちろんある程度の条件はありますけど、撮影地に行けば何かしらの成果を持ち帰りますし、現像で仕上げる楽しみもあります。どんな場所、どんな被写体でも楽しんで撮影できますね。
快適な操作性と良好なフィーリング
――saizouさんがカメラに求めることは?
フィーリングですね。持った時に手に馴染むか、シャッターを押した感じ、ボタンの配置などです。Z 7はボタンが減ってボディの右側に集中しているのではじめは少し心配でしたが、実際に使ってみると右手ですべて操作できるので快適です。Z 7の前にD750を使っていましたが、D750よりもいい感触です。加えて段違いに描写がきれいなので、本当に買ってよかったと思います。
Z 7は発売日に買いました。購入の決め手は、マウントです。今までのFマウントではなく新しい口径を作るということは、今までの形を変えてでも新しいことがしたいという決意のあらわれだと思いました。この覚悟は受け止めるべきだなと。
――操作性で気に入っている部分はありますか?
ファインダーを覗きながら等倍表示ができる点です。僕はカスタムボタンに等倍表示機能を割り当てているので、一発で切り替えることができます。なので、電子ビューファインダーは抵抗がないどころか、ものすごく気に入っています。
一眼レフカメラを使っている時もライブビューを見てピント合わせをしていたので、自分としては一眼レフでもミラーレスでもどっちでもよかったんです。D750は光学ファインダーなので、拡大表示ができませんから。ただZ 7に切り替えてからはEVFですべて確認しています。
長時間露光のノイズの少なさに驚く
――撮影設定を聞かせてください。
基本は絞り優先で撮影しています。ブラケット撮影で2EV程度露出が違うものを3枚撮影しておき、現像の際に合成して露出を合わせます。撮影時は少し暗めにすることが多いですね。Z 7は階調表現が豊かなので、露出差は比較的大きめにしてブラケット撮影をします。白とびと黒つぶれは避けるようにしています。ワンショットで完成させるよりも、素材を撮影して現像で完成させるイメージです。
感度は一番上げたとしてもISO 400です。僕の場合、撮影時のノイズ低減設定は撮影時・長時間露光ともにオフにして、現像時にノイズ除去作業をします。そのため、撮影時になるべくノイズを発生させないことが重要なので、感度はあまり上げられません。
驚いたことにZ 7の場合、長時間露光でのノイズがほとんど出ません。星の撮影で2〜3時間の長時間露光ではものすごく有利です。レタッチでの処理もしませんね。
ホワイトバランスはオートです。Z 7からはオートの表現もクリアになったと感じます。朝焼けや夕焼けの時に「日陰」などにすることもあります。ピクチャーコントロールは「スタンダード」で固定です。このあたりの表現は現像処理ですね。
撮影地に行く時点で、完成イメージはある程度頭の中にできています。現場に着いてからは少し修正をしながら、どれだけイメージに近づけられるか、という撮影です。晴れの景色を狙いに行って、現地で雨が降る、ということもほとんどないんですよ。天気予報を見てから行きますし、現地で急に天候が変わることもほぼないです。運がいいと思います(笑)。思った通りの天気にならない時は、そもそも行きませんからね。
高速で正確なAF
――ピントはどのように合わせますか?
EVFで等倍表示して、AFで合わせます。AFモードは「AF-S」、AFエリアモードは「シングルポイント」で、メインの被写体にフォーカスポイントを置いて合わせます。Z 7のAFは速いし正確ですよ。D750ではライブビューをの等倍表示でMFを使って合わせていましたが、Z 7ではAFの方が正確に合わせられますから。
――細かい機能も聞かせてください。EVFをメインで使っているようですが、背面モニターを使って撮ることもありますか?
はい。三脚を使う時や、ローアングルやハイアングルで撮影する時に使います。D750でもチルト式の背面モニターだったので、Z 7でも引き続き使えるのはありがたいです。
――Z 7のメモリーカードですが、XQDカードのワンスロットのみになっています。その使用感はいかがですか?
特に気にならないです。画像が破損したり消去したりすることもありませんし、XQDカードなのでSDカードよりも読み出し/書き込み速度も速いです。64GBを2枚、128GBを1枚持っています。僕の場合はRAW画像しか記録しないので、シングルスロットでも困りません。PCへの取り込みも高速ですね。
抜け感の良い「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」の画質
――レンズの話も聞かせてください。NIKKOR Zレンズは何をお持ちですか?
「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」と、「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」の2本です。マウントアダプターもあるので、NIKKOR Fレンズも使います。NIKKOR Fレンズの時は、個人的にズームレンズの描写に少し不満があり、なるべく単焦点レンズを使っていました。NIKKOR Zレンズはズームレンズでもまったく問題ありません。
――NIKKOR Fレンズも含めて、ニコンのレンズ全体にはどんな印象をお持ちですか?
良くも悪くもストレートな感じです。味が付いてない色というか。他のメーカーだとコントラストが強くついたり、フレアやゴーストが出やすくてふんわりとした描写になったりして、それが特徴になりますが、ニコンはそれがほとんどありません。
NIKKOR FレンズとNIKKOR Zレンズの印象も少し違います。コントラストの抜けがいいんですよね。空気感や立体感がよりクリアに表現されている気がします。もちろんカメラ側の高画質もあると思いますが、レンズの性能も大きいです。
そのせいで最近の自分の作品は少し地味になりました(笑)。あまりレタッチをする必要がなくなり、撮影したまま手を加えなくてもいい写真になることが増えたので、昔のようにレタッチした結果が前に出るような写真は少なくなりました。
――表現力はいかがでしょう?
とにかく抜けが良いと感じます。コントラスト表現が繊細で、例えば遠くまで続いている広い範囲の風景を撮影すると、空気遠近法で奥の景色は靄がかって見えます。その表現は残しつつも、写真としての抜け感は損なわない色に仕上がります。そのため、自然な立体感を写真で表現できるんです。それに木についている葉の一枚一枚も、以前なら塗り絵のように潰れていたものが、Z 7 & NIKKOR Zレンズになってから細かく表現されるようになりました。
Fマウントの「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR」もいいレンズでしたが、少し解像しきれない部分があり、それが不満でした。Zマウントになってからはそれがなくなり、本当にいいレンズになったと思います。
階調表現もいいですよね。光から影へ移っていく滑らかさも自然です。パソコンの大きくてきれいな画面に写すのが好きになりました。ボケの感じも、単焦点レンズのF1.4の大きなボケではなく、広角F2.8のギリギリ見えるくらいの優しいボケもきれいです。
標準域の焦点距離は、写真として表現するのが難しいんですよね。僕は目で見たものを写すだけでは、目で見た感動には追いつけないと思うんです。写真として、作品として落とし込む時には、それ以外のカメラならではの表現が必要になります。その中で、人間の視野と同じような標準域のレンズを使う時にどう勝負するかは常に考えます。
――操作性はどうでしょうか?
レンズも本体も軽量コンパクトになったことで、持ち運びは相当楽になりました。僕は山に登って撮影に行くことが多いので、軽くなったのは非常にありがたいです。一眼レフカメラとは比べ物にならないですよ。撮影地に着いた時の体力の残り方が違いますから(笑)。それにレンズの性能自体もいいので、今持っているズームレンズ2本で撮影はほぼ完結できます。単焦点レンズは必要ありません。ボディもZ 7だけしか持って行きません。
ちなみにZ 7には「NIKKOR Z 24-70mm f/4 S」が付属するレンズキットがありますが、私は最初からF2.8の方を買うつもりでいました。そのため、レンズキットではなくボディは単体で購入しています。ただF4の方も評判がいいので、F2.8は別に購入し、キットで買っておけばよかったと少し後悔しています(笑)。
――これからリリースされるNIKKOR Zレンズにはどんなものを期待しますか?
11mmとか、極端なものがあってもいいのかなと(笑)。現実的には14-24mm F2.8のZマウントを待ち望んでいます。現行の「NIKKOR Z 14-30mm f/4 S」もとても優れたレンズですけどね。いま持っている2本でほぼ完結できてしまうので、それを超えるようなレンズを気長に待つことにします。
――最後に、Zシリーズに買い換えるかどうか迷っている読者に、どのようなことをオススメしますか?
いま、カメラの時代が変わっている最中だと思います。いまこの機種を買わないと、時代が変わる瞬間を目撃できない。その経験は後々の自分のカメラ人生を変えるくらいの出来事で、ニコンで言えば、Z以前と以後で明確に歴史が変わると思いますし、僕はそれを目の当たりにしています。この感覚は使ってみないとわからないので、みなさんにもぜひ手にとってみてほしいです。
デジタルカメラマガジン最新号も要チェック!!
デジタルカメラマガジン2019年9月号では、石田卓士さんによるNikon ZおよびNIKKOR Z 24-70mm f/2.8 Sのテクニック解説が掲載されています。あわせてご覧ください。