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Nikon Z用マウントアダプター「FTZ」にまつわる噂は本当なのか? 検証してみた

ミラーレスの可能性を再認識 既存レンズを有効活用しよう

マウントアダプター FTZ。ニコンのNIKKOR FレンズをNikon Zボディで使用できるようにする。

「Nikon Z 7」および「Nikon Z 6」は、ニコンが発売した35mmフルサイズミラーレスカメラである。2018年9月にまず有効約4,575万画素のNikon Z 7が登場し、続く11月に同2,450万画素のNikon Z 6が発売された。

ニコン初のフルサイズミラーレスカメラということで大いに話題を呼び、着実にユーザーを増やしてきた。レンズマウントは新規格のZマウントを採用しているが、純正のマウントアダプター「FTZ」を介せば、既存の一眼レフカメラ用NIKKOR Fレンズも使えるというのも、多くのニコンファンを納得させる理由のひとつとなっている。今年5月には新ファームウェアがリリースされ、「瞳AF」を始めとしてさらに機能が充実してきたところである。

ところがマウントアダプターFTZについて、若干ネガティブな意見を見かけることがある。今回はそうした見解について実際に撮影を通して検証してみたので参考にしていただきたい。

ちなみにマウントアダプターとはレンズとボディの間に装着して、レンズとイメージセンサーの間の距離を調整するためのものの。FTZはニコン純正のマウントアダプターで、電子接点を持ち、AF機構搭載のNIKKOR FレンズのAF動作が可能になっている。

Nikon Z 7にFTZを介してAF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VRを装着した状態。

今回使ったNIKKOR Fレンズ+FTZ

検証のため、NIKKOR Fレンズを揃えてみた。いずれも現行のレンズである。写真はすべてFTZを介してNikon Z 7につけた状態だ。

AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR+FTZ
AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR+FTZ
AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED+FTZ

FTZを使うとAF速度が落ちる?

まずは合焦速度の違いを確認するために、Nikon Z 7に「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」と「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR+FTZ」を装着して試してみた。遠景にある同じ被写体を、大ボケ状態(最短撮影距離)からAFで合焦させるというものである。動画開始から約4秒後にシャッターボタンを半押ししてAFを作動させている。

Nikon Z 7 AFテスト:遠景:NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
Nikon Z 7 AFテスト:遠景:AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR+FTZ

「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」でも「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR」+「FTZ」でも、まったく実用上まったく問題なく、素早く合焦していることが分かる。

考えてみればこれは当たり前のことだ。「NIKKOR Z 24-70mm f/2.8 S」と「AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR」はどちらもレンズ内モーターなので、基本的にはAF速度はそれぞれが内蔵するAFモーターの性能に依存することになる。

念のため、望遠ズームレンズの「AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR」でも試してみた。

今のところ望遠ズームレンズが用意されていないため、NIKKOR Zレンズとの比較はできないが、こちらも実使用上まったく問題のない性能でAFが作動することを確認できた。

Nikon Z 7 AFテスト:遠景:AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR+FTZ

FTZを使うと描写力が落ちる?

ボディに直接装着するNIKKOR Zレンズに対し、FTZを介して使用するNIKKOR Fレンズ。もしかすると「専用レンズほどの精度がなく、解像感が落ちてしまうのでは」との不安を持つ読者がいるかもしれない。NIKKOR ZレンズとNIKKOR Fレンズで解像力を比較してみた。

(100%に拡大して表示)Nikon Z 7 / NIKKOR Z 24-70mm f/4 S / 70mm / 絞り優先AE(1/80秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 100
(100%に拡大して表示)Nikon Z 7 / AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR+FTZ / 70mm / 絞り優先AE(1/100秒・F5.6・±0.0EV) / ISO 100

そもそもレンズが異なるため描写もまったく同じにはなり得ないが、NIKKOR Fレンズの方も高画質に記録されているのがわかる。部分的に細かな描写の違いは見て取れるかもしれないが、それらはFTZを使用したことによる違いでなく、レンズ固有の描写性能の違いである。

FTZは、単にZマウントの規格に合うようにフランジバックを調節しているだけで、それによって描写性能に違いが生じることは光学的にありえない。もちろん、アダプターを間にいれつつフランジバックが合わなければならないが、そこは信頼のニコン製。Nikon Zボディがあれば、NIKKOR ZレンズとNIKKOR Fレンズの描写の違いを、1台で楽しめてしまうのである。

FTZを使うと瞳AFが作動しない?

5月16日に新ファームウェア(Ver.2.00)がリリースされ、要望の多かった「瞳AF」が実装された。これによって、これまでもオートエリアAFで使えた「顔認識」より、格段に高精度な人物撮影が可能になったというわけである。

新たに搭載された瞳AFはNIKKOR Zレンズ使用時のみ可能……などということはなく、NIKKOR Fレンズ+FTZ使用時でも問題なく使えた。

Nikon Z 7 AFテスト:瞳(等距離):NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
Nikon Z 7 AFテスト:瞳(等距離):AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR+FTZ

ある程度までの距離は顔認識AF、近づくと瞳AFに切り替わる。そのタイミングも、NIKKOR ZレンズとNIKKOR Fレンズ+FTZで違いは見られなかった。

Nikon Z 7 AFテスト:瞳(等速度移動):NIKKOR Z 24-70mm f/4 S
Nikon Z 7 AFテスト:瞳(等速度移動):AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8E ED VR+FTZ

開放F値F1.4の「AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED」でも、FTZを介して瞳AFを試してみた。

Nikon Z 7 AFテスト:瞳(F1.4三脚固定):AF-S NIKKOR 105mm f/1.4E ED+FTZ

被写界深度の浅い大口径レンズであっても瞳の検出精度は高く、人物が後ろを向いたりして一時的に瞳を検出できない状態になったとしても、すぐに復帰してくれる。左右どちらの瞳にするかをマルチセレクターで簡単に選択できるところも優れどころだ。

以上の検証は三脚にカメラを固定して行ったが、手持ち撮影で人物を追いつつ撮影したとしても、常に瞳AFは作動する。

Nikon Z 7 AFテスト:瞳(手持ち撮影):AF-S NIKKOR 70-200mm f/2.8E FL ED VR+FTZ

FTZの話から少し逸れるが、ニコンの瞳AFが予想以上に高性能であることに驚いた。「AF低輝度限界の拡張」や「高速連続撮影(拡張)のAE追従」などにも対応しており、Nikon Zのユーザーにとっては、嬉しいファームアップとなったはずだ。

おまけ:AFモーター非搭載レンズも有効に使える

FTZはAFモーター内蔵のNIKKOR FレンズのみにAF対応している。もちろん、NIKKOR FレンズであってもMFレンズではAFが効かない。

しかし、MFであってもピントの位置を示す「ピーキング表示」機能が使える。背面モニターでのライブビューだけでなく、ファインダー(EVF)で確認することができるのは、ミラーレスカメラであるNikon Zのメリットだ。

ここではMFレンズの例として、AI Nikkor 50mm f/1.4SをNikon Z 7に装着してみた。

AI Nikkor 50mm f/1.4S+FTZ

フォーカスリングを回すと、ピント位置を強調するピーキング表示が現れる。これをファインダーで見ながら確認できるのだ。

Nikon Z 7 MFテスト:ピーキング表示:AI Nikkor 50mm f/1.4S+FTZ

同じく「ピント拡大」機能もMFレンズで活用したい。

Nikon Z 7 MFテスト:拡大表示:AI Nikkor 50mm f/1.4S+FTZ

AFモーター非搭載のNIKKOR Fレンズでも、これまで以上に正確なピント合わせができるため、往年のレンズ資産を有効活用したいという人にとって、有効なアクセサリーになるだろう。

まとめ

FTZは余計な光学系が入っておらず、しかも“ニコン純正”のマウントアダプターである。実際に試用をしてみても、AFの速度や精度の低下は見れられなかった。

それにしても、新ファームウェアVer.2.00で対応した瞳AFの完成度の高さは素晴らしい。この優れた機能を、NIKKOR Zレンズと同じように使うことができるのであるから、NIKKOR Fレンズユーザーは、安心して撮影を楽しんでほしい。

提供:株式会社ニコンイメージングジャパン
モデル:ひらく

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。