新製品レビュー
SIGMA 135mm F1.8 DG HSM | Art(ソニーEマウント用)
切れ味抜群の中望遠レンズ
2018年9月13日 08:11
SIGMA 135mm F1.8 DG HSM | Artは、2017年4月に発売された同社Artラインの中で最大の焦点距離となるレンズだ。非常に高い描写性能が発売当初から話題になっていたが、初期ラインナップはキヤノンEF、ニコンF、シグマSAマウント用しかなく、ソニーEマウントユーザーは同社のMOUNT CONVERTER MC-11(SA-E、EF-E)を介して使う必要があった。
2018年7月に待望のEマウント版が発売されたので早速レビューしてみたい。Eマウントにネイティブ対応したことで、高い描写性はそのままに、αのAF性能をより引き出すことができるレンズになっている。
おすすめのジャンル 被写体 シチュエーション
135mmという焦点距離はやや望遠のため、ポートレートでは全身を写すというよりは、寄り気味のカットを中心に構成していく時に便利なレンズだ。画角も適度に狭く、開放F値F1.8で大きなボケを作りやすいため背景の情報を整理したい時にも有効だ。また、スナップなどでも周囲の情報を整理しつつ、シンプルに場面を切り取っていく用途として長めの焦点距離が好きな人にはおすすめできるレンズになる。
ただし、本レンズは抜群の描写力を発揮する一方で大きく重いため、とりあえずカバンに入れておくというのではなく、明確に撮りたいものが決まっているときに使用したいレンズだ。
ライバル
Eマウント専用で焦点距離が135mmのレンズは、今のところソニー純正のものはない。唯一、ZEISS Batis 2.8/135があるのみだった。
Batis 135mmはEマウント専用設計で開放F値もF2.8に抑えられているので、SIGMA 135mm F1.8 DG HSMに比べると約半分の重量でコンパクトだ。
また、ソニーAマウントの純正レンズとしてSonnar T* 135mm F1.8 ZA(SAL135F18Z)も用意されており、こちらは純正のマウントコンバーター経由でEマウントボディで使用することが可能だ。
Sonnar T* 135mm F1.8 ZAは単体ではSIGMA 135mm F1.8 DG HSMよりも軽量だがマウントコンバーターを使うとあまり変わらなくなってしまう。純正にこだわりがないのであれば描写性重視ならSIGMA 135mm F1.8 DG HSM、機動性重視ならZEISS Batis 2.8/135という選択になるかと思う。
仕様と特徴
レンズの光学設計など主な特徴は先に発売されているキヤノンやニコン用と同じで、色収差を抑える特殊低分散レンズ4枚(SLD×2、FLD×2)を含む10群13枚構成。フィルター径は82mm、重量1,230gのかなり大きなレンズとなる。最短撮影距離は87.5cm、最大撮影倍率は0.2だ。
今回使用したα7R IIIとのバランスは、かなりフロントヘビーになってしまうため長時間使用するならグリップエクステンションやバッテリーグリップ、他社製の拡張グリップがあった方が良いだろう。
この大きさはシグマArtラインが定める最高の描写性能を追求した結果で、同社では5,000万画素を超えるカメラにも対応すると謳っている。今回は約4,200万画素のα7R IIIを使用したが、高画素をしっかり活かしきる、非常に高い描写性能を有していると感じた。
鏡筒は金属製で、高級感のあるデザイン。フォーカスリングは幅広で適度なトルクがあり、滑らかに動作する。AF/MF、AF距離範囲切り替えスイッチや距離目盛りも搭載。
その他、高速なAFを実現する超音波モーター(HSM)や簡易防塵防滴機構も採用されている。丸形レンズフードも付属する。
作例
それではポートレートを中心に撮影した作例を紹介したい。なお、今回の作例は電子先幕シャッターによるボケの欠けを防ぐため電子先幕をオフにして撮影している。また、多くの作例は瞳AFを使って撮影している。※肌をソフトにするなどの若干の補正を施しています。
まずは開放F1.8での描写を見てもらいたい。大口径単焦点レンズの開放描写は柔らかくなることがお約束だが、本レンズはまったく違う。開放からものすごいキレ味を発揮する。撮影後にモニターでピントチェックしたときに「あれ? F4くらいで撮影したかな?」と設定を見返したほどだ。一方で背景のボケは非常に柔らかく美しい。
135mmでF1.8ともなると、玉ボケの期待も非常に大きくなる。ただし、開放の場合は中央を外れると口径食によってレモン型の歪みが目立ってくるので、形を重視したい場合は注意したい。1段ほど絞れば(F2.5)、円形に近い玉ボケを楽しめるようになる。玉ボケの内部に年輪のようなものも見られず、輪郭もキレイだ。
本レンズは最短撮影距離が87.5cmと、寄って撮影することも可能だ。前ボケも簡単に作り出すことができる。αの瞳AFは手前にある瞳に自動でピントを合わせるが、このように正面に近い場面では右目にピントを合わせたいところ。しばしば左目にピントがいってしまうシーンが発生した。また135mmはパースが出にくいため、顔が中央を外れても歪みが生じにくいというメリットもある。
画角の狭い135mmは全身を入れようとするとモデルからかなり距離をとらないといけないため、街中での撮影などではやや取り回しがしづらい。しかし距離さえとれれば、ある程度ゴチャッとした場所でもピンポイントでスッキリと背景を引き寄せてまとめられる便利さがある。
モデルが日陰に入る低照度の状態で背景の輝度差を意識しながらややアンダーで撮影。開放F1.8というのはボケが大きくなるだけでなく、低照度でも安心して低感度で撮影できたり、AF精度が向上するというメリットもある。
植物の隙間から前後のボケを意識しながら撮影。前後の柔らかく大きなボケとシャープな合焦面のバランスが見事だ。被写体に透明感を感じる描写になった。また、このくらい手前に葉がかかっていても問題なく瞳AFは動作した。
本レンズはポートレート以外でも様々なシーンで使用できる。街のスナップにも使ってみたが望遠気味の焦点距離が好きな人にとっては気になったシーンをサクサクと切り取ってゆけるので楽しいレンズかと思う。少し絞ってF5.6で撮影したが、被写界深度がそれほど浅くないにもかかわらずピントを合わせた中央の赤い花が浮き立って見えるほどにしっかりと解像している。
最短撮影距離ギリギリで小さな花にピントを合わせて撮影した。ここまで寄ると被写界深度は5mm程度と非常に浅くなりマクロっぽい使い方も可能だ。合焦面は十分シャープではあるが、最短撮影距離近くの接写では若干柔らかな描写になるように感じる。
まとめ
すでにキヤノン用、ニコン用で非常に高い評価を得ていた本レンズだが、Eマウント用で高画素のα7R IIIと組み合わせて使ってみると、その描写力に驚いてしまった。
明るくても解像を優先させて少し絞って使いたいレンズは世の中にたくさんあるが、このレンズは躊躇することなく開放から使用することができるし、高解像度レンズに見られるようなボケの硬さも感じない。銘玉といっていいレンズだろう。
今回はAF-C+瞳AFを多用しながら撮影したが、Eマウントにネイティブ対応したこともあり純正レンズと同じ感覚でAFを使用することができ不自由なく撮影できたのもポイントだ。
今回試用したかぎりにおいては描写面での不満点は無いと言っていいほどの完成度の高い仕上がりのレンズであった。価格も10万円台前半と、この描写を考えればバリュープライスといっていい。
唯一の欠点はαとはやや不釣り合いなサイズと重量で、ここさえ許容することができれば「買い」のレンズであるといえるだろう。