新製品レビュー
SONY「Xperia PRO」のカメラ連携を考える
外部モニターにとどまらない運用メリットとは
2021年4月7日 00:00
ソニーのXperia PROは世界初のHDMI入力機能を持つ映像クリエイター向けのスマートフォンだ。今や撮影において最も重要なアクセサリのひとつとなっているスマートフォンだが、せっかく手元に高性能なディスプレイがあるのに、カメラの映像をダイレクトに表示出来ないことをずっと残念に思っていた人も多いと思う。そうした中で登場したXperia PROは、普段はスマートフォンとして利用しながら、撮影時にはHDMI経由でカメラの外部モニターとして使える、まさに筆者が夢見ていた製品だ。今回、Xperia PROを試用する機会を得たので、撮影時にXperia PROがどのように役立つかについて紹介していきたい。
Xperia PROの位置づけ
Xperia PROはCPUやRAM搭載量、ディスプレイ性能、ツァイスレンズ採用のトリプルカメラ、バッテリー容量など、同シリーズのフラッグシップモデルであるXperia 1 II(SIMフリー版)と基本的な機能や性能が共通化されている部分が多い。本機の開発が報じられた際に、同社は基本スペックはXperia 1 IIをベースにしていると語っており、正式に発売を迎えた機体のスペックシートを比較してみても、その説明どおりの内容となっていることが分かる。ざっくり言えば、Xperia 1 IIにHDMI入力と超高速通信規格の5Gミリ波対応、内蔵ストレージ増量を行い、おサイフケータイとワイヤレス充電を省いたのがXperia PROである、というワケだ。
Xperia PROをスマートフォンとして考えた場合、iPhone 12 Pro MaxやGalaxy S21 Ultra 5Gなど、他社ハイエンド機との競合を考えてしまいそうになるが、それはナンセンスだ。Xperia PROの優位性はなんといっても世界で唯一、HDMIの直接入力に対応したスマートフォンであるということであり、他社ハイエンド機とはそもそも競合にはなり得ない、いわば孤高の存在であるからだ。
ボディデザインと操作部
筆者は普段大型のiPhone 12 Pro Maxを使っているのだが、Xperia PROを最初に手にした時はとても大きく感じた。iPhone 12 Pro Maxと比べると横幅は3mmほどスリムだが、縦の長さが約10mm、厚みが3mm大きくかなりの存在感がある。
両者を並べてみるとXperia PROが一回り大きいことが分かるだろう。
ボディ外装は梨地のマットな塗装が施されていて、滑りにくく指紋も目立ちにくいのが良い。質感的にもα7やα9シリーズの塗装に近いもので、これらと組み合わせた時には一体感も感じられるデザイン。カメラは上側から超広角、広角、望遠(16mm、24mm、70mm)のトリプル構成。さらに3D iToFセンサーを備えている。レンズ部が出っ張ることなく、フラットになっているところもポイントだ。
側面には音量ボタンと指紋認証機能を備えた電源ボタンが備えられているほか、利用したいアプリをすぐに呼び出せるショートカットキーと、カメラとして使用する際にレリーズ専用となるシャッターボタンも搭載している。
本体下部にはUSB Type-Cポートと防水キャップに守られたHDMIマイクロ端子(タイプD)を備える。防水、防塵性能はXperia 1 IIと同じくIPX5 /IPX8(防水)、IP6X(防塵)となっている。
外部モニターとしての使い方
ここからはXperia PROの目玉機能であるHDMIによる入力機能を中心に詳しく紹介していきたい。
スマートフォンをカメラの外部モニターとして使う方法はいくつかある。最も手軽な方法はカメラメーカー各社が提供する専用アプリを使いWi-Fi接続でカメラ内の映像を確認することだ。ただし、この方法では確認できる映像が粗く、遅延も大きくなることから、現実的にはざっくりとした構図確認くらいでしか使えないという欠点がある。また、Xperia 1 IIやXperia 5 IIなど一部のスマートフォンではHDMI→USB変換アダプターを使う事でHDMIからの映像をスマートフォンに表示することができるが、配線の取り回しに難がある。
その点Xperia PROはケーブル1本でカメラとの接続が完了するし、表示できる映像も高品質。遅延もみられないため、リアルタイムでの確認用途にしっかりと応えてくれる。接続法も非常に簡単で、カメラとXperia PROをHDMIケーブルで接続して、アプリ「外部モニター」をタップして起動するだけで即座に映像が表示される。
動作にしてもWi-Fi経由で接続したときのような、もっさりした感はなく、一般的な外部モニターと同じ感覚で使える。ディスプレイの表示品質も4K HDRだし、色域はBT.2020に対応。しかも10bit入力にも対応しているのだから、本格的な映像制作で軽量な外部モニターとして使いたいニーズにも合致することだろう。何よりも出荷時に1台1台、ディスプレイの調整がおこなわれていることや、同社のマスターモニターで培われた技術が用いられている点も信頼性を高めているポイントだ。
表示された映像はピンチアウトで4倍まで拡大出来るため細かなピント確認に使う事もできそうだ。その他、グリッドライン、フレームラインの表示や色空間の指定をすることもできる。
ただし、一般的な外部モニターと遜色ないかというと、そこは注意点がいくつかあることも確かだ。例えば、ヒストグラムやゼブラ、ベクトルスコープといった補助機能は搭載されていない。また、ATOMOS NINJAシリーズやBlackmagicdesign Video Assistシリーズのような映像を記録する機能も搭載されていない点には注意しておきたい。「外部モニター」アプリの使用中はOS側で画面録画することもできなかった。
現状Xperia PROのHDMI入力で出来ることは単純な映像の確認のみである。これは、次の項で解説しているとおり、本機のコンセプトが高速な5G回線のメリットを最大限いかしながら、スルーアウトによるリアルタイム配信に特化したものとなっているためだ。とはいえ、より便利に使っていきたいという気持ちがあることも確か。今後のアップデートでさらなるモニター機能が追加されることに、ぜひ期待したい。
ケーブル1本で動画配信を完結出来る
Xperia PROのもうひとつの大きな特徴は、カメラからの高品位な映像をそのまま動画配信サイトへリアルタイムでアップロード出来ることだ。Xperia PROとカメラをHDMIケーブルで直接接続した場合、YouTubeなどの配信アプリではHDMIからの映像が内蔵カメラと同じような扱いとなり、そのままライブ配信することが可能となる。
つまり、パソコンやHDMI変換アダプターを使う事なく、スマートフォンの内蔵カメラでライブ配信するのと同じ感覚で映像配信できるということ。これが本機の核というべきポイントだ。実際にYouTubeアプリで配信テストをしてみたが最小限の機材で簡単に配信することができた。HDMI接続中でもUSB-TypeCポートは空いているため、給電しながら長時間配信が出来るところもポイント。HDMI→USB変換アダプターを使った配信では長時間の配信は難しいので、“そもそもの設計意図が別のところにある”ことが確かに実感できる。
外部モニターとスマートフォンとしての機能を融合させた最小構成での配信機能は、Xperia PROだからこそのメリットであり、機動力が求められる現場からの直接配信が求められるユーザーにとって、そのメリットは他にかえられない魅力ある機能だといえるだろう。
また、本機は高速通信が可能な5G(Sub6、ミリ波)にも対応していることもポイント。現在はまだ利用出来るエリアが限定されるものの、首都圏を中心にサービスエリアが広がりつつある。中でも有線接続なみの通信速度が期待出来るミリ波に対応しているため、インフラ環境さえ整えば超高画質な映像をリアルタイムで配信することが出来そうだ。
α以外のカメラやパソコンとの接続は?
Xperia PROへのHDMI入力はソニーのカメラ以外からの入力も可能だ。手元にあるキヤノンEOS R5とつないでみたが、全く問題なく映像を表示することが出来た。全メーカーのカメラで検証したわけではないが、Web上の情報などを見ても他社カメラとの接続はうまくいくことが多いようだ。
また、MacBookProにApple純正USB TypeC→HDMI変換アダプターを取り付けて繋いでも問題なく画面を出力出来た。さすがにパソコンの画面をそのまま表示させると文字が小さくて実用的ではないが、解像度を変更して工夫すれば、情報表示専用のサブモニターとして活躍するシーンもあるかもしれない。
ただし、WindowsやPlayStationとの接続では一部の環境でうまく接続出来ないことも報告されているため、すべてのHDMI入力を表示出来るとは限らないようだ。僚誌PC Watchではこうした点からの検証も行われているので、カメラ以外に接続して使ってみたいと考えている人は参考にしてみてはどうだろうか。
外部モニターとカメラ内情報表示の関係
Xperia PROが手軽にカメラの外部モニターとして使える事から、ワンマンで自撮りをしながら撮影しようと考えている人もいると思う。こうした使い方をした時の表示がどのような挙動をするのかも確認していった。
一例となるが、αシリーズのカメラに本機を外部モニターとしてHDMI経由で接続した場合、本機のメニューから「HDMI情報表示あり」を選択すると、カメラ側の背面モニターの情報がXperia PRO側のみに表示されるようになり、カメラ側の情報表示がOFFになってしまう。つまり、自撮り用にXperia PROを前面に向けてセットした場合、背面モニターが消えているため撮影中の設定変更がしづらくなってしまうので、注意が必要だ。また、ライブ配信する場合も情報表示ありの画面が配信されるので、注意しておきたい。
一方、HDMI情報表示なしとした場合は、情報表示なしのスルー画がXperia PROに表示される。背面モニター側は音声レベルなどの情報表示ありの画面が通常通り表示される。この場合、カメラ設定は容易になるが、撮影中Xperia PROの画面では音声が正しく入力されているか確認できないので注意しておこう。ライブ配信では情報表示なしの映像が配信される。
これらはXperia PROの仕様によるものではなく、カメラ側のHDMI出力に関わる仕様によるものなので、すべての外部モニターに言えること。本機のワンマン運用で自撮りを考えている場合は、手持ちのカメラのHDMI出力時の挙動を確認しておこう。
気になったポイント
Xperia PROをカメラの外部モニターとして使ってきたが、気になった点もいくつかあった。それは晴天時の屋外で使用した際に表示が暗く感じられたことだ。ディスプレイの輝度は公表されていないが、手持ちのiPhone 12 Pro Maxと比べてもやや暗く感じられた。全く見えないというほどではないが、屋外で積極的に使うのであればサンシェードを用意して使う方が快適な運用ができそうだ。
また、本体のHDMIポートがマイクロ端子(タイプD)である点も注意すべき点だ。最近のデジタルカメラは一部のハイエンド機を除いてHDMIポートをマイクロ端子とする機種が多い。従って、一般的なデジタルカメラとXperia PROを接続するには両端がマイクロ端子となっているHDMIケーブルが必要となる。だがこのケーブルの入手性が正直なところ、あまりよくないのだ。個人的に調べた限り、メジャーなブランドのものを選ぶとなるとATOMOS社のMicro HDMI to Micro HDMIケーブル ストレート(ATOMCAB012)くらいしかなく、Amazon.co.jp等で探してみても海外ノーブランドらしきケーブルがいくつか存在しているだけ。一般的な家電量販店ではなかなか手に入らないと思われる(担当編集もいくつかの量販店をまわってみたものの、見つけられなかったと話している)ので、事前にしっかりと準備しておく必要がある。せっかくケーブル1本ですっきり接続できるのに変換アダプターをかませるというのは、どうにもナンセンスだ。
さらにXperia PRO本体のHDMIマイクロ端子を保護するケーブルクランプのようなアイテムも現状では見当たらないため、ハードな現場で運用する場合は端子保護に注意する必要がありそうだ。
Xperia PROをカメラに直接取り付ける場合はスマホクリップなどを使う必要があるが、側面ボタンとの干渉にも注意しておきたい。Xperia PROの中央をクリップで挟む場合は電源ボタンと干渉してしまう。最近のスマホクリップは挟む部分に空洞があり、ボタンが押されたままにならない製品もあるが、設定中に本体がスリープに入った場合に挟みこんだツメがボタン部分に干渉していると、指紋認証も使えないため、復帰がやりづらくなる。外部モニターが目玉機能であるだけに、ここはデザインの工夫があっても良かったと感じた。
Xperia PROがおすすめな人とは
短期間であるがXperia PROをフルサイズαシリーズと組み合わせたりなどして使ってきたが、感想としては「かなりクセのあるアイテムだ」と感じた。本機をスマートフォンとしてみるのか、外部モニターとしてみるのかによっても評価は大きく異なってくる。
個人的に本機がオススメできそうなユーザー像は、以下のような2つのパターンで利用する人が想像できた。まずはXperia PROを普段はスマートフォンとして活用しつつ、必要に応じて外部モニターとして使うライトユーザーだ。
ときどき外部モニター機能を使う必要があり、持ち歩く荷物を減らしたいユーザーにとっては、普段はXperia PROをスマートフォンとして使いながら、いざとなればHDMIケーブル1本でカメラの外部モニターとして使えるという利便性は非常に大きい。約25万円という価格と、おサイフケータイが使えないというのがメインのスマートフォンとして使うには痛いところだが、それ以外の機能は他のハイエンドスマートフォンと遜色ない機能を有している。
もうひとつのパターンはXperia PROを映像や画像をリアルタイムで配信する必要のある報道関係者などの業務利用やライブ配信を重視しているYouTuberだ。
これまで紹介してきたようにXperia PROの最大の特徴はカメラからの高品位な映像や写真を高速通信のメリットをいかしてリアルタイムで配信・転送できることにある。HDMI端子の堅牢性などにやや難はあるものの、これだけシンプルに高品位な画像・映像を配信出来る機器はほかにない。ここにメリットが見出せれば、比類ない力が得られることだろう。
一方で、Xperia PROの外部モニター機能だけをメインで使いたいユーザーに関しては注意が必要だ。手軽で持ち歩く荷物が減るというメリットはあるが、通常のカメラ用外部モニターと比べると機能が限られるうえ、最大輝度が小さく、堅牢性も劣る(多くの外部モニターはフルサイズのHDMIポートを有している)。高頻度で外部モニターを使うユーザーの場合はこのあたりの制約を加味した上で導入を検討してみると良いだろう。Xperia PROを上手く使うにはモバイル通信とうまく絡めて使う必要がありそうだ。
以上、Xperia PROのHDMI機能と配信機能を中心にレビューをお伝えしてきた。世界初のHDMIの直接入力に対応したスマートフォンとして非常に魅力的な製品であるが、かなりニッチな製品でもある。実際に使ってみても本機は一般ユーザー向けではなく、プロ向け、業務利用向けの機器である事がよく理解できた。
スマートフォンとしての機能、外部モニターとしての機能それぞれにいくつか制約が存在するため、万人受けする製品ではないが、上手くコンセプトや機能メリットがハマる人であれば唯一無二のデバイスとして、大きなメリットをもたらしてくれることだろう。
個人的にはスマートフォンにHDMI入力機能が付くのは大歓迎であり、今回のソニーの挑戦は大きく評価したい。Xperia PROはスマートフォンとカメラの両方を手がけるソニーならではの製品ともいえ、今後外部モニター機能の機能拡張やおサイフケータイの搭載などさらなる進化を期待したい。