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高速通信とカメラを融合させる「Xperia PRO」実機レポート

“プロ向け”たる理由を聞く ミラーレスαとのHDMI接続も

HDMIの直接入力や5Gミリ波帯への対応など、その機能性もさることながら、約23万円という価格でも衆目をさらった、ソニー「Xperia PRO」(2月10日発売)。あらためて製品のポイントを聞く機会を得たので、HDMIでのカメラ接続の様子とともに、同機がどのようなスマートフォンなのかを、お伝えしていきたい。

Xperia 1 II/Xperia 5 IIとの違い

同社のスマートフォンラインアップを振り返ると、フラッグシップ機に位置づけられている機種は「Xperia 1 II」となっている。このXperia 1 IIから画面比率21:9の有機ELディスプレイを継承しながらも、サイズと解像度を6.1インチのフルHD対応としたのが「Xperia 5 II」だ。両機種ともにカメラ性能はほぼ同等。ZEISSレンズを採用したトリプルカメラ構成となっている。ただし違いもある。Xperia 1 IIでは3D iToFセンサーも搭載されているため、暗所AFで一歩リードしている。

左がXperia 1 II、右がXperia 5 II

同社ではXperia 1 IIを明確にフラッグシップ機と位置づけており、Xperia 5 IIは“フラッグシップレンジスマートフォン”として区分けしている。

これら2機種と同じく画面比率21:9のディスプレイを搭載したモデルとして「Xperia 10 II」もある。ディスプレイに有機ELパネルを使用していること、トリプルカメラ構成である点も同じだ。ただし、カメラ部がツァイスレンズを採用していない点や瞳AFへの非対応、ディスプレイサイズが約6.0インチであったりなどの面で差別化されている。位置づけとしては“ミドルレンジモデル”となっている。

Xperia 10 II

今回新たに登場したモデルXperia PROは、Xperia 1 IIの発表と同時に開発が報じられていた機種で、基本スペックはXperia 1 IIに準じた内容となっている。が、その価格はおよそ2倍ほどとなっていることもあり、何が違うのだろうと感じている人も多いことだろう。だが、同社が本機に託した役割や、開発にかけた意気込みから納得できるいくつかの理由が見えてきた。

Xperia PRO。側面右側丈夫には金文字で「PRO」の浮き彫り装飾が施されている。ミラーレスカメラα9を想わせる意匠で、本機が「別格」であることを示している

Xperia PROに託した役割とは

Xperia PROは、どのようなユーザーに向けて開発された製品なのか。これを紐解いていくことが、ひとつの鍵になることは確かだ。

同社によれば、本機の主なターゲットユーザーは、報道カメラマンや映像クリエイター、またこれに準じたYouTuber、Vloggerに据えているという。

これらユーザー層に対して高速なデータ通信環境と通信自体の安定性を提供する、というのが本機の大きな狙いだ。報道であれば、まずスピードが重要となるし、データが確実に届くことも至上命題となる。失敗が許されない状況下で使用してもらう端末だからこそ、その信頼性を担保することは絶対条件だった。

そして、カメラと通信端末の融合ということも、もうひとつ大きなテーマとなっている。

通信とカメラの融合という意味だけならば、すでに携帯端末の多くが達成済みだ。しかし、「カメラとの連携」という点では、まだ途上にある。本機がもたらすカメラとの融合とは、ウリのひとつでもあるHDMIによる映像信号の直接入力にある。それは映像入力で“スマートフォンをモニター代わりにする”というだけではない。本機のもたらすエポックメイキングとは、モニター機能と通信が一体化するというところにある。

外部インターフェースは底面部に配置。中央にHDMI タイプD端子(マイクロ端子)を備えている。また、USB Type-C端子もすぐわきに配したデザインとなっている
α7S IIIとHDMIで接続した状態。画面中央の赤いボタンをタッチすれば、即時配信が可能な状態となっている

もちろん、常にカメラを携行しているとは限らない。だが、多くの人がそうであるようにスマートフォンないし携帯端末は肌身離さず持ち歩くケースがほとんどだろう。例えば、カメラを持っていない時に事件に遭遇したとする。その場で使えるのはスマートフォンのカメラだけだが、それでも画質を担保しつつ、同社ならではのAF性能をいかした撮影画像・映像を、リアルタイムで配信すること。つまりスマートフォンのカメラ単体でも静止画および動画のリアルタイム配信を可能にしたい、という意図が“Xperia 1 IIに準じた”撮影性能を搭載した大きな理由となっているわけだ。

本機の核心にあるのは、そうした静止画・動画の即時配信性能を追い求めるところにある。5Gのミリ波対応も、それを実現するために欠くべからざる要素だったのだという。

5Gミリ波帯の特徴とは

ところで5Gのミリ波にはどのような特徴があるのだろうか。同社のスマートフォンではXperia 1 IIおよびXperia 5 IIが5G sub6に対応している。

5G sub6の通信速度(理論値)は、アップロードが182Mbpsでダウンロードが3.4Gbps。4Gの速度(理論値:アップロード75Mbps、ダウンロード1.8Gbps)と比較して、およそ2倍以上高速であることがわかる。また4Gと5G Sub6は、壁や人、木、草といった障害物があっても電波が届きやすいため、つながりやすさと通信速度のバランスがいいというメリットがある。

一方で5Gのミリ波は、アップロードが480Mbps、ダウンロードが4.0Gbps(ともに理論値)と、特にアップロード速度の違いが大きい。ただ、電波指向性の面で直進性が強い特性があるため、障害物があったり端末の角度によっては電波が届きづらいという側面がある。安定した高速通信の提供を至上命題としているXperia PROにとって、この電波の掴みやすさをを向上させることが、開発上の大きなポイントになったという。

Xperia PROは、直進性が強く減衰しやすい5Gミリ波を安定的かつ効率的にキャッチするため、上下左右4カ所にアンテナを配置。これにより、360度どの方向からでも電波を掴めるように配慮しているという。通信状態を可視化できる「Network Visualizer(ネットワークビジュアライザー)」の搭載も、安定して通信ができていることが視覚的に把握できる仕組みで、シビアな状況下でも安心して使用してもらえるように、という意図に沿った機能だ。

Network Visualizer

ちなみにこのアンテナ実装を実現するため、筐体には樹脂素材が用いられている。表面処理もざらつき感のある梨地塗装で、カメラ製品のような趣きをたたえている。手持ち時に滑りづらいようにという配慮も込められているのだそうだ。

どの方向からでも安定して電波をつかまえることができるメリットについて教えてもらったところ、例えば映像配信向けにリグを組む際の自由度の高さが挙げられるという。つまりXperia PRO自体をどのような配置にしたとしても問題なく安定した通信が得られるということで、撮影機材優先のリグ組みが可能だというわけだ。

さらに、通信とモニターの役割を約225gの端末ひとつで担うことができるため、機材重量自体を削減できるメリットもある。無線でも安定した高速通信が得られるメリットと、配線まわりをすっきりできるメリット、そして重量を軽くできるメリット。他にも工夫次第でメリットはいくらでも見出すことはできるだろうが、やはり撮影システムをコンパクトにまとめ上げることは、機動性に直結してくるだけに、撮影シーンの幅を大きく拡げてくれるに違いない。

Xperia PROと同日付で発表された35mm判フルサイズミラーレスαシリーズのフラッグシップモデル「α1」に装着したところ。デモ機は問題なく動作していた

ディスプレイへのコダワリ

プロフェッショナルの現場で使用できる拡張性や信頼性を強化した、というのがXperia PROの大きなポイントだとお伝えしてきた。しかし、5Gミリ波対応やXperia 1 IIゆずりの基本性能、HDMI端子がついただけで、そこまで高額になるのか、となお疑問を覚える面があることは否定しきれないように思う。実は本機、他にもコストがかけられているポイントがあるのだ。

本機は、約6.5インチの4K対応有機ELディスプレイを搭載している。スペック自体はXperia 1 IIと同じだが、特にコストがかけられているのが、1台1台個別に色温度の調整を施した上で出荷されるという点。

調整のポイントは同社のマスターモニターと同じ基準点に設定されており、カメラや映像業界での使用を想定して厳密なチューニングが施されているのだという。マスプロダクトながら手調整を加えているために、相応のコストが発生しているというわけだ。

ちなみに、本機のディスプレイはHDR規格および「BT.2020」(Rec.2020)の色域に対応している。BTとはBroadcasting Seivice Televisionの略称で、2020とは番号を示している。つまりテレビ放送用の2020番目の規格であることを示している。色域は、フルハイビジョン放送で採用されている「BT.709」(Rec.709)よりもはるかに広い。4Kや8K放送で標準化されている色域だ。

HDMI接続でモニターとしての表示色域を選択しているところ。BT.709の選択もできる。制作ニーズにあわせた色域表示ができて、それが信頼できるというのは、やはり大きな魅力だ

また本機は10bitのHDMI入力にも対応している。10bit入力は多くのカメラで外部モニター使用が前提になっているが、外部モニターはそれ自体に重量があり、さらにバッテリーを必要とする。反面で、モニター内で映像を記録できるメリットもあり一長一短。本機はHDMI入力された映像を記録することはできないが(カメラ内記録を利用することになる)、反面でリアルタイムで映像を流していける点を最大のメリットとしている。つまり、即時性が求められる場に、さらなる機動力をもたらす、ということが本機を用いる最大の使い所となってくるわけだ。このあたりに、ミラーレスαシリーズが小型軽量性を追求している点と相通じる思想が感じられる。

リアルタイムでの映像配信はどこまで対応するのか

本機のアイデンティティーともいえるのが、高速かつ安定したデータ通信への対応だ。では、リアルタイムでの配信で、そのスペックはどれくらい活かせるのだろうか。

説明してくれた開発者によると、映像の品質はデータをアップロードするプラットフォームに依存するとの回答が得られた。

また、USBテザリングに対応した撮影機材と接続することで、静止画や動画を本機のネットワークを利用して転送することも可能となっているという。転送にかかる時間は、当然データ量によって変わってくるものの、安定した高速通信を無線で利用できるため撮影現場のワークフローを変えていける、という。

実機とHDMIモニター動作

以下実機単体の特徴的なポイントと、HDMIモニターとして利用した際の様子をいくつかお伝えしていきたい。

実機外観

まず、本機のSIMトレーはデュアルSIM対応となっている。記録メディアはmicroSDカードで、SIMトレイを利用する。また、ディスプレイはわずかながらベゼルがあるタイプとなっていることがわかる。

左側面はSIMトレイ以外のスロットはない。

右側面。音量調節ボタン、電源ボタン、任意のアプリ起動で利用できるショートカットキーボタン、独立シャッターボタンがならぶ。

天面には3.5mmオーディオジャックが備わる。

底面。中央にHDMIマイクロ端子(タイプD)を、片側にUSB Type-C端子を、それぞれ備えている。

HDMI接続時の様子

α7S IIIとHDMIケーブルで接続した状態。左側の解像度やFPS、色域はカメラ側からの入力信号および映像設定を示している。モニターを見ながら、設定状況が把握できる点は、やはり嬉しいポイントだ。

HDMI接続でモニターとして利用する際は、モニターアプリを利用する。Android 11へのOSアップデートに伴い、Xperia 1 IIおよびXperia 5 IIでも同様のアプリは提供が始まっているが、HDMIでカメラを直結できることと、単体で高速通信が可能であること、またモニター表示の信頼性という点が本機ならではのアドバンテージとなっている。

モニター利用でもうひとつ嬉しいポイントとして、グリッドライン表示にも対応している。3分割、方眼、対角+方眼の各表示スタイルの選択が可能。

アスペクト比の選択も可能。ビスタサイズも1.66:1と1.85:1の双方に対応している。細かな制作ニーズでの利用にも応えてくれそうだ。

タッチ操作に対応しているので、当然タップ操作にも対応している。ピンチインやピンチアウトといったジェスチャー操作が可能であるほか、ダブルタップ操作で2倍、3倍、4倍の拡大率で表示させることも可能。

繰り返しになるが、本機のアイデンティティーは「安定した高速通信を提供する」というところにある。5Gの電波帯はまだまだ利用できる場所が限られているが、有線を用いるしかなかったシーンの多くで、より機動力があがるメリットは計り知れないものがある。カメラ製品でミラーレスカメラへのスイッチが急速に進んでいるのと同じように、地盤さえ整えば一気に5G端末も普及するのではないだろうか。正直高価なスマートフォンであることは確かだが、本機がどうしても必要なユーザーは確実に存在する。何よりも、本機が示してくれた先進テクノロジーの一端は、久しぶりにワクワクする可能性を感じさせてくれる。実にソニーらしい製品だと感じたのは筆者だけではないはずだ。

本誌:宮澤孝周