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Xperia 1 IIIは何が進化したのか。配信映像と製品説明からみえてきたこと

Xperia 1 IIIを手にする岸田光哉氏(ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社代表取締役社長)

ソニーは去る4月14日、スマートフォンXperiaシリーズのフラッグシップモデル「Xperia 1 III」およびミッドレンジモデルの「Xperia 10 III」を発表した。同日付でライブ配信されたYouTube映像では、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」とする同社の礎を成している精神とともに、その特徴が紹介された。あらためて、その進化点を整理してみたい。

好きを極める。一貫してコンセプトを貫いたモデル

映像では岸田光哉氏(ソニーモバイルコミュニケーションズ株式会社代表取締役社長)が登場し、新モデルを披露した。

新型Xperiaのコンセプトについて、岸田氏はユーザーそれぞれが好きなことを極限まで追求できるように、質の高い制作ツールを余すところなく搭載したと説明。およそ3年前にXperia 1を発表した際に掲げた同シリーズのキーコンセプト「好きを極めたい人々に想像を超えたエクスペリエンスを」からブレることのない開発姿勢を示した。続けて同氏は、写真・動画・ゲーム・音楽といったエンターテインメント性能を向上させており、それらを楽しむよろこびを他者と共有することでコミュニティを深め、また社会との結びつきを強くするところに、同社が提供するモバイル体験の軸があるのだと続けた。

Xperia 1発表時のスライドより

Xperia 1シリーズの系譜

Xperia 1シリーズを振り返ってみると、初代機が発表されたのが2019年4月のことだった。3眼構成のカメラとカメラアプリ「Photography Pro」や動画撮影アプリ「Cinematography Pro」の搭載など、撮影性能の高さが話題となった。

[2021.4.26修正]記事初出時、Xperia 1のカメラにZEISSレンズ採用と記載していましたが、正しくはXperia 1 IIからでした。訂正してお詫び申し上げます。

次いで2世代目となるXperia 1 IIが2020年2月に発表。このモデルでメインカメラのうち、24mmカメラのセンサーが1/1.7インチに大型化し、ZEISSレンズが採用された。また対応電波帯も5G Sub6となったことが主な進化点だった。この間、Xperia 1をベースに同社製マスターモニターを基準に色温度を個体ごとに調整した特別仕様モデルであるXperia 1 Professional Editionも登場していた(発売は2019年10月)。

そして、この2月、Xperia 1 IIの基本性能を継承し、HDMIの直接入力や5Gミリ波帯に対応した「Xperia PRO」が登場。その機能性はもとより、約23万円という価格で注目を集めた。

このようにみてくると、「1」ラインの製品アップデートはほぼ1年サイクルとなっており、また着実に性能・機能強化が図られていることがわかる。では「III」で強化されたポイントとはどこにあるのか、一部既報の内容と重複する部分はあるが、あらためて振り返っていこう。

撮影性能から見たXperia 1 IIIの進化点

カメラに注目してその進化点を整理していくと、まず注目されるのが、望遠カメラに屈曲光学系を採用し、焦点距離を105mmまで伸ばしていることだろう。

リアカメラ部は、超広角の16mm F2.2と広角の24mm F1.7、望遠側の70mm F2.3+105mm F2.8で構成(焦点距離はいずれも35mm判換算)。これに3D iToFセンサーが加わる。また各カメラにはZEISSのT*コーティングが施されている。

各カメラ部のセンサーサイズと画素数は16mmが1/2.6型の12MP、24mmは1/1.7型の12MP、70mmおよび105mmが1/2.9型の12MPだ。センサーサイズこそ違うものの、画素数を共通化しているのは、どのカメラを使用しても同じ感覚で写真・映像を扱えるようにという配慮がある。24mmと70および105mmカメラには光学式の手ブレ補正機構も搭載している。

また、デジタルズームを用いることで望遠側の画角は300mm相当になる。こうした使い方ではエッジの描写が甘くなるのが常だが、同社ではAI技術を用いた超解像処理を搭載(AI超解像ズーム)。画質の劣化を抑えながら、画像をきれいに復元できると説明している。

また、AF性能の向上も今回の進化点で大きなウェイトを占めている。AF/AE追従で最高約20コマ/秒の連写性能を備えているわけだが、この数字自体はXperia 1 IIと同じだ。このことからAF性能で両機に差はないと思いがちだが、Xperia 1 IIIではすべてのカメラにDual PDセンサーが搭載されており、すべての焦点距離で統一した撮影感覚で操作が可能になっている。またリアルタイム瞳AFに加えて、リアルタイムトラッキングも搭載され、動体撮影性能が向上している点も大きな進化点となっている。

ライブ配信中ではスポーツフォトグラファーのJean Fruth氏のコメントが紹介された。同氏はスポーツの撮影では「スピードと最高のストーリーを生み出す力」が必要だと前置きして、自身の撮影スタイルについてストーリーを写真で伝えたいのだとコメント。Xperia 1 IIIはαのDNAを引き継いでおり、また焦点距離も105mm相当まで得られることから、動き回る被写体を捉え、ストーリーが展開する決定的瞬間を撮影できると続けた。

またXperia 1 IIIでは写真撮影アプリが「Photography Pro」に統合されている。通常のカメラアプリは廃止された格好だ。これに伴い、Photography ProにはBASICモードが搭載されてる。これまで同アプリの基本的なUIデザインは、同社αシリーズに準じたメニュー体系となっており、AUTO/P/S/M/MRモードの選択が可能となっていたが、BASICモードでは、多くのスマートフォンに搭載されているカメラアプリのUIに近いデザインとなった。手軽に撮りたい時や、フルマニュアルで撮りたい時など、シーンに応じた使い勝手の幅がひろがることで、カメラ操作に不慣れなユーザーに対しても、写真体験の幅をひろげてくれているわけだ。

同アプリに関してJean Fruth氏は、使い慣れた操作感が得られるとコメントしている。

このほか、独立シャッターボタンは表面処理が変更。凹凸のある綾目模様のパターンが施されて、指をかけた際に滑りにくくなっているところも嬉しいポイントとなっている。

こうした強化された撮影性能を下支えしているのが、ディスプレイの表示品質だ。本モデルでは4K 120Hz駆動に対応したほか、同社のマスターモニターを手掛ける部門が色設定を引き続き監修。出荷時にディスプレイの色ずれを個別に調整する品質管理がなされていることから、撮影から配信・共有までのワークフローで信頼性の高い表示品質が得られる点もポイントとなっている。

5Gミリ波への対応

Xperia 1 IIIは5Gのミリ波に対応している。その速度はアップロードが480Mbps、ダウンロードが4.0Gbps(ともに理論値)となっており、5G sub6の通信速度(理論値:アップロード182Mbps、ダウンロード3.4Gbps)に比べて、高速な通信が得られる点が大きな違いだ。

ただ、直進性が強い特性を有する電波帯のため、安定して電波を掴むことが難しいという特徴もある。同社ではこの電波の掴みやすさを向上し、安定した通信を可能にしたデバイスとして「Xperia PRO」をラインアップに加えていた。

参考:Xperia PRO製品説明資料より

5Gミリ波による高速通信とリアルタイムでの撮影映像や画像の配信に重きを置いて開発されたのがXperia PROだったわけだが、どうしても高額なデバイスであることは確か。そこにきて、Xperia 1 IIIが、そうした世界をより身近にしてくれることに期待が集まっている、というわけだ。各キャリアでの取り扱いも発表されているが、未だ価格は発表されていない。Xperia 1 IIに近しい価格帯で登場すれば、クリエイターにとって、かなり魅力的な選択肢になり得るだろう。HDMI接続により、デジタルカメラなどの外部モニターとして利用できる機能も、当然搭載されている。

問題は5Gの普及度合いだが、エリアは着実に拡大しつつある。通信網に直結しているデバイスがシームレスにカメラとつながり、またデバイス自体が同社のカメラシリーズ「α」の認識AF性能を反映した力を発揮してくれることを考えると、確実に表現領域が拡大するものと、期待が膨らむ。まず、このカメラ性能の向上と通信性能の向上とが、本機の大きな魅力たり得ていることが見えてくる。

オーディオの強化

写真・映像に加えて、Xperia 1 IIIでは「音」も強化されている。大きなところでは、360立体音響技術による「360 Reality Audio」が目を引くが、音楽再生の基礎部分から再設計が施されているというのだ。

スマートフォンの薄くコンパクトな筐体で、イヤホンやヘッドホンを用いずに相応のボリュームで音を出すと筐体自体が振動するが、本機では、これをかなり抑えているのだ。その違いを体験する機会を得たのだが、目に見えてその効果を実感することができた。Xperia 1 IIとの聞き比べも体験させてもらったが、Xperia 1 IIIの音楽再現は薄皮が一枚剥がれたようなクリアさがあった。楽曲の再生はもとより、映画や配信映像を楽しむ際にも没入感を高めてくれるポイントだと言えるだろう。

エンターテインメントを満喫できる1台

Xperia 1 IIIのディスプレイアスペクト比は21:9だ。これは初代Xperia 1から変わらずに採用されている画面比率で、Xperia 5シリーズやXperia 10シリーズでも同じ。同社では、映画館などのスクリーンに近いアスペクト比の採用について、はやくから映画コンテンツが楽しめるデバイスとして訴求していた。また、多彩なルックが利用できる動画撮影アプリ「Cinematography Pro」を搭載している点からも、シネスコに近い比率の採用は必然だったとも言えるだろう。

また縦長あるいは横長にできる画面はマルチタスクでも使いやすいものとなっており、またFPSゲームなどでも、ひろい視野が得られるメリットは大きい。さらに本機ではリフレッシュレートも強化され、また暗いシーンを意図的に明るく表示できるL-γ(ローガンマ)レイザー機能も搭載。また音楽再生性能の向上という点も、様々なコンテンツ体験の品質を底上げしてくれている。

このように見ていくと、本機は同社が掲げる「好きを極める」のコンセプトの、現時点での精華を示すデバイスだと見ることもできる。カメラ性能のみならず、日常シーンでのエンターテインメント体験を底上げしてくれる魅力こそが、本機の最大の進化点だと言っても大げさではないだろう。

グローバルモデルのカラー展開。純正のカバーもラインアップしている。
メインカメラ部にしっかりとフィットする点も純正カバーならでは。エッジ部が斜めに処理されているが、これによりカバーがフードの役割を果たしてくれるという。このあたりもメーカー純正ならではのメリットとなっている

ライブ配信映像

「Xperia Announcement April 2021」

本誌:宮澤孝周