新製品レビュー

SONY α1ファーストインプレッション

着実な進化を感じられるAFとAWB 表現領域の拡張を実感

1月27日にソニーから発表された「α1」を試用することが出来た。同機の進化点を探るべく、ボートレース等でAFと連写性能を検証。50MPのセンサー性能とのバランスなど、その到達点を確認していった。

本機の位置づけや基本スペックについては、以下記事もあわせてご覧いただければ幸いです。(編集部)

動体AF

いわゆるフラッグシップクラスの撮影性能があると、電車や一般的な航空機が相手では条件がカメラにとって易し過ぎて検証には不向きになってしまう(どの設定でもそうそう失敗しないので性能がよく分からない)ので、今回は少し難易度を上げボートレースを撮影しました。ボートレースは周回レースということもあって、難易度のワリには比較的安定して繰り返し撮影できる被写体です。

他の媒体になりますが過去に同様の撮影テストを行ったことがあり、ストレートでは従来機(α9やα9 II)でもかなり良好にトラッキングを含めてAF追従することを確認しています。しかし並走やターン時の水しぶきなどがあるとカメラ任せでは上手く追従出来ない場合がありましたので、α1がどれだけ進化しているのか期待が膨らみます。

操作部まわり。左肩はAFモードセレクターが配されている

ワイドエリアからチェックをはじめましたが、この段階で直ぐに体感出来るレベルで被写体の検出力が向上していると思いました。従来機より船体ではなくレーサーにAF枠が表示される率が大きく向上しています。

これだけの検出性能と捕捉性能があれば、ワイドエリアでただ被写体を画面内に捉えるだけでも、その連写性能を活かして「使えるカット」を量産するのは簡単でしょう。とは言え、現実的な話をすればレースの写真は単純ではなく絡みや水しぶきなど沢山の外乱要素がありますので、全くのカメラ任せで撮れるか? と言えば限定的なシーンに限る、です。AF性能の飛躍的な向上は体感できたけれど、ボートレースやモータースポーツ等でワイドエリアを使うにはまだ適さない、という感想です。もちろん生身の人間が行う陸上競技などのスポーツシーンではまた違う感想になると思います。

という感じでフォーカスエリア設定を一通り試したところ、今回のシーンではトラッキング:スポットLが最も撮影効率が高くなりました。

被写体との距離にある程度の余裕がある状態でトラッキングを開始すれば、その後の構図の自由度は非常に高く、水しぶきや狙ったレーサー以外が画面内に入り込んでもトラッキングをロストしたり誤判定したりする頻度が低く、とても感心しました。

またトラッキングがロストしてしまった場合、従来機では似た色に対して過剰に反応したり、AFが背景に抜けしたりしていましたが、α1は背景抜けがほぼ無く、トラッキング開始させた被写体部(今回はヘルメット)近傍にあるゼッケンや勝負服などの高コントラスト・高テクスチャ成分に対して集中的にAF枠が追従表示されていく挙動が安定して認められました。この挙動には撮影していても”カメラがちゃんと被写体を認識出来ているぞ”という印象を持つのでとてもポジティブな感覚になりますし、モータースポーツなどでは強力に撮影をサポートしてくれそうだという感触があります。

モンキーターンをこの角度で苦もなく撮影出来たことはもちろん驚きましたが、バイザーを滴る水まで写っている事にも驚かされました
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4×テレコンバーター(407mm) / マニュアル露出(F10・1/2,000秒) / ISO 800

同時に比較したワケではありませんが、過去のテスト経験からα9 IIではトラッキングよりも拡張フレキシブルスポット:Mやフレキシブルスポット:Lを選択し、レーサーや意図した場所にしっかりとAF枠を重ね続ける、言わば一眼レフと同じような撮影手法を採るのが結局のところ安心である、という感想を持っていましたが、α1のトラッキング性能を体験してみると、一足飛び以上の進化・改善を果たしているようで、最早AFの心配をすることなく自由な発想でフレーミング出来るようになったという気持ちになります。

EVFのフレームレートについてはバッテリー消費の傾向が分からなかったので、今回の試用では基本的に120fpsを選択しました。120fpsと240fpsの違いについてはボートレースでチェックしていますが、筆者の眼にはその違いを絶対的なものとして判別することはできませんでした。

しいて言えば大きく振ったり動きが大きいシーンでは240fpsの方がより集中してフレーミング出来る気がした、という印象。とは言え120fpsでも十分に動体撮影に対応できると思います。240fpsでは表示がひとまわり小さくなりますが、個人的にはむしろこちらの方が画面全体をパッと見渡せるので都合が良く思いましたし、繊細な表示という印象は相変わらず。滑らかさと高い精細感、美しい表示の3拍子で「これはもうOVFなのでは?」というのが正直な感触です。今回は屋外での試用でしたが、室内競技などに撮影シーンが変わればまた違った感想になると思います。

競艇場ではグリップ(VG-C4EM)ありで、FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(SEL100400GM)と1.4倍のテレコンバーター(SEL14TC)を組み合わせて撮影しました。この際のホールド性や疲労感に対する印象は上々で、実際に「ソニー機でベスト」という感想をスマホの音声メモに残しています。

確実な進化が感じられるAF-C性能

画像チェック時に感じた事は合焦の信頼性が向上したこと。ソニー機は代を重ねる毎にAF-C時(AF-S時も)の微妙にピントが甘いカットが減り続けていますが、α1ではさらに改善されています。分かりやすく言えば「使えると言えば使えるのだけど、微妙に甘くて気持ちが良くない」というカットがさらにグッと減りました、と言えば、ソニーユーザーであればピンと来ると思います。

また「α1であれば表現の幅が広がりそうだ」という手応えがあったことは明記したいと思います。

そう思った理由は50MPと高速性、それらに応えるAF性能という3つの要素によるものです。これまでは20MP前後のいわゆるフラッグシップモデルか、狙い撃ちで高解像機を投入する、という選択肢になっていましたが、α1では高速な連写性能と高い画素数を1台で両立。しかもAF性能までが異次元です。いままで解像出来なかった部分をα1では解像出来るので、被写体をよりリアルに捉えられますし、APS-Cにクロップしても21MPあるというのも魅力です。

本職のスポーツカメラマンがα1を手にすれば、きっと選手の視線運びや仕草、これまでは再現出来なかった例えばタイヤカスなど、被写体と実際に対峙しなければ感じられない、その場の臨場感といった部分までをも捉え、さらに印象的な表現に挑戦出来るだろうと期待してしまいます。

実焦点距離が560mmでAPS-Cクロップして840mm相当で撮影しています。この状態でも21MPあるのでレーサーの目線がしっかりと分かります
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4×テレコンバーター(クロップ:840mm相当) / マニュアル露出(F10・1/2,000秒) / ISO 1000

今回、動体撮影シーンは全て電子シャッターで撮影しています。背景部分を見てもらうと分かるかと思いますがローリングシャッター歪みは非常に軽微、というか個人的には全く気になりません。このレベルであれば例えば流し取り時にメカシャッターに変更する、といった操作は必要ないというのが豊田の意見です。

1/200秒で軽く流したカット。他のカット(1/1,000秒以上)を見ても分かる通り背景がほぼ歪んでいない
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4×テレコンバーター(560mm) / マニュアル露出(F10・1/200秒) / ISO 200

バッテリー消費について。電源操作はあまりせず、およそ2時間程度EVFのみで5,874ショットを撮りましたが、消費はバッテリー1個と24%でした。チェックの為にメカシャッターで20ショットした以外は電子シャッターによる高速連写での結果です。撮影当初は最速の30コマ/秒で撮影していましたが、800ショット程度撮影した段階でこのままではあまりにも枚数量が多くなり過ぎると恐ろしくなったので、それ以後は半分の15コマ/秒で残りの約5,000ショットを撮影しています。

α9シリーズよりも、電源ONのまま待機している状態でのバッテリー消費が減っている、という印象があります。

このバッテリー消費は、例えばたくさん撮れるニコンのD5と比べても、連写シーンに限った話をすれば同等以上の撮影枚数を期待出来そうです。もちろんバッテリー容量の違いや、メカシャッターと電子シャッターという違いもありますので単純に比べられるものではありませんが、本機とバッテリー2個を装填出来る縦位置グリップを装着したスタイルでの運用であれば、一眼レフ機と同等以上の撮影枚数が可能なのでは? という可能性を感じました。

検証カット

以下、検証カットではAFの傾向および特徴を掴む目的で撮影しています。本来の撮影手法とは異なる点だけご承知おきいただきながら、参考にしてもらえればと思います。

4番艇のレーサーでトラッキングしていて5455番あたりで奥の1番艇にトラッキングが移りました。ヘルメット色が似ていることに起因する挙動だと思われます。再度同じような状況を狙ってみましたが、やはり同様の挙動でした。とはいえ被写体をロストしてシッチャカメッチャカになることはなく、AF枠の移動は自然な動き方をしていましたし、背景にピントが抜けるようなカットもありませんでした。勝負服でトラッキングした場合は、狙った勝負服を終始追従していたことも印象的でした。

共通撮影データ:α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS+1.4×テレコンバーター(560mm) / マニュアル露出(F10・1/2,000秒) / ISO 1600
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被写体認識性能

ソニーは、α6400と同時に発表したフルサイズαシリーズ向けの大型ファームウェアアップデートで、はやくから動物瞳AFを実装(α9は2019年9月の対応。ほか、α7 III、α7R IIIにも提供された)していました。その後フルサイズ機ではキヤノンがEOS R5、R6で人物の顔・瞳認識に加えて、鳥を含めた動物認識を搭載。ソニー機の実装にも期待がかかっていましたが、α1でついに搭載。さっそく動物園で鳥AFと動物AFの認識性能および高感度画質を簡単にチェックしていきました。

動物AF

動物AFについて、動物の瞳の検出という点では、他社の同様の機能と比べて検出能力と精度が今一歩という感触。ライオンとキツネザルに対しては満点評価を与えられる瞳検出性能と追従性でしたが、キリンでは耳や鼻の穴を瞳として誤認識する事が多く安定しませんでした。トラッキングという意味では任意の動物を捉え続けることが出来ていますので、十分に実用的だけどα1はEOS R5のように瞳をビシバシ検出する、という感じではありません。

犬猫が得意ということなので、姿かたちが比較的近しいレッサーパンダやタヌキを狙ってみましたが、毛色やサイズ、眼と鼻の距離関係などの特徴がα1のアルゴリズムと相性が悪かったのかは分かりませんが、背景や地面に瞳検出枠が表示されてしまうことが多くイマイチ。リアルタイムトラッキングで動物を安定して撮れる、という意味ではそのとおりですが、瞳にガチピンとはなりません。

キヤノンEOS R5やパナソニックLUMIX S5では瞳検出出来たモルモットなどの齧歯目についても、α1では基本的に瞳検出は働きませんでした。

キツネザル。瞳AFで連写してみたが、眼が陰になっても問題なく追従出来ていた。ピント精度的にも使えるので、もう動物AFのないカメラには戻れない気持ちでいっぱいだ。撮影データは以下2カットも同様
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(400mm) / マニュアル露出(F7.1・1/1,250秒) / ISO 800
ライオンに対しては正面はもちろん横顔や、顔の一部のみを切り取った構図でも正しく瞳を検出した。
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(388mm) / マニュアル露出(F5.6・1/1,250秒) / ISO 400
キリンは真正面から次のカットくらいの角度で検出が不安定になった。瞳だったり鼻だったり耳だったりを行ったり来たりしていた。
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(400mm) / マニュアル露出(F5.6・1/1,250秒) / ISO 1000
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(400mm) / マニュアル露出(F5.6・1/1,250秒) / ISO 800

鳥AF

鳥AFについては、フラミンゴに対してはどの様に捉えても瞳検出出来ませんでしたが、それ以外の対象であればEOS R5/R6ほどではないものの、信頼のおける瞳検出能力があるという感触を得ました。リアルタイムトラッキングという意味では、任意の鳥をタッチで指定すればとても信頼出来るトラッキング性能でした。この辺りは120fpsの演算が凄く効いている、という感触です。

ただし、鳥をメインで撮影している人であれば、ひょっとすると異なる見解を持つかも知れません。

他のカメラと比べて、被写体と背景との距離差があると被写体をガッチリ掴んで離さない感のあるAF、という印象。ちなみにISO 4000でこの感じ
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(400mm) / マニュアル露出(F7.1・1/1,250秒) / ISO 4000
電子シャッターではブラックアウトしないのはもちろん、メカシャッターでもラグが非常に少ないのでこういったシーンを狙うのがとても簡単。このカットはISO1000。カーボン羽根のメカシャッターの感触は独特だ
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(400mm) / マニュアル露出(F7.1・1/320秒) / ISO 1000
ISO 8000ではこのくらいの画質。今までのレベルを維持したまま高画素になった、と表現するのが適当に思います
α1 / FE 100-400mm F4.5-5.6 GM OSS(400mm) / マニュアル露出(F7.1・1/1,600秒) / ISO 8000

フラッグシップモデルということで少し厳しく評価していることと、キヤノンのEOS R5/R6やパナソニックのLUMIX S5と比べて瞳の検出精度という点でのみ少し物足りなさがあったのは事実ですが、鳥や動物をリアルタイムトラッキングで捕捉させ続けるという意味では非常に強力な性能である、と思いました。ただ、動物AF/鳥AFと言われると上記したカメラのように瞳をビシバシ検出してリアルタイムトラッキングでガッチリ追従し続けるのでは? というイメージをついつい持ってしまいますが、そういう感じの機能ではなさそうでした。

スナップ作例

スナップシーンではグリップを外し、重量級レンズの代表としてFE 24-70mm F2.8 GM(SEL2470GM)、比較的軽量なレンズの代表としてシグマの28-70mm F2.8 DG DN|Contemporaryや65mm F2 DG DN|Contemporaryの組み合わせでチェックしていきました。ただ、Gマスターとの組み合わせでは手への負担が大きく感心しませんでした。

FE 24-70mm F2.8 GMを装着した状態。レンズの質量は約886gで、バッテリーとメモリーカードを含めたα1の質量は約737g。合計すると1,623gとなります

競艇場や動物園では特に機材重量からくる負担感はありませんでしたが、色々と検証した結果、望遠レンズ運用時には移動時を含めて両手保持が基本であったことが好印象の理由でした。というのも、スナップシーンでは片手でカメラをグリップしたまま移動を繰り返し、構える時にヨッコラショを繰り返します。また全長が短めで、かつ重量のあるレンズだと重心の都合でさらに右手に大きな負担を感じました。

一方で重量面で分のあるシグマの65mmとの組み合わせは明らかに負担が少なく、例によって4時間程度スナップ撮影してみましたが、特に不満を感じませんでした。

α9系よりも階調性が良くなったような気がしたのがこのカット。センサーの改善か画作りの進化かは分かりませんが、ハイライトからシャドーまで自然な再現が得られています。撮ってる時はハイライト側の階調が飛ぶだろうと思っていました。

α1 / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(66.7mm) / プログラムAE(F6.3・1/320秒・+0.7EV) / ISO 100

AWBの進化を確信したシーン。似たようなシーン含めて意地悪な状況で何度も撮りましたが安定していました。

α1 / SIGMA 65mm F2 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F2・1/2,000秒・-0.3EV) / ISO 100

日陰シーンでも突飛なWBでビックリ、という事が無くなった印象があります。ソニーに聞いてみたところ、特に夕景シーンが安定してキレイに再現出来るようになっている、とのこと。

α1 / SIGMA 65mm F2 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F2・1/500秒・+0.3EV) / ISO 100

こういったシーンでのAFがとても快適。あとこれまでのソニーの従来機(α7シリーズ含む)と比べて、色がキレイに出ているような気がします。今までよりもPCディスプレイで見ていて「お、キレイ」と思う機会が増えました。

α1 / SIGMA 65mm F2 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F2・1/250秒・+0.3EV) / ISO 100

AEも何だか賢くなったような……。120fps演算(シーンに依る)をはじめとした膨大な演算能力が効いているのかも知れません。

背景の方が高コントラストで模様がたくさんあっても、AFが背景にはりつく、という事が本当に少なくなっていて、撮っていて実に快適です。

α1 / SIGMA 65mm F2 DG DN|Contemporary / プログラムAE(F3.2・1/320秒・±0EV) / ISO 100

「これまでより色がキレイな気がする」と上述していますが、確信したのがコチラ。ノッペリでもアッサリでもない赤が出ていると思います。AWBもバッチリ。

α1 / SIGMA 65mm F2 DG DN|Contemporary / 絞り優先AE(F2.2・1/1,000秒・-0.7EV) / ISO 100

まとめ

天候とスケジュールの都合であまり踏み込んだ撮影が出来なかった事が心残りではありますが、それでもAWB性能の向上や色の表現力が良くなったこと、新しい機構とカーボンを採用したメカシャッターの感触、AFを含めた高速性能を実現する演算力の暴力による快適性はとても印象的でした。

AWBについて、EVF・背面モニターともに吊るしの状態で寒色方向だったこともあり、撮影中はそれほどAWBに対して「突飛なWBにはならないけど、それほど良くなったという印象もない」という感じでした。これは、試用機材の個体差かも知れませんし、個人的に色調整を追い込んでいないことにも起因しているかもしれません。が、PCディスプレイで確認してみると、難しいシーンでも中庸で安定しており感心しました。「可視光+IRセンサー」搭載の効果は確かにあるようです。

944万ドットのEVFについてですが、大きく振っても表示が荒れたり崩れたりすることがなく、滑らかで精細な表示です。そのため疲労感やストレスが非常に少なく、ほとんどOVF(それも上質な)という感覚で撮影出来ました。スペックのインパクトが大きいですが、そういった数値から想像するようなイメージを吹き飛ばす、とても良いビューファインダーです。ネガを挙げるとすれば、メガネを着用して太陽を背にした状態で覗こうとするとアイセンサーが意図通りに反応してくれないことが多々ありました。そこさえ改善されれば個人的には申し分ないファインダーです。

ここまで触れていない部分の話をすれば、大量に撮影して記録メディア(UHS-IIのSDXCカード)に書き込み中であっても、ほとんどの操作を受けつけてくれますし、その状態での画像再生もサクサクで快適。全ての動作が軽いので「大量に撮った」という感じがないため、別の意味で危険です。

既に触れている通りAF性能もハンパないので、動体撮影でコレほど頼もしいカメラはないと強く思い、α1の価格とともに欲しいEマウントのレンズのお値段についても調査してしまったほど。

振り返ってみると、α9登場時にも撮影スタイルやカメラへの向き合い方が変わりそうだという感触がある一方で、“撮影者に技術を求めずカメラをオペレートするだけ”感があり、他人行儀というかどことなくシックリ来ない感覚を持ちました。その掛け違いのボタンのような感覚は、イマイチのUIに代表される操作性の悪さによってカメラと撮影者の距離感をさらに遠くしていました。

ですが、α1ではその「すれ違い」がなくなっていて、「凄いカメラだ」と素直に思えるような仕上がりになっています。これは実際に使ってみないと分からないことかもしれません。それはUIの改善だけでなく、道具としての完成度が向上したうえで撮影性能が感情的な反発を覚えるラインを大きく超えているのがその理由でしょう。ここまで来ると圧倒されて素直に肯定する感情になるのだと思います。

実際に筆者は非常にポジティブな印象を持っていて、さらに言えばコレまでのカメラの大多数は「歩留まりが上がって楽が出来そう」という気持ちが強かったですが、α1については「新しい表現にチャレンジ出来そうだ」とすら思っています。

ということで、基本的に感心しきりですが、性能と情熱に任せて撮影すると50MPのデータが大量に撮れてしまうので、撮影後の負担が大きくなるという現実には目を向けるべきです。PC処理云々という話ではなく50MPを大量にチェックするのは人間にとって大仕事です。

ともあれα1を体験すると、ソニーが何故α9シリーズをフラッグシップと称さなかったのかが分かったような気がして感慨深いものがありました。αが目指したものが、ひとまずココに完成されていると思います。

ところで、フラッグシップと言えば一眼レフを代表するカメラがすぐに思い浮かびます。しかしミラーレスではそれは当てはまりませんでした。

確かにメーカーが公式にフラッグシップモデルとして位置付けているミラーレス機はパナソニックLUMIX S1 / S1Rが2019年に登場していますが、フラッグシップと聞かれてすぐに両機を思い浮かべる人は少ないと思います。しかしα1を体験しさえすれば「ミラーレス機を代表するカメラは何か?」と問われた際にα1が思い浮かぶハズです。なので、ミラーレス機で初となるフラッグシップモデルが登場したと思いました。

開発者的には道半ばであろうとその時点での粋が注がれ、メーカーの「顔(看板)」であると感じる製品というのは素晴らしいと再確認できました。フラッグシップというのは、やはり良いものです。

こういった性能が十分に高いモノが登場すると、それはメーカーが目指したものが唯一無二かつ孤高であることが多い(従来機の延長線上にない、という意味)ので、これまでのように横並びで比較したり数値化することの意味がなくなりそうだと、ふと思いました。

撮影協力:ボートレース多摩川

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。