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「Xperia PRO-I」を23の質問で掘り下げ。1.0型センサーやTessar銘レンズ採用の意味を問う

12月15日、ついに発売日を迎えたソニーXperiaシリーズの最新モデル「Xperia PRO-I」。製品の性格や位置づけをメーカーに聞いたインタビューをお伝えしていたが、1.0型センサーの特徴といった技術方面に関してメーカーにお話を聞く機会を得た。23の質問を通じて、テクニカルな内容のアレコレを掘りさげていった。インタビューとあわせて、ぜひ製品理解の役に立てていただければ幸いだ。

1.0型センサーのメリットを問う

Q1.24mmカメラのイメージセンサーに1.0型を採用した理由とは?

「RX100 VII」で採用している1.0型イメージセンサーは既存のスマートフォンに比べ非常に大きなピクセルピッチを持っています。「Xperia PRO-I」ではこのイメージセンサーを最適化し2.4μmのピクセルピッチにより、特に低照度環境下やダイナミックレンジの面で画質改善に大きく寄与します。24mmカメラに採用した理由は、日常のシーンを幅広くカバーできる画角だと考えたためです。

Q2.1.0型のイメージセンサーはRX100 VIIと同等のものを採用しているとのことですが、画素数をみると、RX100 VIIのセンサーは総画素数が2,100万画素なのに対して、Xperia PRO-Iでは有効画素数が1,200万画素となっています。この理由や背景について教えてください。

高画質化に大きく寄与する2.4μmのピクセルピッチと、AF性能の高速化の両立を目指したことが理由となります。

1.0型イメージセンサーに加え、ピクセルピッチに余裕をもたせることで多くの光を取り込むことができるようになり、RX100 VIIと同じ高感度と広いダイナミックレンジを実現しています。

RX100 VII(2019年8月発売)

また、約1,220万画素の記録とすることで、処理負荷を減らし、より高いAF性能・画像処理を実現しました。1,220万画素あれば、一般的にはA3印刷でも300dpi程度を実現できるなど、十分な解像性能を担保できるため、本有効画素数に決定しました。これまでもXperiaでは約1,220万画素の記録としております。

また、詳細については控えさせていただきますが、撮影モードや設定によって、広いセンサー面積を動画撮影時における電子手ブレ補正など画像処理に活用しております。

Q3.最高20コマ/秒のAF/AE追従連写と60fpsのAF/AE演算という点ではXperia 1 IIIなども同等のスペックです。メモリー一体積層型CMOSセンサーのメリットは、ローリング歪みの実用域での低減にあると思いますが、この点が他のXperiaシリーズとの違いとなっていると考えてよいのでしょうか。

ご認識の通りメモリー一体積層型のメリットはローリング歪みの低減などスピード性能にあります。過去機種でも“Exmor RS for mobile”としてメモリー一体積層型のイメージセンサーを採用していましたが今回の24mmレンズに関しては、「RX100 VII」と同等の1.0型イメージセンサーの“Exmor RS”を採用しました。メモリー一体積層型のイメージセンサーにすることで、1.0型という大型のセンサーでも20fps連写/秒間60fps検波/4K120fpsなど妥協しないスピード性能を出すことが可能となりました。

Q4.長時間の動画撮影などへの対策も進められていると聞いております。具体的なアプローチについて、改めて教えていただけますか。

構造面では、通常採用するのはハーフ基板ですが、「Xperia PRO-I」では、基板自体が優秀な熱拡散材料であるフル基板を採用することで、基板側へ拡散させるようにしてCPU熱を放熱しています。

約8.9mmの厚みの中で光学系を凝縮

Q5.24mmの光学系は本センサーのための専用設計ですか?

はい。専用設計です。スマートフォンの薄さ・持ちやすいサイズ感としながら、焦点距離24mmで1.0型イメージセンサーを実現し、3眼カメラを達成するために、低背化と小型化にこだわりました。「RX100 VII」で採用している1.0型イメージセンサーの性能をスマートフォンでも最大限活かせるよう、設計とチューニングを最適化しています。

Q6.絞りをF2.0とF4.0とした理由とは?

F2.0は大型イメージセンサーの浅い被写界深度によるボケ表現を可能にするため、F4.0は被写界深度以外にも、料理シーンなど、あまり背景をボカしたくない場面があることに考慮した結果です。このように可変絞り機構を採用することで、コンセプトである日常シーンにおける表現の幅を広げることが可能になりました。

Q7.薄い筐体内に24mmの光学系を収めることができた背景とは?

RXシリーズで培った光学技術のノウハウと、ソニーグループ内にあるイメージセンサーの開発部隊と密な連携をとることで実現しました。

光学設計では1.0型イメージセンサーの性能を最大限に引き出すことを目標に様々な検証を行っています。また、部品配置をゼロから見直すとともに、高級レンズなどで用いられているガラスモールド非球面レンズを用いることで光学性能と薄型ボディの両立が可能となりました。

まさにイメージセンサーも自社で手がけているソニーの強みが発揮された部分となっています。

Q8.24mmカメラでレンズに「Tessar」銘を採用した意図とは?

画像周辺部の歪みが少なく、高コントラストでシャープな写真や動画が撮影できる特性を踏まえてカールツァイスと協議を重ねた結果、「ZEISS Tessar」(ツァイス テッサー)を用いることになりました。

Q9.Tessar銘の24mmといえば、RX0シリーズが連想されます。外装もRX0シリーズのリブパターンを思い起こさせる面がありますが、本機とRX0シリーズとの関わりとは?

「Xperia PRO-I」の滑り止めの役割を持つリブを施したメタルフレームは、グリップ性を高めることで撮影に集中しやすくなり、また薄型ボディにマッチした洗練されたデザインになっています。RX0シリーズとは直接の関わりはありませんが、滑り止めの役割など、より良い撮影体験を実現するという視点では共通の目的があります。

側面デザインは特徴的なリブパターンが施されている
RX0シリーズの最新モデル「RX0 II」(2019年4月発売)

Q10.24mmカメラの歪みや色収差、逆光等への対策や対応について教えてください。

レンズ部にZEISS T*(ツァイス ティースター)コーティングを施しています。これにより逆光条件でもフレアやゴーストの少ないクリアな撮影が楽しめます。また、ZEISS Tessarレンズにより画像周辺部の歪みが少なく、高コントラストでシャープな写真が撮影できる点も特徴です。

画質・画像処理の設計は?

Q11.記録画質はXperia PRO-I独自にチューニングが施されているのでしょうか?

はい。イメージャー(ここではセンサー特性やレンズの特性全体のこと)とレンズを合わせ込んだ専用設計に加え、大型の1.0型イメージセンサーのピクセルピッチやレンズの光学特性の各々の特性限界を引き出すための最適なチューニングを施しています。

Q12.Xperia 1 IIIなどとの画質設計面での違いはありますか?

色再現周りは基本的に「Xperia 1 III」と同じ思想で設計しています。低照度画質に関しては、大きなピクセルピッチのイメージャーに合わせて最適化しています。

特にカメラ専用機でも求められる黒の締まりを意識した設計・肌の質感や表現も、「Xperia 1 III」と同様にこだわっています。

Q13.ノイズ処理等での工夫はありますか?

専用機の「RX100 VII」でも採用されている1.0型イメージセンサーでの大きなピクセルピッチのセンサー出力に対し、スマホが得意とするマルチフレームノイズリダクションをかけることで、解像感を失うことなく更にS/Nの良い画質を提供するように検討しました。

加えて、αシリーズや「RX100 VII」でも採用しているソニー独自のフロントエンドLSIチップも搭載していますので、ハードウェアチップならではの高速なリアルタイムのRAWノイズリダクション処理が可能です。これによりマルチフレーム処理が処理時間的に難しい最速20fpsの高速連写時であっても、スピード性能とRAWのS/Nも両立した設計としています。

Q14.RAW(DNG)とJPEGを比較した際に、JPEG画像ではカラーノイズ等の低減処理もされていると感じました。一方で歪みの補正などはRAWもJPEGも同等の処理のように見えます。JPEG生成時の自動調整にはどのような内容がありますか?

詳細な技術仕様に関してはお答え出来ませんが、BIONZ X for Mobile(Xperia・α開発の中で培ってきた内製技術)のカメラ専用機用のソニー独自の様々な画像処理アルゴリズムに加えて、スマホの賢さをプラスしています。

例えば、シングルフレームのRAWでは難しいマルチフレームHDR(露出ブラケット)やAIエンジンを走らせるAuto WB(AIWB)などをJPEG記録の画像には適用しています。

Q15.本機のメモリー搭載量は12GBとなっていますが、これは連写時等のバッファなどとして機能しているのでしょうか。

通常のスマートフォン用の処理用のメモリとして使用するだけでなく、連写撮影用のバッファを始めとしたカメラ撮影処理にも使用しています。

Q16.画質の設計にあたりαシリーズやRXシリーズなどは、どのような形で関わっていますか? 参考機種とされている場合、考え方やアプローチも教えてください。

大方針としてはα・RXシリーズとの整合性を加味していますが、スマホならではのHDR処理/マルチショットノイズリダクションに代表されるような処理をアドオンしています。

動画に関しては、「ZV-1」はデバイス・商品性(Videography Proなど)で近い部分があるため、特に意識しながら設計を行っています。

また、α・RXシリーズの設計者がXperiaの画質設計も行っています。同様に、Xperiaの画質はα経験が非常に長い承認者が、同じ手・同じ目でチェックするプロセスを採用しています。ですので、設計段階と製品として仕上がる段階双方でαとRXシリーズに通じる画質となるアプローチとなっています。

VLOGCAM ZV-1(2020年6月発売)

Q17.RX100 VIIの24mm側で撮影した場合とで画素数を除いた画質面での違いはありますか?

レンズの光学性能の違いなどによる差分はありますが、同等のセンサーを使用しているため、同等の感度性能・ダイナミックレンジが得られるほか、画質面でも共通したアウトプットとなる設計としています。

Q18.3眼構成のカメラを備えるスマートフォンでは3つのカメラを協調させて画像を生成している機種もありますが、本機での3つのカメラはどのように動作・記録画像を生成しているのでしょうか。それぞれのセンサーごとに記録する仕組みでしょうか。

電子ボケは複数のセンサーを用いて記録していますが、基本的には3眼それぞれで記録する仕組みです。

シャッターボタンに込められたコダワリ

Q19.ディスプレイの検査体制はXperia PROと同じでしょうか?

一部工程は異なりますが、ソニー製マスターモニターを基準に色温度を個体ごとに調整して出荷しています。

ディスプレイはアスペクト比21:9の6.5型有機ELタイプを採用。4K HDR表示や120Hz駆動にも対応している

Q20.本機のスイッチ部品にはRXシリーズの部品が用いられているとあります。操作やUIでのコダワリとは?

これまでのXperiaのシャッターボタンは、半押しの際もクリック感のスイッチ部品を内部に使用していましたが、「Xperia PRO-I」ではRX100シリーズ採用実績のあるスイッチ部品を用い、深いストロークを実現しています。これによりカメラ専用機のようなクリック感のない半押しでの正確なAF操作を可能にしました。また、安定してシャッターを押せる広いボタン面積を確保することで、より本格撮影を体感できるよう、形状も工夫したデザインとなっています。

シャッターボタンは楕円形で幅を広めにとったデザイン。綾目模様のパターンが施されている

Q21.シャッターの最高速度が1/8,000秒となっています。素人考えでは電子シャッターであれば、もっと速度を上げることができそうに思えますが、この速度とした理由とは?

一般的にメカシャッターでは最大1/8,000秒程度が主流という認識ですが、スポーツシーンなど高速シャッタースピードが求められるシーンも含め、概ね十分カバーされていることもあり、ユースケースを鑑みて1/8,000までとしています。

Q22.Xperia 1 IIIなどではカメラ側とのHDMI接続による外部モニター化に対応していますが、本機での対応状況を教えてください。

「Xperia1 III」と同様にUVCでの映像入力に対応しており、“外部モニターアプリ”で外部カメラの映像を表示できます。

Xperia PRO-Iの外部端子はUSB Type-Cと3.5mmジャックのみ。HDMI経由でカメラの映像を表示したい場合は別途UVC(USB Video Class)に対応したアダプターをかませる必要がある

Q23.Vlog Monitorや三脚機能付シューティンググリップ「GP-VPT2BT」との連携も本機ならではの特徴となっています。今回アクセサリー類が大幅に拡充された背景や狙いとは?

「Xperia PRO-I」で本格撮影体験を目指すにあたり、カメラ専用機と同様にアクセサリーとの連携を強化することで、より多様なスタイルでの撮影が可能になりました。特に、別売りの「Vlog Monitor」は、モニターを確認しながら「Xperia PRO-I」の1.0型イメージセンサーでの自撮り撮影などを簡単に行うことができ、より幅広いユースケースにて高画質な撮影が楽しめるようになっています。

アクセサリーとの組み合わせでシステム運用にも対応する。三脚機能付シューティンググリップ「GP-VPT2BT」はRX100 VIIやRX0 IIでも利用することができる。3.5型外付けモニターは外付マイク用の接続端子も備えるなど、音声収録の品質にも配慮した自撮りなどでも有効なアクセサリーとなっている

本誌:宮澤孝周