インタビュー

α1は「これからの10年の新たな一歩」。ソニーのフラッグシップ・ミラーレスカメラへの思いと展望を聞く

ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社 コンスーマー&プロフェッショナルビジネスセクター カメラ第1事業部 副事業部長の大島正昭氏

3月19日に発売日を迎えたソニーのミラーレスカメラ「α1」。ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ株式会社の大島正昭氏に、同社Eマウントミラーレスカメラの10年や、α1への期待、今後の展望について聞いた。

——2020年は、ソニーのカメラにとってどんな年でしたか?

パーツ調達など、サプライチェーンで苦労がありました。それでも設計やパートナーの努力があり、いわゆるコロナ禍の影響はもう残っていません。

——Eマウントのミラーレスカメラが10周年を迎えました。どのような10年でしたか?

長かったし、短かったし、という印象です。「NEX-5」の頃は、その当時におけるミラーレスカメラの強みとして小型軽量には特化できましたが、カメラとして見たときの「ソニーのカメラ」は新参者だったため、認知してもらうまでに時間が掛かりました。

ステップが進むきっかけのひとつとなったのは、2013年の「α7R」「α7」におけるフルフレーム(35mmフルサイズ機)参入でした。また、2017年に「α9」を出したことで、プロを含めたハイエンドユーザーに認知が広がりました。

それまでのソニーには、ハンディカム(ビデオカメラ)やサイバーショット(コンパクトデジタルカメラ)の知見はありましたが、写真のハイアマチュアやプロユースに対するシステムカメラの知見はありませんでした。それを学ぶことを続けてきて、今に辿り着きました。

α1はミラーレス10年の集大成というより、これからの10年の新たな一歩です。

"1"のネーミングについて

——α1に"1"の数字を選んだ背景を教えてください。

議論がありました。どんなプロでも使える相棒になって欲しいという思いや、プロが"This is the one"と言ってくれるカメラを目指しました。もちろん、唯一無二、オンリーワン、これからの一歩、の「1」でもあります。

公開した動画の中に、α1を実際に使っていただいたフォトグラファーの証言があるのですが、こちらから頼んだわけでもなく"This is the one."(これしかない、これが私のもの、これだよ、などの意)という言葉が出てきて、とても嬉しかったです。

——α1はEマウント機で初めて「フラッグシップ」と位置付けられました。α9でも名乗らず、ついにα1がフラッグシップとして登場したのは何故ですか?

α9がソニーにもたらしてくれたことは大きいです。α9があったからこそ、プロの扉を開けて、様々な声をもらえるようになり、それを通じてα7シリーズもさらに知ってもらうきっかけとなりました。

α1は、そうした方々の声を聞いて技術課題に落とし込み、高いハードルを設けてクリアしながら開発しました。本当に自信を持ってプロに使ってもらおうという意味での"The One"であるα1を、今の我々の開発体制や意気込みの象徴として導入します。

高価だからフラッグシップ、という認識ではなく、先に申し上げたプロにとっての"The One"の解釈が"フラッグシップ"という言葉に当てはまると言えます。

——税込90万円というパッケージングに、迷いはありませんでしたか?

このカメラが様々な方にもたらす価値を考えた時に、この価格が妥当だと考えました。プレミアムレンズのGマスターなども充実してきたこのタイミングだからこそと考えています。

——α1シリーズを踏まえて、α9やα7の各シリーズはどうなっていきますか?

ハイエンド機に入れた新技術は、その他の機種にも展開することで顧客体験を広めていきます。例えばα7 IIIをベースに小型ボディとしたα7Cだけでなく、コンパクトカメラのRX100シリーズをVlog撮影向けにパッケージングしたVLOGCAM ZV-1のような展開もあります。

上位機に入れた技術を、より簡単に使えるようにするとか、技術のハードルを各ユーザー層に合わせていくようなイメージです。そこには、新しいことにチャレンジするというソニーの企業文化もあります。

——現在のαにおいて、メインストリームはどの機種ですか?

フルサイズではα7 IIIが大きな役割を果たしています。APS-Cではα6400です。この2機種は地域ごとの偏りがなく、ワールドワイドで人気です。

α6400といえば、スマートフォンのカメラを使っていた方が動画撮影用として購入されるケースが多いです。動画市場には、今までのカメラ業界とは違った山があるように見えていまして、だからこそZV-1のようなパッケージングの製品が活きています。

——日本は他の地域に比べて、デジタルカメラの静止画機能と動画機能の併用率が低いと言われてきました。現在はどうでしょうか?

2年前ぐらいまでは地域差がありましたが、今は日本でも世界と同じぐらい動画機能が使われるようになりました。背景には、コロナ禍で全世界的に動画の利用シーンが増えたことが影響していると思います。

それまで、確かに日本は目立って動画ニーズが少なく見えました。日本人がシャイであるという側面もあると思います。これは顧客調査の面からも伺えることで、質問項目に対するユーザーからの回答がとても謙虚で、他の地域と見比べると興味深い点です。

——Xperia PROなど、カメラ以外のデバイスとの社内連携も強化していますか?

活性化しています。これまでもカメラ開発のためにイメージセンサーのチームと連携していましたが、モバイル(スマートフォン)のチームともカメラの開発段階からやり取りをしています。

また、開発中のドローン「Airpeak」はミラーレスのαが載るので、カメラボディの開発側としても、リモート撮影のSDKを開発するなどで貢献できます。

——Xperiaと組み合わせた活用事例はすでにあるのでしょうか?

はい。主要なスポーツイベントで、エージェンシーフォトグラファーがα1を使用した実績は、既にあります。プロからは非常にポジティブなフィードバックをもらっており、5Gミリ波帯対応のXperia PROと組み合わせた、ライブスポーツ撮影時の即納ソリューションの実践も始まっています。

小型かつ高性能というミラーレスカメラの機動力と、5Gの通信性能を組み合わせることによるシナジーが、ソニーとして提供できる領域だと思っています。感動的なシーンの写真を1秒を争って納品される現場で、評価されてきています。

Xperia PROとα1を組み合わせたところ

——α1がアメリカのスーパーボウルで使われたという海外記事を見かけました。どのような目的で使われているのでしょうか?

ライブスポーツ撮影においては、フルサイズミラーレスカメラをジンバルに組み合わせて、試合中にフィールドや選手のすぐそばで撮影するなどの新しいトレンドが広がっているのですが、ソニーの機材はその最前線で使われています。フルサイズセンサーや高性能AFによって、よりシネマのような描写が可能になっており、ファンや視聴者からも大変好評と聞いています。

今後もパートナーやクリエイターの皆様と一緒にライブスポーツを盛り上げていけるよう、ソニーならではの体験を提供していきたいと思います。

——今後の展望について聞かせてください。

まずはα1をお使いいただき、このカメラの良さを感じてもらい、広めてもらうと共に、使う人の想像力によって「あれがしたい、これがしたい」と浮かんできたことを我々にフィードバックしていただき、次の開発に活かしたいと思っています。α1は「新たな一歩」ですから、二歩目が出せるようにという活動です。

このカメラだからこその新たな顧客体験があると信じています。私自身も"開発畑"の人間として、頑張ったエンジニアがこれでまたひとつ壁を越えて、次の開発に進んでもらえると思います。

今回、α1という思い入れのある名前のモデルを導入しましたが、これまでの10年の区切りと、これからの10年という視点で考えた時、このカメラが我々の製品開発に大きな役割を果たしてくれるといいなと思っています。

本誌:鈴木誠