新製品レビュー

SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary

小型軽量化された大口径標準ズーム α7R IVとの組み合わせで描写性能を検証

シグマからフルサイズミラーレスカメラ対応の大口径標準ズームレンズ「28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary」が、この3月に発売された。同社のミラーレスカメラ専用設計かつ35mm判フルサイズ対応の標準ズームとしては「24-70mm F2.8 DG DN」につづく第2弾となる。

軽さとコンパクトであることは正義

本レンズの最大の特徴は何といっても小さく軽いこと。これはまさに「F2.8通しの大口径標準ズームレンズは魅力的だけど、せっかくの小型ボディに大柄なレンズをつけるのは忍びない……」と悩んでいた人に、まさにうってつけだ。

マウントラインアップは、ライカLマウント用とソニーEマウント用の2種類が用意されているが、今回はEマウント用レンズと、有効約6,100万画素のα7R IVとの組み合わせで試用してみた。この小さな巨人の実力をとくとご覧いただきたい。

外観と操作性

冒頭でお伝えしている通り、本レンズの特徴は何といっても小さくて軽いこと。どのくらい小さいかというと、35mm判フルサイズ対応でありながらも、APS-C専用のF2.8標準ズームレンズである「E 16-55mm F2.8 G」(SEL1655G)とさして変わらないサイズ感に仕上がっている、といえばお分かりいただけるのではないだろうか?

試しにこれら2本を並べてみたのが以下の写真だ。左が28-70mm F2.8 DG DN|Contemporaryで、右がE 16-55mm F2.8 Gだ。シグマのほうは最大径72.2×長さ101.5mm、質量470g(数値はLマウント用のもの)であるのに対し、E 16-55mm F2.8 Gは最大径73×長さ100mm、質量494gとなっている。見比べてみても持ち比べてみても、両機の差はほとんど変わらない、というのが正直な感想だ。

しかし、これが同じシグマの24-70mm F2.8 DG DN|Artとの比較になってくると、ちょっと話が違ってくる。Artのほうは、最大径87.8×長さ124.9mm、質量830g(数値はEマウント用のもの)となってしまうのだから、あまりの大きさと重さの違いに愕然としないでいられない。特に重さ! シグマが製品発表の際に自社の2製品を比べるようにして提示していたことが、素直に肯けるほどの違いが、そこにはある。

本レンズは「圧倒的な描写性能」の追求をコンセプトにしているArtラインの24-70mm F2.8 DG DNをベースに、広角側のズーム域を4mm狭めることで小型化を達成している。つまりは、画質優先のArtラインの設計思想を継ぐ、大変素性の良い小型軽量レンズということになるわけだ。それにしても広角端を短くしただけで、これほど大幅なダウンサイジングが出来るということに改めて驚かされる。

小型化に伴って省略されがちな、AFとMFの切り替えスイッチもしっかり備えている。ピントリングやズームリングを動かした時の指がかりや感触も問題を覚えるようなことはなく、操作性においても万全であると言えるだろう。簡易防塵防滴機構も備えているため、多少厳しい環境でも臆することなく使えるところもポイントだ。

レンズ構成は12群16枚。色収差を補正するための特殊ガラスであるFLDを2枚、そしてSLDを2枚、さらには非球面レンズを3枚使ったという凝った仕様である。小型軽量化による描写性能への負担はいかがなものか、と興味をもつところであるが、それは後程述べさせていただきたい。

レンズ構成図

ズームを広角端から望遠端へ引き出したときの変化はこんな感じ。見ての通り、伸縮の差はそれほど大きくない。標準ズームは、ズーム操作にともなって鏡筒が伸縮するタイプが主流となっているが、本レンズ程度であれば、実使用にあたって違和感を覚えるようなことは全くなかった。

レンズフードは「LH-706-01」が付属する。有害光を防ぐ効果はもちろんのこと、レンズを何かにぶつけてしまったときの緩衝にもなってくれる。撮影の際は面倒臭がらずに逆づけのまま使うのではなく、ちゃんと正しい位置に装着した方が良い。ちなみに個別で買い求めると、希望小売価格5,500円(税込)となかなかの出費になるので紛失には注意しておきたい。

付属のレンズフード「LH-706-01」を装着した状態

絞り値による画質の違い

描写性能を確認するために、広角端と望遠端のそれぞれについて、絞り値を変えながら同じ被写体を撮影してみた。今回は夜景を被写体としたため、点光源などの写り具合なども確認しやすいと思う。

まずは広角端28mmでの遠景描写をみていった。絞りはF2.8〜F8までを段階的にチェック。画像全体を見ても、回折現象の影響を受けやすくなるF8に至るまで、いずれも差がなくカリっとエッジの切れ込んだシャープな写りを見せてくれている。

PCディスプレイ上で等倍に拡大すると、さすがにF2.8やF4は、F5.6やF8よりも解像感がわずかにユルくなっていることを確認できるものの、通常の写真鑑賞条件であれば、まずその差を見つけるのは難しいだろう。プリントをするにしても、その差を見出すことは困難だと思われる。それくらい絞り開放から解像感に優れた描写だ。

共通撮影データ:α7R IV / 絞り優先AE(F2.8〜F8・1/3〜2.5秒・+1.0EV) / ISO 100
F2.8
F4
F5.6
F8

望遠端70mmでの遠景描写は以下の通りだ。こちらもF2.8からF8まででチェックしていった。

描写は広角端の時と同じく、絞り開放のF2.8ではやや解像感がユルくなるものの、それはよほど画像を拡大してみた時にようやく確認できるくらいの差にすぎない。こちらも通常の写真鑑賞条件であれば、その差を見出すことは難しいだろう。レンズ自体は小型化しているけれども、カリっとしたシグマらしいシャープな画質が堪能できる。しかもそれがズーム全域で安定していることを考えると、「大口径ズームの常識を塗り替える」という打ち出し方にも肯けるものがある。

共通撮影データ:α7R IV / 絞り優先AE(F2.8〜F8・0.8〜6秒・+0.3EV) / ISO 100
F2.8
F4
F5.6
F8

解像感について

絞り別の描写の違いを観察したところ、本レンズにおける解像感のピークはF5.6~F8あたりだと感じた。現実的には絞り開放であってもそれほどの差を感じることはないので、スナップやポートレートシーンでは、むしろボケ量のコントロールが絞りの役割となりそう。風景撮影を別にすれば、撮影条件によって絞り値を選択すればよいという結論だ。

今回の撮影では約6,100万画素センサーのα7R IVを使用しているが、これだけの画素数を誇るカメラであっても、絞り別の差はわずか。2,000万画素クラスのセンサーを搭載するカメラとの組み合わせであれば、解像感の違いは、さらに気にならないレベルになることだろう。

広角28mm側の中央および周辺部を拡大してみる
中央部を拡大したところ。F値は時計回りにF2.8、F4、F5.6、F8
左上の隅を拡大したところ。こちらもF値は時計回りにF2.8、F4、F5.6、F8

作例

望遠端70mm、絞りF5.6での撮影。ちょうど桜が見ごろを迎えていた。こういった細かな造形を詳細に写したい時には、実に使い心地の良いレンズだと思う。桜の花びらひとつひとつ、枝ぶりの一本一本まで、実に細かく描き分けてくれた。中心に比べて四隅の像はやや乱れが見られ、解像感もわずかに落ちているが、何度もお伝えしている通り、それは高画素クラスのカメラで撮影しているが故に見えてきた部分。等倍あるいはそれ以上に画像を拡大した時にようやくわかる程度である。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(70mm) / 絞り優先AE(F5.6・1/80秒・-0.3EV) ISO 100

焦点距離55mm、絞りF4での撮影。35mm判フルサイズの場合、F4という絞り値は、程よい被写界深度で自然な立体感が得られるため、個人的にスナップ撮影でよく使う設定だ。ちょっと中途半端な焦点距離になってしまったが、これは撮影位置からちょうど良い画角をファインダー内で選択した結果である。ズーミング操作で自由に画角を変えられるズームレンズはやっぱり便利だなと感じた。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(55.7mm) / 絞り優先AE(F4・1/1,600秒・-0.3EV) ISO 100

焦点距離67mm、絞りF2.8での撮影。前の写真と同じくファインダー内で画角を決めた。トリミング等はしたくないので、70mmからわずかに引いた67mmを選択できたところがミソなのである。ただ、背景の屋根瓦は自然なボケ味はなかなか良いものの、後方に見える桜の枝のボケ方が少しうるさいように感じてしまった。絞り開放から良好なシャープネスを得られるようにした光学設計の代償なのかもしれない。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(67.4mm) / 絞り優先AE(F5.6・1/60秒・±0EV) ISO 100

焦点距離35mm、絞りF5.6での撮影。シグマのレンズはコントラストがしっかりしたものが多いという印象をもっているが、その傾向は本レンズにも確かに息づいている。なまこ壁というのだろうか、周りの植物や土の中から古い塀の存在感を力強く描き出すことができた。モノに刻み込まれた歴史を、鮮烈に表現したい場合などに向いたレンズなのかもしれない。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(35.6mm) / 絞り優先AE(F5.6・1/400秒・-0.3EV) ISO 100

太陽を画面内に入れて逆光耐性をチェックしていったところ、画面左上に薄く紫色のゴーストが発生した。とはいっても決して強いものでなく、発生する数や位置も撮影前に把握しやすいものなので、気をつければ労せずにコントロールすることができるだろう。

思い切りの良さを感じるほど小型化されたレンズなので、もっと派手にゴーストが出るかと思っていたが、逆に拍子抜けしてしまった。スペックから考えても逆光耐性は実に優秀。設計段階でのゴーストやフレア対策はもとより、シグマ独自のナノポーラスコーティングもまた相乗して威力を発揮しているのだろう。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(29.4mm) / 絞り優先AE(F5.6・1/4,000秒・-0.3EV) ISO 100

シグマによれば、本レンズの一部個体において、経時変化によるゴースト耐性の悪化が確認されている(3月23日発表。4月9日追加発表あり)。調査結果によれば初期ロット分の一部製品でゴースト耐性が悪化する可能性を否定できないとして、交換対応が発表されている。問題が確認されているレンズは、マウントを問わずシリアル番号が「55488834」より以前の製品とのことだ。

実用的な逆光耐性があると自信をつけたところで、夕日を入れた風景的な撮影に臨んでみた。が、薄曇りだったのでゴーストを心配する程の条件でもなかった。しかしながら、フレアも良く抑制してくれているため、逆光状態でもコントラストの高いメリハリのある写真を撮ることができた。テストとしては少し厳しさの足りない条件ではあるけれども、実写結果は満足いくものだ。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(38.9mm) / 絞り優先AE(F4・1/640秒・-0.7EV) ISO 100

ちょっと休憩の意味で公園のベンチを撮影。休憩と言いながら、実はかなり意地の悪いことをしていて、ソニー製ミラーレスカメラの「レンズ補正」機能を解除している。

さて、ここからが見どころ。ベンチが画面中央に向かって弓なりに曲がり(糸巻き型の歪曲)、画面周辺で光量落ちが発生していることが分かるだろう。

誤解なきように説明しておくと、本レンズはそもそものコンセプトでボディ側の各種補正系機能の利用を前提に設計されている。つまり、このテストはそもそもナンセンスな実験であることはご承知置き願いたい。

ともあれ今やミラーレスカメラ用のレンズは、いずれも多かれ少なかれボディ側の補正機能を使っているので、こうしたテクノロジーを活用して小型軽量化を実現するという手法は決して悪いことではないと思う。むしろ、サードパーティーながらも、他社の補正機能を上手く活用していることに感心すべきだろう。もちろん「レンズ補正」をON(オート)にすれば、ベンチは真っ直ぐ、周辺もスッキリ写るので安心してほしい。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(70mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/6,400秒・-0.7EV) ISO 400

望遠端70mm、最短撮影距離(38cm)での撮影。モンシロチョウ、こんな必死に蜜を吸うのか……、というのは置いておいて、望遠端での最大撮影倍率は0.2倍強と、「すごく寄れる」といえるほどではない。ただし、そこは画質および小型化とのトレードオフがあると想像できる。それでも、ミラーレスカメラ用の大口径標準ズームレンズとしては優れた部類なので、本レンズを使って寄れないなどとは言うべきでないだろう。それにしても、近接撮影時の滲むようなボケ味は、中距離や遠距離時に見せるそれと打って変わって、何とも幻想的で魅力的だ。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(29.1mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/1,600秒・-0.3EV) ISO 100

広角端28mm、最短撮影距離(19cm)での撮影。一気に被写体に迫れるようになった。本レンズの特徴でもある小型軽量が発揮できる瞬間! といった印象で、こじんまりとしたオオイヌノフグリも見ごたえが出るサイズで写せるようになる。この時の最大撮影倍率は約0.35倍。「マクロ」と言うには一歩足らないが、十分自由に寄れる距離感である。そして、望遠端の最短撮影で見られた魅力的なボケの滲みは、広角端ではより強調されている。こうなってくると、画面四隅での像の乱れがむしろ作画の味方になってくる。この美しい滲みを意図して最短撮影距離を決めたのだとしたら、結構すごいことである。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(28mm) / 絞り優先AE(F3.2・1/1,250秒・+0.3EV) ISO 100

最後に光源を大きくボカした写真を撮ってみた。つまり玉ボケの具合を見てみたということ。最近は、玉ボケの形状、特に年輪ボケ(玉ねぎボケなどとも)が取り沙汰されることが多くなったが、本レンズも、それらのネガティブ要素からくる影響はほとんど見られない。非球面レンズを複数枚使っているので、多少なりとも分かりやすく出るかと思ったが、そのようなことはなかった。ただし、玉ボケの周辺部には比較的ハッキリとした縁取り(輪環ボケ)が見られ、口径食も比較的早く周辺部に現れる。ボケの硬さや周辺光量落ちにつながる話であるが、これを解決しようとすると、結局のところサイズを大きくせざるを得ない。中のレンズも大きくなるのだから、当然加工難易度も高くなるし、コスト的にも高額なレンズにつながっていく。レンズ性能とは、すなわち何かしらのトレードオフの関係の上に成り立っているのである。

α7R IV / SIGMA 28-70mm F2.8 DG DN|Contemporary(70mm) / 絞り優先AE(F2.8・1/25秒・+0.7EV) ISO 400

まとめ

「レンズ性能はトレードオフの関係!」といいながらも、現代レンズをみていくと、そうした壁や条件を乗り越えて非常にバランスのとれた、使い勝手の良いレンズが数多くラインナップされるようになってきている。本レンズもそうした傾向を良く踏まえた一本で、総評すれば「とても良く写る、実用上まったく不満のない、驚くほど軽く小さな大口径標準ズーム」ということになる。何しろ、フルサイズ用でありながら、APS-C用レンズとほぼ同等のサイズ感で、この優れた画質である。

描写性能に関しては、絞り値やズーム域にかかわらず、カリっとシャープで高解像な写りが本レンズの特徴だ。この辺はブレのない実にシグマらしい写りと言えるだろう。同じ大口径標準ズームでも、柔らかさを重視したい、あるいはその両方が欲しい(ボケと解像感の両立)というのであれば、他社製レンズや純正レンズを求めるという手もある。選択肢が増えたのだから、われわれユーザーにとっては嬉しい限りだ。

というのは、今回使ったソニーEマウント用での話。あれ? このレンズが開発された真の意図は何なのだろう? と考えると、それはLマウントを採用するミラーレスカメラ「SIGMA fp」と組み合わせることも意識したレンズなのだろう、ということになる。Lマウント用レンズは正直な感想として、究極的な光学性能を求めて大きく重い製品が多い。「せっかくの小型ボディに大型レンズをつけるのは忍びない……」というのは、実のところSIGMA fpユーザーに限った話ではないけれども、ミラーレス機のメリットはやっぱり小型で軽量だということでもある。

やはり軽く小さいことは正義である。無論、実用性を保ちながら、ということは絶対条件だ。フルサイズミラーレスカメラが注目される昨今、本レンズは新しい時代に即した「使える大口径標準ズーム」として多くのユーザーに迎えられるだろうことは想像に難くない。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。