新製品レビュー
Tokina FíRIN 100mm F2.8 FE MACRO
絞り開放からキレのいい描写が味わえる中望遠マクロ
2019年5月9日 07:00
株式会社ケンコー・トキナーからソニーEマウント用の中望遠マクロレンズ「FíRIN 100mm F2.8 FE MACRO」が発売された。一眼レフカメラ用の等倍マクロ「AT-X M100mm PRO D 100mm F2.8 1:1 MACRO」の光学系を踏襲しつつ、35mm判フルサイズセンサーを搭載するソニーEマウント用に開発されたモデルだ。
極めてシンプルなデザインを採用
「FíRIN」シリーズは35mm判フルサイズに対応した、ソニーEマウント用高品位モデルのブランドであり、すでに焦点距離20mmの広角単焦点レンズ「FíRIN 20mm F2 FE」(AFとMF版の2種類をラインアップしている)がある。本レンズはこのシリーズの通算3本目、2つ目の焦点距離のレンズとなる。
外観デザインはレンズ先端側に幅広のピントリングが、マウント側にそれより幅の狭いグリップがそれぞれ見られるだけで、マクロレンズに備わっていることの多いフォーカス切り替えやフォーカスリミッターといったスイッチ類のない、シンプルですっきりとした印象のデザインになっている。
最短撮影距離は0.3mで最大撮影倍率は等倍。本レンズの焦点距離は中望遠系のマクロ(100mm前後)に類別されるもので、標準系マクロ(50〜60mm前後)、望遠系マクロ(200mm前後)と比べて、花のクローズアップ撮影においては被写体との距離が近すぎず、遠すぎずの程よい距離を保つことができ、ボケに関しても、背景の雰囲気をほんのりと残せるため使い勝手が良い。
最大撮影倍率が等倍なのもマクロレンズとしてはスタンダードなので、マクロレンズを1本持つなら中望遠マクロがお勧めだ。
やわらかなボケ味
FíRIN 100mm F2.8 FE MACROは前玉繰り出し式で、レンズの先端側が伸長する。この伸長した鏡胴部にワーキングディスタンス(レンズ先端から被写体までの距離)が示されていて、繰り出し量に応じて鏡胴に表示された撮影距離(メートルとフィートが併記されている)と撮影倍率が現れるデザインとなっている。
ピントを合わせるときにレンズの先端が伸びないインナーフォーカス式ではなく、あえて鏡胴が伸縮する前玉繰り出し式にした理由は、メーカーによると素直なボケを再現するためだと言う。
確かに、撮ってみるとピント面からアウトフォーカスにかけてのボケがなだらかで、前ボケ、背景ボケともにその描写はやわらかい。
開放からキレのある描写が得られる
画質は全体的にシャープさが際立ち、近距離、中距離、遠距離ともに高い解像力を持っている。朝日が直接レンズの表面に差し込むような完全に逆光となるシーンではさすがにフレアが生じるが、それでもピント面のシャープ感を維持していた。
近距離では絞り開放のF2.8からシャープだが、F4、F5.6と絞りこんでいくと、さらにシャープ感が向上する。
中距離では絞りこむことによる先鋭感に大きな差はなく、F2.8から描写に高いキレを感じた。
回折現象が感じられる境目はF22から。つまり、開放からF16までは高いシャープ感が維持されている。
ポートレート用途にも好適な描写
ピント面のシャープな印象とともに、やわらかなボケが得られることから、クローズアップのみならず、人物撮影を想定した光学設計、コーティングが施されている。
今回、娘を撮影してみたが、肌の滑らかさとともに、絞り開放でのまつげの解像感には驚いた。拡大してみると、一本一本がはっきりと写されていて、まるでそこにあるかのようだった。単焦点の中望遠レンズとしてポートレートに使うのもよさそうだ。
丸ボケになるような場所で撮影してみたところ、絞り開放では中央部は円形になるが、周辺はレモン型になる。
また、1/3段絞るとボケが角張ってくるので、丸ボケを意識するなら絞り開放で撮影するのがお勧め。ソニーEマウントレンズはライブビュー画面上で絞られた状態を確認することができる。
AFの動作と操作感
AFでの撮影ではレンズが繰り出されて行く際に、ジージーというモーター音がして、コントラストが低いシーンではピント合わせで迷うことがある。そんな時はMFに切り替えて操作するのがおすすめだ。
ソニーのカメラではAF-Sを選ぶとAF操作のみになり、AF時にMFで微調整を行いたいならDMFを選ぶ。完全に手動で合わせる場合はMFへと切り替えよう。
ピントリングは幅広で、縦に溝が彫られていて、掴みやすく、指がフィットする感じ。MF時の動きもとてもスムーズで、ピントリングを回してみると軽やかなのに滑りすぎず、なめらかな操作感が得られる。レンズの繰り出しはAF時と同じく電動式だが、わずかな操作音さえ聞こえてこないほど静かだ。
撮影倍率が上がるほど被写界深度は極めて浅くなるが、シビアなピント合わせが要求されるシーンでも、フォーカスリングの使い心地がとても良かった。
また、電気的にカメラとの連携がなされているので、MF時にピントリングを軽く回すと画面の一部が拡大されるMFアシストが使用できる。液晶画面上の撮影距離バー表示にも対応するほか、今回使用したα7 IIIのように手ブレ補正機構が搭載されている機種であれば、その恩恵も受けられる。
まとめ
キレのいいレンズは撮っていて気持ちがいい。画像を拡大してチェックした時こそ、このレンズのシャープネスを実感することができるだろう。今回はほとんど手持ちで撮影したが、手ブレ補正もしっかり働いてくれているので、シャープ感のある写真撮影が楽しめた。
花や小物のクローズアップ撮影を楽しみたい、また、中望遠のポートレートレンズとして使ってみたいというEマウントユーザーにお勧めのレンズだ。
春から初夏の花々が見られる良い季節になった。やわらかなボケとキレのある描写のマクロレンズを持って、公園へ、野原へと出かけてみてはどうだろう。小さな世界をのぞいてみると、新しい発見があるかもしれない。