新製品レビュー

FUJIFILM X-Pro3(外観・機能編)

手間暇とストーリーが詰まったカメラ

富士フイルムからX-Pro3が登場した。X-Proシリーズと言えば、フラットボディの隅にファインダーを内蔵する"レンジファインダースタイル"の中でも、光学・電子の切り替えが可能なハイブリッドビューファインダーを備えるシリーズである。

初代X-Pro1はレンズ交換式のXシリーズ初号機でもあり、登場からは約8年。2代目となるX-Pro2の登場からも4年弱とおおよそ4年スパンでの登場で、これは世代交代の早いデジタルカメラでは比較的スローペースの更新頻度と言っても良いだろう。

撮像センサーと映像エンジンは他の第3世代XシリーズであるX-T3やX-T30などと同じX-Trans CMOS 4(裏面照射型26MP CMOSセンサー)とクアッドコアのX-Processor 4が採用されている。第3世代初号機となるX-T3の登場から約1年のタイムラグがあるけれど、上記した通り約4年間隔と考えれば適切なタイミングなのかもしれない。

センサーとエンジンがX-T3などと同じということは撮影性能も同じということになるので、アナログダイヤル基調のクラシカルな外観からは想像もできないほど高度なAF追従性能や連写性能を持っているのは、X-Pro2同様にとても痛快な存在。最新とは最も便利であることと同義というのがデジタル機器の常だけど、背面モニターが見えない状態を基本とするHidden LCDのように「不便を強いる」という、時代に逆行するような特徴を併せ持つ点も興味深い。

デザイン

X-Pro3の外観は初代、2代目とほぼ同じスタイル。初代から継続しているブラックペイントのボディカラーを選ぶと、特にX-Pro2とX-Pro3の差は至近で観察しない限り判別は少々難しい。だからといって変更点が無いわけでもなく、トップカバーと底面カバーをマグネシウム合金製からなんとチタン合金に変更している。チタン外装はフィルムカメラの時代では時々眼にすることがあった。軽量高強度が特徴の素材だけれど、耐摩耗性に難点があることと、またプレス加工形成が難しいなど量産化に対する弱点があるため、昨今ではカメラへの採用例が少なくなっている。

今回のレビューで紹介するのは特色のDRシルバー(呼び名はデュラシルバー)。DRとは精密機器メーカー(時計が有名)のシチズンが持つ「デュラテクト」と呼ばれる表面硬化技術のこと。今回紹介するDRシルバーでは表層に硬化層を作るMRK処理がほどこされ、塗料による「塗り」がなされておらず、チタンそのものの色あいを楽しむことができる。

トップカバーの機種名はレーザー刻印

またもう一つのDRカラーであるDRブラック(呼び名はデュラブラック)はDLC(Diamond-like Carbon)コーティングという、高耐久で低摩耗の強靭な表面処理が施されている。DLCコートは腕時計のケース部分ほか、モータースポーツシーンではエンジンやギアボックス、サスペンションなどに用いられ高い効果が知られている。チタンの耐摩耗性の低さをデュラテクトによってカバーする合わせ技と、人間の手による仕上げの工程を経て、X-Pro3はチタン外装を手に入れている。

特徴的な背面モニター部

本機の特徴である、背面モニターが閉じられている状態を基本とした"Hidden LCD"というコンセプト。下方向にのみ展開でき、閉じた状態ではサブモニターに撮影情報を表示できる「標準表示」と、フィルムシミュレーションの情報と設定感度をフィルムパッケージのようなデザインで表示してくれる「クラシック表示」が選択できる。

背面モニターは約162万ドットのタッチパネル式。輝度・コントラスト共に十分な性能があり、タッチ操作のレスポンスも上々だ。

サブモニターの表示は月明かり程度の照度しかない夜間では判別が難しいが、製品のコンセプト的にはコレで良いのだろう。表示そのものはX-H1の表示と同じ印象。表示項目のカスタマイズも可能だが、白背景表示はできない。

クラシック表示では、フィルムシミュレーションの"ネタ元"と思しき製品に存在しない感度であっても、フィルムパッケージテイストでISO感度を表示してくれるのが楽しい。これはフィルムメーカーである富士フイルムにのみ許された特権だ。ちなみにクラシック表示の場合は、カメラの電源をオフにしても表示内容はそのまま残る。標準表示に設定している場合は、電源オフにするとバッテリー残量の目盛りだけが残る。

クラシック表示の例
標準表示(電源オン時)

筆者個人の美的感覚によるものだけれど、他の人が撮影している姿を眺めていると、撮影後に背面モニターを確認する様子があまりスマートではないと感じることがある。自身もできるだけスマートに撮影して格好つけたいほうなので、人前で撮影する時にはあまり背面モニターを確認しないようにしているのだけれど、X-Pro3であれば半ば矯正的な措置で背面モニターを確認しないスタイルになる。というのも、液晶モニター部を下に開いて撮影する姿が、とてもじゃないけれどスマートには見えないからだ。

フィルム時代は当たり前だった"仕上がりを想像しながら撮る"という行為をデジタル世代でも味わえるカメラはライカM10-Dなどが既にあるけれど、X-Pro3の試用を通じて、こうした撮り方が改めて面白いことに気付かされた。

そんな楽しさがある一方で、三脚にX-Pro3を固定すると下方向のチルトが災いして、三脚座やクイックシューのプレートに液晶が干渉して展開角度が大きくとれず、それなりに使いづらい。小型の雲台やシュープレートを選べば良い話ではあるのだけれど。

プレスリリースには「ハイアングルからローアングルまで撮影できる」とあるが、ハイアングルではカメラを逆さにしないと表示の確認も難しく、結局フィルムカメラのようにノーファインダー撮影の術を磨くほかないので、この発表文には疑問が残る。

というように、現代製品では当たり前となっている利便性や、同じ富士フイルムのカメラでもX-Tシリーズのような万能性を求めてしまうと、肩透かしを食らってしまう場合があることには理解が必要だ。

アドバンスドハイブリッドビューファインダー

X-Proシリーズの特権でもある光学ビューファインダー(OVF)に電子ビューファインダー(EVF)を組み込んだビューファインダー。X-Pro3ではOVF光学系が刷新されアイポイントが伸びたことと、接眼位置に対しての寛容性が増した。メガネ着用で27mmレンズの画角に相当するブライトフレーム内がギリギリ見渡せ、35mmレンズの枠では問題なく全景が見渡せるほか、クリアな覗き心地で樽型の歪曲が低減されるなど改良点が多い一方で、倍率切り替え機構は廃止されている。筆者はワリと倍率切り替えを多用していたので少々残念に感じた。

OVFの隅に小さく出てくる"小窓"のEVFについては、OVF部分のクオリティが上がったためか、見易さが向上しているように感じた。

参考:右下に小さく出ているのが"小窓"ことERF(エレクトロニックレンジファインダー)
OVF時
ブライトフレームを表示
EVF時

EVFについては約369万ドットの高精細な有機ELパネルが採用され、表示クオリティが大きく改善された。X-Pro2まではEVF表示と背面モニターの表示、実際の撮影画像で再現性の乖離が大きかったが、X-Pro3ではそれぞれがグッと歩み寄っていて信頼できるようになった。それでも、モノクロ表示は若干冷黒調気味だ。

輝度は基本設定のままでも十分だけれど、日中に撮影するなら明るさを少し高めた方が視認性が良く、筆者には快適に思えた。明るさを高めてもシャドー部の締りが良く、あまり浮いて見えないことには感心した。

残像感低減機能についても面白く、連写時には確かに効果を感じられたけれど、省電力設定でパフォーマンスを「ブースト」にしなければ設定できないし、X-Pro3に本当に相応しい提案か? については少々不明瞭に思う。

気になったのは、ファインダーをEVFに切り替えるとマスクが下からせり上がって来るのだけれど、カメラを前面から見た時に、このマスクの質感がボディの品位にマッチしているとは感じられない点。例えば「世界で最も黒い黒」で有名になったベンタブラックのような塗料を採用するといったストーリーがここにも欲しかった。

OVF時
"小窓"ことERF時
EVF時

操作系

シャッター速度/感度ダイヤルや前後コマンドダイヤル、フォーカスレバーやボタン類も含めた物理的な操作系レイアウトはX-Pro2からほぼ踏襲されているけれど、背面ボタンのレイアウトは変更された。慣れるまでは「ん?」と思うシーンが何度かあったけれど、背面モニターを見ないようにしているとすぐに気にならなくなった。

前後の電子ダイヤルの飛び出しが多くなっただけでなく、回転時のクリック感が明瞭になり、特に後ダイヤルの操作性が著しく良くなった。また前ダイヤルから押し込み操作が廃止されている。その他では、多少の個体差もあるかもしれないけれど、露出補正ダイヤルの操作感がX-Pro2と比べてカタメになった。グリグリと露出補正を多用する人だと親指が少し痛くなるかもしれない。

手に持った感じはX-Pro2とほぼ変わらず、ブラックボディ同士なら手の感触に頼った判別は相当に難しそう。本体の3サイズが殆ど変わらないのでX-Pro2用のグリップMHG-XPRO2も装着できるのでは?と思い試してみたが、装着不可だった。

メディアスロットカバーの操作がスライド式からロック式に変わり不用意に開いてしまうことが減ったのは嬉しいところ。スロット1/2のどちらもUHS-II対応となった。

マクロな話になるけれど、レンズ装着時にマウントに嵌めて回す際の抵抗が強くなり、より密に結合している感触が高まった。これはX-Pro2登場時にも感じたことで、使い込めば馴染んで抵抗感が多少軽くなるのだけれど、マウント部品の加工精度がさらに向上し、製品としての精度が高くなっているのだと推測される。試しに40回程度着脱を繰り返してみたが、抵抗感にさほど変化がなく精密な印象を保ったままだった。

レリーズ感

次回の実写編で記述した方が良いと思いつつ、外観機能編で紹介したいのがレリーズ感。レリーズボタンの感触は半押しまでの重さとストロークがやや増している。X-Pro3と比べるとX-Pro2は軽く浅めのストロークで、筆者はX-Pro2が好みだ。シャッター音については高音成分が減り、しっとり感が増した。X-Pro2のシャッター音も好きだったが、X-Pro3のシャッター音の方がより好みだ。

気になったのは、単写で撮影すると撮影画像表示(いわゆるプレビュー画像)をOFFにしていてもビジーになってしまうこと。連写ではビジーにならないのでシーケンスの都合だと思われるが、かなりイライラさせられるのでこの仕様はやめてほしい。

また、EVF撮影時にスリープからの表示復帰が非常に遅く、電源を切った状態から電源オンにするほうが体感で1/5以下の時間で撮影可能になる制御には感心しなかった。スナップには速写性も求められるので、スリープ復帰についてはもっと高速化して欲しい部分だ。

イメージセンサーと映像エンジン

X-Pro3は、X-T3やX-T30と同じ有効2,610万画素「X-Trans CMOS 4」と4つのCPUを持つ「X-Processor 4」が採用されている。常用ISO感度は従来機のISO 200から少し下がってISO 160〜12800(拡張時ISO 80〜51200)に。上限感度については変更ナシだ。

現時点ではX-Pro3だけの特権的な機能になるのが、グレイン・エフェクトに新たなパラメーターである「粒度」が加わったことと、カラークローム「ブルー」が追加されたこと。また、新フィルムシミュレーション「クラシックネガ」の追加などがある。X-T3やX-T30などに今後ファームアップで追加されるかどうかは未定とのことだ。低輝度AFなど、X-T3より優れている部分もある。

新パラメーター「粒度」。
カラークローム ブルー。
新フィルムシミュレーション「クラシックネガ」。

カメラへのラブレター

外観を簡単にチェックするだけでも、実用性という観点でHidden LCDの評価は分かれるところだろう。しかし非常に遊び心に満ちた製品でありながら、最新デバイスを組み合わせて効率化と非効率化を同時に詰め込んでいるところがとても興味深い。まさしく趣味のカメラという印象だが、Hidden LCDを持たないX-Pro3、つまりはX-T3のセンサーとエンジン、タッチパネル化したLCDを持つ"X-Pro2の正常進化版"を待っていたという人も多いのではないだろうか。

こうした評価が両極端になる製品を実際に商品化するのはとても難しいことだ。それでも酔狂と表現すべき情熱を込めてカメラづくりを続け、実際に製品化してくれたことは、ひとりの写真ファンとしてとても嬉しく思う。かつてイギリスの自動車番組がSinger Vehicle Designの車を紹介した際に、そのクルマづくりの姿勢を「It’s a Love Letter to a Car.」と表現したことを思い起こさせる。

チタン製のボディカバーやDRカラーの質感など、とても約20万円代前半の製品の仕上げとは思えないほど上質で、手間の掛かる構造が採用されている。またそれぞれのコダワリがブラックボックス化されておらず、ストーリーを感じさせるものになっていることも所有欲を掻き立てられる。なぜなら、手間暇が掛かっていることを知りうるというのは特別な気持ちになるからだ。

これを仮に富士フイルム以外のメーカーが製品化したなら、もっと高価で妥協があったはず。しかし本機を厳しい眼で見ても、妥協点は非常に少なく思う。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。