特別企画
メジャーファームアップによって富士フイルムのGFXシリーズはどのように進化したのか
6月30日の大型アップデートをGFX 50Rのユーザーが検証
2020年6月30日 14:30
富士フイルムよりラージフォーマットセンサー(43.8×32.9mm)採用のミラーレスカメラGFXシリーズを対象にしたファームウェアアップデートが公開された。今回のアップデートは富士フイルム自ら「GFX史上、最大」と題していることからも分かるとおり、かなり大規模で多岐に渡るメジャーアップデートだ。
対象機種は有効約5,000万画素のFUJIFILM GFX 50Sと同GFX 50R、そして有効役約1億200万画素のFUJIFILM GFX100だが、3機種すべて同一のアップデート内容ではなく、GFX 50系とGFX100では内容が異なっている。
筆者はこれら対象機種のうち、レンジファインダースタイルのGFX 50Rをふだんから使用しているのだが、このファームウェア公開に先立ち、その機能を検証する機会を得た。史上最大のアップデート内容はどのような使い勝手の向上をもたらしてくれているのか、さっそく紹介していきたい。
画作り関係その1:フィルムシミュレーションが充実した
フィルム名をチョイスするだけで複数の画調テイストから好みの描写を選ぶことができる「フィルムシミュレーション」は、富士フイルムのカメラならではの独自機能だが、そのフィルムシミュレーションの選択肢に「クラシックネガ」が新搭載された(GFX 50系、GFX100共に)。
クラシックネガはX-Pro3(2019年発売)以降の機種に搭載されているフィルムシミュレーションのひとつで、カラーネガフィルムをプリントしたときのテイストを再現したもの。低彩度かつハイコントラストであることに加え、例えば同じグリーンでも明るさに応じてグリーンの色味を変化させることで味わい深い色調が楽しめるモードだ。
スタンダードモードであるフィルムシミュレーション「PROVIA」に比べると、クラシックネガはかなり低彩度であることが分かる。逆にコントラストは高く、空のハイライト部などはやや飛びやすくなる。
画面内にある年号からも分かるとおり、この写真は2018年に撮影した画像ファイルをSDカードに書き込み、それをファームアップしたGFX 50Rでボディ内RAW現像した。当時は不可能だったクラシックネガを適用できるのは面白い。
こういう錆びた被写体にはクラシックネガは本当によくマッチする。同じグリーンでも明度により色相が変化するなど、クラシックネガは相当に凝った画像処理が行われており、これと同じ再現をRAW現像で最初から作り出すのは至難の業だ。ここでは雰囲気を出すため、グレイン・エフェクトも適用した。できれば今回のファームアップでグレイン・エフェクトの粒度サイズも選べると最高だったのだが、GFX 50Rのプロセッサーで実現するのはちょっと難しいらしい。
また、映画用フィルムの渋い色味と滑らかな階調を再現した「ETERNA」も新搭載された(GFX 50系のみ。GFX100には既搭載)。ETERNAは本来は動画用だが、階調の繋がりが非常に滑らかなので、雰囲気を優先したポートレートなど静止画撮影時に活用するプロカメラマンもいる。
ETERNAはもともと動画目的のフィルムシミュレーションだが、この超低コントラストの優しい階調表現は静止画でもとても魅力的だ。同じ低彩度表現でもクラシックネガとはコントラストが真逆なので、まったく違った印象になる。
こうして比べてみるとスタンダードモードのPROVIAとは彩度と階調がかなり異なることが分かる。ポートレートなどで、肌の再現を滑らかにしたいときにETERNAはとても有効だ。
この他、GFX100限定のアップデートとして「ETERNAブリーチバイパス」も搭載された。ETERNAブリーチバイパスはX-T4(2020年発売)で新たに設けられた最新フィルムシミュレーションで、いわゆる「銀残し」の現像技法を再現したものだ。あと、これはフィルムシミュレーションではないが、他の色味に影響を与えずにブルー系の色味のみ濃くする「カラークロームブルー」も搭載された(X-Pro3以降の機種には既搭載)。こちらもGFX100限定のアップデートになる。
画作り関係その2:スムーススキンエフェクトをGFX 50系にも搭載
GFX各機は高画素でレンズの解像性能も高いため、ポートレート撮影では肌の質感描写が必要以上に「克明すぎる」ことがある。それを補う機能として肌の再現を滑らかに描写する「スムーススキンエフェクト」という機能がGFX100には搭載されていたが、今回のファームアップでこれがGFX 50系にも搭載された。
1億画素ほどではないが、5,000万画素でも充分に高画素なので、GFX 50系でも非常に有効な機能だ。処理としては肌色上の凹凸再現を滑らかにする、というものだが、よくある美肌モードなどとは異なり、効果はすごく微弱なので使用してもわざとらしさはまったくない。
以下のカットを見ても分かるとおり、効果「オフ」ではどうしても細部まで過剰に描写されてしまい、細かい皺まで克明に描写されてしまうが、効果「強」にすると少し緩和される。違いは非常にデリケートだが、これ見よがしな強い効果ではないので、ポートレートでは常用できる。
AF性能の向上も
AF性能も向上した。特にGFX100ではAFが作動する低照度限界がこれまでの−2EVから−5EVへと向上している。GFX 50系においてはそこまで低照度限界は高くないが、AF時の検出時間を延ばすことで暗いシーンでのAF精度を向上させることができる「AF-S時低輝度優先AF」モードが新設された。これまでのGFX 50系ではAFが迷うような悪条件でも、ストレスなく合焦する確率が上がったという。
最近のポートレート撮影ではもはや必須の感がある顔検出、瞳検出AFについてはX-T4で実現した最新の認識アルゴリズムを盛り込むことで、GFX 50系、GFX100の両モデルで検出精度が向上。画面内に顔が複数あるときや、横向き気味の顔、あるいは遠方で顔サイズが小さい場合でも認識の確率が向上している。
検証撮影した結果をまずお伝えすると、確実に向上していることが実感できた。以下のカットは、大口径中望遠レンズ「GF110mmF2 R LM WR」を用いて、顔認識の限界距離を検証したものだ。
顔検出がしなくなる距離
この他にもAF関係ではこれまで設定が手動となっていたフォーカスブラケティングに「オートモード」が追加され、誰でも簡単に段階的にピントを変えた複数画像を撮影できるようになった。
撮影時の絞りと撮影距離から撮影枚数も自動的に設定される。大型のセンサーを採用するカメラでは、レンズの実焦点距離が長く、絞り最小値まで絞り込んでもパンフォーカスを得にくいため、深い被写界深度のカットを得るためには、ピントをずらしながら複数枚の撮影を行い、それをPCソフトで合成することで、ひとつの完成カットをつくりあげることになる。特に風景撮影や商品撮影時ではよく行われている手法だが、この設定が楽に行えるオートモードの新設を歓迎する人は、きっと多いことだろう。
撮影を効率よくアシストする各種の新機能
画作りの幅がひろがり、AFの性能も向上した今回のメジャーファームアップデートだが、この他にも撮影をアシストしてくれる数々の新機能が盛り込まれている。
GFX100のみの機能
・USB通信による動画撮影の制御がジンバル・ドローンから可能に
対応するジンバル・ドローンと組み合わせることで、動画撮影の開始、終了、シャッター速度や絞り、感度等の露出条件設定およびマニュアルフォーカスのピント調整が制御可能になった。
・ATMOSへの動画RAW出力が可能に
HDMI経由で最大4K/30p、12bitの動画RAW出力が可能になり、ATMOS社製外部レコーダーNINJA Vと接続すればApple ProRes RAWとして記録できる。
GFX 50系、GFX100が対象の機能
・PCソフトとの親和性向上
一部のテザー撮影対応ソフト使用時に、PC上から静止画撮影の露出条件(シャッター速度、絞り、感度、露出補正)を設定することが可能になったほか、カメラ内で付加したレーティング情報を読み込める編集ソフトが増加。
GFX 50系が対象の機能
・1フォルダあたりの保存可能枚数が9,999枚に
SDカード内の1フォルダあたりの保存可能枚数がこれまでの999枚から9,999枚へアップした。
まとめ
個人的にはフィルムシミュレーションの「クラシックネガ」の画調が非常に好みなので、これがGFXにも入ったことが非常に嬉しい。やや裏ワザ的な活用方法にはなるが、すでにお見せしているとおり、ファームアップ以前に撮影したRAW画像をSDカードに書き込み、それをボディ内RAW現像すれば撮影当時には無かった、クラシックネガを適用して現像できるところも素晴らしい。
なお、PCとボディをUSB接続してRAW現像を行えるFUJIFILM X RAW STUDIOはまだ今回のファームアップに対応していないが、近いうちにアップデートされるとのことで、そうなれば従来RAWファイルへのクラシックネガ適用がPC上からも行えるようになる。
ちょっと残念なのはX-Pro3以降の機種で実現された「グレインエフェクト」の粒度を大と小から選べる機能が今回は見送られたことと、ちょっと空の濃度を落としたいときにPLフィルター的に使えて便利なカラークロームブルーがGFX100のみに搭載され、GFX 50系では見送られたことだ。
この他にもETERNAブリーチバイパスなど、GFX 50系はスルーしてGFX100だけに新設された機能がいくつかあるが、開発者によると、これはプロセッサーの世代がGFX 50系とGFX100では異なるというハードウエア要因のためだという。であるなら仕方ないか。
とはいえ、これまではGFX100だけの専売特許だったスムーススキンエフェクトがGFX 50系でも使えるようになったのはポートレートユーザーにとっては有り難い進化。スムーススキンエフェクトはとても繊細で、よくよく比べてみないと分からないほどだが、だからこそ常用が可能である。また、AF機能も実感できるレベルで進化しており、従来は認識しなかった遠い距離でも顔認識によるAFが可能になっている。総じてファームアップによる性能向上はなかなか大きい。GFX 50系は実売価格も下がったので、今回の大規模ファームアップと合わせ「初めての中判デジタル」として、かなり魅力的な選択肢になると思う。
モデル:今西千章(所属:株式会社オスカープロモーション)
制作協力:富士フイルム