新製品レビュー

FUJIFILM X-H1(実写編)

ボディ内手ブレ補正と新フィルムシミュレーション「ETERNA」がもたらす高画質

Xシリーズ初となるボディ内手ブレ補正機構搭載モデルFUJIFILM X-H1。“Pro”でも“T”でも“E”でもなく、新設された「H」というラインに属するハイパフォーマンスモデル。

本機に採用されているAPS-C 24MピクセルのX-Trans CMOS IIIセンサーと画像処理エンジンX-Processor Proの組み合わせは実に6機種目。X-E3やレンズ一体型のX100Fなどのコンパクトなモデルにも贅沢に採用されている“Xシリーズの標準装備”とも言えるもの。

画質を維持したままTPOに応じて適材適所のカメラ選びが出来るというのは魅力的だし、今後の機種展開を考えてみるのも楽しそうだ。

新フィルムシミュレーション「ETERNA」

期待の新フィルムシミュレーション「ETERNA」(エテルナ)。ハイライトとシャドーのどちらもコントラストが抑えられていて、発色についても落ち着きのある印象であることがわかる。カラーバランスは写真の一般的なイメージと比べて少しオフセットしていて、やや寒色気味の表現。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mmF2.8 R LM WR / 1/160秒 / F2.8 / +0.3EV / ISO 200 / プログラム / 55mm / ETERNA

カラーバランスのわかりやすいカットを撮影してみた。夕方の撮影で太陽の位置からも想像できる通り、そろそろ茜色にそまりつつある空のハズだけれど、赤味が少なくシアン~グリーン寄りの表現となっていて、完全に“背景”としての空色に徹している。

FUJIFILM X-H1 / XF10-24mmF4 R OIS / 1/2,400秒 / F5.6 / 0EV / ISO 400 / プログラム / 10mm / ETERNA

「Dレンジ優先」についてもエテルナとのマッチングが良いようで、期待したコントラストで撮れるシーンが多くとても感心した。下の作品はDレンジ優先「AUTO」で撮影した。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mmF2.8 R LM WR / 1/350秒 / F5 / +2.3EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 27.4mm / ETERNA

他社のニュートラルなどの設定はどちらかと言えば「アッサリ」と表現するのがピッタリだけれど、ETERNAは「しっとり」という表現がよく似合う。パッと見た時の気持ち良さよりも、じっくりと写真を眺めていたくなるようなそんな再現性だ。そう考えてみると、“eternal”(永遠の)を由来とするネーミングになるほどと思わせられる。

フィルムシミュレーション

X-Processor Proを搭載するXシリーズだけの特権であるACROS。筆者がXシリーズユーザーになった決め手の1つにACROSがあった。その表現力はX-H1でも健在。特に質感表現に優れたグレーの階調性が素晴らしい。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mmF2.8 R LM WR / 1/210秒 / F2.8 / -0.7EV / ISO 200 / プログラム / 30.2mm / ACROS+Rフィルター

筆者が最近ハマっているACROS+Rフィルターのフィルムシミュレーションにハイライトトーンとシャドートーンをそれぞれ+1にした設定。まるで銀塩フィルムのような階調再現性に加えてデジタルカメラならではのシャープネスが合わさった独特のキレの良さをもった表現がとても気持ち良い。

XFレンズの描写も見事で、画面の隅々までとてもシャープでキレ良く写るのに、ボケが硬くて……ということがない。細部再現性が良いので、砂浜などの表現は特にマッチングが良いと思う。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mmF2.8 R LM WR / 1/160秒 / F5 / -0.3EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 35.3mm / ACROS+Rフィルター

ミッドトーンからハイライトにかけてやや硬調ながらもラティチュード自体は狭くない。これでもダイナミックレンジ設定は100%だ。豊かなシャドートーンでディティールが浮き立って見えることがわかる。

こういったシーンでは通常であればカメラの性格によってハイライトかシャドーのどちらかに露出を合わせて、現像やレタッチでバランスを採るところなのだけれど、カメラまかせでポンと撮れてしまうのは有り難い。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mmF2.8 R LM WR / 1/200秒 / F5.6 / 0EV / ISO 200 / プログラム / 16mm / ACROS+Rフィルター

ドキュメンタリータッチの雰囲気再現ができるフィルムシミュレーション クラシッククローム。ブリーチハイパス(銀残し)などとも若干ことなる表現が独特で、シャドートーンやハイライトトーンの設定と組み合わせて使うのも面白い。

昭和生まれの筆者はこうした抑えた彩度と硬調の濁った雰囲気というものに懐かしさを覚えるのだけれど、90年代後半以降に生まれた人はどんな印象をもつのだろう?

FUJIFILM X-H1 / XF35mmF1.4 R / 1/52秒 / F4 / +0.7EV / ISO 320 / 絞り優先AE / 35mm / クラシッククローム

デフォルト設定のPROVIAが持つメリハリの良さもいいけれど、筆者の好みと比較して調子が少し硬いのでハイライトトーンを-1、シャドートーンを-2に設定し撮影している。

PROVIAで撮影した画像を高解像ディスプレイに表示させると、まるでポジフィルムをルーペで覗いたような深い色味とツヤのある陰の表現力がある。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mmF2.8 R LM WR / 1/1,300秒 / F5.6 / 0EV / ISO 400 / プログラム / 55mm / PROVIA

ボディ内手ブレ補正機構

ボディ内手ブレ補正の制御の良さについても言及したい。

手ブレ補正付きのカメラだとブレの影響が小さくなる反面、こうしたギリギリの構図を採ると強力な補正によって画面が安定する一方で微調整が難しかったり、微調整によって画面が微妙に揺らいでしまったりすることがある。

結局手ブレ補正をOFFにして撮影した方が楽というシーンもあるけれど、X-H1の手ブレ補正は絶妙にチューニングされていて、まるで撮影技術が向上したかのような感触。前述のEVFの見え具合と併せて、良い感じである。

FUJIFILM X-H1 / XF16-55mmF2.8 R LM WR / 1/300秒 / F4 / +1EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 29.2mm / PROVIA

高感度

常用感度はISO200からISO12800まで。拡張設定で低感度側はISO100/125/160が、高感度側はISO25600とISO51200が選択可能となっている。

画像はISO1000で撮影したもの。ISO1600までは、うっかり意図しない感度設定になっていても背面液晶で確認した程度では高感度と分からない画質が維持される。APS-Cフォーマットでもそれほどの高感度性能があることを嬉しく思う反面、うっかりミスした時のことを思うと恐ろしくもある。

FUJIFILM X-H1 / XF56mmF1.2 R / 1/85秒 / F2.5 / +1EV / ISO 1000 / 絞り優先AE / 56mm / PROVIA

シーンによっても違うけれど、だいたいISO3200を超えると「ああ高感度だな」と感じる画質になりシャドー部の浮きが気になり始め解像感にも影響がある。実用的な限界はISO12800まで、という感触でそれ以上は緊急用だろう。

FUJIFILM X-H1 / XF10-24mmF4 R OIS / 1/2.6秒 / F5.6 / +0.7EV / ISO 3200 / 絞り優先AE / 24mm / PROVIA

EVFの見え具合

EVFのドット数が約369万ドットへと増加したことで、ピントの見え具合はもちろん、奥行き感についても掴みやすくなったと感じている。

EVFはOVFと比べて奥行き感を掴むことが難しいと筆者は感じており、フレーミングガイドを目安に水平垂直を合わせたつもりになっていても、被写体に対して正対できておらず平行が不十分で画面が微妙にズレていた、なんて不満がミラーレス機に移行してから増えていたのだけれど、X-H1のEVFはそんな悩みがグッと減った。

FUJIFILM X-H1 / XF56mmF1.2 R / 1/150秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 56mm / PROVIA

こうした高周波成分と奥行きがあるシーンではEVFのドット数アップが効いてピントの確認が容易になった。拡大させなくてもピントが見やすいというのはやはり良いものだ。

ガイドにあわせてギリギリの構図を採ってみたが、ビシっと水平垂直を採ることができた。

FUJIFILM X-H1 / XF56mmF1.2 R / 1/180秒 / F5.6 / +0.3EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 56mm / PROVIA

チルト液晶モニター

地面スレスレのローアングルで、液晶モニターを縦位置でチルトさせて撮影した。

X-T2と比べて“開く”操作がより軽い力で操作できる。加えてタッチパネルで簡単にフォーカスポイントを選択できるので撮影がより手軽でスムース。

3方向チルトとタッチパネルのお陰で安定した構図で、狙ったところに簡単かつ高精度でAFを合わせることができ、撮影がより効率的になる。

FUJIFILM X-H1 / XF56mmF1.2 R / 1/1,700秒 / F1.2 / 0EV / ISO 200 / 絞り優先AE / 56mm / PROVIA

俯瞰してのハイアングル撮影。もちろんチルト液晶モニターが活躍するシーン。手を伸ばして撮影しているけれど、大型化されたグリップのお陰で不安定な体勢で撮影しても疲労が少ない。

FUJIFILM X-H1 / XF56mmF1.2 R / 1/5,000秒 / F1.4 / +0.3EV / ISO 400 / 絞り優先AE / 56mm / PROVIA

X-Pro2やX-T2と比べて、タッチパネル化されたことで液晶モニターの表示品質が低下した、ということはなく、個体差かもしれないが、X-H1では黄色みが減って寧ろ色味がクリアになっているような印象がある。

連写

メカシャッターでボディ単体では最高約8コマ/秒の連写性能。この設定でのバッファ量はJPEG記録で約80コマとX-T2の約83コマよりもごく僅かだけれど低下している。必要十分ではあるけれど、バッファ量についても増強して欲しかったという気持ちは否めない。

連写したカット。

連写した画像をタッチ操作で直感的にスワイプと拡大表示ができる事に目新しさは無いけれど、やはりタッチ操作ができるのは快適。

連写した中の1枚。FUJIFILM X-H1 / XF10-24mmF4 R OIS / 1/550秒 / F5.6 / -0.3EV / ISO 200 / プログラム / 12.6mm / ACROS+Rフィルター

4K動画(ETERNA)

フィルムシミュレーションを適用した4K動画が撮れ、しかもボディ内手ブレ補正まで効くというのがX-H1の特色。

手持ちで撮影しているが、手ブレ補正の効果は実に強力だった。例えばα7 IIIと比べてもその効果は明らかに高く感じた。

写真と動画では画作りに対する考え方が違うこともあり、スチルカメラで動画記録すると動画用途としてはコントラストが高すぎる表現になってしまうカメラが多いけれど、フィルムシミュレーション「ETERNA」では動画に適したコントラストで手軽にハイクオリティの4K動画が撮影できたので驚いた。これはハマってしまいそうだ。

好みに応じてシャープネスについては多少下げても良いかもしれない。

こちらは三脚に固定しての撮影で、手ブレ補正はオフにしていない。三脚固定時、手ブレ補正ONではドリフトしてしまうカメラもあるがかなり安定していることがわかる。

50/60pへの対応はしないけれど、シャッター速度を工夫すればカクつきが気になることもなさそう。風の強い日だったのでノイズが大きいけれど、その奥の波の音を注意深く聞いてみると、内蔵マイクの性能も悪くないことがわかる。

まとめ

X-H1を構成するすべての性能が、撮影に集中するためにある。それが本機の魅力だ。

特徴のひとつであるボディ内手ブレ補正機構は、その補正効果が高いのにファインダー表示はとても自然で、手ブレ補正で強力に抑えつけている様子や不自然なまでに安定している様子がなく、単純に撮影技術が向上したようかのような安定感がある。これは注目されるべきチューニングだと思う。

また、フェザータッチシャッターを含むレリーズ時の感触は大変に低振動・低騒音なのだけれど、掌にはしっかりと「撮った」という確かな感覚が伝わってくる。

明瞭になったダイヤル類の操作感も、確かに操作したという実感があるし、大幅に向上したボディ剛性についても安心感に繋がっている。

そうした感覚を大切にするモノづくりへのコダワリが、すべて撮影に集中することに帰結している。他社のフラッグシップモデルと比べてスペック的に突出したところはないけれど、カメラの道具としての性能はとても印象的だ。

Xシリーズユーザー目線では、特にXF16-55mmF2.8R LM WRや大口径単焦点レンズのユーザーはX-H1を導入するととても幸せな気持ちで撮影に没入できると思う。

というのも、これらのレンズをX-T2やX-Pro2と組み合わせた場合は若干のバランスの悪さは否めず、やや“レンズデッカチ”の印象が拭えなかったからだ。それがX-H1では大型化されたボディとグリップによって重量配分も含めてバランスが改善され、一体感が高まったことで実際のサイズよりもコンパクトに感じられるようになった。

さらに、ボディ内手ブレ補正機構のサポートもあって撮影が捗る捗る。これはもう快感。

XF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRユーザーについても、マウント部の華奢な感じが全くなくなったのでより安心して撮影に臨めるだろう。

豊田慶記

1981年広島県生まれ。メカに興味があり内燃機関のエンジニアを目指していたが、植田正治・緑川洋一・メイプルソープの写真に感銘を受け写真家を志す。日本大学芸術学部写真学科卒業後スタジオマンを経てデジタル一眼レフ等の開発に携わり、その後フリーランスに。黒白写真が好き。