FUJIFILM X、それぞれのコンセプトを探る
プロ機として好ましいサイズ、そしてボディ内手ブレ補正。「エテルナ」も魅力大
ポートレート写真家・藤里一郎さんに聞く「X-H1」の魅力
2018年4月24日 07:00
リアルかつ好ましい色再現で定評のある、富士フイルムの独自のイメージセンサー「X-Trans CMOS III」と画像処理エンジン「X-Processor Pro」。
この2つを搭載した「FUJIFILM Xシリーズ」のミラーレスカメラを4回に渡ってお送りしてきた本連載「FUJIFILM X、それぞれのコンセプトを探る」であるが、今年3月1日になって、新たな仲間となる「FUJIFILM X-H1」が登場した。
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堅牢性と防塵・防滴性が強化された肉厚で大柄なボディ、Xシリーズ初となるボディ内手ブレ補正機構の搭載、繊細なレリーズアクションに対応するフェザータッチシャッターボタンの採用、クラス最高の大型・高精細電子ビューファインダーなど、よりプロ機としての資質を高めた事実上のフラッグシップであることが特徴だ。
今回、さっそくX-H1を使い作品を発表されている藤里一郎さんに、お話をうかがう機会を得た。
色香溢れる女性ポートレイトで知られる藤里さんは、雑誌や広告などの他、写真展やワークショップなどを数多く開催。幅広く活躍されているので、ご存知の方も多いだろう。藤里さんにとってX-H1とは、どういうカメラなのだろうか。
イメージセンサー | X-Trans CMOS IIIセンサー 約2,430万画素 |
レンズマウント | FUJIFILM Xマウント |
撮影感度 | ISO100〜51200(拡張設定を含む) |
最高シャッター速度 | 1/8,000秒(メカシャッター) |
連写性能 | 約11コマ/秒(VPB-XH1装着時) |
ファインダー | 0.5型有機ELファインダー 約369万ドット |
液晶モニター | 3型 約104万ドット タッチパネル |
動画 | 最大4,096×2,160/24p(DCI-4K)200Mpbs |
外形寸法 | 139.8×97.3×85.5mm |
質量 | 約673g(付属バッテリー、メモリーカード含む) |
新たな戦力として
--発売から間もないX-H1ですが、発表される以前はどのカメラをお使いだったのですか?
藤里:同じく富士フイルムのX-T2とX-Pro2です。この2機種はX-H1が発売された今でもよく使っています。
--ポートレイトでX-Pro2を使われるのですか? どちらかといえばスナップに向いたカメラというイメージですが。
藤里:撮れる写真が変わってくるのです。というのは、カメラの形によって、モデルの女の子に与える印象が違うからです。
--女性ポートレイトにおいてカメラのデザインは大切な要素なのですね。
藤里:とても大切なことです。確かにXシリーズは同じ撮像センサーと同じプロセッサーを搭載していますが、デザインや操作性の仕様はそれぞれ異なっていて、それによって相手の受け取り方も随分変わってきます。
藤里:女優なのかタレントなのかモデルなのか、また、初めて会う人なのか慣れ親しんだ人なのかといった僕との関係性、そうしたさまざまなことを考慮しながら、どんな表情や雰囲気を狙うかを決め、使うカメラを選んでいます。
--1台で完結という訳にはいかないのですね。
藤里:相手があってこその撮影だけに、完璧なカメラというのはないと思います。形はX-H1に似ていますけど、X-T2にもX-T2ならではのサイズ感や操作性がありますので、今後も使い続けていくつもりです。
--何台ものカメラを使い分けるというと派手に聞こえますけど、実際にはかなりデリケートな理由があってのことなのですね。
藤里:X-T2とX-Pro2の両方を使っているだけでも珍しい写真家だといわれますからね(笑) でも、僕にとってはそれが当たり前のことで、どうしても必要だからこそ使っています。X-H1は、そんな大切なシステムの強力な仲間として加わってもらいました。
プロ機として最適なサイズとスペック
--藤里さんにとってX-H1を使うメリットは何でしょうか?
藤里:まずは大きさです。いままでのXシリーズはミラーレスカメラだけに、いずれもコンパクトでした。もちろん、小さいということはメリットも多いのですが、撮影シーンによってはある程度の大きさが必要になることもあります。その点、X-H1は僕が必要とする十分な大きさと頑丈さがある。
藤里:特にクライアントがいるビジネスシーンでは、僕の手が比較的大きいこともあって、カメラの小ささに不安を覚える方がいます。そうした現場では、縦位置パワー・ブースター・グリップVPB-XH1を装着したX-H1の大きさはむしろ安心感がありますし、実際使いやすくもあります。
藤里:面白いのは、ある程度大きさのあるカメラなのにシャッター音が小さいため、「あれ?もう撮っていますか?」なんて驚かれることがあります。現場に今までになかった新しい雰囲気が生まれたりします(笑)
--相手の方もさぞ新鮮な気持ちになれたでしょうね(笑) 静かというのは電子シャッターを使った場合のことですか?
藤里:電子シャッターもですけど、普通のメカシャッターでもX-T2より音が小さくなっています。僕はアーティストのライブを撮影することもありますが、そんなときはX-H1の小さくて品のよいシャッター音に助けられます。バラードになるとシャッター音が響いてしまうので、撮れなくって困ることもありましたけど、X-H1の静かなシャッターなら大丈夫です。アーティスト自身もシャッター音の静かさに感激して喜んでくれています。
--ボディが大きくなった理由のひとつは、Xシリーズ初のボディ内手ブレ補正搭載にあると思いますが、ポートレイトで手ブレ補正が役立つこともありますか?
藤里:それはもちろんあります。暗いシーンでも、女の子に少しの間動かないようにお願いして、遅いシャッター速度で撮ることもあります。いままでは無茶だと思っていた夕暮れギリギリのシーンなどでも、低いISO感度できれいに撮れるようになった効果は大きいです。
僕が気に入ってよく使うレンズは、手ブレ補正機構が非搭載のものばかりなのですけど、X-H1では格段にシャープな写真が撮れる割合が増えました。フジノンレンズ本来の描写性能を再確認できるという意味でもよい機能だと思いますよ。
最新フィルムシミュレーション“エテルナ”
--富士フイルムのデジタルカメラといえばフィルムシミュレーション抜きで語れないと思います。
藤里:「クラシッククローム」の描写がすごく気に入って使っています。富士フイルムの人からはあまりポートレイト向けではないかも、といわれましたけど、人物の肌の質感描写が非常に良い感じだったので、クラシッククロームを元に自分で絵作りを調整して使っています。
--藤里流クラシッククロームのカスタマイズを知りたいという方は多そうですね。
藤里:それが、おかげさまなのかどうか……「クラシッククロームで女性がこんなに綺麗に撮れるのか」と驚かれる方が実際にたくさんいて、しょっちゅう調整の方法を聞かれては教えるということを繰り返しています。
--ではX-H1でもカスタマイズしたクラシッククロームをお使いですか?
藤里:X-H1からフィルムシミュレーションに「エテルナ」が加わりました。これがまた、黒ツブレせず白トビせず、絶妙な階調表現のフィルムシミュレーションで、僕の写真にはもってこいなんです。
--エテルナは確か、映画用撮影フィルムのシミュレートではないですか?
藤里:はい、動画用なのでクラシッククロームよりさらに、発色は落ち着いていてシャドウトーンが豊かです。またもや開発者の想定外の使われ方になってしまうかもしれませんけど、とにかく気に入ってしまいました。
--すると、本日お見せいただく作品はエテルナで撮影されたものなのですか?
藤里:そうです。すべてエテルナで撮影しました。
--確かに、コントラストの高い浜辺なのにハイライトからシャドウまでしっかり階調がでていますね。落ち着いた発色はむしろ女性の表情を艶やかに感じさせている……
藤里:力強さと優しさを兼ね備えた絶妙な表現だと思います。肌の描写は本当に理想的。ただし、初期設定のままだと、さすがに静止画用としてはシャドウが淡すぎて締まりがないので、僕なりにアレンジしています。ここまで僕が理想とする描写に追い込めるのは、富士フイルムのカメラ、X-H1のエテルナ以外にはないと思っています。
--今度はエテルナの伝道師になってしまいそう(笑)
藤里:本当に微妙なオリジナルの調整を繰り返して作っています。よいタイミングがありましたらクラシッククローム同様公開しますので、X-H1でポートレイトを撮る方に使っていただければうれしいですね。
撮影時の感情を映し出す動画機能
--動画もエテルナですか?
藤里:はい。ただ、静止画では静止画に合うように描写を調整していますけど、動画では初期設定のまま調整なしと、使い分けをしています。
--非常に綺麗なトーンだと思いますが、撮影中のEVFや液晶モニターでも確認できるのでしょうか?
藤里:大丈夫ですよ。EVFや液晶モニターで見えている像がそのまま映像になります。撮影中に抱いた感情がそのまま作品になるところもX-H1の優れたところです。
--X-H1は動画機能が強化されました。その性能はやはり謳い文句の通りと考えてよろしいでしょうか?
藤里:撮影していて僕が感じたことは、僕が女の子を撮るときのイメージや距離感にピッタリはまるということでした。望んだタイミングでピントが合い、僕の心情を代弁するかのように遷移してくれます。描写の傾向といい、操作性といい、僕にとっては抜群の動画機能をもったカメラだと思っています。
女性を撮るという僕の活動にとって、本当によいカメラが加わってくれました。これまでのXシリーズのカメラと同じく、X-H1でしか撮れない作品をどんどん発表していきます。
まとめ
異なる機種であっても、同じイメージセンサーと同じ画像処理エンジンを搭載することがXシリーズの特徴であり、それは新たに登場したX-H1でも変わらなかった。それならば、最高機種 = X-H1を用意すれば全ての撮影シーンに対応でき、あらゆる写真を撮ることができるだろう、と筆者は考えていた。
しかし、ポートレイト写真家である藤里さんの答えは違った。被写体となる女性との関係性を大切にするため、その場の雰囲気や狙いに応じてカメラを使い分ける。「それぞれのコンセプトを探る」ことを主旨とした、本連載にとっては最高の答えをもらうことができたというものだろう。
X-H1で撮影した藤里一郎さんの写真展が開催!
4月28日(土)から東京・丸の内にオープンする新しいカメラ・写真の施設「FUJIFILM Imaging Plaza」。そこで行われる初の個展として、藤里一郎さんの写真展が開催されます。モデルは、このページの作品にも登場している鎌滝えりさん。
展示タイトル
藤里一郎+鎌滝えり「23 〜ニジュウサン〜」4月のオキナワ
期間
2018年6月1日(金)〜6月30日(土)
会場
FUJIFILM Imaging Plaza
東京都千代田区丸の内2-1-1 丸ノ内 MY PLAZA 3階
デジタルカメラマガジンで「Xで撮る日本四景」連載中!
デジタルカメラマガジン2018年5月号では、佐藤尚さんによるX-H1の体験記が掲載されています。福岡県能古島を訪れた佐藤さんが、X-H1で撮り下ろした風景とは。ぜひご一読ください。
制作協力:富士フイルム株式会社