新製品レビュー
FUJIFILM X-H1(外観・機能編)
撮る道具としての完成度が高まったフラッグシップ機
2018年5月8日 08:00
Xシリーズ初となるボディ内手ブレ補正機構搭載モデルFUJIFILM X-H1が3月1日に発売された。本機は「Xシリーズ史上最高のパフォーマンス」を謳うフラッグシップモデルだ。
富士フイルムのXシリーズには、レンジファインダースタイルのX-Pro2、汎用性とタフネスを追求したセンターファインダーの一眼レフスタイル機X-T2と併せて、3種類のフラッグシップモデルがラインナップされることとなる。
同じくフラッグシップモデルであるX-Pro2やX-T2との違いが気になるところだが、撮像センサーと画像処理エンジンは同じX-Trans CMOS III(同じセンサー)とX-ProcessorPro(同じエンジン)を搭載していることからも分かる通り、基本的に画質は同等。さらに言えば、普及モデルとなるX-T20やX-E3などとも差別化はされていない。
同等画質ということに寂しさを覚えるユーザーが居るかもしれないけれど、筆者はニーズやシーンに応じて積極的にカメラを使い分けても同じ画質クオリティで撮影できるというメリットに魅力を感じる。
冒頭にも紹介した通り、ボディ内手ブレ補正機構を搭載し、大型グリップやGFX 50Sと共通の操作デザインの採用、屋内や屋外での不安定な人工光源下での撮影時に安定した露出を実現するフリッカー低減撮影機能や、動画撮影性能のさらなる充実など、これまでのXシリーズとは異なるコンセプトで作り上げられている。
ライバル
同門ではライバル不在というよりも、それぞれ明確にコンセプトが異なるので比較対象になるかは微妙なところ。例えば「ボディ内手ブレ補正機構が欲しい」と思えばX-H1一択だし、レンジファインダーに魅力を感じるならばX-Pro2しかない、と棲み分けができている。
他社まで視野を広げた場合、スペックで判断するとAPS-Cミラーレス機ではソニーα6500が直接のライバルとなりそうだ。
センサーサイズを考慮しなければOLYMPUS OM-D E-M1 Mark II、動画性能ではパナソニックLUMIX GH5やG9 Proをチェックしなければならない。
一眼レフ機では総合力に加えて抜きん出たAF性能を持つニコンD500が一際強い存在感を放っている。
発売時期と価格帯まで含めて考えるとソニーのα7 IIIも非常に魅力的で悩ましい。
それぞれに長所や特徴があるので、自身の撮影スタイルに必要な性能があるかどうかをチェックしていけば効率的なカメラ選びができるはずだ。
ボディデザイン
デザインはX-Tシリーズと中判ミラーレスカメラのGFX 50Sを足して2で割ったような印象。まず目を引くのは大型グリップとボディ上面右側の液晶パネルだろう。
サイズは幅139.8mm、高さ97.3mm、奥行き85.5mmとAPS-Cミラーレス機としてはかなり大型。X-T2(幅132.5m、高さ91.8mm、奥行き49.2mm)と比べてひと回り大きい。重さについてもメディア・バッテリー込で約673gとX-T2より約160g程度重くなった。
手袋のサイズはLL以上という手の大きな筆者が実際に手に持ってみても、小指があまらずしっかりグリップできるので撮影時の疲労低減に効きそうだ。
ボディのクオリティは高く、シャッターおよび感度設定のダイヤルと前後コマンドダイヤルの操作感がグッと上質になっていて、しかもクリック感が明瞭になっていることも見逃せない。
小さな事だけれど、指に伝わる感覚がハッキリしていればそれだけ自分の操作にも自信が持てるのでより撮影に集中できるのだ。遊びが大きかったりクリック感が曖昧だと操作の都度「ん?」と疑いをもつことになる。僅かな疑問も積り重なればストレスになる。
剛性感の高さも印象的。X-T2と比べても剛性感には大きな違いがあるように思う。例えば、マウント部の構造は堅牢になっており、例えばイジワルにレンズを持ってグイグイとコジッてみてもマウント部はビクともしなくなった。
レリーズ感については「フェザータッチシャッター」がアピールされているが、大袈裟ではなく正に“フェザータッチ”。また、これほど低振動で軽い感触のフォーカルプレーンシャッターは、市販されているほぼすべてのカメラで撮影経験がある著者の記憶を探してみても見当たらない。
ボディ内手ブレ補正機構を抜きにしても、大型グリップのホールド性とメカショックの少なさによってブレの軽減に役立っていることが想像に難くないし、そもそもこのレリーズ感だけでも魅力的だ。
内蔵ストロボは搭載されないが、クリップオンストロボEF-X8が同梱される。GN11相当(ISO200時)となり、もちろんTTL自動調光が可能。電源はボディから供給されるので別途電池を用意する必要はない。
縦位置グリップVPB-XH1装着時は堂々たる体躯。グリップ側にバッテリーを2個装填でき、ボディ側と併せて3個の運用で最大約900枚の撮影枚数となる。
またボディ単体ではメカシャッター時は最高約8コマ/秒、電子シャッター選択時のみ最高約14コマ/秒まで選択可能だったが、グリップ装着時はブーストモード利用でメカシャッターでも最高約11コマ/秒が選択でき連写性能が向上するほか、4K動画記録時間がボディ単体での約10分からグリップ装着時は約30分へと延長する点にも注目しておきたい。
操作系は横位置撮影時と同様の操作ができるようボタン類が配置されていて、グリップのレリーズ感についてもボディ本体と遜色ない感触が実現されていることは好ましい。
グリップ自体に充電機能があり、付属のアダプターでバッテリー2個同時に約2時間でフル充電できることはとても嬉しい。
グリップそのものの剛性感は申し分ないが、ボディとの結合剛性については現状で必要十分ではあるけれど、あと少し密に結合しても良いのでは? という気持ちがあることも事実だ。実勢価格で税込み4万2,000円ほどもするのだから、もう一歩踏み込んだコダワリが欲しい気がする。
操作部
露出補正ダイヤルの代わりに液晶パネルが配置され、その隣には今まで通り大型のシャッターダイヤルが鎮座。その同軸に測光モード選択レバーが配置されている。
露出補正用のダイヤルは廃止されてしまったが、露出補正ボタン押下中もしくは設定変更により露出補正ボタン押下後のダイヤル操作のみで露出補正がスピーディにできるようになっている。
比較してみないとわからないことだけれど、シャッターダイヤルの形状は従来の円柱から上面が僅かにすぼめられた円錐形状へと変更されており、操作性が良くなっている他、既に言及しているが操作感が上質になった。
シャッターボタンからはレリーズソケットが廃止されているので、昔ながらのケーブルレリーズは使用できない。
上面の液晶パネルにはシャッター速度と絞り値はもちろん、ホワイトバランスとフィルムシミュレーション設定なども表示され、暗所などで背面液晶の表示をさせたくないシーンでも撮影設定がひと目でわかるのは有り難い。
また電源OFF状態でもバッテリー残量や撮影可能枚数が表示されているので、バッテリーやSDカードの入れ忘れや変え時がわかるという点は好ましい。
また従来のダイヤルでは中間シャッター速度などは背面液晶かEVFを覗いてみるまでわからなかったので、より緻密な露出設定で撮影したい人にとって嬉しい装備となる。
感度設定ダイヤルとその同軸にドライブモード設定レバーが配置されている。ドライブモードは新たにCM(中速連写)が追加され、約6コマ/秒の固定設定となっている。
上面左の感度設定ダイヤルについてもシャッターダイヤルと同様に円錐形状が採用されていて操作感が良くなった他、ダイヤルのグラつきが抑えられ高級感が増している。
背面右側はX-Tシリーズと基本的なボタン配置は同様だ。変更は、いわゆる“親指AF”ができる「AF-ON」ボタンが独立して配置されていること。
隣の「AE-L」ボタンとは高さが変えられているので、操作ミスへの設計側の配慮が行き届いている。十字キーの操作ストロークは若干浅くなっているが、クリック感はより明瞭になっている印象。
背面の左側を見ると、こちらもX-Tシリーズと同様のボタン配置。ボタンの形状は変更されていて、従来型の中央が平な形状から中央が膨らんだ饅頭型になっていて操作性が良くなった他、クリック感が明瞭になっている。
撮像素子と画像処理関連
APS-Cサイズの約2,430万画素X-Trans CMOS IIIセンサーと画像処理エンジンX-Processor Proの組み合わせはもはや定番。画質性能や最高ISO51200(拡張設定)の高感度性能は、同じセンサー&エンジンの組み合わせを持つ他のXシリーズと基本的に同等だけれど、動画機能は大きく拡張されている。
Xシリーズ初となるボディ内手ブレ補正機構は5軸の補正に対応し、最大5.5段の手ブレ補正効果を発揮する。光学手ブレ補正機構を持たない単焦点レンズやXF16-55mmF2.8 R LM WRなどを愛用するユーザーにとってはこの上ないアピールとなっているほか、動画記録時にもボディ内5軸手ブレ補正機構が働くので、強化された動画機能を手軽に楽しむことが期待できる。
注目したいのが新フィルムシミュレーション「ETERNA」(エテルナ)だ。エテルナという名前でピンと来た人もいるだろう。映画撮影フィルムの色や階調特性をシミュレートしており、落ち着いた発色と豊かなシャドー階調が特徴となっている。
これは、現時点でX-T2やX-Pro2には搭載されていないX-H1だけの特別なフィルムシミュレーションとなっている。
また、フリッカー低減機能はすでに他社機などには搭載され、その効果を体験した人も多いだろう。XシリーズではX-H1に初搭載となった。
屋内スポーツ競技はもちろん、室内で蛍光灯下での撮影などで、照明の明滅周期のピークにあわせてシャッタータイミングを自動制御することでフリッカーの影響を低減し、安定した露出で撮影が可能になる。
この機能は電子シャッター選択時には設定できないほか、連写速度が低下する場合があるので注意が必要だ。
AF
AFアルゴリズムは新しくなり、動体への追従性強化とズーム操作中のAF追従性が大幅に強化されただけでなく、像面位相差AFの限界性能が拡張された。
像面位相差AFの動作可能な最小絞りはF8からF11へと拡大し、低照度限界についても従来機の0.5EVから-1EVに対応へと強化されたことで、暗所でのAF速度と精度の向上が期待できる。
この改良によってXF100-400mmF4.5-5.6 R LM OIS WRに2倍テレコンバーター(XF2X TC WR)を装着時にも像面位相差AFが可能となっている。
連写性能
ボディ単体で、メカシャッター設定時は最高約8コマ/秒。電子シャッター設定時は最高約14コマ/秒となるのはX-T2などと共通。新設された電子先幕シャッター設定時は最高約6コマ/秒となっている。
縦位置グリップVPB-XH1を装着かつブーストモード選択時は、メカシャッターで最高約11コマ/秒の撮影ができるのはX-T2にVPB-XT2を装着した状況と同等となっている。
ファインダー
EVFは倍率0.75倍とX-T2(0.77倍)と比べて微妙に小さくなっているが、ドット数は大幅増強の約369万ドットとミラーレス機で最高クラスの高精細を誇るデバイスが採用され、最大輝度についても従来機種の約1.6倍に向上し見易さがアップ。
アイセンサーの制御は洗練されレスポンスが約2倍改善し、液晶をある程度チルトさせるとアイセンサーが反応しなくなるなどユーザビリティが向上している。
液晶モニター
約104万ドット、3方向チルト液晶はタッチパネル式。さらに、開く操作をする場合は従来のレバーを上方向にスライドさせて開く方式からボタンを押しつつ開く方式へと変更され、より軽い力で操作できるようになっている。X-T2ではワリとコツが必要だったけれど、X-H1ではコツ要らずだ。
個体差かもしれないが、液晶表示はX-T2やX-Pro2と比べて黄色味が抜けて若干クリアになっているように見える。
動画機能
フィルムシミュレーションを使用した動画記録はもちろんX-T2の4K(3,840×2,160:UHD 4K、30p)やハイダイナミックレンジカーブのF-Log記録に加えて、新たにデジタルシネマ向けの少し横長となるDCI 4K(4,096×2,160、24p)が追加され、どちらの4K記録でも200Mbpsの高ビットレート記録が可能となった。
そのほかフルHD、120fpsのハイスピード記録など映像制作への注力も見逃せない。
通信機能
従来機のWi-Fi通信に加えて、X-E3と同じBluetoothを搭載。Bluetoothで一旦ペアリングしておけばスマートフォンやタブレットとの常時接続が可能となるので撮影画像の自動転送にも対応している。
これまで同様にCamera Remoteアプリによってスマートフォンやタブレットでリモート撮影や画像の閲覧などももちろんできる。
端子類
本体左サイドに上から、3.5mmステレオミニジャック(マイク端子)、USB3.0 マイクロB端子、HDMIマイクロ端子(Type D)、2.5mmリモートレリーズ端子を備えているほか、ボディ前面にシンクロターミナルを装備しているのはX-T2と同様。
バッテリー
バッテリーはNP-W126S。X-Pro2やそれ以前のX-T1などが採用するNP-W126(バッテリー端子と反対面に■マーク。126Sは●マーク)との互換性はあるが、使用時にはNP-W126Sを推奨するダイアログが背面液晶に表示される。
標準撮影枚数(CIPA基準)は約310枚とX-T2の約340枚よりは減っているが、ボディ内手ブレ補正機構を内蔵していることを考慮するとワリと頑張っていると評価できる。ちなみにX-Pro2は約250枚だ。
まとめ
大手量販店で約26万円(税込)のプライスタグは現行APS-C機種としては最高額クラスの製品となっており、35mmフルサイズ機(冒頭で言及したα7 IIIなど)も狙える価格帯なので、単純にスペックに対する価格だけに注目してしまえば「高い」と思ってしまうかもしれない。
本機を実際に体験してみないことにはなんとも理解できないというのが残念なのだけれど、本機の魅力は効率的に撮影できるよう配慮されたデザインや機能、高い堅牢性などカメラの道具としての完成度の高さであり、どのミラーレスカメラよりも信頼できると感じさせてくれる点にある。