特別企画
話題の"50倍ズーム"を検証「HUAWEI P30 Pro」実写レポート
スマホの姿でやってきた、究極の大衆カメラ
2019年4月3日 07:00
ファーウェイが3月26日に海外で発表・発売した「HUAWEI P30 Pro」の実写レポートをお届けしたい。今回のレポートは製品発表会が行われたフランス・パリにて、現地で試用機材として提供されたP30 Proのグローバル版端末を使って行っている。なお、このP30シリーズの日本国内における発売は現時点では未定となっている。
パリで行われた新製品発表会には、スマートフォンらしくモバイル分野のジャーナリストをはじめ、僚誌ケータイ Watchを含むスマートフォンの話題を日頃扱っているいくつかの媒体が参加していたのに加えて、カメラ専門誌であるデジカメ Watchも招かれることになった。ここにもファーウェイのカメラ機能に対する意気込みが伺える。
SNS用途に最適な絵作り
スマートフォンのカメラの醍醐味は、やはりSNSへの即時アップロードや、メッセージアプリでのリアルタイム送信だろう。P30 Proの絵作りは、そうした"撮って出し"で非常に実用的なものになっていると感じた。
画像のシャープさは、スマートフォンのモニターや、SNSのタイムラインに表示された時に、最も好ましく見えるよう調整されていると感じる。意地悪に等倍表示すると細部のディテールが決して緻密ではないケースもあるのだが、現実的な鑑賞サイズに縮小していくと、見事にシャープな画像になってくる。マニア的な評価さえしなければ万人が納得できそうな画質で、まさに大衆目線のカメラと言える。
絵作りの傾向としては、フルオート(「写真」モード)で撮影すると、シャドーを少し持ち上げたような、ストレート現像とHDR風の中間ぐらいの絵になる。近年の海外作品ではよく見る絵作りだが、こうした絵作りの好みは時代や地域でも異なるため、単純に良し悪しの判断はできない。
ファーウェイPシリーズは「カメラ経験の少ない私でも、こんなに綺麗に撮れた!」という喜びで人気を得ている端末だそうだが、確かにそうしたツボを心得ていると思う。
ちなみに、27mm相当のメインカメラに備わるセンサーは4,000万画素だが、デフォルトの記録解像度は「10M」(1,000万画素)に設定されている。最大の「40M」(4,000万画素)を選ぶと肝心のズーム機能が使えなくなってしまうこともあり、今回は全てデフォルトの10M設定で撮影し、オリジナルデータをそのまま掲載している。
押せば何でも写る、圧巻の暗所撮影性能
P30 Proのタッチ&トライ会場で体験したのは、カーテンで遮光された暗い部屋の中で、肉眼では形も見えないような被写体が鮮やかに撮影できるというものだ。
会場ではスマホを台に置いて固定するよう指示されたが、実際の使用シーンを想定して手持ちでも試してみた。結果、しっかりホールドすれば広角域ではあまり違いが出ないようだ。シャッターボタンを押してから1秒ほどカメラを動かさないように保持するのがコツだとわかった。しかし、「撮った!」という手応えがないのに撮れているのは不思議な感覚だ。
さすがに少し手ブレがあるが、いわゆる高感度ノイズらしいザラザラがうまく処理され、明るいところで撮ったような写真だ。これも暗い場所で被写体が動いていて、かつ望遠だったりすると、いくぶんピントが来ていないようなヌルッとした絵になってしまうため、連写合成などの巧妙な処理が行われているのは間違いない。いくつかの最新デジタルカメラには連写合成によって高解像を得る「ハイレゾモード」が搭載されているが、P30 Proの高画質も、撮影状況によって発揮できる威力が変わってくる点がそれに似ていると思った。
数値としての感度はISO 409600まで設定可能。デジタルカメラの感度値はあくまで「設定が可能である」という意味であり画質は保証しないが、わかりやすいスペックとして一定のインパクトがある。ISO 409600は、超高感度フィルムと言われるISO 3200から7段上の数値だ。
一応カメラ専門誌として補足しておくと、PENTAX一眼レフカメラのKPやK-1 Mark IIがISO 819200を設定可能。ニコンのプロ用一眼レフカメラD5は、ISO 102400を常用最高感度として「美しさより写ればよし」といったような緊急用扱いの”増感”で、更に5段分の感度アップが可能。つまり、数値にするとISO 328万相当だ。
とはいえ、先に述べた通り感度値は画質を保証しないので、あまり細かいことを気にしても仕方がない。とにかくP30 Proはスマホとして圧倒的に暗所に強く、それもシャッターボタンをただ押すだけで何とかしてくれる。この言葉に尽きる。
P30 ProおよびP30では、感度アップのためにイメージセンサーにRGGBでなくRYYBのカラーフィルターを採用したのがトピックだが、その仕組みの特殊性を撮影中に感じることは一切なかった。カラーバランスもいたって普通だ。
ひとつ色味で気になるとしたら、オートホワイトバランスが割と白に忠実なので、よくデジタルカメラにあるように電球色を残す設定が今後のアップデートで追加されたりすると、一般用途に喜ばれると思う。現状では、こだわりたければ後述のプロモードでホワイトバランスを指定するか、アプリで後処理するのが手っ取り早い。
自慢の"50倍ズーム”、画質のほどは?
スマートフォン界隈では最近、焦点距離が異なる複数カメラの画角をデジタルズームで繋ぐことを「ハイブリッドズーム」と呼んでいる。P30 ProおよびP30のレンズ銘は「バリオ・ズミルックス」であり、3焦点のトリ・エルマーでも、レンズ3本が切り替わる"天狗のうちわ"でもなく、あくまでズームレンズを示す"バリオ"を採用している点が自信の現れだろう。
その画質をチェックしてみた。三脚やスタンドは持っておらず、柵や電柱があれば支えにし、あとは手持ちで頑張ってホールドした。
5倍ズーム(135mm相当)の描写は、かなりピリッと解像感がある。スマートフォンの特権としてその場でFacebookにアップしてみたところ、カメラに一言も二言もある方々から「これがスマホか!」という驚きのコメントが集まった。
50倍は流石にアマい感じがするが、カメラにこだわりのない一般人に見せたところ「私はプロじゃないから、これで十分」という反応だった。
望遠域でよりよい画質を得るためのセオリーは、普通のカメラと同じ。カメラをしっかり固定することに尽きる。メーカーのアピール通りに超望遠域で月を撮ろうとしたら、手持ちでも写らないことはないだろうが、最良の結果を得るためにはスマホスタンドや三脚で完全固定したい。先に述べた重ね合わせ処理の都合もあるだろうし、なによりメインカメラの27mm相当を基準とした50倍ズームは1,343mm相当である。ライブビュー中も手ブレ補正が効くものの、超望遠域では手ブレ補正の揺り戻しもフレーミングを難しくする。
ひとつカメラ的な解説を加えると、P30 Proで本体の厚さを増やさず望遠カメラのレンズを搭載する仕組みとしては、プリズムで光路を折り曲げるペリスコープ(潜望鏡)構造が取り入れられている。ベテランの方々なら、ミノルタの「ディマージュX」や各種防水機のように、レンズ鏡筒の繰り出しがないコンパクトデジカメを思い出すだろう。つまりペリスコープ構造とは「屈曲光学系」のことだ。
演算でボケを与える「アパーチャ」モード
「アパーチャ」モードでは撮影後にピント位置を変えたり、被写界深度を変えられる。被写界深度はF値のような数値により、0.95〜16の範囲で調節可能。ズームは3倍までとなる。
実際に同じシーンで通常撮影とアパーチャモードを比べた。雰囲気の違いがわかるだろうか。ポートレートの背景を大きくボカすだけでなく、幅広く使えそうだ。
カメラ的な撮影操作には「プロモード」
P30 Proでの撮影は、基本的に「写真」というモードでフルオート撮影すれば好ましく仕上がるようになっている。それでも特別な撮影意図でシャッタースピードや色温度を固定したい場合は、プロモードを使うとよい。シャドー部を大胆に持ち上げるような処理も行われないため、本格カメラを扱うときの感覚で撮影可能だ。
選択できるのは、測光モード、感度、シャッタースピード、露出補正、AFモード、ホワイトバランス。ひとつ惜しいのは、マニュアルで選択できる最高シャッター速度が1/4,000秒なので、それぞれF1.6、F2.2、F3.4という絞り開放固定のカメラではISO 50に落としても露出オーバーになってしまう。露出を切り詰めて影を活かした作画をしたいときにはもどかしかった。露出補正もスライダーではなく他のモードと同様に操作したい。
ライカとの関わりは?
カメラ好きにとって気になるのは、ファーウェイとライカの関係だろう。製品発表会の翌日に、ライカカメラ社でスマートフォンカメラシステムの技術リーダーを務める光学技術者のフローリアン・ヴェイラー博士に話を聞いた。
ライカとファーウェイはチームで製品(スマートフォン)の開発を行っており、例えばイメージセンサーのカラーフィルター配列をRYYBとするアイデアなども、どちらの会社のものか、誰が考えたものかという具体的な記録はないそうだ。
この取材の数日前、ライカカメラ社のオーナーであるアンドレアス・カウフマン博士に聞いた話では、2016年9月に2社が共同で設立した「マックス・ベレク・イノベーションラボ」から現在はファーウェイが抜けており、今後を検討中だという。
ヴェイラー博士によると、上記のラボは10年先を見据えた研究を目的としており、P30シリーズのような現在の製品は別途ライカとファーウェイのメンバーによるチームで開発されているため影響はなく、また2社の関係性もラボ設立当時から現在まで変化はないという。
国内発売への期待と懸念
シリーズ前機種のP20 Proを振り返ると、グローバル版の発表から3カ月ほどで日本版が発売されている。国内キャリア版であれば、おサイフケータイへの対応といった日本国内での利便性向上が期待できる一方、シャッター音が強制的に鳴るというガッカリ仕様は覚悟せねばならない。
ご存知の通り、日本で販売される携帯電話やスマートフォンは盗撮予防を目的とした通信会社の自主規制により、写真撮影時に疑似シャッター音が強制的に再生される。安からぬ金額で端末を買い、月額料金もキッチリお納めしたうえで「お前はきっと盗撮するだろうから」と言われているような気持ちを味わえる。
僚誌ケータイ Watchの記事によると、一部のサムスン端末では国内販売モデルであっても日本および(同様のシャッター音規制がある)韓国以外のネットワークに繋がればシャッター音をオフにできるそうだ。といっても、どのみち日本国内での事情は変わらない。
ファーウェイのスマートフォンカメラ担当者からは、「昔は夜に撮影された写真が少なかった。P30 Proを手にしてからは、部屋の明かりを付けずに娘の寝顔も撮れる」という話が出た。夜の写真が少ないのは、昔のカメラ(フィルム)は感度が高くなく、撮影には三脚が必要で、撮影機会そのものが得にくかったからだ。
この記事の実写でもお伝えしているとおり、今やスマートフォンでも昼夜を問わず写真を撮れる。そして写真はどんなものであっても時代の記録だから、その機会を技術的な障壁以外で阻まれるのは残念だ。それも、ごく僅かな限られた国だけの自主規制である。スマートフォンの発展と拡販にカメラ機能がこれほど影響しているのなら、通信会社の皆さまには是非とも、カメラの背景にある写真文化のことまで想像していただけると嬉しい。
カメラメーカーへの刺激たるや
今回改めてスマートフォンのカメラ機能と向き合ってみて強く感じたのは、カメラ開発の土壌の違いだ。カメラメーカーでカメラを開発するより、スマートフォンのカメラ機能を開発するほうが、投資も大規模で、機能的な冒険がしやすいのだろう。かつて日本メーカーに勤めていた技術者がコンパクトカメラの市場縮小に伴ってスマートフォンメーカーに転職し、本来の才能をノビノビと発揮しているような可能性も十分にある。
アナログの光学技術こそ正義とされがちなカメラ専用機においては、撮影結果を好ましくする各種デジタル補正さえも「ズル」と受け取られる風潮がある。これはもはや、ロマンの領域だ。とはいえ高価では受け入れられないし、安くして信頼性が損なわれることも許されない。日本の本格カメラは、軽自動車のように安く、SUVのように便利で、スーパーカーのようなロマンにも溢れていることが求められる。なんとも厳しい立場だろうと想像させられた。
しかしこうした世相に触発されて、技術進化によるスペックアップだけでなく、まだ既存の本格カメラが取り組めていない分野を探して、各社それぞれに個性を磨いていってほしいと思う。それこそが市場に複数のメーカーが存在する意義であり、切磋琢磨が業界全体としての進歩に繋がるはずだ。
今回の試用機材には日本の技適マークがないため常用できないが、日本でP30シリーズが発売された暁には、長らく使い続けているiPhoneに加えて1台買ってみようかな?と筆者は考えている。難しいことを考えず、久しぶりに純粋な写真撮影を楽しんだひとときだった。