新製品レビュー
HUAWEI P30
様々なシーンで使いやすいトリプルカメラ機
2019年9月17日 12:00
ファーウェイのSIMフリースマートフォン「HUAWEI P30」は、上位モデルP30 Proや下位モデルのP30 liteにの間に位置するモデル。スペックとしてはハイエンドと定義されており、上位モデルと同様に独ライカカメラとの協業によるカメラシステムを搭載しているのが特徴だ。
順調ならMVNO各社などから一斉に5月に発売される予定だったが、米国と中国の貿易紛争に巻き込まれる形で、発売延期が相次いだファーウェイ製品。米政府は、特に具体的な根拠を挙げずに安全保障の利益に反するなどを理由として、輸出規制の対象となるエンティティリストにファーウェイを指定。この輸出規制は強力で、米国からの輸出や米国外での再輸出などを禁じるため、ファーウェイはAndroid OSやSoCのSnapdragonなどを利用できなくなる恐れが出ている。
こうした点を受けて、MVNOやドコモらは発売延期などの対応を取ったが、発表済みの既存端末は継続してサポートできることから、P30自体は比較的早々に各社が販売を再開していた。ただ、NTTドコモが専売として扱う最上位モデルP30 Proの発売が長らく決定していなかった。
最後となったドコモが、P30 Proの発売日を決定したのが9月9日のこと。9月13日から発売されることになり、P30シリーズが全て出揃うこととなった。
新しい配列方式のセンサーを搭載
P30は、ファーウェイのフラッグシップモデルとなるPシリーズの最新モデル。同様にフラッグシップとなるMateシリーズに比べて、多少のスペックやターゲット層の違いはあるが、上半期に発表される製品として、ファーウェイの新機能をふんだんに盛り込んだ機種となっている。
昨今のスマートフォンメーカーの新製品に違わず、特にカメラ機能を重視しており、3月にフランス・パリで開催された発表会でも長時間にわたってカメラ機能が紹介されていた。
一番の目玉は、ソニーとの共同開発による新センサーだ。センサーサイズは1/1.7インチで4,000万画素という、コンパクトデジタルカメラとしても大きなサイズで高画素のセンサーではあるが、従来のP20 Proと同じスペックではある。
大きな違いは、カラーフィルターにある。一般的なセンサーではRGGBのベイヤー配列となっているが、新センサーでは、このグリーン(G)をイエロー(Y)に置き換えたRYYBというフィルターを搭載している。
ファーウェイによれば、RYYBフィルターは、もともとYフィルターの光の透過率の高さに加え、RとGも得られるため、フィルターとしてはR・RG・RG・Bのような結果が得られる、としている。これによって40%の感度向上などを実現したという。
これまで、Pシリーズにはカラーセンサーに加えて高い感度のモノクロセンサーを組み合わせて、広ダイナミックレンジ・高解像度の画像を実現する仕組みを採用していた。
今回、RYYBセンサーによって感度を高め、モノクロセンサーでなくても同等の画質を実現できるとして、とうとうモノクロセンサーが省かれた。
その代わり、P30では3つの画角をサポートするトリプルカメラを採用している。これまで、標準と望遠という2つのカメラ+モノクロカメラだったが、標準、望遠、超広角という3種類になった。
デジタルズーム性能が向上したトリプルカメラ
画角は標準が35mm判換算27mm F1.8、望遠が同80mm F2.4、超広角が同17mm F2.2となっている。
組み合わせとしては直前のハイエンドモデルであるMate 20 Proと同様だが、超広角側が16mmからわずかに狭くなっているが、望遠側は80mmで同等となっている。あくまでメインの標準カメラの27mmが基準となっているため、望遠側は光学倍率3倍相当と位置づけられている。
ちなみに上位モデルのP30 Proは5倍相当となり、35mm判換算125mmでの撮影が可能になっている。P30 Proは屈曲光学系を採用することで光学5倍となっているが、P30は通常のレンズ構成となっている。
さらに、デジタルズーム性能も強化しているとしており、P30ではハイブリッドズームで5倍相当、デジタルズームでは30倍相当までカバーできるとしている。
P30 Proの場合はそれぞれ10倍、50倍なので、それに比べると抑えめだが、810mm相当という長望遠撮影ができ、画質に目をつぶればかなり撮影の幅が広がる。
標準カメラで月を撮影した。
ここからデジタルズーム30倍まで拡大。オートモードだとAIが「月」を認識して自動的に最適な露出にしてくれる。月がここまできちんと写せるスマートフォンカメラは多くはない。甘いのは確かだが、状況を考えれば十分な画質とも言えるだろう。
扱いやすい画角がそろう
超広角から望遠まで幅広くカバーできるのがP30のカメラの強みだ。P30 Proは5倍というスマートフォンカメラとしては長めのレンズを搭載したことで、少し使い勝手が異なるカメラとなっているが、P30は3倍と扱いやすく、利便性は高い。
ISO 204800の超高感度撮影に対応
前モデルのP20 Proで搭載されて話題を呼んだのが夜景モード。連写合成や画素混合を組み合わせることで、シャッター速度4秒以上の夜景撮影を手持ちでできる、というのが特徴だった。
こうしたソフトウェア的な処理で新たな撮影を実現している。それが超高感度撮影だ。
この超高感度は、標準カメラで解像度10MP以下でしか利用できないことから、40MPのセンサーの画素混合によって実現しているのだろう。プレビュー時には暗く見えても、記録画像が急に明るく写るので、JPEG生成時の処理も行われているようだ。
実際の画像を見ると、真っ暗闇でも写るレベルで、ノイズレベルも実用的な範囲で処理されている。フラッシュをたかなくても暗所撮影ができるため、「暗い部屋で寝ている子供を起こさずに寝顔を撮影する」といった用途にも使える。
最高ISO感度は実にISO 204800という超高感度に対応しており、暗闇でも昼間のように明るくなる。
こうしたソフトウェア処理による写真の「作成」は、スマートフォンカメラの得意分野でもある。夜景モードやHDR、超高感度などは、現実を見たまま写しとるという意味では写真とは言えないかもしれないが、見栄えはするし便利ではある。一般的なカメラの用途として、これはこれでありだろう。
標準と望遠の2つのカメラには光学式手ブレ補正と電子式手ブレ補正を組み合わせたAISを採用。AIを使った手ブレ補正とされているが、構えて少し待つと手ブレ補正が動作する形のようだ。手ブレ補正は比較的強力で、さすがにデジタルズーム30倍になると厳しいが、3倍程度であれば十分な補正効果が得られる。
さすがに30倍まで拡大すると画質は劣化しているが、サイズによっては文字も読めるレベルで判読できるし、ソフトウェア処理なので今後も改善ができそう。
光学的な意味での倍率ではないので、色々足りない面も多いが、デジタルズームの高画質化は一つの方向性として間違ってはいない。今後のさらなる画質改善にも期待したい。
テクニックなしでも長秒露光の効果が得られる
手ブレ補正で気になったのがシーンモードの「シルキーウォーターショット」。いわゆる長時間露光撮影で水の流れを滑らかな糸状に描写する撮影テクニックだが、P30では撮影モード「その他」の「ライトペインティング」の中にシルキーウォーターショットが用意されている。
通常、長時間露光をする場合は手ブレを防ぐために三脚が必須だが、シルキーウォーターショットの場合は手持ちで撮影できる。シャッターボタンを押すと記録が始まり、動画撮影のような状態になり、もう一度シャッターボタンを押すと記録が行われる。
動画を撮影して合成しているような印象があるが、ちょっと分からない。いずれにしても、手持ちで撮影できるのは便利だ。
ライトペインティング内には他にも長時間露光を使った撮影テクニックが用意されていて、これをモードとして用意することで簡単に行えるようにしているわけだ。
ライカレンズとAI撮影にも対応
AIを使った機能では、従来通りシーン認識に活用されている。これはマスターAI機能と呼ばれており、シーンによっては多少やりすぎと言うこともあるが、おおむね見栄えのする撮影を実現している。
このマスターAIボタンは撮影画面上部にあるため、撮影ごとにAI処理をオンオフできるのは便利。オートモート以外ではマスターAIは動作しないので、プロモードを利用すればそれほど派手にならずに撮影できる。
顔を検出して背景ボケを加えて撮影してくれるポートレートや、F0.95からF16相当までボケを加えて撮影するワイドアパーチャ、そして数秒単位の長時間露光を手持ちで行える夜景モードも健在。こちらは連写合成を組み合わせた疑似的な長時間露光ではあるが、機能としては強力だ。
シーンに応じて自動で最適な撮影結果が得られる
オートモードだと被写体に近づくと自動的に超広角レンズに切り替わって最短2.5cmまで近寄れるスーパーマクロ機能も便利で、基本的に「ユーザーが何も考えなくても適切に写真を撮れる」という点をずいぶんと研究していることが伺える。
レンズを切り替えて望遠側にした際に、ピントが合わない近接撮影の場合は自動でデジタルズームに切り替えるのも、そうした工夫の一つだろう。
P30 Proに対して、測距用のToF(Time of Flight:深度測定)カメラを搭載せず、レーザーを用いていることで、ポートレート時の髪の毛のような細かい部分において被写体と背景の分離に失敗する例もあったほか、月を撮ろうとするとピントが合いづらいこともあって、ところどころ影響はあるようだった。
これまで、Pシリーズの動画機能はあまり特徴的ではなかった印象だが、今回はデュアルビュービデオ機能を搭載。これはメインカメラでの広角動画とズームした動画を並べて一画面の動画として記録する機能。特定のシーンをズームアップしつつ、その周囲を同時に抑えたい、というニーズに応えられる。
P30 Proとの違い
HUAWEI P30は手ブレ補正も強力で、手持ち撮影時の細かいブレをかなりの精度で防いでくれる。通常の動画撮影では問題ないだろう。
パリでの発表会でもあまりアピールはされなかったが、従来通りライカカメラとの協業によるレンズを搭載。レンズ銘は「VARIO-SUMMILUX-H1:1.8-2.4/17-80 ASPH.」で、従来通りズームレンズの扱い。P30 Proは屈曲光学系(モバイル業界ではペリスコープ=潜望鏡と呼んでいる)を採用して光学5倍となっていたが、P30は標準的な構成。
レンズ構成としてはP20 Proと同様で、モノクロセンサーがなくなった関係でF値がF1.8からとなっているが、超広角レンズを搭載したことで、ワイド側の画角が広くなった。テレ側は80mmで従来通り。
ちなみにP30上で35mm判換算の焦点距離を見ると、テレ側は「81mm」と表示される。実焦点距離は7.48mm。個人的な推測だが、レンズ自体は80mmの焦点距離までだが、AISでの手ブレ補正用に周辺を広く取っており、その外周部分を手ブレ補正に使って切り捨てていることで実質的に81mmの画角になるため、かもしれない。P30 ProでもEXIF表記は135mmだが、レンズ表記は125mmになっているのもそのせいかもしれない。
P30は、位置づけとしてはP30 Proの下位モデルではあるが、SIMフリーとして発売されることもあって、どのキャリアでも利用できるというメリットがある。カメラのスペックだけ見ると、最高ISO感度が1段下がる点、テレ側の焦点距離が80mmと短い点、それにともなってデジタルズームが50倍から30倍に下がっている点、ToFカメラがないことによる測距性能が主な違い。
ドコモ経由でグローバル的に見ても安価なP30 Proに比べて、SIMフリーのP30がほぼ同価格帯になっているのは気になるところだが、3倍の方が日常的なスナップでは使いやすいこともあって、P30でも十分選択肢になる。画質的には派手目になりがちで、ライカ的な表現がやや失われてきている印象もあるが、画質はスマートフォンカメラではトップクラスだし、高く超高感度を含めてカメラとしての利便性も高い。
下位モデル、というよりもP30 Proのバリエーションモデルとして、十分選択肢として考えられるモデルに仕上がっている。