特別企画
コンパクトで高画質!望遠ズームレンズで春を撮る
動物、花、鉄道…気軽に持ち出せる「もう一本」で、撮影対象を広げよう
2019年3月29日 07:00
「超望遠レンズを使ってみたい」という動機でデジタル一眼レフカメラを手に入れたものの、いざカメラ店に行ってみるとさまざまな種類の製品があり、何から手を付けてよいか迷ってしまう人も多いと思う。自分の好きな被写体や撮影の目的が定まるまでは、手軽に持ち運べて画質も良好な、バランスの良い1本を徹底的に使いこなすのが、撮影を楽しむポイントだ。
気軽にもう一本持ち歩ける安心感
望遠レンズ(望遠ズームレンズ)というと、その大きさや重さから、何かとかさばってしまうことが多い。とくに、300mmを超えるような超望遠域の画角をカバーする焦点距離の場合は、それなりの大きさのカメラバッグでないと素直に収まらない。これでは、なるべく身軽に行動したい家族連れの外出やいつもの散歩コースなどで使おうとすると、レンズを持ち出すこと自体がおっくうになってしまう。しかも「私、望遠レンズを持っています」とばかりに、見た目の主張が強すぎるのも使用を敬遠してしまう理由の一つと言える。
とはいえ、そういうリラックスをしているときにこそ、望遠レンズで撮影したいシーンが目に飛び込んでくることがあるのも事実。面倒がらずに持って来ていればと後悔してしまうことも少なくない。そんなとき、ペンタックス一眼レフカメラのユーザーにオススメなのが、「HD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3ED PLM WR RE」というレンズだ。
35mm判換算で、中望遠の84.5mm相当から超望遠の460mm相当までをカバーするAPS-C対応の本レンズは、沈胴構造の鏡筒を採用しており、レンズ収納時の全長はわずか約89mm。よくある350mlのアルミ飲料缶(122mm程度)より3cm以上も短く、ワイド端時の全長も約120mm、テレ端時は約190mm(いずれも筆者実測値)とコンパクト。最大径も76.5mmとバッグの隙間にするりと入るひかえめな大きさである。カメラに装着して首から下げても大層に見えないどころか、とても最大460mm相当の画角を得られるレンズには見えない。重量についてもフード込みで約471gと軽く仕上がっており、ズーム倍率を考えても持ち歩くのがおっくうにならないレンズと言える。
以下は、順にレンズ収納時、ワイド端時、テレ端時。レンズ収納時の鏡筒の長さは89mm。一見ちょっと口径の大きい標準ズームのようだ。インナーフォーカスを採用するため、フォーカシングによるレンズの繰り出しはない。
短いながらもレンズフードが付属する。PLフィルターを回転させるための小窓を備えているが、このあたりの配慮が実にペンタックスらしいこだわりだ
撮りたいときにスッとピントの合う扱いやすさ
コンパクトに仕上がったHD PENTAX-DA 55-300mmF4.5-6.3 ED PLM WR REだが、操作感も従来に比べて向上している。なかでもAF駆動に関する部分は特筆すべきもので、極めて高速なピント合わせを実現する。これは、フォーカスレンズを前後させる部品にパルスモーター(PLM)を直結したことによる効果が大きい。AFスピードに関しては、メーカー公表値となるが、同一レンジのラインナップである「HD PENTAX-DA 55-300mmF4-5.8ED WR」に対して、ワイド端で8.3倍、テレ端で1.7倍を達成しているという。
超望遠域となると合焦まで少々時間を要するレンズも多いが、本レンズは、シャッターボタンを半押しした瞬間に音もなくピントが合っているという感じだ。そのためAFに関するストレスはなく、シャッターチャンスでまごつくことはないだろう。
静音性も高いので、動画撮影の際にはモーター音を気にせず楽しめる。また、レンズの絞り形状は円形で、制御もレンズ内のモーターで行う「電磁絞り」。これにより、動画の撮影時にもなめらかな絞りの表現が可能だ。電磁絞りに対応するのは、K-1 Mark II、KP、K-70、K-1、K-3 II、K-3、K-S2、K-S1、K-50(一部ファームウェアのアップデートが必要)。
0.95mという最短撮影距離は、最大460mm相当の画角のテレ端ではたいへん心強い。ちょっと離れた位置にある被写体を画面に大きく引き寄せる望遠マクロ撮影を手軽に楽しめる。また、リアフォーカスタイプなので、ピント合わせ時にレンズが繰り出されることがなく、使いやすく感じられる。
このほか、風雨を気にしなくてよい防滴構造である部分や、汚れに強いSP(Super Protect)コーティングの施されたレンズ前面部などにも注目したい。これは、海辺や山などの屋外撮影はもとより、飲み水がかかったり子どもやペットにレンズを触られたりなど、日常生活のちょっとしたアクシデントにも強く、清掃の手間もかからない。
絞り開放から高い解像感でヌケの良い描写
さて、このように機能面で優れていても、やはり気になるのはその写りだろう。倍率が高くて小型軽量化を図ったズームレンズの場合、写りは二の次となることが多い。しかし、本レンズに限っていえば、それはまったくの杞憂だ。絞り開放から、そしてズーム全域で満足のいく写りを得られる。とくに解像感の高さはクラスを超えるもので、パソコンの画面で画像を拡大して見るのが楽しくなってしまうほど。
ただし、それゆえ被写体と重なるフォーカスエリアの選択には気を払う必要があることは言うまでもない。コントラストについても不足はなく、絞り開放からヌケのよいクリアな絵を得られる。絞りを開けたときに発生する周辺減光についても、強く現れるようなことはない。
もちろん開放絞りから1段ほど絞り込めばほぼ解消される。画面周辺部の写りも極端な低下は見受けられず、解像感やコントラストも含め開放絞りでも積極的に使える望遠ズームである。
作品
テレ端300mm(35mm判換算460mm相当)では望遠の圧縮効果が高く、背景が迫ってくるような写りを得られる。右の電車にピント合わせているが、ピントが緩く感じられるのは、路面の熱による大気の揺らぎが影響しているためだ。
FモードはコンティニュアスAF、ガラス越しに撮影。ピントの合った部分のシャープネスは極めて高い。軽量なレンズであるため、流し撮りもさほど苦にならない。
こちらもAFモードはコンティニュアスAF、ガラス越しに撮影している。AFに対するレンズの反応もよく、フォーカスエリアと重なった被写体を確実に補足し続ける。
高層ビルの最上階より撮影を行っているが、幅広い画角をカバーするズームレンズであるため、撮影場所が固定でも絵づくりの自由度は高く一本でさまざまな撮影を楽しめる。AFモードはコンティニュアスAFで、これもガラス越しに撮影した。
ピントはカワウの目に合わせている。テレ端の絞り開放ながら、シャープネス、コントラストともまったく不足を感じさせず、周辺減光も気にならないレベル。クラスを超えた描写特性を誇る。
目から鼻筋にかけての描写に注目。色のにじみなどなく極めてシャープな写りである。落ち着きのない動物でも高速なAFのおかげでストレスなく撮影を楽しめる。
露出を切り詰め、皮の質感を強調してみた。生々しいほどのリアル感のある画像だ。画面周辺部についても色のにじみや解像感の極端な低下などが見受けられない写りである。
こちらも露出をギリギリまで切り詰めている。皮膚の細かな凹凸や付着した汚れなど、緻密に再現されている。AFはコンティニュアスAFを使用した。
鼻や尻尾の部分など画面周辺部にある部分の被写体の写りに注目。色のにじみ、解像感の低下などなく、キレのよいシャープな描写である。画面全体のディティールの再現性も極めて良好だ。
シャッターを切るタイミングがわずかに速かったため、投げ込まれた餌が少ししか写ってないなど甘い部分のある写真だが、それでもこのような写真を撮れるのは、一眼レフカメラと望遠ズームレンズの組み合わせならではと言えるだろう。
動く被写体が近距離に来てもしっかりとピントを合わす。画角も含め動物園の撮影にこれほど適したレンズはない。汚れたガラス越しの撮影のため、若干シャープネスが低下している。
最短撮影距離は0.95m。テレ端での撮影では、被写体を大きく画面に引き寄せられる。ピントを合わせた部分のシャープネスの高さに反するかのように、背景のボケはナチュラルで柔らかい印象だ。
何かの音に反応して一斉に顔を上げた瞬間、シャッターを切った。このようなシーンでも高速のAFのため速やかにピントが合い、シャッタータイミングを逃すことはない。
絞りは開放から1段ほど絞ったF8としている。ピントの合った部分のエッジのキレは上々。コントラストも高い。背景のボケは気になるようなクセは見当たらずナチュラルで柔らかい写りだ。
まとめ:全ペンタックスユーザーに「もう一本」の価値がある
同社の直販サイトを見ると、執筆時点での販売価格は税込6万円台前半と、望遠ズームとしてはリーズナブルな設定になっている。同社の高性能レンズといえば、レンズ名に「★」を冠したスターレンズが有名なため、スペック的に下位のこのレンズは、よくある「バンドル用キットレンズの望遠側」と見られがちだ。
しかしながら、実際に撮影してみると、写りは上位モデルに迫る頼もしいレンズであり、AFスピードに至っては最速レベルであることに驚かされた。何より、同一の焦点距離の望遠ズームは、スターレンズには存在しない。ビギナーやエントリーユーザーばかりでなく、すでに大口径の望遠ズームを持っているようなペンタックスユーザーにも、気軽な撮影旅行などに持っていくなら、このレンズをオススメしたい。
制作協力:リコーイメージング株式会社