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ファーウェイがスマホカメラの開発で重視すること

RYYBセンサー、屈曲光学系搭載の「P40 Pro」について聞く

HUAWEI P40 Pro

ファーウェイは8月26日に、SIMフリー・スマートフォン「P40 Pro」に関する一部プレス向けのラウンドテーブルを開催した。ビデオ会議のZoomを使い、コンシューマービジネスグループの製品マーケティングのシニアディレクターであるスティーブ・ライ(Steve Lai)氏が質問に答える形で行われた。後日、追加で得られた回答と合わせてリポートする。

P40 Proは、3月26日に海外で発表、国内でも6月19日から発売されているスマートフォンだ。ファーウェイのスマートフォンといえば、カメラにライカの名前が入っている。2016年4月に発表されたP9から続くもので、関係は密になっており、今後も継続していくとのことだった。

独自のRYYBセンサーを継承

P40 Proでも、RYYBのセンサーが引き続き採用されている。スマートフォンに限らず多くのデジタルカメラで採用しているカラーフィルターは、ベイヤー配列カラーフィルターで、4画素を1セットと考えるとRGGB(赤×1、緑×2、青×1)で構成したもの。この緑のフィルターを、黄色(Y)に変えることで、光を多く取り込めるようにしたのがRYYBセンサーだ。

これは前モデルとなるP30 Proで初めて搭載されたが、このときの発表で取り入れられる光量が40%向上しているとしていた。ファーウェイは調査によって昼より夜に撮影された写真のほうが多いことを知り、より多くの光を取り入れるRYYBセンサーを開発したという。

RYYBセンサーのイメージ(2019年5月、P30シリーズ国内発売時に編集部撮影)

P40シリーズでもRYYBセンサーは引き続き搭載されているが、センサーサイズや画素数の異なる新しいものだ。そして、試写した印象として画質が向上しているように思える。これは、消費者やメディアの声を参考にして、検証、アルゴリズムを改良し第二世代としたことによるようだ。特に黄色に被ることがあったことなどを改善したという。

ファーウェイは中国以外、たとえば日本にも研究所があるが、RYYBのセンサーはどこで開発されているのだろうか。ハードウェアは上海で、各国でアルゴリズムの開発・改良をしているという。この問いに関しては、多少はぐらかされた感じもあり、それぞれの関与度合いについては秘密ということなのだろう。

ファーウェイ P40 Proのカメラ部。左上から約1,200万画素RYYB(125mm相当F3.4)、約5,000万画素RYYB(23mm相当F1.9)、約4,000万画素(18mm相当F1.8)。この3つのカメラを合わせて「LEICA VARIO-SUMMILUX-H 1:1.8-3.4/18-125 ASPH.」だ。下段中央部のレンズが、距離を測るToFセンサーで、右端が白い部分はLEDライトと色温度センサー。

P30 ProでRYYBセンサーは標準のカメラだけだったが、P40 Proの3つの撮影用カメラのうち、約5,000万画素で23mm相当F1.9の標準となるカメラと、約1,200万画素で125mm相当F3.4の望遠カメラの2つに採用された。しかし約4,000万画素で18mm相当F1.8のカメラは通常のベイヤー配列のものだ。これはどういうことだろうか。超広角では夜の撮影が少ないため、このような選択になったそうだ。夜でも超広角撮影をアピールして欲しかったところだし、すべて一緒の方が処理としては楽のように思うのだが、コスト面での違いがあるのだろう。

P40 Proの望遠カメラで撮影(ISO 50・1/500秒)。5倍の位置で撮影しており、Exifを見ると135mm相当になる。拡大していくと小センサーらしいシャープネスによるガサツキはあるが、遠景の撮影や、圧縮効果を利用した撮影に活用できる。P40 Pro+なら240mm相当のカメラもあるので、さらに楽しめたと思うのだが、残念ながら日本未発売。

ファーウェイのスマートフォンでは、誰でも写真を簡単に撮れるようにしたいという考えがカメラ機能の開発に繋がっているという。プロのカメラマンが経験を元に大きな機材を使って撮れる写真を、誰でも撮れるようにしたいということのようだ。P40 Proではその辺りも、AI(機械学習)の力を使って解決してきている。

同社の分析によると、スマートフォンで撮られる写真は友人や旅行の写真が多いものの、撮りたいけどうまく撮れないということがあるそうで、たとえば動く被写体に対するシャッターのタイミングだったり、博物館でのガラスごしの撮影だったりがそれだ。そこでファーウェイはP40 Proに「ゴールデンスナップ」という機能を搭載した。これは複数枚の中からAIによってベストショットを選んだり、合成によって後ろに写った通行人を消したり、ガラスの映り込みを抑えたりする機能だ。

HUAWEI Golden Snap™/AI通行人除去【HUAWEI P40 Pro 5G】
Take reflection-free photos with Golden Snap AI Remove Reflection

ファーウェイは2017年に発表されたMate 10 Proのとき、搭載するCPU(Kirin 970)に機械学習の処理を専用に行うNPU(Neural network Processing Unit)を実装して、写真撮影でのAI処理を打ち出してきた。主にシーン認識による撮影に関する設定や、画像処理のために使われていたが、P40 Proでは大きく進めてきたのだ。

本体の大きさについて、もっと小さくならないのかという質問も出た。いつも持ち歩き、スリムさを保つようにしているとのことで、望遠レンズに屈曲光学系を採用しているのも、そのためだそうだ。屈曲光学系はプリズムを使って光の向きを折り曲げたレンズ構成で、コンパクトデジタルカメラでは防水タイプに多く使われる。水に濡らさずにズームでレンズを動かせるようカメラ本体内に収める工夫だ。これをスマートフォンでは小型化のために使っているわけだ。これもP30/P30 Proで搭載され、最近ではサムスンやOPPOのスマートフォンでも採用されている。

参考:ペリスコープ構造のイメージ(写真は2019年3月、P30 Pro発表時に編集部撮影)

それでもレンズの部分はでっぱっている。これは他社のスマートフォンでも同様で、いわば最近の流行ともいえるが、筆者はどうにも気になってしまう。邪魔だし、まず美しくない。

ただ、この点については設計の段階で考慮はしたようで、カメラの性能とボディの薄さ、搭載するバッテリーなどを考慮したうえで、ユーザーが求めることが何かを考えた結果のようだ。なお、5Gであっても、消費電力は4Gのレベルまで下げられているようで、軽量化と薄型化の実現は、消費電力についても業界共通の課題だという。

ユーザー体験重視のカメラ機能開発

ハードウェア面を見ると、P40 Proでは新しい色温度センサーが搭載された。撮影用の撮像素子とは別に用意された色の波長を正確に測定するセンサーだ。P30 Proでも色温度&フリッカーセンサーがあったが、P40 Proでは8色の領域を感知でき、これによりオート・ホワイトバランス性能を向上させている。消費者ニーズは、カメラの進化と共に変化しており、写真を撮るシーンは増えているという。背景が単色だと間違えることがあったが、環境の色を正確に測定することで、元の色に近く撮れるようにしたそうだ。

ファーウェイは、技術とアルゴリズムの面で他社をリードしているのは自認していて、他社がファーウェイを追いかけるとき、ハードウェアを追いかけているが、同社ではユーザー体験を重視し、様々な声を集めているという話が繰り返された。実際、今回のP40 Proはカメラの基本性能の向上とAIを中心にした機能強化で、そうしたユーザー体験を重視した製品といえる。現在のスマートフォンは、各社カメラ機能に力を入れており、製品の発表でも多くの時間が割かれる。たしかに、その中でもファーウェイのカメラ機能がトップクラスと言うのは間違いではないだろう。

営業終了した深夜のそば屋の店先。真っ暗と言うほどではないが、タヌキの表情は読めないくらいに暗い条件。拡大していけば画像処理でノイズをつぶした感はあるが、パッと見たときの印象は悪くない。他社のスマートフォンでもナイトショットや露出補正で同程度の明るさで撮影できるが、暗所でP40 Proが強いのは確かだ(標準カメラ・1/8秒・ISO 25600)。

日本でのモデル展開、GMS非対応の無念

一方で不満がないわけでもない。P40 Proは3モデルあるP40シリーズの中間に位置する。最上位モデルのP40 Pro+は日本では発売されていない。基本性能はほぼ同じだが、望遠カメラが異なり、P40 Proの約1,200万画素125mm相当F3.4の代わりに、P40 Pro+は約800万画素240mm相当F4.4と、800万画素80mm相当F2.4になっている。なぜ国内で販売されないのだろうか。これは、P40シリーズを日本で発売するにあたって、日本のお客様のニーズに最も合った製品だと判断して、最も競争力のある製品であるP40 Proを選んだという答えだった。とはいえ、日本で上位モデルが販売されてないというのは残念ではある。

加えて、現在のファーウェイのスマートフォンの使いづらさもある。アメリカの制裁によって、グーグル関連のサービス(GMS:Google Mobile Service)が使えないのだ。Google Playによるアプリの追加もできなければ、GoogleマップやGmailといったアプリも利用できない。

ファーウェイは独自にHMS(HUAWEI Mobile Services)を作り、HUAWEI AppGalleryから各種アプリをダウンロードできるようにしている。ただし、それですべて解決というわけにはいかない。最近LINEが追加されたものの、FacebookやInstagram、Twitterといった日本で主要な写真をシェアしたくなるサービスのアプリは、HUAWEI AppGalleryにはない。Googleのサービスも含めてWebブラウザを介せば使えるのだが、ワンクッションおくことになる。撮ったらすぐシェアできるというのがスマートフォンの良さ。すべてファーウェイの責任とは言いがたいが、サッと写真をシェアするというユーザー体験は落ちていると思える。

HUAWEI AppGalleryにFacebookは登録されていないが、検索すると、https://www.facebook.com/android_upgradeへのリンクは出てくる。FacebookがAPK(Androidアプリのインストール用のパッケージ)を配布しており、これをダウンロードしインストールできるが、こういった使い方をしなければいけないというのは、あまり気持ちのいいものではない。

これに対して「世界中の消費者に最新の技術的進歩を届けることは、常に私たちの使命です」というファーウェイ。世界で定番のアプリやゲームが選べるよう取り組んでいるようだ。HMSに登録する開発者は130万人を超え、世界的なデベロッパーも増えているという。なお、希望するアプリがないときは、「ウィッシュリスト」に追加しておくことで、AppGalleryに登録された際に通知を受け取れるれるとのこと。

HUAWEI AppGallery。Googleのサービスは使えないが、ファーウェイ独自のアプリストアを用意している。LINEやナビタイムなどといったアプリはあるが、Google Playを完全に置き換えられるものにはなっていない

また、日本国内で使うときFeliCa(おサイフケータイ)の非対応というのも気になるところ。P30 Proはドコモ版で対応していたが、P40 Proはキャリアからの販売はなくFeliCaには対応しない。FeliCaがここまで必要なのは日本市場特有の事情とはいえ、やはり欲しいと思える。同社は今後も日本のユーザーニーズに目を向けていくとのことで、期待したい。

繰り返しになるが、ファーウェイP40 Proのカメラ機能はかなり強力だ。お手軽モードだけでなく、感度やホワイトバランス、シャッター速度を任意に設定して撮影できるし、画質もいい。ライカ銘のカメラだし、カメラ好きの持つスマートフォンとして満足できるものになっているといえる。それだけに、GMSとFeliCaが使えないのは残念でならない。それら2つが使えれば、たとえばiPhoneユーザーが二台目として使っても、とても面白い組み合わせだと思うのだ。

猪狩友則

(いがり とものり)フリーの編集者、ライター。アサヒパソコン編集部を経て、2006年から休刊までアサヒカメラ編集部。新製品情報や「ニューフェース診断室」などの記事編集を担当する傍ら、海外イベントの取材、パソコンやスマートフォンに関する基礎解説の執筆も行う。カメラ記者クラブでは、カメラグランプリ実行委員長などを歴任。