写真を巡る、今日の読書
第92回:夏の室内時間を豊かにする雑誌読書
2025年8月20日 07:00
写真家 大和田良が、写真にまつわる書籍を紹介する本連載。写真集、小説、エッセイ、写真論から、一見写真と関係が無さそうな雑学系まで、隔週で3冊ずつピックアップします。
夏の夜に楽しむ雑誌の魅力
猛暑が続くと、ちょっと写真を撮りに外へ出るのもなかなか難しくなります。デジタルカメラの時代になってからは、炎天下で撮影しているとカメラが動かなくなるトラブルに遭うことも増えたように感じます。夏の間は読書や映画鑑賞で様々な情報やアイデアをインプットする時間に充てることが多くなります。
前回はカルチャー雑誌をいくつか紹介しましたが、今週も引き続き雑誌について取り上げたいと思います。特集記事だけでなく、多彩な情報や表現が詰まった「雑誌」というメディアは、インターネットではなかなか得られない魅力に満ちています。
少し涼しくなった夜に、グラス片手に雑誌を手に取る時間は、私にとってなんとも贅沢なひとときです。最近あまり雑誌を読んでいないという方は、ぜひこの機会に手に取ってみてはいかがでしょうか。
『Pen(ペン)2025年6月号[特集:いまこそ楽しい!カメラと写真]』ペン編集部 (編集)(CEメディアハウス/2025年)
まず1冊目は、『Pen(ペン)2025年6月号[特集:いまこそ楽しい!カメラと写真]』です。『Pen』は定期的に写真を特集しておりますので、読まれている方も多い雑誌なのではないでしょうか。本号では、フィルムカメラからデジタルカメラまで、多様な撮影機材を紹介し、俳優やアーティストの写真ライフにも迫っています。
改めて、写真を通してカメラを持つ人の視点や考え方、さらには哲学のようなものを視覚的に感じ取れる内容で、新鮮な驚きを覚えました。また、レンズやカメラの基本知識、撮影の基礎、写真機材ショップのリスト、さらには写真ギャラリーの紹介まで網羅されており、カルチャーとしての写真全体を俯瞰できる1冊です。写真愛好家にとっては必携の号と言えるでしょう。
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『美術の窓 2025年 6月号』生活の友社(編集)(生活の友社/2025年)
2冊目は、『美術の窓 2025年6月号』です。私自身、美術としての写真に関わっていることもあり、日本の現代美術を扱う本誌は毎号購読しています。毎回多様な特集が組まれていますが、本号のテーマは「植物」です。
私の最新作も花や植物をモチーフにしており、これまでも植物を被写体にすることが多かったため、美術の世界で今「植物」がどのように表現されているのかを知るのに絶好の号となりました。1920年代の写真家カール・ブロスフェルドについての解説や、私がかつて刊行した写真集『叢本草』の題材となった多肉植物の専門家・小田康平さんのインタビューも掲載されており、個人的にも興味深く読ませていただきました。
写真メディア以外の表現を知ることで、多くの刺激が得られるのではないかと思います。
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『GOAT Summer 2025 (shogakukan select mook) 』朝井リョウ(著)、一穂ミチ(著)、野崎まど(著)(小学館/2025年)
最後に、『GOAT Summer 2025(小学館セレクトムック)』をご紹介します。小学館が新たに立ち上げた文芸誌で、創刊号は5万部のヒットを記録し話題になりました。本号は第2号にあたります。私は文芸誌に特定のこだわりはなく、『群像』や『すばる』など、その時々に気になる作家がいるかどうかで選んでいます。本号には朝井リョウや小川哲の小説に加え、武田砂鉄や三浦透子のエッセイも掲載されています。特集テーマは「旅」で、京都を舞台にしたさまざまな作品が揃っています。
話は少し逸れますが、夏は例年、芥川賞の受賞作品が掲載される『文藝春秋』の9月号を買うのが私の習慣です。ただ今年は、芥川賞・直木賞ともに該当作なしという珍しい年となりました。むしろどのような作品が候補に挙がっていたのか気になるのは、私だけではないのではないでしょうか。できるだけ多くの候補作を読んでみたいと思っています。