新製品レビュー
FUJIFILM X-H2
4,020万画素センサーで“APS-C最高画質” 8Kオーバーサンプリング動画も
2022年11月8日 08:00
9月に発売された「FUJIFILM X-H2」は、APS-Cサイズのセンサーを搭載したミラーレスカメラ。7月に先行して発売された「FUJIFILM X-H2S」は兄弟機の関係にあたります。
両機とも同社Xシリーズの第五世代を担うフラッグシップモデルなのですが、名称に“S”がある「X-H2S」は、高速連写やAFでの被写体捕捉性能に優れたスピードモデル。“S”のない本機「X-H2」は、APS-Cサイズでは史上最高となる、4,020万画素のイメージセンサーを搭載した高解像モデルという違いがあります。
高解像モデルと言うとなんだか高そうな印象がありますけど、実際の販売価格は、「X-H2S」より「X-H2」の方がいくらか低く設定されているようです。「Xシリーズのフラッグシップは気になるけど連写性能はそれほど必要ないな」、なんて思っていた人には興味深いカメラなのでないでしょうか?
X-H2Sと同じ高剛性なボディ
「X-H2」の高さ×幅×奥行・質量(バッテリーとメモリーカード含む)は、92.9×136.3×84.6mm・約660gとなっていて、これは「X-H2S」とまったく同じ。
それもそのはずで、「X-H2」と「X-H2S」は共通のボディを使った正真正銘の兄弟機なのです。質量まで同じというところを見ると、異なるのは本当にイメージセンサーだけのようです。
そうしたわけで、外観デザインの詳しいことについては、先の「X-H2S」のレビューを参照してもらうとして、今回は簡単に各部の紹介をしていくことにします。
筆者が確認した限りで、外観から「X-H2」と「X-H2S」を見分ける手段は背面左上にあるモデル名のロゴの違い。あとは、「X-H2S」の方は正面側に「S」のロゴが入っていますね。もしも、両機を同時に使う機会があるとしたら、けっこう頻繁に間違えてしまいそうです。
モードダイヤルは上部左手側に設置。「ダイヤルロック解除ボタン」が中央にあります。
上部右手側には、「サブ液晶モニター」、「動画撮影ボタン」、「ISOボタン」、「WBボタン」、「Fn1ボタン」が並びます。
「フォーカスレバー」が幅広になって操作しやすくなったのは嬉しいのですが、「X-H1」や「X-T4」などに搭載されているリアコマンドダイヤルのプッシュ操作は廃止されました。便利と思っていましたけど意外に使う人が少なかったのですかね?
カメラ前面、マウント脇にあった「フォーカスモード切換レバー」は「Fn3」ボタンに変更。初期設定では「フォーカスモード」が割り当てられていますが、好みで他の機能を割り当てることもできます。
液晶モニターはバリアングル式で、3.0型の約162万ドット。富士フイルム独自の3方向チルト式モニターでないのは、主に動画撮影を考慮してのことだと思われます。
ストラップ取り付け部は、伝統的なアイレットタイプから、平紐を直接通すスリットタイプになりました。
記録メディアスロットはSDメモリーカードとCFexpress Type Bカードの2つ。SDメモリーカードはSDXC(UHS-I・UHS-II、ビデオスピードクラスV90)まで対応します。連写性能重視でないのにCFexpressカードが必要か? と思うかもしれませんが、「X-H2」は8K動画が撮影できるので重要だと思います。
対応バッテリーは「NP-W235」です。静止画撮影可能枚数はCIPA規格で最大約680枚(エコノミーモード時)となっています。
ファインダーは視野率約100%、倍率0.8倍、576万ドットと非常に高倍率で高精細なもの。X-H2Sで非常に見え具合の素晴らしいファインダーだと思っていたので、「X-H2」でもぜひ採用してほしいと思っていたスペックのひとつでした。
リアルに感じられる4,020万画素の高解像性能
「X-H2」が搭載するイメージセンサーは4,020万画素の「X-Trans CMOS 5 HR」。「X-H2S」のイメージセンサーは2,616万画素の「X-Trans CMOS 5 HS」ですから、1.5倍以上に画素数が増加したことになります。末尾の「R」と「S」は「Resolution(解像度)」と「Speed(スピード)」でしょうか? 当たらずとも遠からず、といったところでしょう。
しかし正直に言うと、初めにこのスペックを聞いたとき「APS-Cサイズのセンサーで4,020万は、いくら何でも高画素すぎるのでは?」などと思っていました。画素ピッチ(大まかに言えば1画素のサイズのこと)が小さくなりすぎてしまうからです。
ところが、「X-H2」で撮影した画像を見ると、明らかに「X-H2S」を含めた従来機の解像感を上回っていることが分かります。つまり、「X-H2」は画素が細密化しても、キチンとそれを活かすだけの能力をもっているということになります。「X-Trans CMOS 5 HR」の性能もさることながら、新開発の画像処理エンジン「X-Processor 5」の処理能力も極めて優れているということでしょう。
画素ピッチが非常に狭くなると、レンズの解像性能をイメージセンサーが追い越してしまう可能性があり、そうなると光学的に解像しきれない像を、無意味に画素で分割しているだけの状態になります。
もちろん、富士フイルムとしてもそこのところはよく理解していて、4,020万画素の高画質に対応する光学性能をもったレンズを「40MP推奨レンズ」として公表しています。それらのレンズは、「4,020万の高画素にも十分対応する高い解像性能をもっている」レンズということであり、前述の作例で使用した「XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR」もそのうちのひとつです。
それでは、「40MP推奨レンズ」以外のレンズは使ってダメなのかというと、決してそんなことはなく、従来機以上の高解像な画質を十分に楽しむことができます。「レンズの解像性能をイメージセンサーが上回っている」、ということは、裏を返せば「レンズの解像性能をイメージセンサーが余さず受け止めている」ということになるのですから、当然と言えば当然ですね。
「高画素化=画素ピッチの縮小」となると、ちょっと不安になるのが高感度性能。なのですが、常用感度の最高は「X-H2S」や「X-T4」などと同じ、ISO 12800が維持されています。
そのISO 12800で撮影してみました。2,616万画素の「X-H2S」などと比べてみても遜色のない、優れた高感度性能だと思います。むしろ、「X-H2」の方が高画素で粒が小さい分だけ、画像全体の滑らかさが上回って見えるかもしれません。
ちなみに、「X-H2」は最大7.0段の強力なボディ内手振れ補正機能がありますので、夜の手もち撮影でも、手ブレを抑えた撮影ができます。
X-H2S同様に搭載された被写体検出AF
特定の被写体をAIで検出しピントを合わせる「被写体検出AF」が搭載されています。この機能は兄弟機の「X-H2S」と同じ。恐らく予測アルゴリズムも同系統のものが用いられていると思います。検出対象は「動物」、「鳥」、「車」、「バイク&自転車」、「飛行機」、「電車」の6種類(「人物」も入れれば7種類)。
「X-H2S」以前は「人物」のみだったので、猫をよく撮る筆者としてはこの機能が搭載されてとても嬉しい。被写体検出AFの素晴らしさを一度体験してしまうと、「もうそれなしでは撮れない」となるほどなので、対象となる特定分野の被写体を撮影されている人には、この気持ちを分かってもらえるのではないでしょうか?
「X-H2S」同様の優れた被写体検出能力があるのは確かですが、対象となる被写体はいずれもよく動き回る、いわゆる動体撮影になります。そうなると、撮影結果はAF性能の高さに深くかかわってくるのですが……、というところで次のAFの話につづきます。
AF性能:動体と静物の違い
「X-H2」の被写体検出AFを使った動体追従性ですが、これはその分野を得意とする「X-H2S」と比べても、ほぼ問題なくよく追従してくれると感じました。よほど高速で動く被写体の場合、積層型センサーを搭載した「X-H2S」の方が、本機「X-H2」より1歩リードするかな? という程度の違いです。積層型センサーでもなく、画素数も多い「X-H2」の方が、スキャンスピードが遅れるということはあるかと思いますが、それでもかなり優秀なレベルに達しているといった印象でした。
決定的に違うのが連写速度。「X-H2S」はメカ/電子シャッターいずれも40コマ/秒の高速連写が可能だったところ、「X-H2」はメカシャッターで15コマ/秒、電子シャッターだと13コマ/秒になってしまいます。
高画素なうえに積層型センサーでもないのだから当たり前ですが、「X-H2S」を体験したことがあると、この差は思ったより大きく感じます。15コマ/秒でも相当速い連写速度なのですが、40コマ/秒の間、的確に追従を続けて瞬間を切り撮る「X-H2S」のAF性能にはやはり感心せずにはいられません。
そんな「X-H2」の連写性能ですが、電子シャッター使用でクロップ(1.29倍)されることを前提とすれば、20コマ/秒の高速連写が可能になります。
元が4,020万画素なので、クロップしても2,400万画素と十分な画素数を確保できます。また、クロップしたことで望遠効果もより高くなりますので、案外「X-H2」で動体撮影する場合はこの設定がイチオシと言えるかもしれません。ただし、「X-H2S」に比べると、ローリングシャッター歪みは目立ちやすくなるため、直線的な人工物が画面に入らないよう注意した方がよいと思います。
連写性能や動体追従性能に関しては、どうしても「X-H2S」に譲る「X-H2」ではありますが、「X-H2」の動体撮影能力が低いわけでなく、ただ「X-H2S」の動体撮影能力が強すぎるだけなのです。そこらへんは理解したうえで使いたいものです。
そうしたところで、本当の意味で「X-H2」のAF性能が光るシーンが、高周波被写体へのAF合焦性能になります。簡単に言えば、止まっている被写体に対するピント精度が非常に高いということで、これはイメージセンサーの高画素化によって位相差画素数が増加・細密化したことに起因しています。
とは言っても、実際にカメラを使っていて、「X-H2」が「X-H2S」より静物のAF精度が高いと感じるようなことはあまりないと思います。4,020万画素と解像感が高くなった分、よりピント精度がシビアに要求されるわけですが、「X-H2」はそれでもちゃんと高精度にAFでピントを合わせますよ、ということだと思います。
スピードモデルの「X-H2S」と、高画素モデルの「X-H2」にはそれ相応なAF性能が、それぞれちゃんと搭載されているのです。
8K 30pが撮れる動画撮影
「X-H2」は、最大「8K 30p」(4:2:2 10bit内部記録)の動画記録に対応します。別売の「縦位置バッテリーグリップ VG-XH」を装着し、3個のバッテリーを装填した場合だと、最大で160分の撮影が可能になります。
APS-Cサイズセンサーで8Kが撮れるというのはスゴイこと。8Kの画像サイズが「7,680×4,320ピクセル」なので、2,400万や2,600画素程度のセンサーではそもそも撮影できません。3,000万画素でもまだ無理です。「X-H2」のイメージセンサー「X-Trans CMOS 5 HR」(7,728×5,152ピクセル)でないと、8Kの画像サイズをカバーできないということです。「もしかして、8K動画を撮るために、X-H2の画素数が定められたのでは?」などと考えたりすらしてしまいます。
8K 30pでの長時間記録ともなると、カメラの発熱はかなりのもので、場合によっては記録が止まってしまう心配も生じます。しかし、「X-H2」は「X-H2S」同様に、本体に取り付けられる冷却ファン「FAN-001」も別売で用意されているので安心です。
8Kが撮影できることで、オーバーサンプリングによる高品質な4K動画「4K HQ」記録も可能になりました。オーバーサンプリングは、より大きなフォーマット(8K)から情報を凝縮して4K動画とする機能。解像感に優れ、モアレやジャギーの少ないリアルカラーの4K動画を撮ることができます。
「X-H2」で撮影した、通常の4K動画と、8Kオーバーサンプリングによる4K動画を、交互に並べたサンプル動画を作成してみましたので、ぜひご覧ください。
パッと見は分からないかも知れませんが、よく見てみると通常の4K動画より8Kオーバーサンプリングによる4K動画の方が、高画質なことが分かると思います。特に色調は、より鮮やかで濃厚になっています。
ただ、「4K HQ」は元が「8K 30p」をオーバーサンプリングしているだけに、「4K 30p」までしか撮れません。より滑らかな動きを重視したいという人のために、通常の4K動画で「4K 60p」記録も用意されています。
その他、作例を交えながら
常用感度の最低がISO 125になりました。従来機はISO 160です。これはイメージセンサーの集光効率が向上したためだそう。
1/3段程度ですので、明確な違いを確認するのは難しいところですが、それでも常用感度の範囲が広がったことは歓迎したいところ。白飛びを防ぎやすくなりますし、明るいシーンでの速すぎるシャッター速度を抑えることも、いくらかはできます。
GFXシリーズに搭載されていた、「ピクセルシフトマルチショット」がXシリーズとしては初めて搭載されました。1回のシャッターで、センサーを高精度にシフトさせ、20枚の画像を取得したあと、専用ソフト「Pixel Shift Combiner」で画像処理することで、約1億6千万画素の超高解像画像が得られます。ただ単に大きな画像を得られるというだけでなく、正確な情報を得られることでモアレのないリアルカラーな画像になるため、貴重な記録写真などに向いているでしょう。
ただし、ほんのわずかなブレも許されないので、正常な撮影を行うのはかなり難しい。今回、屋外での撮影は全滅してしまい、室内で慎重に撮ったうちの数枚だけが正常に処理完了できました。
「X-H2」はスナップ撮影で使っても楽しいカメラだなと思います。金属質の被写体は金属らしいメリハリで、石質の被写体は石らしい緻密さで、有機的な被写体は生き物らしい優しさで、リアルに描き分けてくれます。
夕空を映すビルの窓を主体に撮ってみました。やっぱりリアリティが素晴らしい。ちょっと大げさかもしれませんが、APS-Cサイズの常識を超えた質感描写や立体感を感じてしまいます。
質感描写や立体感が優れているため、背景ボケの効いた画像では、ピントを合わせた被写体の存在感が見事に浮き上がってきます。シャープネスを強調した写真とは、一味も二味も違った自然で品の良い画質と言えるのではないでしょうか。
まとめ
好印象だった「X-H2S」と同じボディで、イメージセンサーを異にして登場したのが「X-H2」でした。「X-H2」の存在は「X-H2S」登場時から予告されていたものではありますが、APS-Cサイズで4,000万画素クラスはちょっと無理があるのではないか? というのが正直な感想でした。
ところが実写してみると、このカメラが高画素であることの意味が十分に納得できる、素晴らしい高画質を実現していたので驚きました。レンズの光学性能を活かしきっているところや、4,020万画素に対応できるレンズがラインナップされているところも良いです。個人的には、APS-C最高画質のカメラといってイイのではないかと感じました。そのうえ、高画素化したことで8K動画まで撮れてしまいます。
「X-H2S」は、AF性能や連写性能、ブラックアウトフリーやローリングシャッター歪みの軽減など捨てがたい魅力がありますし、動体撮影を重視するなら一択だと思います。しかし、「X-H2」のAFだって普通に優れた性能があるわけですし、一線を画す高画質や動画機能を考えれば、やはり多くの人にとって本命は本機になるのでないでしょうか。
そして何より、「X-H2S」より価格が抑えられていることは、ユーザーにとってとても嬉しいことなのです。