新製品レビュー

FUJIFILM X-H2S

“40コマ/秒”のハイスピード機 心地よいEVFと操作性にも注目

7月に発売された「FUJIFILM X-H2S」は、APS-Cサイズセンサーを搭載したミラーレスカメラ。同社のXシリーズでは最上位機種にあたる「X-H1」の後継機にあたるのですが、機種名の最後に「S」がつくことから分かるように、高速連写や被写体の追従性に優れたスピードモデルであります。

本機については、すでに兄弟モデルの開発が予告されており、その「S」がつかない方の“X-H2(仮称)”は4,000万画素クラスの高解像度モデルで、9月に詳細が明らかになると予告されています。

スリム&シンプルになった外観デザイン

X-H2Sの高さ×幅×奥行・質量(バッテリーとカード含む)は、92.9×136.3×84.6mm・約660gとなっており、前モデルX-H1の97.3×139.8×85.5mm・約673gと比べると、ひとまわり小さくなり、少し軽くなりました。

ただ、富士フイルムのXシリーズに伝統的に装備されていたシャッタースピードダイヤルとISO感度ダイヤルといったダイヤル類が一部省略され、モードダイヤルだけのシンプル仕様になったことで、実際のサイズ以上にスマートになった印象です。デザイン的には約44×33mmのフォーマットを採用する同社の「GFX100S」や「GFX50S II」に近づいてきたと言えば分かりやすいでしょうか。

抜群に視認性の高いファインダー

「これは素晴らしい!」と思ったのがファインダー(EVF)。

ファインダー倍率0.8倍、576万ドットの高倍率・高精細。フレームレートは約120fpsに対応しているので、動く被写体もとても滑らかに見えます。さらには、接眼部の光学系も頑張ったのでしょう。瞳の位置がズレていても像が歪んだり流れたりすることがほとんどありません。

アイカップを外してみました。

とにかく見やすいファインダーで、感動してしまいました。高速連写を得意とするスピードモデルに限らず、ファインダーの質はカメラとして大切なところです。後述しますが、採用したイメージセンサーと画像処理エンジンが優秀で、ブラックアウトフリーの連写も可能です。

使いやすい先進の操作系

往年の銀塩一眼レフを彷彿とさせるスタイリングのカメラ上面から、シャッタースピードダイヤルやISO感度ダイヤルはなくなり、モードダイヤルが上部左手側に設置されています。

逆の上部右手側には、露出設定などを表示するサブ液晶モニターが鎮座。すぐ近くには、動画撮影ボタン、ISOボタン、WBボタン、Fn1ボタンが並んでいます。

フォーカスレバー(いわゆるマルチコントローラー)は、前モデルのX-H1より幅広になり操作しやすくなりました。位置は従来より上部に設定されていて指掛かりが改善されている……のですが、前モデルX-H1のユーザーからすると、位置の違いから「あれ?」と思うこともありました。ただ、これは慣れの問題。使いやすくなったことに間違いはありません。

カメラ前面、マウント脇にあった「フォーカスモード切換レバー」はボタン式に変更。レバー式だと前面をのぞき込んで操作することもありましたが、ボタン式だと押すだけでフォーカスモード画面が表示されるので分かりやすいです。このボタンは「Fn3ボタン」という名前で、フォーカスモード以外の機能を割り当てることも可能です。

背面の液晶モニターはバリアングル式。X-H1に搭載されていた3方向チルト式液晶モニターではなくなりましたが、動画撮影に比重を置くならこの仕様が正解でしょう。自撮りなどでは大変便利です。

ストラップ取り付け部は、伝統的なアイレットタイプから、平紐を直接通すスリットタイプに。動画撮影時に三角環がカチャカチャと音を立てないよう、スリットタイプに変更するカメラが他社からも登場しています。
記録メディアスロットはSDメモリーカードとCFexpress Type Bカードの2つ。SDメモリーカードはSDXC(UHS-I・UHS-II、ビデオスピードクラスV90)まで対応します。

フルサイズ機では多くのカメラで採用されているCFexpressカードですが、APS-C機での採用は初めて。動画撮影ではもちろんですが、X-H2Sのようなハイスピードモデルだと、静止画撮影でもついつい大容量になりがち。転送速度が段違いに速いCFexpressも使えるというのは、PC転送などのワークフローを考えても嬉しいことです。

端子類です。上から「マイク端子」、「ヘッドホン端子」、「USB端子(USB Type C)」となります。USB端子の横にあるネジ穴は、「USBケーブル固定ネジ穴」と「ケーブルプロテクター固定ネジ穴」です。USB端子はPCやスマートフォンとの通信のほか、USB充電・給電にも対応しています。
HDMI端子はフルサイズのType A。変換アダプター不要で便利です。ケーブルを接続した状態でも、バリアングル式の液晶モニターが回転できるように配慮されています。

ちなみにですが、バッテリー1個で連写やら動画撮影やらを連続で行っていると、だいたい2時間くらいが試写での限界でした。低消費電力化に配慮されているとはいうものの、やはりハイパフォーマンスモデルだけに、電力消費はそれなりに激しいようです。最大能力をフルに活用したいという人は、予備のバッテリー、さらには「縦位置バッテリーグリップ VG-XH」の購入も検討した方が良いかもしれません。出費ですね……

対応バッテリーは「NP-W235」。単体のバッテリーチャージャーは同梱されていないので、必要な人は別売の「デュアルバッテリーチャージャー BC-W235」を購入しましょう。

第5世代になったセンサーとプロセッサー

イメージセンサーはAPS-Cサイズで約2,616万画素の「X-Trans CMOS 5 HS」、画像処理エンジンは「X-Processor 5」と、ともに最新のタイプが搭載されています。第5世代となったセンサー&プロセッサーですが、センサーは裏面照射型かつ積層型構造が採用されており、プロセッサーは現行機比で処理速度が約2倍に高速化されているそうです。

つまりとても速い! 高速連写や優れた高感度性能はもちろんのこと、動画性能の向上や、ブラックアウトフリーやローリングシャッター歪みの抑制も実現されています。

常用の最高ISO感度は12800。これ自体はX-H1やX-T4と変わりません。

というところで、高感度特性を見てみましょう。

こちらがISO 12800で撮った画像。もはや、いまどきのカメラで高感度性能を疑う必要はないのではないかとさえ感じます。PCやスマートフォンで見る限りは全く問題がない。個人的な感じ方もあると思いますけど、一般的にはプリントしたって、A3やA3ノビでも堂々と展示できるレベルではないでしょうか。

ISO 12800で撮影
X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F5.6・1/25秒・43.2mm)ISO 12800
※本稿は「XF18-120mmF4 LM PZ WR」の量産試作品で撮影しています

同じシーンで、よく使われる高感度としてISO 6400に設定した画像がこちら。100%拡大とかでもなければ、まったく問題なく観賞できる画質だと思います。

ISO 6400で撮影
X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F5.6・1/12秒・43.2mm)ISO 6400

ちなみにX-H2Sは、最大7段分の補正効果をもつボディ内5軸補正の手ブレ補正機能を搭載しています。シャッター速度1/2秒程度なら、何の苦労もなく手ブレを抑えてくれました。

ISO 800+手ブレ補正の効果
X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F5.6・0.5秒・37.4mm)ISO 800

ついに搭載された被写体検出AF

富士フイルムのミラーレスカメラにも、昨今トレンドの「被写体検出AF」が搭載されました。検出対象は「動物」、「鳥」、「車」、「バイク&自転車」、「飛行機」、「電車」の6種類(「人物」も入れれば7種類)。初搭載で6種類というのは気合い入ってますね。


「動物」ということで猫を撮ってみました。素早く検出し、AFで瞳を追尾し続けてくれます。個人的には被写体検出機能なしで動物を撮るのが考えられなくなってきています。

X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F4・1/220秒・47.6mm)ISO 160

「鳥」です。鳥の形を検出した場合は全体のシルエットを対象にしてピントを合わせ、瞳が見える状態なら瞳を捉えてピントを合わせてくれました。被写体がかなり小さい場合でも的確に瞳を検出する優れものです。

X-H2S XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR(F7.1・1/1,600秒・300mm)ISO 800

「車」や「飛行機」などでも被写体検出AFを試してみましたが、いずれも初搭載とは思えない素晴らしい検出能力でした。そしてこの被写体検出AF、静止画撮影だけでなく動画撮影時でも有効です。

AF/AE追従の40コマ/秒高速連写

X-H2Sの連写速度は最高で40コマ/秒。この速度は電子シャッター使用時になりますが、AFとAEは固定されることなくシッカリ追従してくれます。メカシャッター使用ですと最高15コマ/秒になります。

試写した印象では、ブラックアウトフリーで撮影できるので被写体を追いやすく、ローリングシャッター歪みは良く抑えられているため、電子シャッター撮影にためらいを感じることはありませんでした。というより、特別な理由がなければ電子シャッターの使用がオススメです。

せっかく被写体検出AFも搭載されたことですので、動きが速く、動き方の予測が難しい「鳥」で、約40コマ/秒の高速連写性能を試してみました。

電子シャッターでの撮影例
X-H2S XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR(F7.1・1/2,000秒・300mm)ISO 800

あまりにもアッサリとウミネコの飛翔シーンが撮れてしまったので驚きです。視認性の高いファインダー+ブラックアウトフリー+優れたAF性能+高速連写で鳥の動きを捉え、後から「これ!」と思ったカットを選ぶだけなのでラクラクでした。

大量に撮れてしまい、写真のセレクトが大変なのが玉にキズではありますが、憧れの“画面いっぱい飛翔シーン”を、こうしたジャンルがほぼシロートの筆者にも撮れたのは、しめたものだと思います。


突然に起こった激しいエサの取り合いも逃さずキャッチ。対象の被写体が複数いる場合は、フォーカスレバーで目的の被写体を選べます。

X-H2S XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR(F7.1・1/2,000秒・258.4mm)ISO 400

「これはスゴイな」と思ったのが、モノスゴイ速さで飛び回るツバメを追いかけた時。

X-H2S XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR(F5.6・1/1,600秒・222.5mm)ISO 400

速いだけでなく、急なターンや急降下を繰り返しますが、小さな被写体であるにもかかわらず、シッカリ「鳥」と認識して完璧に捕捉を続けてくれます。正直、X-H1では、高速な被写体に対する追従性がいまひとつでしたが、X-H2Sなら不安や不満を覚えることなく動体撮影ができます。

X-H2S XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR(F7.1・1/1,600秒・300mm)ISO 1600

他の物体が画面に入ってきてもシッカリと「鳥」を追い続ける確かなAF検出性能。さすがに草むらなどが被写体と重なると少し迷うこともありましたが、重なりを抜けると直ぐにAF追尾が復帰したところも素晴らしかったです。

X-H2S XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR(F5.6・1/1,600秒・222.5mm)ISO 3200

シャッター全押しした直前のシーンも記録してくれる、「プリ撮影ES」を搭載しているので、X-H2Sの40コマ/秒と合わせて使えば、難しかった鳥の飛び始めるシーンも比較的簡単に撮れてしまいます。

操作としては、シャッターボタンの半押しで撮影を開始し(この時点では記録はしていない)、そこからシャッターボタンを全押しすると、全押しの瞬間の前と後の撮影を、一定の範囲で記録します。

X-H2S XF70-300mmF4-5.6 R LM OIS WR(F6.4・1/1,600秒・289mm)ISO 800

さらに本格的になった動画撮影機能

X-H2で記録できる動画モードの最大は“6.2K 30p”(4:2:2 10bit。内部記録)です。4K 60Pでの動画撮影記録時間は、別売の「縦位置バッテリーグリップ VG-XH」を装着し、3個のバッテリーを装填した場合、最大で240分となります。

6.2Kというのは視聴サイズとして一般的ではありませんが、4KやFHDサイズの動画に仕上げる前提で、切り出しやズームイン的な編集も可能になるなど、後々の自由度が高まります。
4K 60Pの記録もできます。現状ですと、こちらの方が主流と言えるでしょう。
FUJIFILM X-H2Sの動画サンプル(4K 60P)

240分の長時間記録ともなると、カメラやメモリーカードが発熱してしまい、記録が止まる心配も生じますが(実際、今回の試写でもだいぶカメラがホカホカになりました)、それに対処するために、本体に取り付けられる冷却ファン「FAN-001」も別売で用意されています。

左右のネジ穴が冷却ファン「FAN-001」取り付け用のものです。富士フイルムが動画撮影にホンキを出していることが良く分かりますね。

4K 120P(4×スローモーション動画が撮れます)やFHD 240P(同8×)も撮影可能です。ここでは4K 120Pの4×スローモーション動画を作例として撮影しましたので、参考にしてください。

FUJIFILM X-H2Sの動画サンプル(4K 120pハイスピード動画)
直近ではニコン Z 30が前面にタリーランプを搭載したことで話題になりましたが、X-H2Sにも前面タリーランプがあります。
メニューで設定すれば、「AF補助光ランプ/セルフタイマーランプ」がタリーランプを兼ねるようになるというもので、カメラがこちらを向いていて画面が見えなくても、録画中かそうでないか、あるいは録画が止まっていないかをすぐに確認できます。

その他作例を交えながら

スピード性能に注力していると、ついつい速いシャッタースピードで高いISO感度ばかり使ってしまいますが、もちろん低い感度で撮影した方がより高画質です。ローパスフィルターレスのX-Trans CMOSセンサーだけに非常に解像感が高く、約2,616万画素で画質的には「もうこれ以上望むものはないのでは?」と思えてきます。

X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F5.6・1/280秒・43.2mm)ISO 160

質感描写にも大変素晴らしいものがあります。ここら辺はセンサーやプロセッサーの性能だけでなく、富士フイルムの画作りのうまさが活きているのでしょう。

X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F4・1/105秒・89.6mm)ISO 160

フィルムシミュレーション「クラシッククローム」で撮ってみました。フィルムシミュレーションを使いたいから富士フイルムのカメラを使う、という人も多いのではないでしょうか。これまで発表されたフィルムシミュレーションをすべて搭載しているのもいいところで、選ぶ楽しみが増えます。

X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F5.6・1/70秒・108.9mm)ISO 160

まとめ

前モデルのX-H1から、高速性能と動画撮影機能が大きく進化したX-H2S、個人的にはXシリーズ史上最高峰と言っても差し支えない、大変秀逸なカメラだと感じました。

上面にISO感度ダイヤルとシャッタースピードダイヤルがないのがX-Tシリーズとの大きな違いで、そのため「情緒的に写真を撮る」という、操作性に主眼を置いた満足感では一歩譲ることになるでしょうか? でも、動体撮影や動画撮影といった比較的シビアな撮影では、より現代的なX-H2Sの操作性の方が向いていると思います。

また、ボディのスタイルがスマートなので、単焦点レンズを付けたスナップ撮影やポートレイト撮影などでも、気持ちよく応えてくれます。画素数は約2,616万ですが、ハッキリ言ってこれは十分に高解像と言えます。ブラックアウトフリーの実現やローリングシャッター歪みを抑制した大きなファインダーは、なにも高速連写だけのためのものでなく、普段使いでも最高の心地よさを提供してくれることでしょう。

X-H2S XF18-120mmF4 LM PZ WR(F4・1/140秒・85.4mm)ISO 160

とは言っても、本機の後には兄弟機となる高解像度モデルの登場を控えています。富士フイルムはすでに「高解像40MPセンサー X-Trans CMOS 5 HRを開発中」としています。まずはその“X-H2(仮称)”の登場を待って、じっくり比べてから自分の撮影スタイルにあったモデルを選ぶのが得策と言えそうです。富士フイルム、なかなか楽しみを増やしてくれますね。

曽根原昇

(そねはら のぼる)信州大学大学院修了後に映像制作会社を経てフォトグラファーとして独立。2010年に関東に活動の場を移し雑誌・情報誌などの撮影を中心にカメラ誌等で執筆もしている。写真展に「イスタンブルの壁のなか」(オリンパスギャラリー)など。