新製品レビュー
FUJIFILM X-T3(実写編)
劇的に向上したAF性能 EVFも精細に
2018年10月5日 07:00
富士フイルムの新型APS-Cミラーレスカメラ「X-T3」。撮像素子は、新開発の有効2,610万画素裏面照射型「X-Trans CMOS 4」に刷新された。映像エンジンも4つのCPUを持つ「X-Processor 4」に刷新され、X-T2などに搭載されているX-Processor Proと比べて処理能力は約3倍へと大幅に強化。これらの最新デバイスによって最も恩恵をうけているのがAF性能の向上だ。画面のほぼ100%をカバーする像面位相差AF(X-T2は横50%/縦75%をカバー)と最新アルゴリズムによって特にAF-C性能の進化が著しいというから実写が楽しみだ。
ちなみに、今までX-T2やX-T1では「フラッグシップモデル」としてその存在を強くアピールしていたけれど、X-H1の登場以後「フラッグシップモデル」というアピールを止めている。カメララインナップを確認してみると、Xシリーズは同じ撮像センサーと映像エンジンを搭載することで、シーンに応じたカメラ選びが出来るようになっている。このことから推測するに、製品ラインナップのコンセプトが他社とは全く異なっているので、「フラッグシップ」と謳う必要がなくなり、より自由に自身の写真スタイルや撮影シーンにマッチしたカメラ選びができる製品ラインが構築された、ということなのだろう。
性能がほぼ同等なので、純粋に好みのデザインであったり手に馴染むカメラを選べるというのは新鮮に感じるし、とても興味深い。「デザインやサイズは好きなのに、欲しい性能がない」という思いをしなくても良いというのは、ユーザーフレンドリーな姿勢だろう。
高感度
最高感度の設定はX-T2と変わらないけれど、刷新されたイメージセンサーと映像エンジンの実力は如何ほどのものか、実画像を確認してほしい。
撮影状況にも依るけれど、基本的にはISO 3200は十分に実用的に感じられ、目的によってはISO 6400でも全く問題なさそうだ。が、遠景などシーンによってはISO 1600以上は少々厳しいかもしれない。
普段Xシリーズを愛用する筆者の印象としては、X-H1やX-Pro2などとほぼ同程度の高感度性能という感触。APS-Cフォーマット機としてはかなり優れた高感度画質だと評価していいだろう。
モノクロの場合、フィルムシミュレーション「ACROS」とモノクロはどちらも高感度設定時のノイズ(粒状性)とマッチングが良いので積極的に感度を上げてみるのもまた楽しい。
作例はISO 2000で撮影しているけれど、粒子感が階調を補う効果を発揮するので、より深い表現になっている。
カラーの場合、ISO 1600でも色の表現力は衰えない。フィルムシミュレーション「クラシッククローム」と高感度のマッチングも興味深く、単純に低感度でクリアな表現だけが正道というわけではないのが写真の面白さだろう。デジタルの黎明期は我慢しながら使うことも多かったが、多様な表現の為にいろいろな手段を選択できるのが最新機種の魅力かもしれない。
連写&AF-C
X-T3の連写コマ速はメカシャッターで約11コマ/秒、電子シャッター(フルフレーム)ではブラックアウトフリーで約20コマ/秒という俊足をボディ単体で達成している。もちろんAE/AF追従なので、より難易度の高い撮影をカメラが効果的にフォローしてくれるという魅力がある。
作例ではメカシャッター11コマと電子シャッター20コマとなっている。
繰り返しテストするため、動作の安定した被写体ということで電車を撮影してみたが、AF-Cの性能向上を実感することができた。特に接近してくる被写体についてはハイクラスのAPS-C一眼レフカメラに近い精度でAF追従できそう、という感触が得られた。これならサッカーなどのスポーツでもある程度の歩留まりは期待して良さそうだ。
厳しく評価すると、遠ざかっていく被写体については「あと一歩」という感触。上手く追従できた時は問題ないけれど、追従初期に被写体をロストしてしまった時などは一眼レフカメラの方が復帰が早く、安定している。この辺りは像面位相差AFの宿命で、デフォーカス検知量(ピンぼけの量)が一眼レフカメラよりも構造的に小さいというところが影響していそうだ。像面位相差AFの弱点でもある部分だろう。ただしX-T2などの従来機と比べてみると、明確な進化と改善を実感できることは確かだ。
電子シャッター撮影時で感心したのは、ローリングシャッター歪みが従来機種のおおよそ半分程度まで軽減しているところ。これならかなり実用的な描写だ。
EVFの表示についても改善が感じられた。流し撮りなどでカメラを大きく振った場合などの表示がより光学ファインダーに近づき、撮影が容易になっている。X-T2と比べて最も大きな違いを感じさせる部分だ。これならスポーツシーンでも違和感なく撮影できそうだ。
モノクロ調整
モノクロ調整ではフィルムシミュレーション「ACROS」とモノクロ時に温黒調と冷黒調のシミュレートができる機能だ。
デジタル世代の人には「温黒調・冷黒調」という言葉に馴染みが薄いかもしれないので簡単に説明すると、黒白表現には温黒調・純黒調・冷黒調という3つのスタイルがあり、温かみを感じる黒の表現となるのが温黒調(ウォームトーンとも言う)、青みがかったクールな印象の黒の表現となるのが冷黒調(こちらはクールトーン)。通常のモノクロは純黒調だ。例えば、セピアカラーの写真を思い出してみると、どこか温かみのある印象だと感じないだろうか?
作例を見てみると同じシーンでも黒の色味によって受けるイメージが異なることに気付けるハズだ。それぞれ±9の調整幅があり、最大値では印象の変化が大きい。オススメは3程度でスパイス的に使うのが良さそうだけれど、ときには振り切った設定というのも発見があって面白そうだ。
【2018年10月5日】温黒調・冷黒調の作例写真を追加しました。
X-T3ではこの温黒調・冷黒調の表現を手軽に楽しむことができる。フィルム時代は印画紙と現像液の組み合わせで自分だけの調子を見つける楽しみがあったが、X-T3ではモノクロ調整とハイライト/シャドーの調整、フィルムシミュレーションの3種のフィルターの組み合わせで、自分だけのトーンを作り出すことが可能となっている。黒白写真のファンには嬉しい機能となっている。
カラークローム・エフェクト
カラークロームエフェクトは画面内の彩度の高い部分(赤や黄色など)の色飽和をおさえ深みのある色表現を実現してくれる機能だ。
「色飽和」について簡単に説明するとJPEG画像ではB/G/Rが各色それぞれ256階調(0~255)で再現されているというのはご存知かと思う。このそれぞれのチャンネルの出力が255に達してしまう状況を「飽和」と言い、チャンネルが飽和してしまうとその色の明暗がなくなる、つまりトーンがなくなってベタ塗りの再現になってしまう。真っ赤なバラを撮影してみたら塗り絵みたいな単調な赤になってしまってイメージと違う!という経験をしたことがある人は「あるある!」となるのではないだろうか?
真っ白な画像は各チャンネルが255で飽和していてベタ塗りになっているのだけれど、各色で同じことが起こっていると思えば想像しやすいだろう。彩度を高めたり、彩度の高い部分を持つ被写体ではこの色飽和が起こりやすい。
こういったシーンで威力を発揮するのがカラークロームエフェクトだ。1枚だけ見てもピンと来ないので同じシーンでそれぞれ効果を変化させた作例を確認して欲しい。
並べて見ると花の黄色の表現が「強」ではより深く印象的に再現できていることが分かるハズだ。
作例
筆者お気に入りのフィルムシミュレーションの1つがクラシッククローム。コントラストを高くしても浅くしても、彩度を調整してもそれぞれの表現に面白さがあって、日常の中に隠れている非日常の世界を簡単に見つけることができるのに、それでいて普通の表現(レタッチなどの調整をしていない表現という意味)ができる部分も残されている。
X-T2ユーザーは撮影1回目からAFが良くなっていることを実感できるハズ。というのもAFの転がり始める速度が明らかにワンテンポ早くなっていて、ピント駆動の速度自体もアップしているからだ。X-T1からX-T2への進化時も驚かされたが、X-T2でも十分なAF性能があるのでまさか同じ驚きがX-T3でも体験できるとは思わなかった。
EVFも精細感が向上しているので、作例のようなシーンでも背景にピントが逃げたのか狙ったところに合焦しているのか判別が容易だ。
フジのカメラでモノクロ撮影すると雲の階調が肉眼以上にメリハリよく写るので面白い。撮像センサーのiRカットフィルターの特性で赤の感度が少し伸びているのが主な理由だ。モノクロだとよりその恩恵が分かりやすく見えるし、カラーだとオーロラなどのシーンでより鮮やかな色再現ができる。センサーに届く光の質が違うという意味なので、RAW現像で頑張ってもなかなか富士フイルムのカメラで撮影したようには再現できないシーンがある。
筆者は富士フイルムのカメラを使う時、デフォルト設定では少しメリハリが強すぎるので、フィルムシミュレーション「プロビア」では、いつもハイライトを-1、シャドーを-2の設定で撮影しているけれど、黒猫を撮った時に「あれ?」となった。X-T2世代より少し階調性が良くなって、より立体感が出ている感があり、シャドー設定を-1に再設定した。
建物の存在感を強調したかったのでVelviaを選択してみた。メリハリがあるけれど、記憶色に近い再現なのでやりすぎ感がないのに、確かにVelviaという再現性があるのは本当にスゴイ。ただのビビッドではない表現力がある。
Xシリーズは基本的に隅々までパキッとシャープに写るけれど、嫌な硬さのない自然な解像感が得られるところに魅力を感じる。APS-C専用設計なので、描写クオリティに対してシステムがコンパクトなの良いところだ。
カラークロームエフェクトの効果でよりリアルな再現性が得られた。まるでディスプレイの中に本当に落ち葉があるかのような表現力がある。
筆者はよく地面を俯瞰撮影をするけれど、X-T3では地面との平行性を簡単に維持できるようになった。これはひとえにEVFの表示クオリティが向上していることが効いていて、画面から奥行きをより明確に感じられるようになっているからだ。
小雨の降る中でも安心して撮影できるのはやはりタフなX-T3ならでは。グリップが良くなったことも手伝って、傘を片手に撮影してもブレ難くなっている。AWBの精度も上がって、こういったシーンでも簡単に雰囲気を上手く再現出来るようになった。
こういったダークネスな表現が突出しているのもフジの特徴だろう。少雨や曇天時の夕暮れとクラシッククロームのマッチングは筆者の密かなブーム。撮影時はイメージ通りもしくはそれ以上のイメージが得られるのでニヤニヤしっぱなし。撮影がキモチイイと感じられる瞬間だ。
まとめ
X-T3が達成した進化は全体的な快適性だ。ダイヤル類の操作感の改善やグリップの形状変更は外観上の変更点としては僅かしかないけれど、実際に使ってみると「確かに効いてる」と感じることができる。
かつて筆者が音楽を嗜んでいた時、その先生が教えてくれたのが「曲の中で本当に主張したいことはフォルテではなくピアノの部分にある。なぜなら、心の叫びは絶叫ではなく絞り出すような小さな声にこそ込められるからだ」という話を、X-T3に触れることで思い出すことができた。
分かりやすい主張ではないけれど、変更された細部の数々には開発陣の情熱が込められていることが分かる。
デジタル時代の製品で、その歴史を語ることにどれだけの意味があるのかは分からないけれど、敢えてX-T1に触れてみて、X-T3がどんな進化を遂げたのかを知るというのも一興かもしれない。
話がそれたが、実写シーンでは従来機よりもAF性能とEVFの進化をビビッドに感じることができた。レンスポンス良く撮影したい人にはAF性能がグッと向上したことが感じられ、動体撮影時にはより被写体をファインダーに安定して捉えやすくなった。この点についての進化は劇的で「露骨」と言って良いほどに違う。なので、よりシャッターチャンスに強くなったことが実感できるだろう。
ジックリ腰を据えて撮る人にもEVFの進化でピント確認が楽になっていて、長時間の撮影などでは疲労感低減に効果があると思う。
静止画画質性能の差については、実使用上の差は正直に言って無いというのが筆者の感想だ。X-T2の時点で相当にハイレベルなので、これ以上の進化は現状のセンサー構造では難しいのかもしれない。
ということで、いままでの写真と同等以上のクオリティを、より快適手軽に撮影できるというのがX-T3の価値だろう。
コンパクトとタフネスとパワフルさを兼ね備えたオールラウンダーカメラであるし、卓越した動画性能をも有している。