新製品レビュー
FUJIFILM X-T3(外観・機能編)
イメージセンサーを一新 改良された細部にも注目のミラーレスカメラ
2018年10月3日 10:58
富士フイルムから新しいAPS-Cサイズのミラーレスカメラ「X-T3」が9月20日に発売された。名前からも分かる通り、2016年9月発売の「X-T2」の後継モデル。
富士フイルムのミラーレスカメラには光学ファインダーを有するレンジファインダースタイルのX-Proシリーズ、同じくレンジファインダースタイルでファインダーにEVFを採用するX-Eシリーズなど、いくつかのラインナップがある。本機はセンターファインダースタイルのX-Tシリーズのトップエンドを担う。クラシカルな一眼レフカメラのようなデザインではあるけれど、実はプロの厳しい要求にも堪える、タフネスなオールラウンダーだ。
数値に現れないカメラとしての魅力
新製品と言えば明確に数字として示されるスペック性能の向上に目を向けてしまいがちだけれど、スペック以外の部分にも注目して欲しいと筆者は思っている。
例えばそのカタチだ。外観デザインは2016年発売のX-T2や2014年発売のX-T1を踏襲していて、正直パッと見ではどのモデルかを判別するのが難しいレベル。
だけど、観察してみると軍艦部のアナログダイヤルの形状変更や露出補正ダイヤル位置を微調整し誤操作防止に努めていたり、背面部のボタン類のサイズが大径化するなど、操作性改善のために細部にまで堅実な改良が施されていることが分かる。
実際に操作してみないと分からないことなのだけれど、アナログダイヤル類のガタツキが少なくなったこと、ボディ前後の電子ダイヤルのクリック感が明瞭になったことなど、カメラそのものの造りについてもクオリティがアップしている。操作感が良くなると、例えば手袋装着時などではより自信をもって操作することができそうだ。
同じデザインコンセプトを引き続き採用することで、X-T2やX-T1のユーザーが「X-T3」を導入しても操作に迷うことなく手に持った瞬間から使いこなせるし、従来機のユーザーであればその手に伝わる感触から改良点をしっかりと実感できるだけの大きな進化が体感として認識できるハズ。
そういった手に触れることで感じられる「カメラの道具としての部分」の魅力についてもしっかりと磨かれているところに、Xシリーズユーザーは嬉しく思うだろうし、同時に富士フイルムの開発陣のカメラ作り対する情熱も感じることができると思うので、オーナーとなる人は自身の選択を誇らしく感じられるだろう。
ライバル
原稿執筆次点で、公式オンラインショップでX-T3はボディ単体で約20万円(税込)。レンズキットで約25万円(税込)だ。このお値段だけで判断するなら、ライバルはフルサイズミラーレスカメラだろう。というのも最新のフルサイズミラーレス機のベーシックモデルは概ね25万円前後の価格に設定されているので、少し背伸びをすると最新フルサイズミラーレスに手が届くからだ。なので、予算約25万円でこれからミラーレスカメラを買いたい! という人にはまだ発売前の機種ではあるけれど、キヤノンEOS RとニコンZ 6が、既に発売済みの機種で言えばソニーα7 IIIが魅惑的なライバルとして心を揺さぶることと思われる。
富士フイルムは一貫してAPS-Cフォーマットをベストバランスと考え、性能と画質とサイズを高い次元でバランスさせた「Xシリーズ」を展開しているけれど、コンシューマーサイドとしては、やはりフルサイズ機は気になる存在だ。
単純に撮影性能・機能でのライバルは? というと4K60p対応や4:2:2 10bit記録対応のLUMIX GH5が比較対象になりそうだし、レンズラインナップも充実している。それに、コンパクトなシステムながら強力な動画性能を持っているというのも魅力的だろう。
APS-Cで言えばソニーα6500からも依然目が離せない。撮影性能の高さはもちろん、将来的にはフルサイズへステップアップという魔性性がある。
富士フイルム同士では、ボディ内手ぶれ補正を持つX-H1の存在が悩ましいところ。価格はX-H1が上だけれど、描写性能が自慢のXF単焦点レンズをボディ内手ぶれ補正によって幅広いシーンで手持ちで楽しめるのは魅力的だ。
イメージセンサー/映像エンジン
X-T3ではイメージセンサーと映像エンジンを刷新。Xシリーズ4代目となるAPS-Cフォーマットの有効2,610万画素「X-Trans CMOS 4」を採用し、読み出し速度についても大幅に強化。X-TransCMOSの特徴である独自のカラーフィルター配列とローパスフィルターレス構造は健在。Xシリーズ初となる裏面照射タイプのセンサー構造となったことで、S/N比を悪化させることなく、高い解像性能と高感度性能を両立させているという。
これまでISO 200だった常用最低感度はISO 160となり拡張時ISO 80の設定が可能に。長秒露光時やNDフィルター使用時など撮影範囲が広がっている。上限感度については従来と変わらずISO 12800(拡張時ISO 51200)だ。
映像エンジンは4つのCPUを持つ「X-Processor 4」を搭載。X-T2などに搭載されているX-Processor Proと比べて処理能力はなんと約3倍とのこと。
X-H1で好評だったフィルムシミュレーション「ETERNA」の採用はもちろん、処理能力の向上によって新機能「モノクロ調整」の搭載とGFX 50Sにのみ搭載されていた「カラークロームエフェクト」についてもX-T3は手に入れている。
AF/連写
X-Trans CMOS 4は像面位相差AF性能についてもパワーアップ。像面位相差AFのエリアカバレッジが画面の約100%へと拡大。X-T2では横50%、縦75%というエリアだったことを考えると凄まじい進化だ。
像面位相差画素についてもX-T2などの約4倍に増強することで検出性能などを強化している。像面位相差AFにおける低照度限界は-3EV対応と、これまでより約2段分拡張された。
刷新されたイメージセンサーと映像エンジンの組み合わせ、その他AFアルゴリズムの改善などによってAF/AEのサーチ回数が従来比1.5倍となり、動く顔に対する追従性やAF-C時の動体追従性能についても向上し、AF-C時の瞳AFに対応したことは嬉しいニュース。もちろんAF精度そのものについても高くなっているとのこと。
システム全体でのエネルギー効率についても改善されたようで、これまでバッテリーグリップ装着時のみだったメカシャッターでの約11コマ/秒連写がボディ単体でも可能になっているほか、CIPA基準で約340枚(X-T2)だった標準撮影枚数が約390枚へと伸びている。従来機と同じNP-W126Sというバッテリーを引き続き採用しながら高性能・高機能と省エネを両立させているのはとても素晴らしいことだ。
1.25倍のクロップ(約16.6MP)撮影と電子シャッターという限定的な条件ではあるけれど、AF/AE追従で最速約30コマ/秒のブラックアウトフリー撮影が可能になったというから驚きだ。フルフレームでは約20コマ/秒の電子シャッターでのブラックアウトフリー連写が可能。また、センサーの読み出し性能が高速化したことによって電子シャッター使用時のローリングシャッター歪みがX-T2などの約半分へと低減しているという。
筆者が嬉しく思ったのはメニュー画面にバッファフルまでのおおよその連続記録枚数が表示されるところ。正直に言えばソニー機ほど潤沢なバッファが用意されているというワケではないけれど、必要十分ではあるし、なにより撮影時の目安が分かるというのはとても有り難いことなのだ。
EVF
X-T3のファインダー倍率は0.75倍と、X-T2の0.77倍に比べて僅かに小さくなっているけれど、ひと目で全体を見渡し易くなっており、ドット数を236万ドットから369万ドットへと大幅に増強した高精細なEVFを採用している。これはX-H1のハイクオリティなEVFと同じパフォーマンスで、実際にEVFを覗いてみてもX-T3のEVFの覗き心地は抜群で、とても印象的。X-T2のEVFも十分な覗き心地をもっていたが、これを一度体験してしまうと不満を感じてしまいそうだ。
表示のタイムラグは、今まで通り0.005秒とほぼリアルタイム。フレームレートは「BOOST」モード時100fps(通常時は60fps)と非常に滑らかな表示が可能だ。
EVFの視度調整ダイヤルにはロック機構が採用され、ダイヤルを引っ張り出して回転させる仕組みとなっており、誤操作を防いでくれる。
背面モニター
背面モニターはX-H1と同じ改良が施され、3方向チルトと約104万ドットのタッチパネル式に。開き操作の為にレバーを押し込んでから上方向にスライドさせて開く操作をする方式から、ボタンを押しつつ開く操作をする方式へと変更された。より軽い力で簡単に開く操作ができるようになり使い勝手が大幅に向上している。
その他の新機能
モノクロ調整
フィルムシミュレーション「モノクロ」と「ACROS」選択時に黒白プリント技法の1つである温黒調と冷黒調の表現が可能になった。もちろんEVFや背面モニターを見ながら好みの色調にすることができる。
アナログの時代は、暗室作業で現像液や印画紙の組み合わせの選択、プリント後の調色作業などによって好みの「黒の温度」表現を使い分けていたけれど、デジタルで手軽に再現できるのは嬉しい。フィルムメーカーでもある富士フイルムならではの「わかってるね!」と言いたくなる機能だ。
黒に温度があるということをあまり経験したことの無い人にもぜひ体験して、いろいろな黒白表現があることを楽しんで欲しい。
カラークロームエフェクト
GFX 50Sで初めて搭載されたカラークロームエフェクトが、ついにXシリーズでも楽しめることになった。
カラークロームエフェクトは陰影のある花など、高彩度で階調表現が難しい被写体に対して効果を発揮する機能で、あらゆるシーンで効果的という機能ではないけれど、特定の色に対して濃淡や立体感など、質感を効果的に演出し、色に「深み」というスパイスを加味してくれる機能だ。
4K/60p 10bit記録
動画性能ではAPS-Cフォーマット機初となる4K60p 4:2:2 10bitのHDMI出力に対応したほか、4K/30pまでの動画記録では長辺方向にクロップ無しで撮影できるようになった。他にALL-intra frame記録にも対応。SDカード記録では従来のH.264に加え、さらに圧縮効率の高いH.265も選択可能に。これによって4K/60p 4:2:0 10bit映像をカメラ内SDカードに収録できる。もちろんHDMIとSDカードへの同時出力が可能だ。
10bit記録の効果というのは静止画メインの人にはピンとこないかも知れないけれど、従来の動画記録(8bit)と比べて64倍の色情報を記録することができるので、いままで以上に階調豊かな動画素材を収録することができるということなのだ。
まとめ
X-T2を現在メインで使っている人にとっては、X-T3の数字上の進化度は比較的穏やかなため、「実際問題どうなの?」と考えるかもしれない。加えて外観上の変更は控えめ、というか殆どその違いは分からないので「ちょっと大き目のマイナーチェンジ程度なのでは?」というのがおそらく第一印象ではないだろうか。
でも実際に手で触れ操作してみると、グリップ形状やアナログダイヤルの形状変更などがとても効果的で、いままで以上に手に馴染むと感じられる筈だ。
実際にX-T2ユーザーであった筆者はX-T3に触れてみて、そっくりな外観からは想像も出来ないほど細部に改良が施されていることに驚き「まだこんなに改良できるのか?」と唸らされた。というのもX-T2の完成度が十分に高いと思っていたからだ。
こうした感心はそのまま製品への信頼感につながるし、こうした体験があるとユーザーはそのメーカーのファンで在り続けようと思うものだろう。
デバイスの進化は日進月歩。大きな進化によって出来ることが増えるとこれまでに無かったことを優先的に詰め込みたくなるけれど、筆者は「モノクロ調整」のようにアナログな表現手法にもスポットライトを当て最新技術で再現させてくれる富士フイルムの開発陣が持つエンスージアズム(熱意)に感心してしまう。
カタログスペックなど分かりやすい変化や進化に注目してしまいがちだけれど、実際にユーザーになった時に満足度に貢献するのは、スペックには現れない小さな改良の積み重ねによって得られる「使っていて心地良い」と感じさせる道具としての魅力なのだ、と今回X-T3に触れていて改めて気付かさせられた。
と、ここまではXシリーズユーザーの視点だ。
初めてXシリーズに触れる人にはやはりスペック上での性能の進化というのは大きな訴求点。特にX-T3の動画スペックには目を見張るものがある。
動画メインでいままで活動していた人にはフルサイズだと被写界深度の扱いが難しく、静止画メインで活動していた人が動画に興味を持った場合はマイクロフォーサーズではちょっと物足りない部分がある、と筆者は考えているけれど、その点でAPS-Cというちょうど良いセンサーサイズに高い動画性能を期待するニーズは比較的多いと思う。
静止画メインのユーザーにしてもコンパクトなボディにここまでのパワーを詰め込んだカメラというのはやはり魅力的だろうし、他のミラーレス機にあった機能は殆ど全て詰め込まれているという全部盛り感もある。
約20万円というボディ価格は実際問題として高価ではあるけれど、内容を精査すると妥当な線だと納得できるのではないだろうか?