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キヤノンプラットフォーム開発本部画像技術開発センター部長の蒔田剛氏
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キヤノンは28日、都内で「色の不思議とカラーマネジメント技術」と題したマスコミ向けセミナーを開催した。同セミナーは出版社などを対象に、同社の技術などをキヤノンの担当者が解説するもの。これまでに、デジタルカメラやプリンタなどについてのセミナーを行なっている。
セミナーでは、同社プラットフォーム開発本部画像技術開発センター部長の蒔田剛氏が説明を行なった。
セミナーの前半は、カラーマネジメントの基礎知識として、色の見え方などについて解説した。人間の視覚特性として、背景色が変わった場合、同じ色を表示しても異なって見える現象を示し、カラーマネジメントを、「人間の視覚特性をキャンセルし、同じ色に見えるように補正すること」と述べた。
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中央の四角は左右同じ色だが、背景の色が異なると、人間は違う色として知覚する
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女性の顔色は、実際には黒丸の一にあるが、記憶色ではより明るい方向にある
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同社が考えるカラーマネジメントシステムとして、デジタルデータの流れ、デジタルフォトやオフィスカラーなどの対象市場、人物・風景・グラフィックスなどの各出力対象を考慮したカラーマッチングを提示した。具体的なカラーマッチングの方向性については、写真調、色差最小、グラフィックスの3つを挙げた。
写真調は階調性を重視した好ましい色再現を、色差最小はオリジナルに最も近い色再現を、グラフィックスは鮮やかな色再現を、目指している。蒔田氏は、中でも階調を重視する写真のカラーマッチングが一番難しいとした。また、写真調の「好ましい色再現」とは記憶色を考慮した色再現であるといい、特に肌色などの再現では重要になるという。
■ 進化したカラー製品を最大限に活かす「Kyuanos」
カラー製品の大きな進化を受けて、同社が開発したカラーマネジメントシステムが、入力から出力まで、異なる機器の色統一を実現する画像処理技術「Kyuanos」(キュアノス)だ。Kyuanosは、同社の大判プリンタ「imagePROGRAF iPF6100」と「同iPF5100」で採用している。ちなみにKyuanosとは、ギリシャ語で瑠璃を表す“Kyuanos”からイメージした同社の造語。
Kyuanos開発の背景には、カラー機器の大きな進化があったとしている。デジタルカメラやプリンタなど入出力機器の色域拡大や、色域再現の異なる機器の組み合わせの急増などにより、トータルの色再現がコントロールしにくい問題があったという。また、観察環境の多様化により、照明の違いなどによる見え方の違いに対して適応的な色変換の必要性もあった。
Kyuanosは、Adobe RGBなどの拡張色空間への対応、線形性の高い色空間を利用したカラーマッチング技術、照明など環境高の違いを考慮したカラーマッチング技術の3つからなる。
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カラーマッチング無しでプリントした場合、色が大きく異なってしまう
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視覚等色相ライン(黒い線)に沿って変換すると、ほとんど色味の変化無くプリントできる
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カラーマッチングでは、人間の絶対感覚の弱い、色相、明度、彩度の順に変化させるのが原則。目は特に色相に関して、敏感であるため正確に変化させる必要があるという。その際、色空間を変換する指標になるのが「視覚等色相ライン」と呼ばれる色空間上の線。視覚等色相ラインの上では赤色は赤として知覚できるため、このラインに沿って色空間を変換すると、色ずれなどが少なくて済む。
しかし、従来採用していた色空間「CIELAB」では、視覚等色相ラインが直線にならないために色味の不一致が起きており、補正が容易では無かった。一方、Kyuanosでは「CIECAM02」と呼ばれる色空間を採用。視覚等色相ラインがほぼ直線になるため、色変換が容易な上、精度も向上している。
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カラーマッチングの原理
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CIELAB(左)とCIECAM02の視覚等色相ラインの違い
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KyuanosではΔE(色味の違い)=1をめざしている。ΔE=3は数年前に目指したレベル
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Kyuanosの概要
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Kyuanosでは、CIECAM02の採用で、色味の一致を実現している
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iPF6100とiPF5100に搭載した環境光補正機能
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環境光に対しては、従来の印刷物は、昼光といった標準光源の下で見た場合のみ色の正確さを保証していたが、Kyuanosでは、色の数値化や心理的な色知覚の関連づけを行なった上で、異なる照明の環境下において、入力、表示、出力の各機器間で色再現をコントロールすることで、様々な環境光に対応できる。同氏は例を挙げ、オフィスと展示会場でのプリントの色の違いを無くすことができるとした。従来は、試行錯誤によって色を合わせるしか無かったという。
なお蒔田氏は、Kyuanosのコンシューマー向けプリンタへの搭載は、現時点では未定としながらも、将来的には組み込む考えがあることを明らかにした。
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片方は本物、もう片方はKyuanosを用いてiPF6100でプリントしたもの
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左側がプリントだが、近づかないと区別が付かないほど
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環境光補正のサンプル。左のボックスは昼光、右は白熱電球。右のボックスの右側の写真は左のボックスと同じ色でプリントしたもの。一方、Kyuanosで補正した写真(右ボックスの左側)は昼光の色味に近くなっている
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左はオリジナル。右は、白熱電球用にKyuanosが補正したもの。同一光源で見るとかなり補正をしているのがわかる
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■ URL
キヤノン
http://canon.jp/
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( 本誌:武石 修 )
2007/11/28 17:44
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