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キヤノン、レンズ技術のマスコミ向けセミナーを開催

~非球面レンズや回折素子などを解説

 キヤノンは15日、都内で報道関係者向けにレンズ技術に関するセミナーを開催した。同社はこれまでに、CCDセンサー、映像エンジン、プリンタのセミナーを開催しており、4回目となる今回のセミナーでは、光学技術を中心に非球面レンズや回折光学素子などの説明を行なった。

 講師は同社光学技術統括開発センター部長の小山剛史氏。同氏はデジタルカメラ、デジタルビデオカメラなどのレンズ技術の取りまとめに携わっている。


セミナー会場 小山剛史氏

 同氏はまず、レンズ開発への取り組みについて語った。

 同社の写真用カメラ、デジタルビデオカメラ、プロジェクター、イメージスキャナ、双眼鏡などで使用しているレンズの開発を宇都宮にあるレンズ開発センターに集約。設計、生産のノウハウを共有することで高度なレンズ開発を可能にしていると述べた。

 それを裏付けるように、ズームレンズの光学系に関わる日本での登録特許数では同社が全体の3割強を占め1位、米国の同特許件数でも全体の2割近くを占め1位となっている。


開発センターに開発資源を集中 同社が取得している特許件数

 また、同社では製造が難しい非球面レンズを自社で生産するなど、徹底して自社生産にこだわり、レンズの品質向上に努めているという。レンズ設計に欠かせないソフトウェアも自社開発だと語った。


デジタルカメラ用レンズには極めて高い精度が要求される

 次に、高画質のための技術について説明があった。

 従来、球面レンズでは球面収差が発生し、シャープさを損なう原因になっていた。この球面収差を低減する非球面レンズは、実用になるものとしては同社が世界に先駆けて開発した。

 現在多くの写真用レンズに欠かすことのできない非球面レンズは、製造法によりいくつかの種類があるが、同社では品質が良く量産性に優れるガラスモールド非球面レンズを主に採用しているという。これは、プラスチックモールド非球面レンズやレプリカ(複合)非球面レンズに比べて、光学性能がよいだけでなく、温度などの耐環境性に優れているためだ。


球面レンズでは球面収差により画質が低下する 非球面レンズにすることで光を1点に集めることができる

 非球面レンズを採用することは、画質のみならずレンズ全体を小型化する上でも有効な技術であるという。すべてのレンズを球面レンズで構成した場合には特に第1群が大きくなりすぎてしまう。非球面レンズを採用することで、長さ方向に加えて直径も小さくできるとした。


初代IXY DIGITALのレンズ構成。赤色の部分が非球面部分 第1群の拡大図。すべて球面レンズで構成するとかなり大きくなる

 同社では、それまで最も多く使用していたガラスモールド非球面レンズに比べ、大幅に屈折率を上げた「高屈折率ガラスモールド非球面レンズ」を開発。2000年に発売した初代IXY DIGITALで採用した。さらに、より高い屈折率を実現したのが「超高屈折率ガラスモールド非球面レンズ」(UAレンズ)で、2004年発売の「PowerShot S60」、「IXY DIGITAL 50/40」で採用した。これにより、PowerShot S60では広角化を実現。また、IXY DIGITALではレンズユニットのサイズが1円玉サイズからユーロセントサイズ(IXY DIGITAL 50/40/L3)に小型化された。


上に行くほど屈折率が上がる 高屈折率レンズの開発で、レンズユニットの小型化が可能に

 また、キヤノンは世界で初めて蛍石を採用した写真用レンズを商品化した。蛍石を使用したレンズでは、赤色側の収差を特に良好に補正することができ、レンズの高画質化に貢献している。現在民生品で蛍石を使用しているのは同社のみだという。


光の波長の違いから発生する色収差 蛍石の使用で、色収差の低減が可能

左が天然蛍石。円柱状のものがレンズのもとになる人工結晶蛍石

 そして、望遠レンズの高画質化と小型化を実現する「積層回折光学素子(DO)レンズ」について述べた。

 2000年に開発した回折光学素子は、光を屈折ではなく回折現象によって曲げるレンズで、色収差の出方が通常の屈折レンズと逆になるのが特徴。そのため屈折レンズと回折光学素子を組み合わせることで互いの色収差を相殺し、強力な色消し効果を発揮するという。さらに、回折光学素子の格子ピッチを不等間隔に制御することで、非球面効果も得られる。さらに、同じ仕様のレンズでも従来に比べて大幅な小型化と軽量化が可能とした。


屈折レンズと回折光学素子では、色収差の出方が逆になる 回折光学素子の非球面効果により色収差を低減

従来の400mm F4レンズと回折光学素子を使用した同仕様のレンズの違い ほぼ同じ光学仕様のレンズでも回折光学素子を使用することでコンパクトになる

 レンズのコーティングについての説明では、コーティングによって光の反射を抑え、透過率を上げることが大きな役割だと述べた。さらにカラーバランスの調整、キズ・ヤケなどからのレンズの保護、外観品位の向上にもコーティングが役立っているとした。同社のレンズでは独自の多層コーティングを施している。


 手ブレ補正の解説で同氏は、「一見ピンボケと思われる写真も、実は手ぶれである割合が多い」とし、撮影時における手ブレ補正機構の有用性を述べた。

 同社では1969年頃から防振技術の開発を始め、1987年にレンズシフト式の防振レンズの動作モデルを公開した。その後、1992年にはソニーとの共同開発で手ブレ補正機構搭載のビデオカメラを発売した。同氏によると、レンズ防振の特許数もキヤノンがもっとも多い。


光学式手ブレ補正には2つの方式がある。 レンズシフト式手ブレ補正の原理

 同社の手ぶれ補正方式にはレンズシフト式と可変頂角プリズム(VAP)式があり、会場では普段見ることができない可変頂角プリズムユニットを実際に動作させるデモを行った。


可変頂角プリズムユニット 自由に幅を変えることができる


URL
  キヤノン
  http://canon.jp/


( 本誌:武石 修 )
2006/06/15 22:19
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