Canon EFレンズ 写真家インタビュー

いままでにない画角で、見たままの海の世界を表現できる

水中写真:鍵井靖章 with EF11-24mm F4L USM

海中の広がりを見た目以上に写し取れる。手前にクマノミ、奥にマンタを配置した。透明度にも左右されるが、奥のマンタや 背景の描写力にも納得の1枚だ。
キヤノン EOS 5D Mark III / EF11-24mm F4L USM / 11mm / マニュアル露出(F10、1/30秒) / ISO 400
最広角の11mmで撮影。広がりのある大きな被写体に接近することで、ストロボ光を十分に魚に当てることができた。キンギョハナダイの群れを花吹雪のように表現した。
キヤノン EOS 5D Mark III / EF11-24mm F4L USM / 11mm / マニュアル露出(F11、1/60秒) / ISO 400
11mmを使うことで海の中のさまざまな情報を入れることができた。生き物の種類や生息環境、透明度、水面までの距離などが分かる。
キヤノン EOS 5D Mark III / EF11-24mm F4L USM / 11mm / マニュアル露出(F11、1/125秒) / ISO 400
魚群の濃いモルディブならではの光景。リーフに群れるヨスジフエダイと中層を泳ぐクマザサハナムロが混じり合う。11mmの広い画角が、生き物たちの行く方向に空間を与えてくれる。
キヤノン EOS 5D Mark III / EF11-24mm F4L USM / 11mm / マニュアル露出(F10、1/125秒) / ISO 400
モルディブの海の名物のひとつ、マダラトビエイの群れ。潮流に乗って静かに泳ぐ姿は美しい。以前は苦手だった太陽光の青いグラデーションが、白トビせずに見事な諧調で、表現されている
キヤノン EOS 5D Mark III / EF11-24mm F4L USM / 11mm / マニュアル露出(F9、1/40秒) / ISO 400

さまざまな撮影ジャンルのプロ写真家にインタビューする本連載「Canon EFレンズ 写真家インタビュー」。EFレンズを手にしたプロが見せる渾身の作品とその撮影ジャンルの魅力、EFレンズがもたらす世界についてお伝えしている。

今回ご登場いただくのは、水中写真家の鍵井靖章さん。他に類を見ない広い画角を持つ超広角ズームレンズ「EF11-24mm F4L USM」をモルディブに持参してもらい、撮影をお願いした。果たして鍵井さんは、このレンズにどのような感想をいだいたのだろうか。

作品・キャプション:鍵井靖章
聞き手:笠井里香

EF11-24mm F4L USM

始まりは偶然出くわした写真展から

−−水中写真を始めたきっかけを教えて下さい。

カメラを持ってパチパチ写す程度のことはしていましたが、本格的に写真を生業とするきっかけになったのは、大学生のときに阪急百貨店で観た、伊藤勝敏氏の写真展です。

偶然観たんですがその写真にとても感動して、しかも一緒に行った友人がたまたま伊藤勝敏氏の近所にお住まいでした。そこですぐに連絡をとり、弟子入りをお願いしたのです。最初はもちろん断られたんですが、何度もトライしているうちに、弟子入りさせていただきました。

鍵井靖章さん。1971年、兵庫県生まれ。大学在学中に水中写真家・伊藤勝敏氏に師事する。1993年よりオーストラリア、伊豆、モルディブに拠点を移し、水中撮影に励む。1998年に帰国。フリーランスフォトグラファーとして独立。自然のリズムに寄り添い、生き物にできるだけストレスを与えないような撮影スタイルを心がける。約20年間、海の生き物に、出会い、ふられ、恋して、無視され、繋がり、勇気をもらい、そして子育ての方法などを教えてもらいながら、撮影を続けている。3.11以降は、岩手県の海を定期的に記録している。2013年、クレ・エ・フォト代表

水中写真を撮るために必須なのは、ダイビングのスキルです。アシスタントをするにも、海に入れないことには仕事になりません。和歌山県の串本町で、まずはダイビングのライセンスを取りました。以来、2年間アシスタントとして経験を積みました。

−−通常、使用されている撮影機材について教えて下さい。

EOS 5D MarkVとEF16-35mm F4L IS USM、EF17-40mm F4L USM、EF15mm F2.8フィッシュアイ、EF100mm F2.8Lマクロ IS USMを使っています。

これらの機材は、水中での撮影になりますので、ハウジングをつけて使うんですが基本的に陸上で使うのと同じように操作できるようになっています。また、ストロボをカメラ1台に対して2灯つけています。

−−撮影時に主に使用するカメラの設定を教えて下さい。

撮影モードはマニュアル露出です。ISO感度はワイドレンズなら基本的にISO 400固定ですね。絞りはF11でシャッタースピードで露出を調整します。

ピントはAFをメインに使用しています。ピクチャースタイルは風景、ホワイトバランスはオートです。RAW+JPEGで撮影しています。水中では、動きを止めて撮る場合にはストロボを使用するので、連写は基本的に使いません。

今回使用した愛用の水中ハウジングは、シーアンドシー製のMDX-5D MarkV。11-24mmレンズ専用のドームポートシステム。ストロボはINON Z-240 Type4を2灯使用した。

魚眼レンズとは一味違う、超広角11mmの表現力

−−今回、EF11-24mm F4L USMを使用して撮影してみていかがでしたか?

水中の写真というと、魚眼レンズのイメージがある方も多いと思いますし、僕も必要に応じて魚眼レンズを使って撮影することがあります。

ただ、魚眼レンズというのは、独特のパースでぐるっと周囲を収めてくれますし、強烈なデフォルメ効果もあって、“上手く写ってしまう”ところがあるんですよね。最短撮影距離も短いですから、かなり寄ることもできますしね。だから、多くの水中写真家が好みます。

そういうこともあって、魚眼レンズでの撮影をメインとすることはやめ、これまでも広角ズームを使った撮影をしてきました。レンズを変えることで自分自身の視点も変わり、新しい自分のスタイルも生まれると思いますね。

そしてこのEF11-24mm F4L USMです。水中に入る前、部屋のなかでファインダーを覗いてみたんですが、確かに一歩画角が広がった感じがありました。でもそれ以上の感想は特にありませんでした。

ですが海で撮影してみたところ、これまで以上に広大な海の世界を、歪みなく自然に撮れたのです。魚眼レンズでは得られないリアリティを収められることに気づきました。これまで撮ったすべての写真をこのレンズで撮り直したい!と思うほど素晴らしかったんです。

岩肌にはソフトコーラルと呼ばれるカラフルな柔らかいサンゴが群棲し、多種多様の生き物が同じエリアに暮らす。実際に目にする景色の広さと生き物たちの距離感で撮影した。
キヤノン EOS 5D Mark III/ EF11-24mm F4L USM /11mm / マニュアル露出(F11、1/100秒) / ISO 400

−−描写面について、よかった点を詳しく教えて下さい。

まず、いつもよりシャープに写っているんです。見た目通りに写っている、というのが感想です。海という広大な場所の一部分を切り取るわけですが、このレンズを使うことで海のスケールに合わせた生き物のドラマを写し取れます。大きな生物を撮影したときも、その周りを入れられる。ピントを合わせた中央の被写体以外の部分にあるドラマも、しっかりとファインダー内にあるんです。

海のなかでは、機材はハウジングに収まっていますし、水というフィルターが常にある状態での撮影になります。そういった状況のなかでは、見える範囲が非常に限られていて、陸に対する憧れというのが少なからずあります。

でも、EF11-24mm F4L USMを使うと、陸での写真のように、パースペクティブを生かした奥行き感のある写真を撮ることができます。もちろん、水の透明度など撮影に影響することはいろいろありますが、離れたところにいる生き物までしっかりと写し込むことができる。まるで陸での風景写真のようにです。生き物の存在感、海の持っている雄大さが素直に出せるレンズだと思いました。

また、最短撮影距離も短いので(編集部注:24mm時に0.28m)、メインの被写体をよりクリアに写すことができます。ワイドマクロ的な使い方もでき、生き物に近づいて写しながら、その環境も撮ることができます。

水中での撮影では、陸の方を見上げるような形で撮ることも多く、逆光になる場合が多くあります。EF11-24mm F4L USMではフレアやゴーストも気にせず撮ることができます。しかも、光源の白から海の青へのグラデーションの階調がとても豊かに写るんです。

これまで季節ごとにルーティンで撮影してきた海を、EF11-24mm F4L USMなら新たに見直せるのではないかと感じました。見慣れた景色を、このレンズでまた撮りたい、これからの撮影がとても楽しみになるレンズですね。

獰猛なカスミアジに追いかけれ、海中を猛スピードで泳ぐクマザサハナムロの群れ。無音の海中に、ザッー!と魚群が動く瞬間を捉えた。
キヤノン EOS 5D Mark III/ EF11-24mm F4L USM /11mm / マニュアル露出(F11、1/100秒) / ISO 400

海の世界は陸上とは別世界

−−海に生きる生物を撮るためには、やはり生態にはある程度の知識が必要ですか?

もちろん、何も知らないよりも知っていた方がいいこともあります。でも、海のなかにある景色を、素直に美しいと感じたまま撮るのも大切です。

また、海での撮影では、海の生き物たちへの配慮が必要ですし、危険を回避するという意味でも、潮の流れを読むこと、また、ダイビング技術の上達が重要になってきますね。

水の層が撮影の障害になるので、できる限り被写体に寄って撮るというのが鉄則なのですが、これが意外と難しいんです。ダイビングだけで生き物に寄っていくことができても、カメラを持つと思ったほどには寄れないことも多く、僕も20年の経験でようやくいい間合いで撮れるようになりましたから。

2011年の震災後から、東北の海の撮影をしているんですが、これまで以上に生き物に対する配慮は自分のなかで大きくなったなと思っています。

それまでは色鮮やかでファンタジックな南の海を撮影してきて、いつも夢のなかにいるような感じでした。ですが、東北の海の現実を撮ることによって、夢のなかにいた自分と社会が繋がったという実感があります。

水面下の世界には、いろんな生き物がいます。マンタやジンベイザメ、特に僕の好きなアジアの海には色とりどりの魚たちがたくさんいます。暖かい海は魚の種類も豊富なんです。

陸で見る世界とはまったく違って、別世界に見えます。だから、きれいだなということを素直に受け入れることができて、楽しいんです。

コンパクトカメラでも、APS-C機のEOS Kissシリーズなどでも十分に楽しむことができますし、海の生き物たちへの配慮を忘れずに、素直な気持ちで撮る、それだけでも十分だと思いますね。

月刊誌「デジタルカメラマガジン」でも連動企画「Canon EF LENS 写真家7人のSEVEN SENSES」が連載中です。今回紹介した鍵井靖章さんをはじめ、EFレンズを知り尽くした写真家によるレンズテクニックが収録されています。

笠井里香

出版社の編集者として、メカニカルカメラのムック編集、ライティング、『旅するカメラ(渡部さとる)』、『旅、ときどきライカ(稲垣徳文)』など、多数の書籍編集に携わる。2008年、出産と同時に独立。現在は、カメラ関連の雑誌、書籍、ウェブサイトを中心に編集、ライティング、撮影を務める。渡部さとる氏のworkshop2B/42期、平間至氏のフォトスタンダード/1期に参加。