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キヤノン、製品デザインのマスコミ向けセミナーを開催
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~カメラらしさを追求し質感にこだわる
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キヤノンは14日、都内で「キヤノンの製品と一体化したデザイン戦略 3感を刺激するデザイン」と題したマスコミ向けのデジタルカメラとプリンタのデザインに関するセミナーを開催した。
今回で5回目となる同セミナーは、出版社などを対象に同社の技術などを解説するもの。これまでに、CMOSセンサー、画像処理エンジン、プリンタ、レンズのセミナーを行なっている。
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会場の様子
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佐野博氏
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デザイン部門とその他の部門との関わり
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セミナーでは、同社総合デザインセンター コンシューマ商品デザイン部の佐野博部長が講師を務め、「3感」(視覚、触覚、聴覚)とデザインの関係について説明した。
総合デザインセンターは、同社の社長直轄の組織で、同氏が所属するコンシューマ商品デザイン部のほか、産業系機器などのデザインを手がけるビジネスデザイン部、UI(ユーザーインターフェイス)の研究開発や評価を行なうヒューマンインターフェイスデザイン部、商品のパッケージなどをデザインするビジュアルデザイン部などからなる。デザインセンターは、設計部門などよりも先に、企画部門に次いで初期から製品開発に関わっている。
■ 視覚デザイン
佐野氏は、プロダクトデザインについて、「フォルムが重要。形にスポットライトを当てるものだ」とし、カメラの形が持つ意味について言及。カメラには「カメラらしさ」が重要だと強調した。カメラには崩すことのできない独特の構造があり、多くの人はそのイメージが刷り込まれている。例えば、コンパクトカメラなら四角い箱の中央にレンズがあり、上部にシャッターボタンがあるといったイメージは万人に共通であり、単純に記号的な物でカメラを表すことができるとした。
その上で、「人間はイメージから外れた製品には違和感を感じるもの」とし、「過去には、一般的なカメラのイメージから離れた斬新なデザインの製品もあり、また、試作段階では変わったデザインのモックアップなども数多く製作されるが、そうしたデザインは一時話題にはなっても、カメラのメインストリームになることは難しい」と述べた。
「人が物を買うときに、『こういう物が欲しい』という無意識のイメージがあるはずで、それを具現化したい」とし、「まずは、カメラらしい『これだ』といえる形。そして、製品ラインナップの中で『プロ機らしい』や『コンパクトカメラらしい』といった感覚を、顧客が直感的に理解でき、説明を必要としないデザインを目指す」(同氏)
さらに、「IXY DIGITAL L2」のスターガーネットを採り上げ、デザイナーが要求する深い色合いと光沢をを実現するために8工程に及ぶ加工が施された点について「画期的なこと」とした。これは、女性デザイナーが女性にパッと手にとってもらえるキャラクターを考え、アプローチした結果よいデザインが生まれたと説明した。
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IXY DIGITAL L2の外装製造工程
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「人が物を買うときに、『こういう物が欲しい』という無意識のイメージがあるはずで、それを具現化したい」とし、「まずは、カメラらしい『これだ』といえる形。そして、製品ラインナップの中で『プロ機らしい』や『コンパクトカメラらしい』といった感覚を、顧客が直感的に理解でき、説明を必要としないデザインを目指す」(同氏)
また、プリンタのデザインについては、「直接手に持って使用するカメラと違い、ブラックボックス化したプリンタにはこれといったデザインのよりどころがなく、カメラのデザインとは別の難しさがある」と述べた。
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インクジェットプリンタの歴史
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同社では1985年からインクジェットプリンタを生産しているが、2002年頃からデザイン面でもユーザーを引きつけたいという戦略からデザイン重視の外観を追求したという。
プリンタのデザインに関しても、やはり「らしさ」を求めたが、当初はなかなかプリンタらしい形を作り出すことができなかったという。そうした中、「『プリンタは部屋に置かれるもの』という前提からデザインを引き出していった」と述べた。
2000年の調査では、PCの横にプリンタを置く人は全体の26%にとどまり、PCラックの上やPCとは別の机などに置いている利用者も多く、「ユーザーの理想の場所に置けない」や「使用しないときに邪魔になる」といった不満点があった。同氏は、当時のプリンタを「部屋に置きたいとは思えない、あるいは置きたくないデザインだった」とし、その後、「コンパクトで非使用時にも美しいスタイル」としてキュービックスタイルの考案に至り、2004年に発売した「スーパーフォトボックス」シリーズに繋がったという。
■ 触覚デザイン
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グリップの変遷
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同社のデザインの一番根底に流れているのが「人に優しい」という考え方。佐野氏によると、この言葉は同社が最初に使い始めたという。これは、特にカメラという製品にとって生命線ともいえる重要な機能。加えて、使いやすくて美しいことが求められるとした。また、カメラ以外にもプリンタなどのデザインでも活かされているという。
「人に優しい」の具体例として、同社の歴代一眼レフカメラのグリップの変化を挙げた。1971年に発売した「F-1」はグリップ無しのカメラだったが、ボディ前面のセルフタイマーボタンに指を掛けてカメラをホールディングしている人を発見。それをヒントに1976年発売の「AE-1」では、初めて小さな指掛かりをボディに設けた。これをスタートに次々とグリップを改良。モックアップによる使いやすさの追求などを行なった。同氏は、「1986年の『T90』でグリップ形状はひとまず完成を見た」とした。
手触りもカメラのキャラクターに大きく影響するファクターであるとし、例えば「ザラッとした感触が高級感に繋がる」ということなどから、手触りは入念に検討している。さらに、見た目と手に取った感じがスムーズに一致するとユーザーの満足度は高くなるため、この2つの融合を目指したデザインを心がけていると語った。
また、同社製コンパクトカメラの外装素材の変遷について触れた。同社がカメラを作り始めた1930年代から1960年代まではほとんど金属外装だったが、1970年代からはエンジニアリングプラスチックの技術向上で一気に外装のプラスチック化が進んだ。しかし、質感の低下が問題となり外装素材の見直しが迫られ、90年代に再び金属外装のカメラを発売することになった。プラスチック化の反省から、その後は「質感、触感を重視した外装にしている」と説明した。
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コンパクトカメラの歴史。赤丸は金属外装の機種
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1990年頃から金属外装採用機種が増加。点線から下側がデジタルカメラ
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■ 聴覚デザイン
カメラらしさの一つとして、カメラのシャッター音にも刷り込まれたイメージがあり、「電子音では、シャッターを切った気にならない」という意見もあったという。そこで、同社の一眼レフカメラのシャッター音をサンプリングして研究している。
聴覚デザインに関しては、その重要性を認識しているが、まだ試行錯誤の段階という。音に関するフィードバックを受けて検討を進めており、「今後様々な試みを通じてノウハウを蓄積していきたい」とした。
■ 造形技術
デザインの作業プロセスでは、スケッチなどの初期段階からコンピュータによる3D設計が行なえるようになり、従来必要としていた2Dの仮図面や木製のモックアップ作成が不要になった。木製モックアップは作成に時間がかかる上、削る人の技術で差が出てしまう。現在は、3Dデータを活かしたRPT(ラピッドプロトタイプ)により、一晩でモックアップができあがるという。これにより、設計検討の速度、精度が大きくアップした。デジタル一眼レフカメラなど、検討項目が多い製品では、デザイナーと設計者がエンジニアリングCADを使用してシームレスな検討作業が可能になっている。
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造形プロセスの変化
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イメージスケッチとモックアップ
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バルサ材によるモックアップ
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RTPで製作したモックアップ。細部も作り込まれている
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一方、コンパクトデジタルカメラの3Dデータ作成では、デザイナーが、製品の検討時から造形の検討を行なうという。「IXY DIGITAL 600」では、コンピュータ上でチューブ状の素材を変形させてカメラボディをデザインする「カーバチャーデザイン」という手法が開発され、以降のデザインにも活用されている。モックアップは最近では作られることはほとんど無くなったが、3Dデータでの作り込みは、モックアップと同じ職人気質で行なわれ、細部の曲線やボタンに至るまでデータの段階で十分に作り込むという。
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デジタル一眼レフカメラの3Dデータモデル
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曲面のつながりはゼブラパターンを用いて確かめる
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デジタル化により、様々なシミュレーションが行なえるようになった
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デザイン作業がデジタル化されたことでの大きな恩恵が「シミュレーション」だという。これにより、カメラや複写機などの操作性検討をコンピュータ上で再現することができるようになった。
また、「IXY DIGITAL 1000」に採用されているチタン外装は、成形が非常に難しく、「型やプレス圧の調整、プレス時のオイルの粘土など試行錯誤を繰り返して実現できた」と生産技術に対するこだわりも述べた。
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IXY DIGITAL 1000のチタン外装
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PowerShot G7のデザインコンセプト
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「PowerShot G7」のデザインコンセプトの説明では、今までのGシリーズとは少し違うデザインを採用。「ゆるきり」という同社の造語をつかってG7のコンセプトを設計部門などに伝えたという。ゆるきりとは、「大人のためのデジタルカメラでありながら、あまりがっちりとしたマニアック性ではなくどこかゆるいところがある感じ」を表現したもの。関係者がこのキーワードを共有したことで、比較的スムーズな開発が実現できたという。
「IXY DIGITAL 80」は、「切り詰めたミニマム性。ムダをそぎ落としたもの」として刀をデザインに取り入れたと紹介。刀に見られる模様をイメージした「鎬」(しのぎ)や「巴」(ともえ)模様など日本古来のデザインを取り入れた。このデザインを実現するために、金型も特別に工夫したという。佐野氏は、シャープさを強調したデザインは、特に日本人には受け入れられるのではないか」とし、「このあたりがキヤノンのこだわり」と語った。
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IXY DIGITAL 80のデザインコンセプト
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同社のコンパクトデジタルカメラが展示された
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デザイナーによるIXY DIGITAL L4のスケッチ。右は実物
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一眼レフのスケッチ
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■ UI(ユーザーインターフェース)デザイン
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プリンタの液晶モニター表示の変遷
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佐野氏は、あくまで個人的なイメージとした上で、「ニコンはタフ・道具感、ソニーはスポーティ」と印象を語った。対して同社のカメラデザインは「フォーマル感ではないか」とし、「その中にも少しのキザさがあり、どんなにカジュアルな物を作っても、完全にラフな感じにはならない」と語り、 他社の製品の中に同社製品を混ぜてみると違和感が生まれることから、「製品に共通したキヤノンの独自性がある」とした。
UIの具体的な説明では、プリンタの液晶モニターを例に挙げた。2002年頃はモノクロのドットマトリクス液晶だったものが、2005年にカラー液晶となり、2006年にはホイール操作でアイコンが動く「アニメーション」表示へと進化した。
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イージースクロールホイールのモックアップ
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同ホイールを搭載したMP600
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同氏は、こうしたUIの変化を後押ししている大きな要因が携帯電話であるとした。「携帯電話は、最先端のグラフィックやUIを搭載しているが、一般の人はどうしても携帯電話を基準にしてしまう」と述べ、「携帯電話の感覚を取り入れないと、魅力的な製品は作れない」と語った。
液晶モニターのUIデザインは、シナリオと呼ばれるデザイナーのスケッチから始まる。それをもとにアイコンを作り、グラフィックのアニメーションなど画面の動きなども含めて検討する。これまではできあがった画面をコンピュータディスプレイに表示して検討していたが、現在は実物と同じ液晶モニターと操作部を再現した「ワーキングプロトタイプ」を製作して検証をしている。
さらに、ワーキングプロトタイプを使用した操作性テストでは、一般の人に実際に操作してもらい、問題点を洗い出すという。また、完成品であれば、自社の製品と他社の製品を操作してもらい比較なども行なう。
佐野氏は「使いやすいのは当たり前で、これからは、心地よさを追求しなければならない」と述べた。今後は、情緒に訴えかけるような「エモーショナルUI」を実現していきたいとした。現段階では、グラフィカルな表示のアニメーション時計や、カメラを振ると液晶の色が変わるといったギミックを考えているそうだ。
■ URL
キヤノン
http://canon.jp/
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( 本誌:武石 修 )
2006/12/14 22:24
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