メーカー直撃インタビュー:伊達淳一の技術のフカボリ!
ソニーRXシリーズ
独自開発するデバイス技術とその未来
Reported by 伊達淳一(2016/1/20 12:32)
一般的なコンパクトカメラよりも大型のセンサーと高性能なレンズを搭載し、レンズ交換式カメラに迫る高画質を追求したシリーズだ。
RX1シリーズは、35mm判フルサイズセンサーとカールツァイス Sonnar 2/35という高解像で明るい単焦点レンズを組み合わせ、レンズ一体型だからこそ両立できる最高の画質とコンパクトさを実現。RX10とRX100シリーズは、いずれも1.0型の約2,000万画素センサーを搭載し、RX10シリーズは24-200mm F2.8相当の大口径で高倍率なズームと動画性能を追求、RX100シリーズはコンパクトさと1.0型センサーならではの高い画質が特徴だ。
インタビューの注目トピック
◇ ◇
RXシリーズ各製品群のコンセプト。ハンディカムとは競合しない
――コンパクトカメラというよりもレンズ一体型カメラの中で、Cyber-shot RXシリーズは非常に先進的なデバイスを採用し、際立ったスペックを誇っているのが特徴です。こうしたRXシリーズに採用されている、ソニーが誇る最新デバイスや革新的な機能を知ることで、どんな映像表現が可能になるのか? さらには、一眼レフやミラーレスカメラといったレンズ交換式カメラシステムにも、近い将来、こうした技術が採用される可能性はあるのか? など、どこまでお答えいただけるかちょっと不安ですが、本連載のタイトルどおり、できるだけ深く掘り下げていきたいと思います。
まず、Cyber-shot RXシリーズの製品コンセプトと目指す方向性について教えてください。
武藤:Cyber-shot RXシリーズは、コンパクトながら高画質を追求し、なおかつボディ・レンズ一体型だから実現できるカメラを目指しています。プロの方や、ハイアマチュアを中心とした経験値の高いお客さまのサブカメラとしてご利用いただきたいと考えております。
RXシリーズには、RX1/RX10/RX100の3シリーズがありますが、上から順に説明しますと、RX1シリーズは、35mmフルサイズセンサーを搭載した、究極の高画質を手のひらサイズで実現したカメラです。なので、手軽に持ち歩いていただいて、風景やスナップ撮影などにご利用いただければ、と思っております。
一方、RX10シリーズは、24-200mm相当の画角を、ズーム全域開放F2.8の明るさでカバーしているのが特徴で、1.0型の裏面照射型CMOSセンサーと組み合わせることで、広角から望遠の画角を高画質に描写することが可能です。
また、RX100シリーズは、ポケットサイズの最高画質を狙った商品となります。RX10シリーズと同じく1.0型の大きなセンサーを搭載しながらコンパクトなボディを実現しています。
――RX1シリーズとRX100シリーズは、サイズの大きなイメージセンサーを驚くほどのコンパクトボディにギュッと凝縮し、気楽に持ち歩ける手のひらサイズのカメラでありながら、究極の高画質で撮れる、という非常に分かりやすいコンセプトで、一眼ユーザーのサブカメラとして非常に魅力的に感じます。
これに対して、RX10シリーズは、いわゆる高倍率のコンパクトカメラとしてはサイズも大きく値段も高いですし、いったいどういった層をターゲットとしているのかよく分からない部分があるのですが、実際に、RX10シリーズを購入しているのはどういったユーザーなのでしょうか?
武藤:最近の傾向としては、プロの方に使っていただいているケースが多いようです。というのも、一例として取材撮影の際、フルサイズの一眼レフに24-70mm F2.8と70-200mm F2.8といった大口径ズームレンズがありますが、機材の取り回しについてはサイズ、重量ともに大きな負荷となります。その点、RX10シリーズは、1.0型と大きなセンサーと24-200mm相当の開放F2.8大口径ズームを装備しており、非常にボディが軽量コンパクトにまとまっているので取り回しが良く、高画質で撮影が可能です。
また、RX10 IIになって、4Kで本体内記録ができたり、スーパースロー撮影ができるなど、動画撮影機能が強化されているので、この動画撮影機能の高さもRX10 IIが評価される大きなポイントとなってきています。
特に、スーパースロー撮影は、FS700という業務用ビデオカメラに搭載されている機能になりますが、プロフェッショナルの業務用カメラでしか撮影することができなかった映像が、民生用のカメラで撮影できるようになり、そうした映像表現を求めるお客さまにとっては大きな魅力になっていると思います(スーパースロー撮影はRX100 IVにも搭載されている)。
――確かに、大口径の高倍率ズームと、4Kやスーパースローなどの強力な動画撮影機能の組み合わせは魅力ですね。
ここまで動画に強くなってくると、ビデオカメラのハンディカムと競合しませんか? RX10 IIには、1クリップ30分未満という連続撮影時間の制約があるので、インタビューや会議、イベントの記録など長回しを要求される撮影シーンには向かないとは思いますが、それ以外の日常的な動画撮影であればビデオカメラのニーズを奪ってしまうような気もします。
ビデオカメラも出しているソニーとしては、このあたり、どのようなすみ分けを考えているのでしょう?
武藤:基本的には、静止画も動画も両方撮りたいというお客さまのニーズに応えていきたい、というのが、RX10シリーズの位置付けとなっております。
一方、ハンディカムも1.0型センサー搭載で4K記録可能なFDR-AX100というモデルを発売していますが、ビデオカメラなので長時間の撮影が可能で、また長時間の動画撮影に最適な形状となっていることから、ビデオカメラならではの優位点があります。RX10シリーズは静止画も動画も両方撮りたいというお客さま、ハンディカムは動画をよりじっくりと撮りたいお客さま、といったように、すみ分けはできているのではないかと考えています。
――最近のソニーのカメラは、新製品が出ても従来の製品もそのまま併売されるケースが多くなっていますね。特に、RX100シリーズは4代目となり、販売店には初代からIV型までズラッと並んでいますが、どれも1.0型センサーで画素数も同じだし、デザイン的にもよく似ています。RX100の初代からRX100 IVまでの進化を簡単に説明していただけますか?
田中:RX100は、サイズの大きな1.0型CMOSセンサーとワイド端開放F1.8のレンズを小型ボディに凝縮することにより、超小型ながら高画質を実現したのが一番の特徴です。
その後、RX100 II以降はお客さまのご要望や最先端の技術を取り入れ進化させました。RX100 IIは、1.0型CMOSセンサーが裏面照射型になり、画像処理技術の向上も合わせ、約1段分のノイズを改善しているのが大きな違いです。また、Wi-Fi/NFC機能やチルト式液晶モニター、マルチインターフェースシューを搭載し、操作性や利便性の向上を図っています。
そして、RX100 IIIでは、レンズを一新しました。RX100 IIまでは、28-100mm相当でF1.8~4.9というズームレンズを採用していますが、RX100 IIIは24-70mm相当でF1.8~2.8とテレ側まで明るく、テレ側の最短撮影距離も55cmから30cmに進化しています。さらに、もう1つの大きな特徴がポップアップ式の内蔵EVFの搭載です。チルト液晶モニターも180度回転して自分撮りできるようになりました。そのほか、フルハイハイビジョン動画をXAVC Sで記録できるようにもなっています。
――RX100 IIで採用されたマルチインターフェースシューは、RX100 IIIから省かれているのはなぜですか?
田中:RX100 IIにマルチインターフェースシューを搭載したのは、外部フラッシュを装着するためというよりも、まずEVFを装着できる手段を確保することを念頭に置いていました。RX100 IIの開発時からEVFを内蔵させようと努力していたのですが、当時はどうしてもRX100のサイズ感を保ったまま、EVFを内蔵させることができませんでした。
そこで、せめて外付けのEVFを装着できるようにと、マルチインターフェースシューを付けたのですが、ようやくRX100 IIIでEVFを内蔵させることができました。従来の内蔵フラッシュの位置にポップアップ式のEVFユニットが組み込まれていますが、内蔵フラッシュも外すわけにはいきませんので、マルチインターフェースシューを廃して、中央に内蔵フラッシュを移動させました。
――RX100シリーズのコンパクトなボディに外付けフラッシュを装着してもバランスが悪いですよね。
田中:そして、最新のRX100 IVですが、一番の進化は“メモリー一体1.0型積層型Exmor RS CMOSセンサー”です。これまでのセンサーよりも高速で読み出しができるのが特徴です。その高速で読み出せる特徴を生かし、電子シャッター撮影時に動体が歪みにくい“アンチディストーションシャッター”や“1/32,000秒の超高速電子シャッター”を実現しています。
また、高解像度のスーパースローモーション撮影も可能で、最高960fpsのハイフレームレート(HFR)撮影に対応しているほか、1クリップあたり5分という制約付きですが、4K動画の撮影も可能です。さらに、ポップアップ式の内蔵EVFも、RX100 IIIの144万ドットから235万9,296ドットと、より高解像度になっています。
――続いて、RX10からRX10 IIの進化についてもお伺いできますか?
田中:RX100 IVと同様、メモリー一体1.0型積層型Exmor RS CMOSセンサーを採用して、その高速性を生かして、アンチディストーションシャッターや4K動画、スーパースローモーション撮影を実現しているのが大きな進化ポイントとなります。
それ以外には、フォーカスが速くなっていて、RX100 IVと同様にRX10 IIは“ファストインテリジェントAF”搭載により約0.09秒の高速オートフォーカスを実現しています。
――α7シリーズで培ってきたコントラストAFのアルゴリズムを投入したわけですね。
田中:そのとおりです。RX10 IIは、レンズの光学系はRX10と同じですが、AFを高速化するために、アルゴリズムの改善に加えてハード的な対応も行っています。
ちなみに、RX100 IVとRX10 IIの大きな違いは、先ほど説明したようにRX100 IVは、1クリップあたりの4K動画撮影時間が約5分という制約があるのに対し、RX10 IIは30分未満まで撮れます。
――RX100 IVの4K動画が1クリップあたり5分しか撮れない仕様なのはどうしてですか?
田中:RX100 IVはボディサイズが小さいので、少なからず発熱の影響があります。さらに、お客さまの大多数が、動画を5分以上撮影するというケースはあまりありません。
持ち運びやすいボディでお手軽に4K動画を楽しんでいただくために1クリップあたり約5分としたクリップ4Kという機能にしました。
武藤:実際、1クリップあたり最大5分という仕様に対しては、問題なく使えているというお客さまの声が大多数となります。
――5分という制約付きであっても4K動画撮影機能が欲しいという声が多かったのですか?
武藤:そうですね。今回、RX100 IVに4K動画の本体内記録機能を搭載しましたが、市場からは高い評価をいただいております。
――RX10 IIは1クリップあたり30分未満という制約がありますが、これは繰り返しでどのくらいまで4K動画撮影ができるのでしょうか?
田中:常温であれば、熱で4K動画が撮影できなくなるよりも、バッテリーがなくなる方が先で、バッテリー交換を繰り返しながらでも4K動画を撮影できます。
ソニーが得意とするセンサー技術。「メモリー」と「積層型」の謎に迫る
――さて、いよいよ核心部分に迫っていきたいと思いますが、RX10 IIやRX100 IVに搭載されている“メモリー一体1.0型積層型Exmor RS CMOSセンサー”とは、いったいどんなセンサーなのでしょう?
先ほどからの話だと、とにかく読み出しが速いのが特徴のセンサーのようですが、通常のCMOSセンサーと何が違っていて、なぜ、それがこれまで実用化されなかったのか、など、いったいこのセンサーがどのようにすごくて画期的なのか、教えていただけますか?
関:RX100 IVとRX10 IIに搭載されている“メモリー一体1.0型積層型Exmor RS CMOSセンサー”は、“メモリー一体型”という要素もあるのですが、それはひとまず置いておいて、“積層型センサー”とは何か? から説明したいと思います。
積層型センサーは、すでにXperiaなどのスマートフォンで採用されているセンサーで、センサーの表面に画素があって、その裏にLSIロジックという信号処理のチップが貼り付けられています。半導体同士で貼り付けられた状態です。
――裏面照射型とは違うのですか?
関:画素構造は裏面照射型です。これまでの裏面照射型CMOSセンサーは、何も載っていないバルクの半導体を支持基板として裏側に貼り付けているのですが、その貼り付けている半導体の部分に信号処理の回路を入れたのが“積層型センサー”です。Xperiaでは、高画質化のための信号処理だったり、多少の高速処理の信号処理のための回路をセンサーの裏側に貼り付けています。
一方、RX10 IIやRX100 IVの場合、高画質化のための信号処理回路は別のLSIが持っていますので、Xperiaでは高画質化に充てていた信号処理を、RX10 IIやRX100 IVでは高速化に特化させています。
それにより、センサーからの高速な読み出しを実現しています。ただ、積層型にしたことで高速な読み出しが可能になっても、読み出したデータを高速で外に出せないという問題があります。
そこで、センサー内にDRAMを組み込み、センサーから高速に読み出したデータを一時的に溜めておいて、適時、カメラ側の信号処理回路が引き出せるような速度でデータを渡すことで、センサーの高速性を阻害しないようにしています。それが“メモリー一体型”という意味です。
――裏面照射型センサーも、表側にフォトダイオードがあって、その裏側に信号処理回路があるのでは?
関:一般的なCMOSセンサーは、フォトダイオードの周りを配線層が壁のように囲んでいますが、裏面照射型CMOSセンサーはこれをちょうど180度回転させた構造になっていて、フォトダイオードの下に配線層があります。その配線層を通して、信号処理回路が画素の周りに設けられている、というイメージになります。
そのフォトダイオードと配線層の構造は変わりませんが、積層型の場合は、画素の周りにあった信号処理回路を別のLSIに載せ、それをセンサー裏側の配線層のさらに下に貼り付けています。
――メモリー(DRAM)はさらにその下に搭載されているんですか?
関:そうですね。普通の基板を挟んでDRAMが裏に付いています。
――センサーのすぐ裏側にメモリーを搭載することで、可能な限り配線を短くして、高速転送を可能にしているというわけですね。そのメモリーに一時的に溜められるのは1コマ分のデータだけですか?
関:複数枚のデータは溜められますが、それほど容量が大きなDRAMではありません。
――通常のCMOSセンサーと比べて、何倍くらい読み出しが速いんですか?
関:RX100 IIIのセンサーと比べると、およそ5倍程度速くなっています。そのおかげで、アンチディストーションシャッター(歪みが少ない電子シャッター)や歪みの少ない4K動画を実現できています。
――これまでに、このような構造のセンサーが使われたケースってありましたか?
関:積層型センサーは、Xperiaなどのスマートフォンで使用実績がありますが、センサーサイズは1/2.3型と小さく、今回のように1.0型という大サイズのものは初めてで、おそらく積層型としては世界最大です。また、DRAMを付けたのもこれが初めてです。
――サイズの大きな積層型センサーを製造するのはかなり難しい?
関:積層型構造もそうですが、裏にDRAMを貼り付けるというのも、膨大な数の配線を行わなければいけないので、かなり高度な製造技術が要求されます。
――ということは、フルサイズのメモリー一体型積層型センサーを作るのは?
関:まだまだ難しいと思います。
――ただ、5~6年前には裏面照射型センサーも、最初は1/2.3型クラスのセンサーしかなく、大サイズのセンサーを作るのは難しいといいつつも、今ではフルサイズの裏面照射型CMOSセンサーが登場し、α7R IIやRX1R IIに搭載されています。積層型センサーも、いずれもっと大きなフォーマットのカメラに搭載されることを楽しみにしています。
ところで、一眼レフのフォーカルプレーンシャッターも、グローバルシャッターではなく、ローリングシャッターですので、動きが非常に速い被写体を撮影すると、被写体の形が少し歪んで写ります。そういう意味では、センサーからの読み出しが速くなり、電子シャッターの幕速が、一眼レフのフォーカルプレーンシャッター並になれば、メカシャッターは不要になると思うのですが、RX10 IIやRX100 IVのアンチディストーションシャッターは、まだその域には達していないのでしょうか?
関:中級以上の一眼レフと比べると、RX10 IIやRX100 IVのアンチディストーションシャッターはまだ少し遅いです。エントリーモデルだといい勝負ですし、一般的な電子シャッターに比べれば、非常に高速なので、動体のローリングシャッター歪みは少ないです。
――電子シャッターでそこまで歪みが少ないなら、メカシャッターを省いても良かったのでは? と思いますが、メカシャッター搭載にこだわるのはなぜですか?
関:フラッシュ同調速度ですね。RXシリーズは、レンズシャッターで1/2,000秒までストロボ同調できる点が高く評価されていますので。
――センサーからの読み出しの速さは、コントラストAFの高速化にも寄与しているのでしょうか?
田中:コントラストAFのアルゴリズムを改善し、RX10 IIにおいてはレンズを駆動するダイレクトドライブSSMをより高速に動かすことでAFを高速化しています。
関:一番高速に動かす部分はこれまでとあまり変わっていませんが、中照度(オフィスの部屋の明るさくらい)からもう少し低照度時の読み出し速度を速めて、AFの高速化を図っています。
ハイフレームレート(HFR)撮影の謎
――RX10 IIやRX100 IVの特徴である“HFRモード”をさっそく試してみましたが、そこで疑問があります。
240/480/960fpsと3種類のフレームレートを選択できますが、選択したフレームレートにかかわらず、撮影時間は画質優先(約2秒)/撮影時間優先(約4秒)のいずれかに固定されています。フレームレートが高ければ撮影時間は短く、フレームレートが低ければ撮影時間も長くなると思うのですが、フレームレートが違っても、撮影時間が2秒ないし4秒に固定されているのはなぜですか?
武藤:決定的瞬間をより高画質なスーパースロー映像でとらえたい、そういった考えのもと撮影時間は固定し、フレームレートが低くなるほど、より高い解像度での撮影が可能な仕様となっています。
――この瞬間がベストだと思って録画ボタンを押しても、実際にはもう少し後に面白い瞬間が訪れることもあります。HFRモードでは、録画が終了すると、バッファメモリに溜め込んだデータを一気にメモリーカードに書き出すので、十数秒間は記録待ちの状態になりますが、その間に、またシャッターチャンスが訪れても黙ってみているしかできません。なので、240fpsでもう少し長い時間記録できれば、とは思います。
武藤:スーパースローの撮影はある程度の慣れが必要になると思いますが、今後の検討課題とさせていただきたいと思います。
――フレームレートが高い場合は圧縮率を高めに設定しているということですか?
田中:フレームレートが高くなるにつれ、読み出しのサイズが小さくなっています。240fpsの場合はほぼハイビジョンサイズで読み出していますが、960fpsではもう少し狭いエリアを読み出していて、そのぶん、高速なフレームレートを実現しています。
――そういうことなんですね。あと、HFRモードを使ってみて気になったのが、なかなか思うような瞬間を記録できない、という点です。
録画ボタンを押してから記録開始する“スタートトリガー”と、録画ボタンを押した瞬間から時間を遡って記録する“エンドトリガー”がありますが、スタートトリガーだと動きが完全に予測できる被写体でもない限り、決定的瞬間から遅れてしまいますし、エンドトリガーもある程度、面白い瞬間が経過した後に録画ボタンを押すようにしないと、動きの途中で記録が終了してしまいます。
できれば、録画ボタンを押した前後を記録できる“ミドルトリガー”が欲しいですね。それと、HFRモードで瞬間を狙っているときに、うっかりシャッターボタンを押してしまうことがありました。これも、HFRモード時にシャッターボタンで録画スタートできるようなカスタム設定が欲しいと思います。
武藤:ミドルトリガーが欲しいという意見をいただきましたが、そういったコメントをいただけるのはうれしいですね。今後の検討課題とさせていただきたいと思います。
――HFRモードでスタンバイに入ると、AFも効かないし、露出補正もできなくなりますが、これもなんとかならないでしょうか?
武藤:どういった仕様が本当に使いやすい仕様なのか、お客さまの声を聞きながら将来に向けて引き続き検討させていただきたいと思います。
――やっぱり難しいんですね。RX10 IIは露出補正がダイヤルで独立しているので、せめて露出補正だけでもスタンバイ中に効くとありがたいんですけど……。でも、今回、動物園の温室でチョウが飛んでいるシーンを960fpsで狙ってみましたが、僕が想像していたチョウの飛び方とはまったく違っていることに驚かされました。
これまでにも、スーパースローが撮れるデジタルカメラはありましたが、ハイスピードになるほど横長で、しかも解像度が低く、不鮮明でした。これほどの鮮明なスーパースロー映像が、このクラスのデジタルカメラで撮れるのは確かにすごいですね。
高速連写を利用したマルチISOやスイングパノラマなどの機能も、この積層型センサーの高速性って有利に働くんですか?
関:アルゴリズム的には読み出し速度が速くなっているので、被写体が少し動いていたとしても短い間隔で連写できるので移動量が少なく、それだけ重ね合わせ合成しやすいという面はあります。
――連写スピードはそれぞれ何コマ/秒ですか?
田中:AFは追随しない“速度優先連続撮影”時で、RX100 IVが約16コマ/秒、RX10 IIが約14コマ/秒です。いずれも電子シャッターによる高速連写です。
――RX10 IIの方が少し連写が遅いのはなぜですか?
田中:信号処理システムの違いによります。
――センサーや画像処理エンジン周りは共通なのかと思ったら、いろいろと細かな違いがあるんですね。その他に、RX10 IIやRX100 IVのアピールしたいポイントってありますか?
前田:動画の機能について4KやHFRだけでなく、プロフェッショナルの要望に応えるためにカメラ本体で映像のトーンを調整できる”ピクチャープロファイル”を1.0型センサー機では初めて搭載しています。例えば、広いダイナミックレンジを実現するS-log2や広い色域を持ったS-Gamutなどです。
――静止画と動画はそれぞれ違う絵作りで記録されるんですか?
前田:静止画と動画それぞれに合わせた最適な絵づくりで記録されます。ただし、先ほどのピクチャープロファイルで例えばガンマの設定を“スチルガンマ”に設定していただくと静止画と同じガンマが適応されるなどお客さまの好みに合わせた調整が可能です。
――動画撮影中に静止画キャプチャーした場合はどの絵作りで記録されるのでしょうか?
関:スチルガンマです。RX10 IIやRX100 IVは、動画撮影中の静止画キャプチャー機能がかなりアップグレードしていまして、アスペクト比は16:9になりますが、センサー本来の解像度で静止画を記録できる“デュアル記録”ができるのが特徴です。
――えっ、動画の撮影を中断させずに、静止画用に全画素を読み出せる!? 動画撮影中は常に全画素読み出ししているわけじゃないですよね。それができたら30コマ/秒で高速連写できるわけだし……。
関:シャッターボタンを押したときだけ全画素を読み出しています。これもメモリー一体積層型センサーの効果です。
――それは何気にすごいですねぇ。動画撮影中にキャプチャーできる静止画の撮影枚数って決まっているんですか?
関:特にそういう制約はありません。あまり高速に連写はできませんが、メモリーカードの容量が残っていれば、静止画キャプチャーできる枚数に制約はありません。
特殊な液晶デバイスで分光を制御するRX1R IIの可変ローパスフィルター
――動画も撮りたいけど、高解像度の静止画も残したい、といった場合に、これは魅力的な機能ですね。まだまだ興味は尽きませんが、そろそろRX1R IIに話題を切り換えたいと思います。まず、従来のRX1/RX1Rに比べ、今回のRX1R IIはどのような進化を遂げているのでしょうか?
田中:まず一番の進化はイメージセンサーです。RX1/RX1Rの2,430万画素CMOSセンサーから、RX1R IIは4,240万画素の裏面照射型CMOSセンサーになり、像面位相差AFにも対応しているので、高速なファストハイブリッドAFにより、AF-Cで動く被写体も十分追えるようになっています。
また、「可変ローパスフィルター」を採用していて、メニュー設定でローパスフィルター効果[オフ/標準/強め]を切り替えられるほか、シャッターボタンを1回押すだけでローパスフィルター効果を3段階に自動的に切り替えて撮影する機能も搭載しています。
画像処理エンジンもBIONZからBIONZ Xになり、ディテールリプロダクション技術&回折低減処理が加わり、高い解像感による自然な立体感を実現し、より豊かな表現力が備わっています。
エリア分割ノイズリダクションも進化し、ディテールリプロダクション技術と相まって、高感度撮影時でも解像感を高めながら効果的にノイズを抑えます。
使い勝手の部分で大きく進化しているのが、ポップアップ式の内蔵EVFの搭載です。RX100 IVと違って、EVFをポップアップ後、アイピース部分を引き出す必要がなくなり、収納時もワンアクションでアイピース部分が短縮して閉じるようになっています。液晶モニターもチルト式に変わりました。
――RX100 IVの内蔵EVFは、アイピースを引き出したり元に戻したりするのがちょっと面倒なので、これは快適ですよね。35mm単焦点レンズはRX1/RX1Rと同じですか?
田中:同じです。ただ、新たなデバイスとシステムを採用することで、その性能を最大限引き出す努力を行っています。
――センサーはα7R IIと同じですか?
田中:同じです。
武藤:RX1シリーズはレンズ一体型カメラですので、センサーに対し、レンズの光軸をミクロンレベルで調整して出荷しています。そのため、レンズやセンサーの能力を最大限に引き出すことができ、中央から周辺まで非常に高い画質が得られるのが特徴です。
――これまでは、ローパスフィルターありのRX1と、ローパスフィルターレスのRX1Rという2モデルに分かれていましたが、先ほどご説明いただいたように、RX1R IIは可変ローパスフィルターが搭載され、ローパス効果あり/なしを1台で撮り分けられるようになりました。この可変ローパスフィルターとは、いったいどんな仕組みなのでしょう? また、画質への影響はないのでしょうか?
中西:あまり詳しくは話せないのですが、ローパスフィルターの真ん中の部分を、電圧を変えると偏光特性が変化する特殊な液晶デバイスに置き換え、電圧をコントロールすることで、ローパスフィルター効果のオン/オフを切り替えています。
――液晶にかける電圧を変えることで、光の分離量を変えられる?
中西:そうですね。液晶自体の効果は通常の液晶と同じ偏光成分のコントロールになります。
――模式図だとローパスフィルターによって曲げられた光しか描かれていないのですが、そもそもローパスフィルターは高周波成分のみを曲げ、低周波成分はそのまま通すという機能ですよね? この液晶デバイスは、そういう周波数による選択性って持っているのでしょうか?
中西:液晶自体がそこを決めているのではなく、その周りの光学部材で決めていて、ローパス効果[オフ/標準/強め]に対応した光線分離が行われるような設計になっています。
――液晶を挟むことで、画質への影響はないのでしょうか?
中西:基本的にはまったくありません。
――PLフィルターの使用も問題ありませんか?
中西:通常のローパスフィルターとまったく同じ偏光特性ですので、このカメラだけ問題が起きるということはありません。
――できれば、α7R IIにも搭載してほしかった技術ですが、可変ローパスフィルターは、レンズとセンサーが一体設計できるレンズ固定式カメラだから実現できたのでしょうか? それとも、レンズ交換式カメラにも応用可能な技術なのでしょうか?
中西:それぞれのカメラのコンセプトによって使い分けをしていこうと考えていますが、レンズ交換式カメラにも搭載できる技術です。
――あまり値段が高い、高いとはいいたくないのですが、やはりRX1、RX1Rから比べると値段が高くなったなぁ、というのが実感です。α7R IIと違って4K動画にも対応していませんので、そのぶん割高感があります。
従来のRX1と同様の2,430万画素センサーを採用して、可変ローパスを採用して価格を抑えるという方向はなかったのでしょうか? 画素数が少ない機種ほど、少しでも解像感を高めたい一方、偽色や色モアレが生じやすいという相反する問題を抱えているので、まさに可変ローパスフィルターの効果が最大限に生かせると思うのですが……。
武藤:高い解像度を求めるお客さまの需要に応えるべく、約4,240万画素の裏面照射型CMOSセンサーを採用しました。微細なパターンを撮影した際に偽色や色モアレが発生するケースは実際にありますが、撮影の現場では見極めは難しく、光学式可変ローパスフィルターを採用することで、ローパスフィルター効果を選択した撮影が可能となります。
この技術の展開については、お客さまの声を聞きながら今後検討を進めて参ります。
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【実写ミニレビュー】個性が光るCMOSセンサー技術がカメラの次の進化を予感させる
Cyber-shot RX10 IIとRX100 IVには、メモリー一体1.0型積層型Exmor RS CMOSセンサーという聞き慣れないセンサーが搭載されていて、とにかく読み出しが非常に高速なのが特徴だ。
その高速性を生かしているのが、アンチディストーションシャッター。一般的に電子シャッターの幕速は、一眼レフのフォーカルプレーンシャッターよりも遅く、画面の上から下までシャッター幕が操作するまでの時間は1/80秒~1/15秒くらいだ。そのため、動体を撮影したり、超望遠でフレーミングがふらつくと、いわゆるコンニャク歪みが生じてしまう。
ところが、RX10 IIやRX100 IVは、センサーからの読み出しが超高速なので、電子シャッターの幕速も速く、一般的な動体ならほとんど歪みが気にならない。作例は、駅を通過する電車をRX100 IVで撮影したものだが、時速90kmの電車を2mほどの距離から撮影して、この程度の歪みで収まっているのは見事だ。また、シャッター速度も1/32,000秒と高速なので、電車の文字までくっきり読み取れる。
さらに、驚いたのが、最高960fpsのスーパースロー撮影。露出オーバー気味だが、想像していたチョウの飛び方とはまるで違うのに驚き。これほどのスーパースロー映像をこの解像度で撮れるコンシューマー用カメラはほかにない。それほど遠くない将来、こうしたデバイスがAPS-Cやマイクロフォーサーズ、そしてフルサイズにまで降りてくることに期待したい。
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