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キヤノン、BJプリンタ技術のマスコミ向けセミナーを開催
~開発者がFINEヘッドの利点を解説
キヤノンは1日、マスコミ向けの技術セミナーをキヤノン販売本社で開催し、自社のインクジェット技術について紹介した。解説はキヤノン株式会社インクジェット技術開発センターの中島一浩氏。
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独自の製造方式による「FINE」ヘッド
インクタンクを手にする技術開発センターの中島氏
中島氏はまず、バブルジェットの歴史と基本構造を解説した。キヤノンがバブルジェットの基本特許を出願したのが1977年で、開発のきっかけはインクを入れた注射器の針に、高温の半田ごてが触れたことに始まる。「ポン、という良い音がしてインクが飛び出たと聞いている。ただし、再現するには複雑な条件が必要で、これをやろうと思っても簡単にはできない」(中島氏、同)。
製品化は'85年の「BJ-80」が第1号にあたるが、それまでに同社ではピエゾによるインクジェットも開発していた。'81年の電卓用モノクロプリンタに始まり、'84年にはピエゾ方式のカラープリンタも発売。しかしピエゾ方式に限界を感じ、バブルジェットへの傾倒を深めていく。1990年の「BJ-10V」を機に、バブルジェットに1本化したという。
バブルジェットは、ノズル先端まで導いたインクをヒーターで瞬間的に熱し、そのとき生じる気泡の力でインクをノズルから吐出する方式。気泡の発生時に約100気圧の圧力が生じ、気泡の体積分のインクがノズルから出る。100気圧はダイナマイトの爆発と同じ圧力といい、インクの動きはピエゾ方式(10気圧)より大きい。そのため、吐出量の安定化や、ノズル配列の高密度化が可能という。
バブルジェット方式のノズルについて中島氏は、PIXUS iP8600を例に出して説明した。iP8600のノズル数は6,144本(8色分)を搭載している(さらに未使用の2色分も搭載)。これらのノズルから約2plのインク滴を放出し、ノズルから1mm先の用紙に飛翔させる。そのときの着滴位置の精度は数μm以内。野球で例えれば、「ピッチャーマウンドからキャッチャーミットに向けて投げたとき、ボール1個分の誤差しか認められないレベル」の精度だという。さらに最新のヘッドでは、吐出量を一定に保ち、高速に打ち出すことに成功したとしている。
バブルジェットの吐出プロセス
新ヘッドでの小インク滴の吐出
実際のプリントヘッド部
同社のプリントヘッドの製造工程は、フォトリソグラフィによるフォトレジストの露光に始まり、その後にパターニング工程を行なう半導体製造と良く似た方式をとる。
まずヒーターを並べた基板を作成し、その上に感光性の樹脂で型材層を形成、露光してパターニングする。次は型材の上にノズル材の層を形成し、パターニングして吐出口を作成。最後に型材の一部からインク導路を製造する。
FINEヘッドの構造。丸く突き出ているのが吐出口
ヒーター基板
型材層の形成
型材のパターニング
ノズル材層の形成
ノズル材層のパターニング
この方式の強みは、ノズルの加工を露光で行なうため、シリコン基板とノズルの接合工程を排除できることにあるという。従来と同様に基板とノズルを接合すると、ズレや加工のバラツキが生じやすい。接合時にズレるのは、インク溶剤に強い熱硬化式の接着剤を使うため。接着のため加熱すると部材間の熱膨張率が異なるからだという。また、フォトマスク(露光パターン)を変えるだけで、別の仕様のヘッドが製造できる利便性を持つ。ただし樹脂も自社開発するなど、開発には約7年を要したという。
この技術で製造したヘッドを同社では「FINEヘッド」と呼び、今冬からブランドネームとして浸透を図っている。なおFINEは、Full-photolithography Inkjet Nozzle Engineeringの略。
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インクタンクの基本構造
中島氏はPIXUSシリーズのインクタンクの開発にも従事している。今回は多色インクのBCI-3/6/7について解説した。
現在のオンデマンドインクジェットシステムにおける取り外し式のインクタンクでは、常にインクタンク内部を大気圧より低い負圧の状態にしておく必要がある。しかも、インク残量やインク供給量に関わらず、一定の負圧が求められる。
負圧を発生させる方式としては、吸収体の毛細管現象を利用する「吸収体含浸方式」、インク袋にバネを内蔵する「バネ袋」方式、所定の負圧を越えると開くエアバルブを設ける「エアバルブ方式」などがある。バネ袋方式はHPの一部のプリンタで、エアバルブ方式はエプソンの最近のモデルで採用されている。
BCI-3/6/7では「チキンフィード方式」と呼ぶ、インク室と吸収体を分離した方式を採用。吸収体室の下にインク供給口、上に大気との連通孔を設け、一定量のインクを吸収体に送り、吸収体室を大気圧より1%低い状態にしている。開発時には試行錯誤を繰り返し、「富士山の5合目まで持っていき、インク供給口からインクがたれないか何度も試した」そうだ。
また、インク室底部に残量検知用のプリズムを搭載し、インク室が空になると警告を発するようにした。従来のインクジェットプリンタの多くは、残量警告の判断をドットカウントに頼っているが、中島氏は「それでは誤差が大きい」としている。
なお、BCI-3/6/7は、インク以外の全部品に単一系材料(ポリオレフィン)を採用している。環境面に配慮した結果で、内部の吸収体や色ラベルも同じ素材だという。
iP8600の8色インクタンク
そのうちのイエロータンク
最後に中島氏は、「インクジェットは時間をかければいくらでも画質がよくなり、画質とコストを考慮しなければ速くなる。しかし、高速化と高画質化を両立するには、ヘッドの大幅な高精度化が必要。FINE技術は高精度に適しており、高いポテンシャルを持っている」とまとめた。
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URL
キヤノン
http://canon.jp/
製品情報(PIXUSシリーズ)
http://cweb.canon.jp/pixus/
インクジェットプリンター2004年冬モデルレビュー
http://dc.watch.impress.co.jp/static/2004//printer/ijp2004.htm
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( 折本 幸治 )
2004/12/02 01:24
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