写真展

フィルム初心者が6×6限定で写真展を開催

その意味とは? 取り組みを聞く

写真家の藤里一郎さん(左)とROUTE 6×6部長の高野浩一さん(右)

フィルム撮影、それも6×6のフォーマットに限定したグループ展「ROUTE 6×6 第一回写真展」が2月5日から開催される。デジカメ全盛の時代にフィルムカメラの写真クラブを作って写真展をするのは珍しい。6×6とは中判カメラのフォーマットの1つで、正方形の写真が撮れる。今回はこのクラブの顧問を務める写真家の藤里一郎さんと部長の高野浩一さんに取り組みを伺った。

  • 会場:ギャラリー・アートグラフ
  • 住所:東京都中央区銀座2-9-14 銀座ビル1階
  • 会期:2016年2月5日金曜日〜2016年2月11日木曜日
  • 時間:10時〜18時(土・日・最終日は17時まで)
  • 休館:会期中無休
  • 入場:無料
  • ギャラリートーク:2月6日14時〜 渡邊順代さん、2月7日14時〜 木三原さくらさん、2月7日16時〜 三味弥生さん(2月7日17時〜 サイン会)

SNSに投稿されたオリンパスフレックスがきっかけ

藤里さんは本業の傍ら「藤里写心大学」という写真教室を主宰している。その生徒だった高野さんがある日、中古で購入した二眼レフカメラをFacebookに投稿したところ、それを見た藤里さんが「二眼レフの写真クラブを作ったら面白いのでは」と考えてできたのがこのグループ「ROUTE 6×6」だ。

グループが発足したのは1年ほど前。藤里さんがそのいきさつを教えてくれた。

「いま、フィルムでモデルさんを撮る機会はほとんどありません。周りにはフィルムカメラを使いたいという人もいて、そのニーズがROUTE 6×6設立のきっかけになりました。二眼レフと言えばローライフレックスが定番ですが、高野さんがオリンパスフレックス、私がミノルタオートコードを持っていましたので、最初はあえて“国産の二眼レフ”に限定しました。しかしハードルが高くなってしまったので、“6×6”というフォーマットのみの縛りにしました。Facebookで募集を始めたところ、あっという間に20名ほどが集まりました」(藤里さん)。

グループ設立のきっかけとなった高野さんのオリンパスフレックス。レンズに曇りがあったため安く購入できたそうだ

今回の写真展は、グループの撮影会に常連で参加している9名が1年間撮りためた作品を1人4点発表する。ちなみにROUTE 6×6のメンバーは20〜60歳代までと幅広い。1名を除いて皆アマチュアだ。女性も数名いる。

メンバーはデジカメを使っている人が多く、グループ入りをきっかけに6×6のフィルムカメラを買った人もいたそうだ。半数以上がフィルム初心者という。気になる機種はというと、ローライフレックスとハッセルブラッドが2強。そのほか、ゼンザブロニカを使うメンバーも2人いるとのこと。現像はプロラボに依頼するが、自分でモノクロ現像するメンバーも2人いるそうだ。

クラシックカメラを使うと言っても、“カメラを愛でる集まり”ではないそうで、作品制作に重きが置かれている。なお現在はメンバー数がハンドリングできる上限のため、新規の募集は要相談となっている。

藤里さんに6×6へのこだわりを聞けば、「今の若い世代に6×6の写真を見せると“インスタみたい”といわれます。6×6は、正方形というだけでそれらしく見える魔法のフォーマットなのです。でもそこに甘んじないで欲しいと思います。フィルムもきっちり撮ると、凄くよく撮れるという本質を忘れないで欲しい。デジタルになって後から何でもできるということは、何もできないのに等しい。撮影したその場で見せられるものを作るという撮影方法が重要。私がフィルム撮影で培ったマインドを伝えていきたいですね」と熱がこもる。

いくつかの作品を見せてもらったが、中には高級デジタルカメラと見紛うほど高精細なプリントもあって驚いた。一方、高野さんのオリンパスフレックスのようにレンズの曇りでソフトな描写になっている作品もあり、銀塩写真の様々なテイストを楽しむことができそうだ。

この2台は藤里さんのカメラ。右のハッセルブラッドは師匠の大倉舜二さんから譲り受けた物だ

プロが撮るモデルと同じ人が被写体に

撮影会はこれまで5回ほど行ったという。毎回1人の女性モデルを撮るのだが、モデルとして登場するのは藤里さんがよく撮っているモデル。プロ写真家の藤里さんがモデルを手配するというのが、このクラブならではの面白さの1つだ。

また、メンバーには中古カメラ店のスタッフがいることでメカトラブルにもすぐに対応できるとのことで心強い。掘り出し物の機材も教えてもらえるそうだ。

「心配なく撮影に専念できるようにセッティングしています!」と藤里さん。

さて、気になる撮影会はどのように行われるのだろうか?

「モデルさんと1対1で撮影する時間も1人3〜7分、計3回くらいとります。皆さんフィルムチェンジが早くなったので、1回の持ち時間の間に何本も撮る人もいますね。1日の撮影で最高10本撮った人もいました」(高野さん)。

撮影風景

クラシックカメラでの撮影とあって、ピント合わせやフレーミングにはデジカメよりも時間がかかる。そこでフィルムで撮られたことのないモデルに対しては、藤里さんがタイミングの取り方やポージングをアドバイスする。

「モデルに対しては、どこに撮られたい頂点を持ってくれば良いかを教えます。ハッセルは大きな音が出ますが、二眼レフはシャッター音がほとんど聞こえないため、タイミングの取り方が難しいからです。また、ゆっくりしたポージングにすることも大切で、動きと動きの間も重要だと言うことを説明しています」(藤里さん)。

一方で撮影者には、ウエストレベルファインダーのカメラならではのアドバイスも。

「下を向いて撮ることになるので、モデルには大きな声で指示を出すことや、モデルと話すときはしっかり前をむくことなどを伝えます。しかし、“ここからこう撮れ”といった指導はしません。フレーミングや設定などを全部教えていてはその人の写真ではなくなってしまい、面白くありませんから。とはいえ、ある程度の撮影技術が欲しいと思っている人にはできる範囲でアドバイスはします。私も自分のカメラを持って、メンバーと一緒に楽しむつもりで撮影しているんです」(藤里さん)。

藤里さんもメンバーに混じってシャッターを切る

撮影会の後には、前回撮った中から3点をプリントしてメンバーに発表。そこで藤里さんもアドバイスする。

「それぞれがそれぞれの正解を持っています。そこにむかって思いっきり楽しもうということです。失敗も酒の肴。絶対に失敗すること以外は敢えて言わないようにしています」(藤里さん)。

「撮影の失敗を悔しさとして覚えているので、アドバイスが身にしみます。取り返しの付かない失敗が時間差を置いて現れる部分が面白く、緊張感に繋がっています。扱いずらいものを使っている一体感があって、メンバー間のコミュニケーションも活発です」(高野さん)。

フィルムで写真を撮ってみて、普段デジカメで撮る際に変化があったかと高野さんに尋ねてみた。すると、「連写などデジタルの手軽さを再発見しました」と意外な答えが。「大リーグ養成ギプスが外れたようなかんじですね。プログラムモードでばかり撮るようになりました。でもまたギプスを嵌めたくなる、その行ったり来たりが面白いですね」(高野さん)。しかし、1枚1枚に思いを込める点は以前より強くなったそうだ。

撮影:藤里一郎さん、モデル:前田希美さん
撮影:高野浩一さん、モデル:渡邊順代さん
撮影:大野雅弘さん、モデル:三味弥生さん
撮影:久保田雅彦さん、モデル:木三原さくらさん

グループの総合力で見て欲しい

発表する写真のセレクトも各自が決めた。「調整したのは数名で、ほとんどが自分の写真としてわかっているセレクトでした。個人プレーのホームラン写真ばかりだと疲れますが、『俺たちルート6×6だぜ』という、全体が調和したグループ展としての良さを出せたらと思っています」(藤里さん)。

ところで、この写真展のキャッチコピーは「ヒップでスクエアな写真展」。筆者は?? となったのだが、この意味を高野さんに聞いてみた。

「1940〜1950年代、黒人ジャズミュージシャンのスラングに『ヒップ』『スクエア』というものがあったそうです。ヒップはクールという意味の最上級の褒め言葉。一方スクエアは、型には嵌まったつまらないものという意味。しかし、チャーリー・パーカーは「本当のヒップというのはスクエアの中にあるんだ」と言ったそうで、そこから“スクエア=6×6”と掛詞にして決めました」。

なかなか奥が深そうな言葉だが、これを思い出しつつギャラリーに足を運びたい。

写真展の会場では、藤里さんの新刊「ポートレイトノススメ」(2月13日発売、税込1,728円、日本写真企画刊)の先行販売を行う。本書にはROUTE 6×6 第一回写真展で被写体になったモデルも登場する。
全てFUJIFILM X-T1で撮影。「声を張らずにモデルとコミュニケーションできる距離」を重視して、レンズはXF23mm F1.4 RとXF35mm F1.4 Rを多く使ったそうだ。言葉では説明しにくい感覚的な部分も文章で解説したほか、写真集のような作品も掲載。巻中には有村架純さんとの対談も収録している。