特別企画
FUJIFILM GFX 50S 実写速報
羊の皮を被った中判モンスターカメラの実力
2017年3月3日 07:00
2月28日、満を持して登場したのがFUJIFILM GFX 50S。国産の中判ミラーレスカメラは本機が初めてである。
イメージセンサーは他機種と同じく有効約5,000万画素・43.8×32.9mmだが、フィルムメーカーの富士フイルムだけに、その表現力が気になる方は筆者だけではないだろう。そしてミラーレスカメラになったことで、これまでの中判デジタルカメラとどう使い勝手が違うのか。
とにかく実写あるのみと、GFX 50Sを持って冬の湘南海岸をモデルさんと1日撮影デートしてきた。
ストロボもレフ板もいっさい使用しないでのスナップ的な撮影手法なので、ここではテクニカルスペックではなく、GFX 50Sボディと3本の交換レンズ、アクセサリー類の使用感などを感じていただければと思う。
モデルと目線をあわせるように同じくしゃがみ込んで、63mmを使ってのカット。顔にピントを合わせ、絞りはF5.6。手前のハンドバッグ、右奥のコンクリート壁は自然にボケながらも、素材を感じる描写となった。曇天だった1日の中では比較的明るい時間帯の撮影だが、それでもフィルムシミュレーションVelviaでのヴィヴィッドな発色に助けられた。
古くからの歴史ある漁師町らしく、旧商店街らしきところを歩くと魚屋さんが多く目に入ってくる。そのうちの1軒のお店を背景に道路の反対側から絞り開放で撮影。後方に見える看板の文字や軒先を見ると、標準レンズらしい素直なボケ味が好感である。
天気が悪くて色味が無いので困っていたところ、塀の上から花の咲いた蔦を垂らしているお宅があった。モデルとカメラの間に花と蔓をはさんでの前ボケ撮影。壁面のディティールが感じられつつ、植物は立体的かつ輪郭がやわらかく描写されていて気持ちがいい。
駅からの急な坂道を10分ほど下ると、潮の香りが海の近さを知らせてくれる。高架下のすぐそこに、冬の湘南海岸が見えてきた。風が冷たいけどコートを脱いだら撮影開始。ボディと同じボタン、グリップ配置のパワー・ブースター・グリップVG-GFX1のおかげで、縦位置撮影も違和感が無い。軽快なシャッター音がコンクリートに心地よく響く。ココでは柔らかい表現が得意なフィルムシミュレーションASTIAを選択。明暗差が強い条件下でもやわらく美しい描写をしてくれる
曇天の海辺には派手な色はない。この辺りの砂の色は黒っぽいのが、波しぶきを浴びて濡れている部分はセメント色に見える。淋しい風景だ。手前に見える水面は海ではなく、川から流れ出た河口からの水溜まり。砂浜を挿んで向こう側が海岸線。そしてだんだん波が激しくなってくる海面。色味に欠けた風景だがそれでもそれぞれの質感の違いが描写に現れている。
通常、ポートレート撮影では広角レンズをあまり使わないみたいだが、ボクは広がりを感じられる風景の中に人物を配置して撮影するのも好きだ。今回はズームレンズのGF32-64mmF4を色んな場面で使ってみた。同じF4絞りでの撮影でも上記の120mmとは逆に必要な部分だけ合焦させるのも容易だし、このカットではほぼ人物にだけ焦点が合うように配置して奥行きを出してみた。
テトラポッドに佇む彼女を覗き見る。風が前髪を揺らした瞬間に連写した中から、フワリ感があるカットをセレクトした。超強風だったので、実際にはお化け状態で使えないカットが多い。このような場面では速写性の向上がのぞまれるところだが、大きなイメージセンサーセンサーを抱える中判デジタルの課題ともいえる
超晴れ男のボクなのだが、この日は運悪く前日との気温差が10度以上も低い環境下での撮影となり、モデルさんには可哀想な思いをさせてしまった。かじかむ手をあたためる様子にすかさずシャッターを切ってしまったが、瞬時に彼女の左目にフォーカスが合焦した。GF32-64mmは広角側でもヘンな歪みを感じることなく自然に使えるのを実感する。
EVFチルトアダプターEVF-TL1を使い、EVF越しに超ローアングルで高波に迫ってみた。盛り上がる荒波の最先端にフォーカスして撮影。天気が良ければ海を背景にポートレートを撮影する予定だったが……危険なので断念。合焦部分はかろうじて動きが止まっているが、前後の水面も水平線を進む漁船は完全にボケている。しかしながら様々な白の中での質感描写や、中望遠レンズでのボケ効果は充分に感じられた。
曇天の本日の撮影では、最も多くの色味が入っているカット。錆びてペイントが剥がれかけた郵便ポストが、海に近い町の現れだ。アスペクト比を1:1に設定してからEVFチルトアダプターEVF-TL1を使用して上から覗くと、学生時代の6×6カメラの思い出が甦ってきた。女の子の写真を撮るとき、恥ずかしいのを誤魔化しながらシャッターを切っていたあの頃。上から覗きながらだと、目を合わせないで会話ができるのだ(笑)。
朝から強風吹き荒ぶ海辺でずっと撮影していて気がついたら午後2時前だった。時間を知ると急激にお腹が空いてしまう(笑)。ランチ難民になってはこの後の撮影が続かないので、慌ててお店を探してちょっとひと休み。こんなシーンでもレンズを向けてしまうのが職業病だが、この悪天候では窓辺の席でも暗いので思い切ってISOを3200に上げてシャッターを切った。ボクにとっては常用感度としてまったく問題無い。
浜辺で拾ってきた貝殻と小石たちを手のひらにのせてもらい、120mmマクロレンズで俯瞰からクローズアップ撮影。中望遠マクロで焦点距離が120mm、しかも不安定な撮影ポジションで最短距離付近とブレやすい条件が揃ったが、約5段分の手ブレ補正機構搭載に助けられた格好だ。三脚を使ってのマクロ撮影では、ワーキングディスタンスも充分に保てるので使い易いのではないだろうか。
フィルムシミュレーションを「ACROS + R」にして撮影。背景の港風景の質感はBlack & Whiteの持つシックなトーンに描写されつつ、加えてRフィルターを入れたおかげで肌色がいっそう際だった。往年のモノクローム、オールドファッションド・ポートレート風の仕上がりだ。
近ごろは何でもない写真も好きになってきた。撮影中、靴の間に入った砂をとるため裸足でブラブラ。寒いところ申し訳ないけど我慢してもらい、ちょっと失礼して素足を1カット撮影。前後の水面と膝下を開放絞りでボカすことで、足先に視線を集中させて浮遊感を表現してみたかった。ピンクのマニキュアが塗られた指先に、スーッと合焦する感じが気持ち良くはまっていく。
天候が思い通りにいかないのも、撮影現場の醍醐味と考えるようにしたいものだ。期待していた青い空から射し込む眩しい太陽は無理なので、逆光気味に明るい港を背景に、佇むモデルの後ろ姿を捉えた。ハイヒールにフォーカスを合わせて撮ってみたが、F5.6でもどんどんボケていくところが大きなイメージセンサーの証しだ。極端なEV差があるにも関わらず、暗部のシャドーが潰れないままに、明るい水面も白トビが少なくて滑らかなグラデーション表現だ。
夕暮れ近い時間帯に薄暗い場所でISO感度を800に上げてのやや高感度での撮影だが、木目やコートの裏地の質感もリアルでいて肌色の描写も美しい。斜め上俯瞰ポジションから瞳に合焦させて絞り開放で撮影。“至近距離”と云うほどではないがそれでも他の部分はなめらかにボケていくあたりが、大型センサーゆえの空間表現である。AEオートブラケットは露出設定の時間が無い時に、モデルの表情や構図に集中する際にはカメラ任せで助かる。
フォーカスをピアスと指先に合わせる。フィルムシミュレーションはクラシッククロームを選択して撮影。彩度が低く落ち着いた和風な印象で、「艶歌」ぽさを演出した。高倉健さんの映画を思い出します(笑)。同じ絵柄でもフィルムシミュレーションの設定次第で、異なった表現が楽しめるのもデジタルゆえのメリット。
モデルポートレートのラストカットは、薄暗くなり街灯が点いた港でのシーン。夕暮れの難しい場面ではカメラ任せの露光に救われる。分割測光でAEブラケット撮影の中から選んだのがコレだ。彩度が高めのVelviaモードで、水面にゆらめく街灯の灯りを強調したかった。
日没前に無事に撮影終了。気がつけば空よりも明るいのは街灯の灯りだった。最後の1枚は16:9のアスペクトで撮影した。天候不良で思うように撮影が難しく長い1日だったがこのセットなら1日中歩きまわっても大丈夫という結果が出た。コレは中判サイズのセットとしては画期的なことで、やはりミラーレス機ならではのコンパクトさと軽量化のなせる技だと実感した。
撮影を終えて
カメラやレンズの出来の良さはもちろん、元来フィルムメーカーの富士フイルムが「写真画質」と自信を持って謳っているだけに、色再現や画質は抜群に優れているのは実感できた。
撮影時のフィルムシュミレーションにはやわらかいトーン描写の「ASTIAソフト」、美しいモノクロームのアクロスにRフィルターを加えた「ACROS+R」、低彩度で昔風な印象の「クラシッククローム」での作例でいろいろな表現を楽しめた。どれを選ぶかは目的や好みによっての選択肢があり、さすがフィルムメーカーという文句の付けようがない素晴らしい描写であった。
今回の撮影で使用した機材は、パワー・ブースター・グリップVG-GFX1を装着したGFX 50Sボディにレンズ3本、予備バッテリー数個SDXCメモリーカードなど。今回は使わなかったが、これにクリップオンストロボやレフ板など式をバックパックに詰め込んで撮影に出掛けられる。
思うに今回の撮影で、ボクの中にあった中判カメラの「重たくてかさむ」「三脚や補助光が必要」といった固定概念は見事ぶち壊された。しっかりしたライティングにおけるスタジオ撮影はもちろん可能だが、小型軽量なメリットを活かして、スタンドアローンで屋外へと旅先へと、撮影領域を広げていくのも楽しいのではないだろうか。
GFX 50Sというデジタル中判ミラーレス機は、まさに無限の可能性を秘めた羊の皮をかぶったモンスターカメラである
モデル:高実茉衣